【共通テスト】「受験生への配慮は十分なのか」 中村教授に聞く

 今年1月15・16日に行われ、約49万人が受験した大学入学共通テストの本試験では、数学の「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・数学A」と理科の「生物基礎」「化学」「生物」、地理歴史の「日本史B」、外国語の「フランス語」の7科目で、平均点が過去最低となり、受験生にとっては厳しい試験となった。大学入試改革の柱である共通テストだが、入試や選抜の問題に詳しい東京大学大学院教育学研究科の中村高康教授は「受験生の側に立って考えているか、というのが、大学入試改革全体を貫く問題だ」と訴える。中村教授に今回の共通テストの振り返りと、今後の大学入試のあるべき姿を聞いた。

気になる「場面設定の不自然さ」

 「受験生に対する配慮が、もう少しあってもよかったのではないか」。教育社会学が専門で、入試制度に詳しい東京大学の中村高康教授は指摘する。「共通テスト導入期の一時的な混乱という面もあるが、これだけ平均点が低いのは反省すべきポイントだ。これまでの学校体験で、もっと高い平均点のテストになじんでいる多くの受験生が、いきなりこの試験を受けさせられた。本番で動揺し、負担に感じた人も少なくなかったと思う」。

 試験の内容はどうか。共通テストの作問方針では「授業で生徒が学習する場面、社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータなどを基に考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定」が重視されており、対話形式の設問なども目立った。ただ中村教授は、その場面設定の不自然さが気になったという。

 例えば「数学Ⅱ・数学B」では、自転車が先を歩く歩行者を追い掛け、追い付いたら自宅に戻ることを繰り返すという問題が、SNSなどで話題になった。速さは「毎分1」など単位のない形で表されている。「現実に即した文脈での作題を意識したのかもしれないが、かえって不自然。受験生は日常生活で、もっとリアルな世界を生きているはずだが」と中村教授は首をかしげる。

 中村教授は対話形式の多さにも疑問を感じているといい、「授業の中で対話的に学ぶプロセスは重要だが、学んだ後の習得度、理解度を測る試験にまで、対話形式の問題文をやたらと持ち込む必要はないのではないか」と指摘する。「大学入試改革では全般的に、入試を変えることへの意識が先行しがちで、受験生に対する配慮が薄い。問題の量が非常に多く、不自然な設定になっているのも、その延長線上にあるように思えてならない」。

「暗記再生からの脱却」は本当か

 1月21日の閣議後会見で、平均点の低下と設問の難易度について聞かれた末松信介文科相は「全体的に、授業での学習のプロセスや日常生活の場面を題材にした問題、あるいはさまざまな資料や図から複数の情報を読み取って活用する能力を問う問題など、単なる暗記再生型の出題ではなく、共通テストが意図する能力を問う点がより明確になっている」と、一定の評価をした。

 ただ、共通テストの導入で「暗記再生型」の入試からの脱却が図られるという言説に、中村教授は懐疑的だ。「そもそも歴史的に見ても、暗記再生だけで受かる入試はほとんどなかった。大学入試改革で導入が検討された記述式問題も昔からあり、新しいものではない」と指摘する。

 「確かに、多くの試験では持ち込みやカンニングが禁止されていて、暗記再生が必要な場面もある。多くの人がそれを経験して痛い思いをしているからか、そこから脱却しなければならないという認識を受け入れがちだが、現実の入試はすでに、暗記再生だけでは解けないように工夫を重ねてきている。すでにあるものを、あたかも新しいものであるかのように取り上げて、それをすれば未来が開けると語るのは、日本の閉塞感の表れではないか」

 中村教授は、こうした「新しい教育」をやたらと追い求める風潮に警鐘を鳴らす。「教師の数を増やさないまま、改革ばかりを進めようとした結果、現場の教師の仕事が回らなくなっている。こういう時こそ、基本に立ち返ることが大切だ。新しい内容を取り入れることも時には必要だが、高校までの段階では、必ず習得しなければならない基礎があるはず。応用的な内容を本格的に取り入れるのは、大学などに入ってからでも遅くはないと考えている」。

「入試はできる限りシンプルに」

 文科省は昨年7月末、2025年以降の共通テストでの記述式問題の出題や、英語民間試験の活用を正式に断念した。これからの大学入試はどうあるべきかを中村教授に尋ねると、「基本的な考え方としては、あまり入試で受験生に負荷をかけていく方法はやめた方がよい。できる限りシンプルにするべきだ」との答えがあった。

「大学入試改革は、受験生本位で慎重に進めるべき」と指摘する

 「もし大学での学びに英語のスピーキングが必要ならば、それを大学入学後のカリキュラムに組み込んで、ボトムアップを図る方法もある。学生にとっても、入試のための勉強でストレスを感じながらやるより、大学で自分の専門分野の必要に応じてスキルアップする方が、前向きに取り組みやすいのではないか」。つまり、選抜時に試験を課して勉強させるのではなく、「教育の中でフォローしていく」という考え方だという。

 一方で、25年から共通テストに追加される「情報」を、国立大の受験生に課す方針が1月28日に決まり、中村教授は受験生への負担増を懸念する。「現状の多くの国立大の入試で課されている5教科7科目でも、受験生の負担は大きい。さらに1教科増えるとすれば、相当の負担だ。その上に現時点では、情報科の専任教員の配置に地域によってばらつきがあり、高校での教育の体制も整っていない」。

 中村教授は「受験生の側に立って考えているか、というのが、大学入試改革全体を貫く問題だ」と話す。「現状の大学入試の仕組みは、受験生にとって、後の人生で何度も戻ってきてやり直せるような気楽なものではない。その中で、大人の側が『やってみて、うまくいかなかったら考え直そう』『多少のことは仕方がない』などと考えているなら、受験生の人生に対して真摯(しんし)ではない。大学入試改革は、大人の理想の押し付けではなく、受験生本位で慎重に進めるべきだ」と厳しく指摘する。

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