【共通テスト】過去最低点の数学・生物 高校が見た成果と課題

 1月15・16日に行われ、約49万人が受験した大学入学共通テストの本試験では、7科目で平均点が過去最低となり、全体的に難化が目立った。とりわけ昨年度からの下落幅が約20点と大きかった科目が、生物と数学だ。高校の教育現場を知る教師に尋ねると、学習や探究の過程を意識した出題を評価する一方で、処理すべき情報量の多さが受験生に重くのしかかったことを指摘した。2025年からは国立大学の受験生に「情報」が課せられることも決まり、共通テストにおける受験生への負荷は、今後の課題となりそうだ。

探究の過程を問うトレンドは望ましい

 平均点が昨年度の72.64点から約24点下落し、48.81点にとどまった理科②の「生物」。三田国際学園高校で生物を教える大野智久教諭は「高校で生物学を学んだ、その到達度を見る試験としては適切だったのではないか」と指摘する。「重箱の隅をつつくような知識問題は減り、実験を通してきちんと考察させるものが多かった。高校教育で探究的な活動が進められていることもあり、こうした出題の方向性は望ましい」。

大野教諭は「探究の過程を問うトレンドは、高校の授業を変えていく一つの力になる」と話す

 とりわけ評価するのは、「一つの仮説を証明するために、さまざまな検証実験が必要であることを伝える出題がいくつも見られた」という点だ。「これまでは実験の結果が与えられ、それを考察するだけの設問が多かったが、近年は仮説を検証するためにどんな実験が必要で、その結果をどう考察するかという、探究の過程を問うものがトレンド。こうした出題は、高校の授業を変えていく一つの力になる」。

 受験生が苦戦した背景にあるのは、処理すべき情報量の多さだ。加えて、選択肢の中から「正しいものの組み合わせを選ぶ」という出題形式の増加が、平均点の下落に拍車を掛けたと大野教諭はみる。この出題形式では、選択肢の全てを吟味しなければ、正解にたどり着けないためだ。

 「考察が多く、知識ですぐに解けるストレートな出題はわずかだった。第1問の初めから頭を使うもので、受験生は『60分で解ききれない』というプレッシャーを早い段階から感じていただろう。特に大問6では小問ごとに別の実験を考察しなければならず、かつ配点が計19点しかない。何らかのきっかけで本来のメンタルが崩れても不思議ではない」

 ただ、情報量は多いとはいえ「生物学の予備知識なしに、論理的思考力だけで解けるような問題は少なかった。生物学を学んだ上で、知識を身に付けていなければ読み解くことができない。その点では適切な出題だったと思う。問題の分量が適切に減り、出題形式もシンプルになれば、60点台の平均点は出るのではないか」と大野教諭は分析する。

問題を解き始める前に、読解でつまずく

 「数学が難しかったと落ち込んでいた」。全国高等学校長協会(全高長)の会長を務める、東京都立小金井北高校の杉本悦郎(えつお)校長は、共通テスト後の生徒たちの様子を振り返る。今回の本試験で「数学Ⅰ・数学A」の平均点は37.96点(前年度57.68点)で過去最低、「数学Ⅱ・数学B」が43.06点(同59.93点)と、昨年度より大幅に下落した。

 杉本校長の専門は数学科。「制度が変わった翌年は難化すると言われていたが、予想以上の部分があった。昨年度はどちらかといえばセンター試験寄りの問題だったが、今年度は試行調査に見られたような、共通テストの色が濃くなっていた」。

「思考力・判断力・表現力を問う問題が多いように感じた」と語る杉本校長

 「新学習指導要領を見据え、知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力をバランスよく見ようというのが、今回の共通テストの趣旨」と理解しつつも、個人的な意見としては「基礎的・基本的な数学の知識・技能を身に付けたかを測る問題よりも、思考力・判断力・表現力を問う問題が多いように感じた」と杉本校長は語る。

 「問題作成方針にある通り、学習の過程を意識した問題の場面設定が重視されたことで、問題のリード文が長くなり、資料やデータも増えている。問題を解き始めるまでにいろいろな情報を処理しなければならず、厳しいものがあった。受験生の読解力に課題があり、本来の数学的な見方や考え方を働かせる以前のところでつまずいた受験生は、十分にその力が測れていないのではないかと感じた」

 また日常の事象や、数学のよさを実感できる題材だったとはいえ、無理のある設定もあったように感じたという。「太郎、花子と登場人物の名前を付した対話文を読ませるものもあったが、情報が過多とならないよう留意していただきたい。また、数学としての知識・技能や思考力・判断力・表現力をバランスよく測れるよう、問題の工夫を重ねていってほしい」と話す。

「何もかもを共通テストで問うのは無理」

 1月28日には、今後の共通テストの在り方に大きな影響を及ぼす決定があった。国立大学協会が、国立大学の受験生に共通テストで「情報」の試験を一律に課す方針を正式に決めた。杉本校長は「全高長は昨年10月、『情報』を一律に課すことを慎重に検討するよう、要望書を出していた。今回の決定は残念だ」と肩を落とす。

 「一律に課すことが決まった以上は、既卒者の受験生が共通テストを前提に『情報Ⅰ』を履修していないこと、情報科の専任教員の配置が地域により大きく異なり、教育環境の差が歴然としていることについて、大学側の理解を求めたい。また学校設置者の教育委員会には、専任教員の配置を進めることを強く要望したい」

 杉本校長の懸念の背景には、受験生への負担の増加がある。「さまざまな教科について測りたい力があることは理解できるが、何もかもを共通テストで問おうとすることには、かなり無理がある。現状でも共通テストは2日間、朝から夕方まで長時間にわたって行われ、受験生の負担は相当のものだ。障害のある受験生には試験時間を延長する配慮もあるが、ただでさえ試験で大量の情報を処理しなければならない中、限界を超えている」。

 試験の内容についても「高校で学んだ基礎的な内容を超える出題が多くなるのは問題だ。共通テストの問題作成方針が示す『高等学校教育の成果として身に付けた、大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力・判断力・表現力』がどこまでを指すのか、今後、議論が必要だろう」と指摘する。

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