【Edubate LIVE!】 「最終学歴」より「最新学習歴」

 教育に関する問題・課題への賛成・反対を聞き、インタラクティブに議論・討論する、教育新聞電子版の人気企画「Edubate(エデュベート)」。そのライブ番組「教育新聞 Edubate LIVE!」が昨年11月、国際カンファレンス「Edvation × Summit 2021」内で配信された。ゲストにウスビ・サコ京都精華大学学長、佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授を迎え、司会は教育新聞編集長の小木曽浩介が務めた。中盤では「Beyond GIGA」という同カンファレンスのテーマと、新たな教員研修の在り方などについて意見を交わした。(全3回の第2回)

自分自身が自分の教育をデザインする時代

――今、日本は情報化社会の入り口に立ったところで、そのために教育もあるのだと思います。コロナ禍で教育の情報化は進みましたが、今回の「Edvation × Summit 2021」のテーマである「Beyond GIGA」について、お二人の考えをお聞かせください。

 佐藤 これからの一つのキーワードは「デジタルテクノロジー」です。Beyond GIGAの世界においては、デジタルテクノロジーをコントロールするぐらい、人類が進化しなければいけないと思っています。

 サコ デジタルテクノロジーが教育の中に入ってきて、変化のスピードが非常に速くなりました。佐藤さんが指摘するように、テクノロジーにコントロールされているようでは意味がありません。これをどのように「手段」として使っていくかということが重要です。

「しばらくはGIGAを教育現場になじませていく必要がある」とサコ氏

 今、アフリカなどでは「リープフロッグ」という現象が起きています。これは、道路や電気など、インフラが整っていない地域が、デジタルテクノロジーの導入により、一気に社会構造まで変わってしまうことを意味します。でも、日本ではデジタルテクノロジーが導入されても、そこまでの変化は感じませんよね。なぜかというと、もともとインフラが整っていたからです。

 むしろ、日本はもともとのインフラがデジタルテクノロジーに追いついていない状態なのだと思います。コロナ禍に私たちが感じたことは、日本のデジタル環境の脆弱(ぜいじゃく)さです。だから、これからしばらくは教育現場や教育構造、教育内容に、GIGAを“なじませていく”ことが必要だと考えています。

 また、これから10年、20年後の日本は、世界においてどういう役割を果たしていこうとしているのでしょうか。そのあたりが非常にぼんやりしていると感じます。皆さんは、自分の立ち位置で、どのように社会と関わり、変革していこうと考えていますか? おそらく「自分にはそんな力はない」と思う人が多いのでしょう。でも、学習者には「これからの社会を変革していく鍵は自分なんだ」という気持ちを持って、学んでいってほしいですね。

 学習者がどういう社会を想像し、それによってどういう教育を受けたいのか。これからは「自分自身が自分の教育をデザインする」時代なのだと思います。デジタルがそれを可能にしてくれます。

 佐藤 「プロダクトライフサイクル」というものがあります。これは、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のステージからなる製品・市場の成長パターンのことです。これに例えると、残念ながら日本は「衰退期」に入ってきていると思います。

 みんな衰退期にいることは理解しているものの、過去の成功体験を捨てきれないので、それを認めたくないわけです。こうした状態を打開するためには、イノベーターが起こすイノベーションが必要です。

 教育においても、これまでの価値観にとらわれ過ぎず、新しいものを生み出すようなイノベーターを育て、イノベーションを起こしていくことを考えていかなければいけません。サコさんがおっしゃるように、学習者が「自分自身がイノベーターにならなければいけない」という自覚を持って進んでいくような教育を目指していきたいですね。

何かを追加するならば、何かをやめることをセットに

――教員不足も指摘される中、非常に重要な課題となっている教職の魅力向上についてです。Edubateで「#教師のバトン」プロジェクトをどう評価しているか聞いた結果、次の通りでした。このプロジェクトはそもそも教職の魅力向上のために始まったわけですが、どうすれば教員の労働環境を改善し、教員志望者を増やしてくことができると考えますか。

テーマ:「現在、あなたは『#教師のバトン』プロジェクトをどう評価していますか?」

 サコ 日本の先生は一つ一つの仕事に手を抜かないですし、労働時間も内容も非常に重いものがあります。皆さん最初はワクワクした気持ちで先生になるけれども、10年もすれば、耐えきれずに辞めてしまうか、辛抱強く続けるかになってしまっているのではないでしょうか。

「Edvation × Summit 2021」内で配信された「Edubate LIVE!」

 先生たちは、本当は児童生徒とじっくり向き合いたいし、関わりたいし、その成長を見守りたいと思っています。しかし、今の学校現場の状況では、その本来の目的が達成できないのだと思います。

 同じような仕事を同じようなレベルで出来るような人材を産業界にどんどん輩出していくことが目的だった時代もありましたが、今はそうではありません。そうなると、先生の子どもたちへの向き合い方も変わっていかなければならないはずです。その点を考えていくことも、労働環境を改善する上では必要だと思います。

 佐藤 もともとは先生の魅力をアピールしたくて始まった「#教師のバトン」でしたが、不平不満を出す場になってしまっている印象です。ただ、そうなってしまうのも仕方がないほど先生たちは大変な状況に置かれているし、そういう職場環境なのだと思います。

 今回のGIGAスクール構想もそうですが、新しいものがどんどん積み上がっていき、先生たちのやることばかりが増えて、負荷は増える一方です。もちろん、GIGAや英語や探究など、子どもたちの成長を願って新しいことが増えてきたのだと思いますが、同時に先生のやるべきことや、役割も変えるべきだと思います。それをせずに、新しいものだけ積み上げ続けているから、大変になっているのです。

 何事も過渡期においては、少し負荷が増えることもありますが、何かを追加するならば、何かをやめることもセットにしなければいけません。学校文化においては、これまで続けてきたことを「やめる」ことは非常に抵抗感があるのだと思いますが、そうしなければ教職の魅力化はいつまでたっても実現できないと思います。

先生になってから成長が止まっていないか

――教員免許更新制が事実上の廃止ということになりました。代わりに、教員が受けた研修の履歴をシステム上で管理していくこと、さらには教員と管理職が積極的に対話することを通して研修の受講を奨励し、学び続ける教師の実現を目指すことになりました。これからの教員研修について、どう考えますか。

 サコ 先生たちは忙し過ぎて、先生になってから成長が止まってしまっているように感じます。先生が成長すれば、学びの内容も豊富になり、多様化していくはずです。それなのに、現状では自分をアップデートしていく余裕がないのです。

 どんな研修を受けるかについては、私は個人の目的で設定するべきだと思います。まず、「自分はどういう先生を目指しているのか」ということを考えられるような余裕を与えて、それを意識した上で学び続けていくことが重要です。その人が成長することによって、教育内容が充実していくということを目指すべきです。

 自分がどういうことを学びたいのか。そのためにはどういう研修を受けるのか。そして、そこから何を得るのか。こうしたことを自己調整していく力が、これからは必要になってきます。また同時に、それを後押しするような制度やシステムも整備していかなくてはいけません。

佐藤氏は「これから必要なのは最終学歴ではなく、最新学習歴だ」と強調する

 佐藤 資格や免許というのは、自分のスキルの証明ではあるものの、取ってしまったら学びを止めてしまうという側面もあるのだと思います。これは、先生に限った話ではありません。

 私は自分自身が現在進行中で動いていないと役に立たないものですから、日々新しいことに触れることを意識し、ワクワクしながら仕事をしています。学び続ける姿勢、これを口で言うのは簡単ですが、そういう制度や仕組みに変えていくことが大事です。

 これから必要なのは、「最終学歴」ではなく、「最新学習歴」です。先生が学び続けている姿勢を子どもたちは見ています。学び続けている姿勢を評価し、認めていく。研修のログを取りながら、「この先生はどんなことを学んでいるのか」を管理職が見取っていくことは、すごくいい発想だと私は思います。

【プロフィール】

ウスビ・サコ 京都精華大学学長。マリ共和国生まれ。高校卒業と同時に国の奨学金を得て中国に留学。北京語言大学、南京東南大学を経て1991年に来日。99年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は空間人類学。「京都の町家再生」「コミュニティ再生」など社会と建築の関係性を様々な角度から調査研究している。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、関西弁を操るマルチリンガル。京都精華大学人文学部教員、学部長を経て2018年4月から現職。編著に『現代アフリカ文化の今』(青幻舎)、著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)、『アフリカ人学長、京都修行中』(文藝春秋)など。

佐藤昌宏(さとう・まさひろ) デジタルハリウッド大学教授・学長補佐。教育イノベーション協議会代表理事。92年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。02年にデジタルハリウッド株式会社執行役員、21年4月に同大学学長補佐に就任。日本初の株式会社立大学院の設置メンバーの1人として学校設立を経験。04年、E-ラーニングシステム開発事業を行う㈱グローナビを立上げ代表取締役に就任。09年、同大学院事務局長や産学官連携センター長を経て、17年には(一社)教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。現在は専任教授として学生指導を行う。また、内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員、経産省未来の教室とEdTech研究会座長代理など、教育改革に関する国の委員や数多くの起業家のアドバイザーなどを務める。著書に『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。

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