【Edubate LIVE!】 GIGAで子どもは主役か

 教育に関する問題・課題への賛成・反対を聞き、インタラクティブに議論・討論する、教育新聞電子版の人気企画「Edubate(エデュベート)」。そのライブ番組「教育新聞 Edubate LIVE!」が11月、国際カンファレンス「Edvation × Summit 2021」内で配信された。ゲストにウスビ・サコ京都精華大学学長、佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授を迎え、司会は教育新聞編集長の小木曽浩介が務めた。最初の討論テーマは「GIGAスクール構想で子どもは主役になれているのか」。教育新聞が2021年10月初旬、教員・学校管理職を対象としたアンケートで、端末の管理ルール作りや活用スタイルを尋ねた結果を基に、学習者中心の学びに変えていくためにはどうすればいいのかについて意見を交わした。(全3回の第1回)

サコ氏(中央)と佐藤氏(右)をゲストに迎えた「Edubate LIVE!」。司会は編集長・小木曽(左)
子どもたちにどこまで責任を持たせるのか

——GIGAスクール構想では、児童生徒が鉛筆やノートなどの文房具と同じように、自由な発想で端末を活用できるようになることを目指しています。教育新聞のアンケート調査(参照記事: 【GIGA発進】子供は主役になれている? 教育新聞調査)で「端末管理のルールは誰が中心となって決めたか」という問いに対しての結果が、次のグラフです。「まずは教員が使えるように頑張った」「初期導入は教員が行ったが、だんだん生徒が決めていくシステムになる」といった声がありましたが、この結果をどのように考えますか。

 佐藤 パソコンは「パーソナルコンピューター」というぐらいですから、子どもたちが自由と責任を持って扱っていくのが理想です。

 ただ、これは発達段階によっても違いますし、ICTリテラシーの問題もあります。それらが十分でない状態では、どうしても間違った使い方をすることもあると思います。1人1台を実装する上での通過点としては、この結果は妥当なのではないでしょうか。

 GIGAスクール構想は、約1年という短期間で導入を成し遂げなければならなかった事業でした。それゆえに、大人が枠を決めなければいけないところもあったと思います。今後は子どもたちに「自由」と「責任」を教え、その上で、1人1台端末を学びにどう使っていくのかを考えていくべきでしょう。

サコ氏は「大人たちが管理者の立場でいる限り、子どもたちはイノベーションを起こせない」と指摘する

 サコ このアンケート結果は、大人側の姿勢が変わっていないことを表していると感じます。先生は子どもたちを信用しきれていません。もっと先生が子どもたちに委ねることができれば、子どもたちはクリエーティブになれるはずです。日本は管理社会なので、今後、子どもたちにどこまで責任を持たせるかということは、GIGAスクール構想を進めていく上で非常に重要なポイントになっていくと思います。

 ただ、私は端末を文房具のように使いこなせるようになる前に、もっと教えるべきことがあると考えています。例えば、「自由とは何か」「自治とは何か」「自分とは何か」といった、リベラルアーツ教育のようなものです。

 子どもたちは、自分の携帯端末はとてもよく使っています。でも、学習端末になると使わないのは、自分たちは管理されていると感じているからだし、自分たちがオーナーシップを持っている感覚がないからです。

 GIGAスクール構想は、本来は学習者を中心としたプロジェクトです。しかし、このままでは学習者がオーナーシップを感じないままに進んでいってしまうのではないかと危惧しています。今の学校文化のまま、こうしたプロジェクトを導入したのではうまくいかないのではないでしょうか。

学習者が学びたいこと、ワクワクすることを中心に

——学習指導要領においても、自ら学びに向かう力が重要視されています。

 佐藤 今回の「Edvation×Summit2021」のオープニングで、元MITメディアラボの伊藤穣一さんにご登壇いただきました。彼は、テクノロジーがどんどん普及してくると、「教育」から「学び」に変わるとおっしゃっています。

 「教育」の主語は親や教員ですが、それが「学び」になると主語は学習者に変わります。これまでは、学習者が学びたいと思ったら「学校」という場所に行き、「先生」という有識者に教えてもらうことによって学びを手に入れることができていました。ところが、今はインターネットにつながったパソコンが1台あれば、いつでもどこでも誰でも学べる環境が手に入るようになったのです。

 つまり、テクノロジーの進化によって「学び」がリーズナブルになってきました。そうなったからこそ、「教育とはどうあるべきなのか」ということを、もう一度考え直さなければいけません。

 そもそも今の教育は、大人の管理の上に成り立っているような仕組みになっていないでしょうか。もっと学習者を信じて、学習者が学びたいこと、ワクワクすることを中心に、一人一人に合った学びを応援するような仕組みをつくっていきたいですね。

 サコ 今、多くの国でイノベーションが起こっているのは、社会構造が変わっていっているからです。しかし、日本はずっと20世紀の社会構造のまま、新しいツールやイノベーションを乗せようとしています。それでは無理が出てくるでしょう。

 私たちは明日さえも分からない世界を生きています。大人たちが管理者の立場でいる限り、子どもたちはイノベーションを起こせません。子どもたちの生きる力や考える力を育んでいくことが、今本当に必要なことなのではないでしょうか。

子どもたちには「自分と向き合う時間」が必要

——チャット欄にも「これをきっかけに日本の文化を変えていきたい」「学習者の自律を育んでいきたい」といった声が届いています。

「子どもたちは自分自身に向き合う時間が必要だ」と佐藤氏

 佐藤 現代の子どもたちは、忙し過ぎです。そして「あの子よりできる」などと人と比べたり、平均と比べたりして、相対評価によって自分の位置を確認しています。教育の仕組みもそうなっていることで、苦しんでいる子もいると思います。

 不登校児童生徒数も増加の一途をたどっています。これは先日聞いた話なのですが、ある親御さんが「うちの子が不登校になったけれども、どうすればいいでしょうか」と先生に相談したときに、その先生は「おめでとうございます」と言ったそうなんです。

 なぜかというと、その子は自分自身と向き合う時間ができたからです。教育の仕組み全体が相対評価になっていて、忙しくて自分と向き合う時間がない中、「自分の好きなことや、大事にしたいことは何なのか。それに向き合う貴重な時間を得られたと考えればいいのではないか」と、その先生は言ったそうです。

 サコさんがおっしゃるように、GIGAスクール構想をきっかけに、こうした根元的な問いに立ち返らないと、表層的な問題は解決できないでしょう。

 サコ 今の大学生を見ていると、私は「誰の言葉でしゃべっているんだろう?」と疑問に感じるんです。つまり、自分の言葉を持っていないのです。日本社会での育ち方というのは、自分の言葉をどんどんなくしていくと感じます。小さい頃は好奇心がいっぱいでいろいろなことを質問していても、大きくなるにつれ、自分の言葉ではなく、先生の言葉や、親の言葉や、社会の言葉に置き換えられてしまっています。

 本学にも、中学や高校では不登校だったという学生がたくさん入ってきますが、総じて意識が高いと感じます。どこかのタイミングで、彼らはテンプレート型の学校教育に疑問を持ったり、友達関係に疑問を持ったり、何かしら疑問を持ってきたから、レールを外れたわけです。

 日本ではレールを外れた人に対して悪いイメージを持ちますが、実はそうではありません。レールを外れた子は「自分で考えた」経験があります。一度、自分で立ち止まって考える時間は、非常に大事なことだと思います。

【プロフィール】

ウスビ・サコ 京都精華大学学長。マリ共和国生まれ。高校卒業と同時に国の奨学金を得て中国に留学。北京語言大学、南京東南大学を経て1991年に来日。99年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は空間人類学。「京都の町家再生」「コミュニティ再生」など社会と建築の関係性を様々な角度から調査研究している。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、関西弁を操るマルチリンガル。京都精華大学人文学部教員、学部長を経て2018年4月から現職。編著に『現代アフリカ文化の今』(青幻舎)、著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)、『アフリカ人学長、京都修行中』(文藝春秋)など。

佐藤昌宏(さとう・まさひろ) デジタルハリウッド大学教授・学長補佐。教育イノベーション協議会代表理事。92年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。02年にデジタルハリウッド株式会社執行役員、21年4月に同大学学長補佐に就任。日本初の株式会社立大学院の設置メンバーの1人として学校設立を経験。04年、E-ラーニングシステム開発事業を行う㈱グローナビを立上げ代表取締役に就任。09年、同大学院事務局長や産学官連携センター長を経て、17年には(一社)教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。現在は専任教授として学生指導を行う。また、内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員、経産省未来の教室とEdTech研究会座長代理など、教育改革に関する国の委員や数多くの起業家のアドバイザーなどを務める。著書に『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。

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