【共に学ぶ】高校の定員内不合格 障害がある人を阻む壁

 重度の障害があったり医療的ケアが必要だったりする子どもたちが、地域の公立学校に通うケースも少しずつ増えてきた。しかし、入試がある高校で、そうした子どもたちを受け入れることには、高い壁がある。その壁は、校舎のバリアフリー対応や介助者の配置などの問題だけではない。「共に学ぶ」の第3回では、定員割れとなっているにもかかわらず、障害のある生徒が入学を断られてしまう、高校の「定員内不合格」を取り上げる。

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一緒にいるのが当たり前に:優太郎さんの場合

 大阪府に住む新居優太郎さんは、放送大学に在籍する現役の大学生だ。優太郎さんは常に人工呼吸器を付けており、意思疎通はまばたきで行う。小学生までは特別支援学校に通っていたが、医療的ケアが必要であるため、母親の真理さんが付き添いや送迎を毎日しなければいけないことが、大きな負担となっていた。

 「当時は、障害のある子は特別支援学校に行くのが当たり前と思っていて、地域の学校にも通えるなんて思いもしなかった。いろいろな情報を集める中で、地域の学校に通っているケースがあると聞き、衝撃を受けた」と真理さんは当時を振り返る。

 優太郎さんを交えた家族会議の末、特別支援学校を卒業したら、自宅近くにある市立中学校に入学することを決断。受け入れ側の中学校の教員らとも事前に話し合いを行うなどして、優太郎さんの入学が決まった。

 しかし、いざ入学するとさまざまな問題が立ちふさがった。優太郎さんは特別支援学級に入ることになったが、通常学級で他の生徒と一緒に学ぶ機会はなかなかなく、校外学習への参加は、保護者が付き添って、他の生徒がバスで移動するのを、介護タクシーで追い掛けることを条件にされた。

 真理さんは学校や市教委と粘り強く交渉を続け、優太郎さんが通常学級で過ごす時間は少しずつ増えていった。そうやって地域の中学校で過ごした優太郎さんが、高校を受験するのは自然な流れだった。中学校の教員もその話に最初は驚いたものの、どうやったら優太郎さんが入試を受けられるかを真剣に検討。受験した全日制高校の1次試験、2次試験は落ちてしまったものの、定員割れで2次募集をしていた府立春日丘高校定時制は、面接試験を経て合格することができた。

 「面接では、志望理由やこれまで頑張ったことを書いた紙を持たせて、優太郎が一人で受けた。大阪府は『定員内不合格』は出さないと聞いていたが、やっぱり合格発表までは心配だった」と真理さん。

 入学した春日丘高校定時制では、担任の教員の理解もあり、優太郎さんは他の生徒と同じ教室で授業を受けた。授業への出席も成績に反映されたため、優太郎さんは毎日出席。医療的ケアを行う看護師が決まると、真理さんは送迎だけをすればよくなった。

 校外学習でも付き添いを求められることはなくなり、移動には優太郎さんも乗れるリフトバスが使われるようになった。そして修学旅行。優太郎さんは初めて、真理さんが付き添わない宿泊を体験した。1日目は新幹線で東京方面に移動し、神奈川県で民泊体験をしたり、ディズニーランドで同級生と楽しい時間を過ごしたりした。

部活動の成果を発表する新居優太郎さん(右、真理さん提供)

 優太郎さんは部活動にも参加し、週に2回ある科学部の活動では「月や火星の微小重力を再現する」というテーマで仲間と共に探究学習に取り組み、学会で発表をする機会にも恵まれた。そのときの科学部のメンバーは、高校を卒業した今もときどき会うことがある。

 「学会が開かれる九州まで、みんなでフェリーに乗って移動したこともある。雑魚寝したり、みんなで風呂に入れてもらったり、友達は、当たり前のように優太郎と一緒に過ごしていた」(真理さん)

 こうした経験や高校の教員に勧められたこともあり、高校卒業後、優太郎さんは放送大学に入学。優太郎さんは今、在学中に履修認証資格である学校地域連携コーディネーターを取ることを目標に学び続けている。いずれは、地域で障害のある人と学校をつなげる活動をしていくことが、優太郎さんの夢だ。

「定員内不合格」に苦しむ当事者たち:美佳さんの場合

 千葉県に住む雑賀美佳さんは、今、高校浪人をしている。最初に受験した全日制の県立浦安南高校は、前期試験、後期試験、2次募集のいずれも不合格。後期試験と2次募集は「定員内不合格」だった。翌年は、障害のある生徒を受け入れたと聞き、県立浦安高校を受験。しかしこちらも結果は「定員内不合格」だった。

 美佳さんは医療的ケアが必要ではあるが、小学校、中学校と地域の公立学校に通い、中学校では途中から通常学級に在籍。修学旅行も他の生徒と一緒に参加することができた。そんな学校生活を送っていた美佳さんにとって、高校に通うことはごく当たり前の選択だった。

 母親の貴子さんは「受け入れない理由は『適格者主義』。親にしてみれば、この言葉に苦しめられ、自分を責めてしまう。どうして目の前にいる子どもに、学習する機会を与えてくれないのだろうか」と憤る。

「定員内不合格」によって浪人をせざるを得なかった雑賀美佳さん

 高校側の柔軟さに欠ける対応は、受験前から始まっている。貴子さんが「学校見学からジャブを打ってくる」と感じたように、エレベーターのない校舎なので、2階に上がるのを手伝ってほしいと事前に頼んだときも、高校側の反応は消極的だったという。

 こうした高校や県教委の対応に、貴子さんは無力感を覚える。「定員内不合格には理屈がないと思う。特別支援学校や通信制の高校に入ればいいとも言われるが、なぜ普通の全日制高校に入れないのか。高校側でも、たとえ校長に理解があっても、教員で反対する声が上がると難しいし、そもそも定員割れが起きていない高校では、この問題に無関心だ」

 この春も、美佳さんは3度目の高校受験に臨む。もし入学がかなえば、中学校の同級生と先輩・後輩として再会するかもしれない。浪人したことで、美佳さんは社会とのつながりも細くなってしまった。

 どうして3年間も諦めずに挑戦し続けるのか。美佳さんの声にならない言葉を、貴子さんがくみ取って次のように答えた。

 「高校生になりたい。制服を着たい。教室にいたい。だってみんな、(高校生に)なっているんだもん」

 重度の障害があり、医療的ケアを必要とする優太郎さんと美佳さん。どうしてこの2人には、これほどまでに違う結果が生まれてしまったのだろうか。

都道府県によって異なる対応

 実は、高校が定員割れをした際に、原則として全ての受験生を受け入れる方針を示している都道府県は16都道府県に過ぎない。このうち、実際に一例も出していないのは、東京都、大阪府、神奈川県だけだ。つまり、住んでいる地域によって教育格差が生じていることになる。

 高校の特別支援教育について研究している髙野陽介・小田原短期大学専任講師は「都道府県によって地域差がある状態は平等ではない。高校は定員内不合格とした場合に、少なくともなぜ受け入れないのかを明確に示して、当事者と話し合う必要がある。障害者差別禁止法を踏まえれば、当事者に障害があることを理由に入学を断ることはできない」と指摘する。

 自身も中学生のころにけがで長期間入院し、それ以来、車いすで生活している髙野講師。高校選択では、どうしても通学できるかや、施設がバリアフリーであることが条件となり、一般的な受験生のように、やりたいことや学校の特色で行きたい高校を選べる状況ではなかったと振り返る。

 「入学した高校では、クラスの教室を1階にしたり、階段の昇り降りの際には友達が持ち上げたりしてくれる場合もあった。私自身、自分の障害のことを周りにどう知ってもらい、サポートを頼めばいいかを学べた。ちょっとした工夫で解決できることはたくさんある。『これまで障害のある生徒がいなかったから、受け入れるのが怖い』というのは、そろそろなくなってほしい」

最大の壁は高校の「適格者主義」

 「ほぼ全入の高校から希望する生徒を排除することは、将来にわたって地域で暮らしていくインクルーシブな社会づくりに反している」

 高校の定員内不合格の問題は、2019年11月の参院文教科学委員会で、れいわ新選組の舩後靖彦議員が取り上げたことで、多くの人に知られるようになった。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で体のほとんどを動かすことができず、文字盤を追う目の動きで言葉を伝え、スタッフの代読で話す舩後議員。国会で定員内不合格について問題提起したのは、沖縄で知的障害のある受験生として初めて高校を目指し、定員内不合格にされた仲村伊織さんの両親から手紙をもらったことがきっかけだった。

 上京した仲村さんの訴えを聞く過程で、国会議員になる前に関わりのあった渡邊純さんの訃報を知った。千葉県で暮らし、人工呼吸器を利用する渡邊さんは、7年間で27回も高校を受験し、いずれも不合格だったが、諦めずにチャレンジを続けていた。高校に入りたいという渡邊さんの夢は、かなうことはなかった。

 定員内不合格が起きてしまう背景について、舩後議員は「障害児の高校進学を阻んでいるのは、校舎の物理的バリアや、看護師や介助員の配置、受験時の合理的配慮などの制度面以上に、教職員の意識の壁が大きい」と指摘。

 「高校は義務教育ではなく、単位が取れなければ留年も退学もあるのだから、その高校の教育課程を履修できるだけの学力がなければ、そもそも入れるべきではない。そうした『適格者主義』の考え方を変えていかなければ、定員内不合格はなくならない」と訴える。

 今、少しずつではあるが、障害のある子どもを公立高校が受け入れる動きが増えている。しかし、美佳さんのように浪人を重ね、学校教育とのつながりが絶たれてしまっているケースは全国各地に存在している。さらに、中学校の進路指導の段階で、障害がある生徒は特別支援学校に進学することが当たり前であるかのように勧められ、高校に通える選択肢を事実上知らされていない場合も含めれば、高校に通いたかったが通えなかった障害のある生徒はもっといるかもしれない。

 文字盤の上を、舩後議員の視線が移動していく。

 「医療的ケアが必要な子ならば、普通教室で過ごすのは危険ではないかと教師は思うかもしれない。しかし、そういう人と過ごした経験があれば、一緒にやれると分かるはずだ。障害の有無にかかわらず、小さいときから一緒にいることが重要だ」

 国会での質疑があった直後、教育新聞は電子版上で行った定員内不合格に関する読者投票を行った。1週間で310件の投票があり、グラフのような結果が示された。

国会での質疑を受けて教育新聞が実施した読者投票「Edubate」の結果

 2年後の今、もしも同じ質問を投げ掛けたら、この結果は変わるだろうか。

(藤井孝良)

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