長期休校中の教育格差拡大をデータで裏付け 中教審に報告

 新型コロナウイルスの感染拡大による一昨年の長期一斉休校の期間中、家庭学習で課された宿題について、「よく分からなかった」と答えた子供の割合は、非大卒の親が多い家庭ほど高く、親がシングルマザーで非大卒の世帯ではさらに高くなる傾向があることが、東京大学大学院の中村高康教授や早稲田大学の松岡亮二准教授らが1月14日、中教審初等中等教育分科会で報告した調査結果で明らかになった。ICTを用いた実践では親の学歴が影響しやすい一方、プリント学習など、明確で枠付けの強い課題の方が「きちんとやった」率が高くなることも分かった。長期休校が家庭環境の違いによる教育格差の拡大につながっていた実態をデータで裏付けたエビデンスと言える。調査の分析結果では、家庭学習や個別学習を課す場合、親がシングルマザーで非大卒の世帯など、もっとも負担のかかる層を念頭にサポートを考える必要があると提言するともに、休校や学級閉鎖時には、何をすべきか明確な指示を伴う宿題を出していくことが学習機会の確保につながる可能性があると指摘した。

調査結果を報告する中村高康・東京大学大学院教授

 この調査は、文科省の委託調査として、教育委員会、学校、児童生徒、保護者の4主体に対して昨年1~3月に行った。今回の報告では、小学校400校の小学5年生と中学校360校の中学2年生、その保護者を対象にした調査結果から、親の学歴や世帯構成を組み合わせた指標を使って、一昨年4~5月を中心に全国一斉で実施された長期休校が児童生徒の学習状況に与えた影響を調べた。

 休校期間中に家庭学習を求められた時の様子を中学2年生に聞いたところ、学校の課題や宿題を終わらせる際に「学校から出された課題(宿題)がよく分からなかった」と答えた割合は、両親とも大卒の20.8%に対し、両親いずれかが大卒の世帯では26.9%、両親とも非大卒の世帯では33.1%となり、非大卒の親が多い世帯ほど高かった。さらにシングルマザーで大卒の世帯では28.2%だったのに対し、シングルマザーで非大卒の世帯では38.4%とより高かった=グラフ1参照

グラフ1=休校期間中に家庭で学校の課題や宿題をする際の問題

 世帯収入は非大卒の親が多いほど低く、また両親のいる世帯よりもシングルマザーの世帯が低かった。コロナ禍によってそうした収入差が拡大していると見られることから、調査結果では、長期休校の期間中、非大卒の親が多い世帯やシングルマザー世帯など「社会経済的に不利な家庭環境にある生徒の方が、家庭学習上の課題を抱える傾向にあった」と指摘した。小学5年生の調査でも同様の傾向がみられるという。

 次に、長期休校の期間中、家庭学習のために学校から出された課題に対して、中学2年生が「きちんとやった」と答えた割合について、家庭環境の違いによる差を分析した=グラフ2参照。この分析では、「臨時休校はなかった」「そのような指示はなかった」と答えた生徒は分母から除外しており、課題の指示があった場合について、「きちんとやった」割合を家庭の社会経済的地位別に描き出した。

グラフ2=休校期間中の学習形態(「きちんとやった」の割合 中学2年・生徒票)。注:「そのような指示はなかった」は分母から除外。

 その結果、「デジタル教材やソフトを使った学習」では、両親とも大卒の世帯では29.9%だったが、シングルマザーで非大卒の世帯では11.1%にとどまった。一方、「配布されたプリントの学習」では、両親とも大卒の世帯では78.9%だったが、シングルマザーで非大卒の世帯では62.3%が「きちんとやった」と答えた。

 こうした内容について、報告では「どの手法をとっても家庭環境の違いによる差はあるものの、プリント学習など明確で枠付けの強い課題の方が『きちんとやった』率は高くなる」「ICTを用いた実践では親の学歴が影響しやすい。小学5年生でも同様の傾向」「休校や学級閉鎖時には、プリントで明確な指示を伴う宿題を出していくことが学習機会の確保につながる可能性がある」と指摘した。

 松岡准教授は「『プリントの学習』や『教科書に基づく学習内容の指示』は、『デジタル教材やソフトを使った学習』や『インターネットで直接先生とやりとりできる授業』などと比べると、社会経済的地位による差が比較的小さいことが分かる。これらは紙かデジタルかという話ではなく、何をすべきか明確な課題の方が、社会経済的な格差による影響が小さいということ。デジタル教材などを通じた学習の導入初期には、家庭の社会経済的地位による格差に対して、より気を付ける必要があると考えられる」と説明した。

 また、調査では、休校期間中の親の在宅状況とオンライン学習の対応についても分析。大卒の親の数が多い、また、親1人以上が在宅していると、休校期間中にオンラインで学習教材を使えるようにしたという割合が高いことも分かった。非大卒と比べ、大卒の方がリモートワークを可能とするホワイトカラーの仕事に就いている傾向があることが重要な点だという。

 こうした分析結果を踏まえ、報告では最後に「今後の不測の事態に備えて、またICTの学校への浸透も見据え、家庭学習や個別学習を課された場合にもっとも負荷のかかる層(シングルマザー非大卒世帯など)も念頭において、今後のサポートを検討しておく必要がある。その際、学校ごとに最も負荷のかかる層の分布が異なることや、児童生徒それぞれによって抱える課題はさまざまであることから、一律の支援ではなく、特に困難を抱えた層に対するきめ細かな支援とその効果検証に取り組む必要がある」と提言した。

 この報告に対し、貞廣斎子委員(千葉大学教育学部教授)は「現場も含めて、そういう状況なのではないかと思われていたことを、明確なデータで検証した大変貴重な知見だ。ここで析出された構造は、コロナ禍だから、ということではなく、以前から潜在化していた構造がより明示的になったものだと受け止めている」と、高く評価。「これまでわが国においては、どういう社会的経済的背景や困り感を抱えている子供も同じ扱いにすることを、公正なり平等なりと考えてきた。配分できるリソースが非常に限られる中で、全ての子供たちを社会的に包摂することを考えていくと、一律の支援ではなく、特に困難を抱えた層に対するきめ細やかな支援を効果検証も含めて取り組んでいくことが、学校教育全体で必要な観点だと思う」と指摘した。

 一方、清原慶子委員(前東京都三鷹市長)は、シングルマザーで非大卒の世帯に焦点を当てた報告になっている点を問題視。「非大卒のシングルマザーが直面している問題を共有する重要な結果であると思いつつ、そのところだけが強調されてしまうことによって、シングルマザーの皆さんが、コロナ禍において問題が生じやすい家庭環境であるかのようになるのは良くない。私自身も大卒のシングルマザー。配慮が必要な部分ではないかと思う」と苦言を呈した。

 これに対し、調査に携わるオックスフォード大の苅谷剛彦教授は「コロナ禍は雇用の問題への影響もあるし、在宅勤務ができる家庭とできない家庭で子供の教育への影響はずいぶん違うだろうから、今回のようなシングルマザーへの注目に特化してしまった。政策を考える際には、どうしても『公平性』が『一律』と結び付きやすく、一番必要なところにちゃんと資源が届くのかという問題がある。実証的なデータで明らかにして、社会の理解を得ながら、文科省あるいは教育委員会が(一番必要なところに)支援を手厚くしていくことが大事になってくる。私自身、教育の不平等の問題をずっと見てきた社会学者として(シングルマザー世帯の問題は)強調しなければいけないと思った」と理解を求めた。

 松岡准教授は「誰に必要なのかが分からないと、政策の打ちようもない。不都合な事実を照らしてしまうことにはなると思うし、表現の仕方などがミスリーディングにならないように気を付けなければいけないのは承知しているが、このようなデータを、中教審の場で、皆さんの意識の中に入れていただきたい」と述べた。

 また、この日の初等中等教育分科会では、デジタル化などの社会変化が進む次世代の学校教育の在り方について検討する必要があるとして、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の設置を了承した。1人1台端末を活用した学習指導や生徒指導の在り方、教科書・教材のデジタル化推進と既存の教科書・教材との関係の整理などを議論する。

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