小学校教員に聞く(下) 高学年の教科担任制の難しさ

 高学年での教科担任制の実施が秒読み段階に入った小学校。教育新聞が昨年11月に実施した小学校教員へのウェブアンケートでは、4月からの教科担任制について、具体的にどの教科で、どんなやり方で行うのか、多くの学校で不透明である状況が浮かび上がってきた。小学校高学年で行われる教科担任制は、無事にスタートを切れるのか。模索を続ける現場や教員の声などを取材した。

全国に先駆けて県内全域で教科担任制を実施(茨城県)

 小学校高学年での教科担任制は、すでに一部の自治体で先行して始まっている。

 全国に先駆けて、今年度から県内全ての公立小学校の高学年で専科教員の配置・派遣を始めた茨城県。現在は理科で91人、外国語で100人、算数で40人など、実人数で244人の専科教員を配置・派遣している。実際には、1校に専科教員を1人配置する場合もあれば、拠点校から周辺の複数の学校に専科教員を派遣するケースもあり、後者では、2~3校を受け持つことも多いそうだ。

 県教委では、各学校でどの教科の専科教員を求めているかといった希望を市町村ごとに取りまとめ、できるだけ要望に沿った配置・派遣を実現できるようにしているという。このため、音楽や社会など、文科省の「義務教育9年間を見通した指導体制の在り方等に関する検討会議」が示した4教科(算数、理科、体育、外国語)以外の教科で専科教員を配置することもある。

 県教委では来年度以降も、この方式を踏襲しながら専科指導をする教員を加配することで、小学校高学年での教科担任制を実施していく考えだ。県教委の担当者は「専門性を向上させて、より深い学びにつなげ、中学校への接続も推進していくのが教科担任制の狙い。教員の授業の空き時間を確保していくためにも、専科教員の配置が基本だ」と説明する。

専科指導と交換授業のハイブリッドで推進(大分県)

 2019年度から小学校教科担任制推進校を指定し、さまざまな教科担任制のノウハウを蓄積させている大分県では、推進校での好事例を基にした「小学校教科担任制導入の手引き」を発行するなどして、県内の小学校に教科担任制の普及を働き掛けている。

小学校教科担任制推進教員配置校の導入状況(大分県教委HPより)

 県内に36校ある推進校には、専科指導を行う「推進教員」が加配され、国語、社会、算数、理科、外国語のどれか1つ以上の教科を専科で受け持つ。それ以外の教科については、担任を受け持っていない教員が専科指導を担当したり、学級担任同士で受け持つ教科を決めて指導する「交換授業方式」が行われたりしている。

 こうした取り組みによって、交換授業方式を含め、高学年で1教科でも教科担任制を実施している県内の小学校の割合は、19年度は32.1%だったが、20年度は43.7%にまで上昇した。また、22年度に推進校で5教科の教科担任制を完全に実施できた学級は、159学級中40学級と、4分の1を占めた。県教委の担当者は「来年度以降も専科教員と交換授業で教科担任制を推進していく方向性は変わらない。ただ、1学年1クラス程度の小規模校では交換授業方式は難しく、教科担任制の取り組みは進んでいない」と、課題も指摘する。

ブロック担任制で複数の教員が子どもを見る

 小規模校でも工夫して教科担任制を行っているところもある。全校児童が100人以下のある学校では、低学年、中学年、高学年で、担任を受け持たない教員や特別支援学級の担任も含めた複数の教員による「ブロック担任制」を組んでいる。例えば、特別支援学級の担任が通常学級で担当する教科の指導をする際は、学級担任が特別支援学級の児童の個別学習に当たるなど、フレキシブルに対応している。

 その学校に勤務するA教諭は「複式学級や1学年1学級だと学級王国になりやすく、子どもを型にはめがちになってしまう。ブロック担任制なら、複数の教員が子どもたちに関わるので、仮に担任とうまくいかない子どもがいても、安全基地をつくることができる。多様な視点で子どもの成長が見えるが、これを生かすには教員間のコミュニケーションが必須だ」と話す。

 また、このブロック担任制によって、指導経験の浅い教員をベテランの教員がフォローしたり、担任教員の授業の持ちコマ数を減らしたりできるなどのメリットも生まれているという。

 しかし、小規模校という特性を生かして柔軟に対応するこの方法は、時間割を調整する作業がかなり複雑になるなどのデメリットもある。どの教科を教科担任制で行うかなどは、その年度の教員の配置や専門性によって左右される面もあるため、前年度まで教科担任制でやっていた教科が、今年度からは学級担任制に戻ってしまうことも考えられる。

 「ころころ変われば子どもも混乱する。気を付けなければいけないのは、教科担任制で授業崩壊が起き、それが学級崩壊にまで波及してしまうことだ」(A教諭)

来年度も専科指導ができるとは限らない?

 今年度に異動した小学校で、外国語の専科教員をすることになったB教諭は「自分の得意分野に集中できる」と専科指導にやりがいを感じている。もともと早期英語教育に興味があり、異動に伴い外国語の専科指導を希望した。受け持つ学級が多いため、子どもの顔と名前を一通り覚えるまで多少の時間はかかったが、学級担任との連携もスムーズで、やりやすさを感じているという。

 その一方で、気になることもある。同じ自治体の小学校でも、外国語の専科指導が配置されている学校とそうでない学校があることだ。「外国語の専科教員がいるかいないかで、英語力に差が出ることはないのだろうか。この状況はいいのかなと思うことがある」とB教諭は懸念。教員採用試験で英語力の高い志望者を優遇する枠があり、すでに英語力のある教員はかなりの数が採用されているはずだが、適切に配置できていないのではないかと首をかしげる。

「教科担任制を実施する上での教員の確保はどのように行う予定ですか?」という質問の回答状況(複数回答)

 心配事は、来年度も引き続き外国語の専科教員を続けられるかだ。

 「産休や育休などで、ただでさえ勤務校では教員が足りていない。4月からは学級担任に戻ってほしいとか、急に欠員が出て途中から学級担任をしてほしいと言われるかもしれない」(B教諭)

プロの小学校教員をどう育てるか

 「教科担任制ならば、学級担任が一部の教科を教えなくて済む。だからといって、その教科の指導について学級担任が勉強しなくていいとなれば、プロ集団でなくなってしまう」

 そう話すのは、関東地方の小学校に勤務するC教諭だ。例えば、教科担任制によって、理科を別の教員が受け持つことによって、学級担任の負担は減るかもしれないが、それは理科の指導でブランクを生むことにもつながる。逆に、専科指導が長かった教員が学級担任を受け持つ場合でも、同じような課題が出てくる。そうならないためにも、教員自身が担当しない教科なども含めて、研修などで一定の指導力を磨き続ける必要があるというのが、C教諭が感じている問題意識だ。

 勤務校では現在、音楽と外国語で専科指導が行われているが、来年度から教科担任制がどのように行われるのかといった話題は職員室でも出ていないという。「教科担任制をやって、本当にその教科の専門性が向上すると言えるのだろうか。人が増えるのはありがたいけれど、ただでさえ多くなっている若手教員が、教科担任制のためにさらに増えるようなことになると、サポートしきれなくなる」とC教諭。「教員はプロ意識を持って、指導の質を高めることを待ったなしで本気でやらないと、これから入ってくる若手教員に指導することすらできなくなる。すでにその悪循環に入っている気がする。人が増えるなら、現場でどう育てていくかが問われているのでは」と強調する。

新卒一括採用モデルから脱却しないと対応できない

 小学校高学年での教科担任制を、現場レベルでどう構想していけばいいのか。教員の人事制度を研究している川上泰彦・兵庫教育大学教授は、全教科を教えることが前提となっている小学校で教科担任制を実施しようとすれば、どうしてもその場にいる教員の得意分野など、属人的な運用になってしまうとし、来年度の人事が分からなければ学校として計画が立てられないと指摘する。

 「専門性に特化して授業準備ができるという教科担任制の良さを考えても、見通しが早めに分かった方がいい。校長もどうすればいいか迷っているのではないか。なるべく早く来年度の教員配置を分かるようにすることが大事だ」と川上教授は話す。

 川上教授が懸念するのは、人材確保の問題だ。「教科担任制を回すことだけを考えて非常勤の教員を充てると、質の確保が難しくなる。教員養成の段階から、この課題にどう対応するかを考えていく必要がある。また、若い教員が増えれば、産休・育休も増える。その場合でも、教職を離れずに無理のない形で復帰できるようにしたり、教員経験のある人が教員に復職しようと思ったときに、学びをアップデートできたりする仕組みも考えないといけない。現状の新卒一括採用モデルでは、教科担任制などの変化に迅速に対応することは難しいのではないか」と問題提起。教科担任制の実施と並行して、学力以外の面も含めた成果検証をできるようにしておかないと、政策として定着していかないと警鐘を鳴らす。

(藤井孝良)

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