見過ごされてきた外国人学校の保健衛生環境 支援届くか

 日本に住む全ての子供の健康確保を――。コロナ禍で学校の感染症対策が課題となる中、文科省は日本の学校に比べて対策が遅れている外国人学校への支援を検討する有識者会議を設置し、今月13日に最終取りまとめを公表した。外国人学校を「外国人の子供たちが学ぶ役割を果たす機関」と位置付け、来年度に認可外施設も含めて相談や情報発信の窓口となるプラットフォームを設置するなど、保健衛生環境の整備に向けて本格的な支援に乗り出す。これまで行政に見過ごされてきた外国人の子供たちの健康を守る施策がいかに進んでいくか、関係者の期待が高まっている。

厳しい現状

 一口に外国人学校といっても運営状況はさまざまだ。文科省によると、学校教育法1条に基づく学校が8校、各種学校認可を受けた学校が126校、認可外施設は89施設以上あるとみられている。日本の学校に近い保健環境が整う施設もあれば、運動場もない施設もある。文科省が昨年4月から5月にかけてこのうち161校を対象に行った調査では、保健衛生環境を巡る厳しい実態が改めて浮かび上がった(グラフ参照)。

外国人学校の保健衛生対策の取り組み状況(文科省調査)

 回答を寄せた80施設のうち、養護教諭を配置しているのは28施設(全体の35%)にとどまったのをはじめ、保健室設置は60施設(同75%)、児童生徒の健康診断実施は63施設(78%)などと、日本の学校に比べて対応が大きく遅れている状況が示された。さらに回答率そのものが半数しかなかったことから、同省で改めて追加調査したところ、保健室の設置以前に十分な教室のスペースがないとか、健康保険への加入状況によって必要な医療を受けられない懸念があるといった厳しい声が寄せられた。

 こうした調査結果を踏まえて文科省は昨年5月、「外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議」を設置した。すでに新型コロナの感染拡大で外国人学校の一部でクラスターが発生する事態も生じる中、「日本に住む全ての子供の健康を確保する」という観点から議論を重ね、今月13日に最終取りまとめを公表した。外国人学校を「外国人の子供が学ぶための一定の役割を果たす機関」と明確に位置付け、外国人学校を巡る課題として、▽子供たちの把握▽対策を講じる上での財政面の限界や適切な情報入手など▽地方自治体との連携など支援体制――があると指摘した。

 その上で今後の方向性として、速やかに▽多言語対応のできるプラットフォームの整備などによる適切な情報発信▽地方自治体などと連携したきめ細やかで効果的な支援――などを進める必要があると強調。中長期的には認可外施設も含めて活用できる、保健衛生に関するガイドライン作りを検討すべきとする提言を盛り込んで、国などに早急な対応を求めた。

ブラジル人学校運営者「日本を支える子供たちの定住化にも考慮を」

 「外国人学校が子供たちの教育に一定の役割を果たしていると明記されたことはありがたい」

送迎バスで通学するブラジル人学校の子供たち(イーエーエス提供)

 有識者会議の委員を務めた特定NPO在日ブラジル学校協議会副理事長の倉橋徒夢さんは、委員として参加できたことは重要だったと話す。倉橋さんは、東海地方を中心に6つのブラジル人学校を運営する「イーエーエス伯人学校」の経営に携わっている。新型コロナの感染拡大が始まった一昨年は対応に忙殺されたと振り返る。

 「幼児も預かる保育の機能もあるので、長期の休校はしなかった。送迎バスの過密対策などを取りながら、できるかぎり学業に影響のないように対応した。役所からの指示は届くが日本語を読めるスタッフが限られる上、十分な感染対策を取るための人的・物的・金銭的資源もない。とにかく負担が重かった」

 こうした経験から倉橋さんは、最終取りまとめでもう一歩踏み込んでほしかったとの思いも語る。特に強調するのは、ブラジル人学校に通う子供たちはかつての出稼ぎ者の子弟が中心でなく、定住化が進んでいること。「ブラジル人学校の子供たちも日本の将来を担う人材となることを考慮してほしい。これまで教育行政から排除されていると感じたこともあり、今回、外国人学校を『教育機関の一つ』とまで位置付ける確認が得られなかったことは残念だ。外国人学校は非正規であっても、子供たちにとっては彼らの『学校』。そこには多くの子供が集まって学んでいるので、最低限、安全や健康については正規の学校と同様の扱いをしてほしい」と訴える。

ブラジル人学校の授業の様子(イーエーエス提供)

 その上でブラジル人学校などの置かれた環境への理解も求めている。「基本的に外国人学校は、人的・物的・金銭的資源が不足している。今後、国が保健衛生環境に関するガイドラインを作っても、ただ学校に送って終わりとはしてほしくない。手厚く支援してくれる自治体がある一方、相談しても対応してくれないところもあるので、これを機に地域社会を作る一員として、とにかく自治体などと外国人学校の対話を増やしてほしい」と要望している。

子供たちの学習支援NPO「共生社会づくりのきっかけに」

 今回の有識者会議では、「外国人学校」の対象が幅広く捉えられたのも特徴だ。海外にルーツを持つ子供への学習支援活動などに取り組むNPO法人「青少年自立援助センター」定住外国人支援事業部責任者の田中宝紀さんも、メンバーに選ばれた。田中さんは「私たち自身もさほど位置付けを考えていなかったので、『外国人学校』に含まれるのかと少し驚いた」と振り返る。

 実際、コロナ禍で同法人の支援活動の重要度は高まっている。コロナ禍前まで受け入れていた外国人は年間約100人だったが、昨年度の在籍者数は240人に急増し、今年度も210人以上が在籍している。5年以上前にオンライン受講の体制を整えたこともあり、逆にコロナ禍で支援活動が難しくなった他のボランティア団体が面倒を見ていた子供たちへのサポートにも当たった。

 もっとも、感染症対策は全くの手探りだった。「保健所が大変な状況と聞いていたのでそもそも相談するという発想もなかったし、一般の学校の感染対策はやや緩い印象があり、自分たちの判断を信じて対応するしかなかった」。状況に応じて一斉にオンラインに切り替えたり、消毒液やパーテーションなどを用意したりした。ただ、こうした感染対策の経費や人件費などは月謝に転嫁することもできず、相談先がないこととともに、資金面の課題に直面したという。

 田中さんの発言は、有識者会議の最終取りまとめに反映された。1つは地域連携を含めた広域的支援の観点だ。例えば独自に養護教員などの配置が難しい施設の実情を考慮して、「養護教諭等の専門を広域で配置し、外国人学校の保健衛生対策について巡回指導を行うなどの支援方法も考えられる」との文言が盛り込まれた。また、資金面の支援についても、「各種学校認可や寄付に関する制度について、対象となる学校の拡大等も含め、さらに活用できるよう検討を進める必要がある」などと明記された。

 これについて田中さんは「基本的に外国人学校と行政だけがステークホルダーでないので、医療機関やNPOなどと地域連携の必要性が盛り込まれた点や、寄付税制の対象拡大に言及されたことの意義は大きいといえる」と評価する。その上で、「運営形態にもよるが外国人学校は孤立しやすい存在であり、保健衛生の観点から一歩踏み込んだ対策を行うことで、共生社会の大きなきっかけづくりになると思う。自治体によって課題認識にばらつきがあるが、国はしっかりバックアップして自治体が積極的に取り組める状況をつくってほしい」と強調した。

省庁の壁超えた意義、「優良事例の全国展開を」

 これまで外国人学校の保健衛生環境が見過ごされてきた背景について、文科省国際課の松原太郎国際協力企画室長は、課題が省庁にまたがっていた点もあったと指摘する。「外国人問題となると入管庁、保健衛生は厚労省、学校となると文科省となり、取り組みにくい課題であった面は否めない」。さらに外国人学校の形態や規模はさまざまで、1000人以上の学校もあれば寺子屋のような認可外施設もある。今回の有識者会議の設置を通して、こうした多様性も認めながら一定の方針を示した点は意義があったと語る。

 すでに文科省は外国人学校への支援に向けて来年度予算案に6300万円を計上。学校や施設の規模にかかわらず保健衛生環境に関する相談窓口や情報発信、さらに多言語対応の可能な職員も配置するプラットフォームの整備に乗り出す。また、すでに外国人学校を積極的に支援している自治体もあることから、外国人学校の実態把握の手法やモデルケースとなる取り組みも調査する。例えば岐阜県美濃加茂市では、国際交流協会が認可外保育施設での健康診断でかかりつけ医を紹介したり、多言語に対応した健康診断を実施したりしており、こうした優良事例を調べて全国展開も図る構えだ。

 さらに有識者会議の提言を受けて、外国人学校の保健衛生に関するガイドラインの策定に向けた準備も進める。松原室長は「国によって医療への考えや文化も異なるため、ひとくくりの対応を求めることは難しいが、どんなイメージで策定するか検討を進めるとともに、健康診断の実施などできることから対策は進めたい。外国人の子供の健康を守るためには、医療や保健衛生、共生などさまざまな分野の人が関わることが必要で、自治体の中でもコミュニケーションを取りながら支援を進めてほしい」と呼び掛けている。

(山田博史)

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