デジタルとリアルの最適な関係探る 次期教育振興基本計画を諮問

 末松信介文科相は2月7日、中教審の第130回総会で、教育基本法に基づき、教育政策の基本方針を示す第4期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定について諮問した。諮問では、将来の予測が困難な時代に向け、これまでの日本社会や制度の延長線上では対応できないとして、「歴史の転換点に立っているとの認識を前提として策定する必要」を強調。今後5年間に教育政策が目指すべき方向性として、「デジタル」と「リアル」の最適な組み合わせや、教育データを活用する方策などを示すように求めた。

中教審のオンライン会議で諮問内容を説明する末松文科相

 末松文科相は中教審の席上、「この諮問は、いま学校で学ぶ子供たちが社会の中心となって活躍する、2040年以降の社会を見据えた教育政策に関し、総合的かつ体系的な検討をお願いするもの。中身の濃い教育振興基本計画にしてほしい」とあいさつした。

 諮問では、「今、学校で学ぶ子供たちが社会の中心になって活躍する2040年以降の社会は、これまでの日本社会や制度の延長上では対応できない段階にまで至ることが想定される」として、第4期計画は「歴史の転換点に立っているとの認識を前提として策定する必要がある」と位置付けた。

 この「歴史の転換点」の背景については、人口減少、高齢化、デジタルトランスフォーメーション、グローバル化、多極化、地球環境問題などの進行とともに、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取ったVUCAの時代と称されるような、「そもそも先行きが不透明で、将来の予測が困難な未来を迎えようとしている」と説明。そうした時代を生きるためには「予測される世界を想定し、そこから逆算して対応策を考えるだけでなく、失敗への批判ではなく挑戦を応援する中で、私たちが望む未来を私たち自身で示し、作り上げていくことが求められる」と指摘した。

 こうした予測困難な未来に向け、第4期計画で重視すべきポイントとして、労働市場の構造や職業そのものが抜本的に変化するとされる「超スマート社会(Society 5.0)」への対応とともに、一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せを意味する「ウェルビーイング(Well-being)」の実現を挙げた。経済協力開発機構(OECD)がEducation2030プロジェクトで提起した「変革を起こすコンピテンシー」(新たな価値を創造する力、対立やジレンマを克服する力、責任ある行動を取る力)の育成や、予測困難な社会における人材移動を支える社会人の学び直し(リカレント教育)の重要性、共生社会の実現に向けた社会的包摂の推進--などを留意事項として示している。

 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大について、「学校に通うことができず、共に学ぶ仲間と集うことができない事態は、未曽有の危機を学びにもたらした」とともに、「デジタル機器を用いたオンライン教育や、AIなどを活用した学習教材などが人々の学びを支えたことは、デジタルがもたらす学びにおける可能性を示す機会となった」と指摘。同時に「学校に通えないという事態が、学校の持つ福祉的機能や、教師と学習者が学校に集い、共に関わりながら学び成長することの価値(中略)など、オンラインでは経験し得ない、リアルな体験の持つ価値を再認識する契機ともなった」との認識を示した。

 こうした前提を踏まえ、諮問では、▽今後の教育政策の基本的な方針。特にオンライン教育の活用など「デジタル」と「リアル」の最適な組み合わせ。および、幼児教育・義務教育から高校や大学などの高等教育が連続性・一貫性を持ち、社会のニーズに応える教育や学習の在り方▽こうした基本的な方針を踏まえ、生涯を通じたあらゆる教育段階における、今後5年間の教育政策の目指すべき方向性と主な施策▽共生社会の実現を目指した学習を充実するための環境づくり▽多様な教育データをより有効な政策の評価・改善に活用するための方策--について、検討するよう求めた。

諮問を手交する末松文科相と、受け取る渡邉中教審会長(左)

 総会では、諮問内容について、委員から意見が表明された。

 今村久美委員(カタリバ代表理事)は児童生徒の不登校や長期欠席、自殺の増加を取り上げ、「現行の第3期教育振興基本計画に『誰もが社会の担い手となるための学びのセーフティーネットを構築する』とあるが、長期欠席者や不登校、子供たちの自死は計画を策定した2018年よりも、2021年の方が増えている。この現状についてどう受け止めるべきかが最も重要だ」と指摘。

 「子供たちが学びを通じて一人一人の多様な幸せを享受できる『当たり前』を確保していくことが、次の基本計画では最も重視すべきことだと思う。1人1台の端末が配布された今、デジタルとリアルの適切な組み合わせでリソースを確保することができるようになったのだから、その学校の地域の中で得られる学びだけではなく、その学校の地域という空間を超えた支援を得られるような、踏み込んだ合理的配慮が必要。どんな特性の子供たちでも、外国にルーツのある子供たちや、学校に行かないという選択をしている子供たちにも、学習権の保障をきちんと進めていくことを次の計画の中で検討してほしい」と、力を込めた。

 越智光夫委員(広島大学長)は「デジタルとリアルの最適な組み合わせは非常に重要。ただ、コロナ禍の中で、(デジタルの活用は)教育方法のトランスフォーメーションのみに光が当たっている印象もある。児童生徒や学生のメンタルヘルスという視点が欠けているのではないか」と、第4期計画でデジタルの活用を議論する際には、オンライン授業の活用などに伴う子供たちのメンタルヘルス面にも留意すべきだとの見解を示した。

 堀田龍也委員(東北大大学院教授)は「現行の第3期基本計画では、学校のICT環境整備について、学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度、整備することになっていた。その後、GIGAスクール構想が推進され、前提がすいぶん変わっている。オンラインは、決して対面の代替ではない。オンラインでつながりながら学ぶことは、生涯学習では一般化している考え方。これから学び続ける時代に生きていく子供たちに必要なスキルを学校教育段階でどう身に付けさせるのか、という考え方で、これからの学校教育を考えていかなければいけない」と説明。

 その上で、「令和の日本型の学校教育の前提となるICT環境が、第4期計画の期間中もしっかりと保障され続けられるよう、第4期計画に明記してほしい。そうでないと、いつかこの端末がなくなるのかなと考え、学校現場が非常に不安に思ってしまう」と述べた。

 永田恭介委員(筑波大学長)は「多様性については、セーフティーネット関連の議論もあるが、もう一歩踏み込んで、個人の多様性は、それぞれの才能を引き出していく、という考え方にした方が、より幅が出るのではないか」と指摘。「基本計画なので、最終的には具体的な方策や法体系について言及できるようにしないといけない。その時には、壁を越えるとか、境界を越えるという、Beyond the borderの考え方で計画を立てればいいと思う。何かのバリアーを超えていくときに、何が必要か、と考えていくことが一つの方法だと思う」と意見を述べた。

 貞廣斎子委員(千葉大教授)は「教育振興基本計画は、教育政策の中にPDCAサイクルを導入するために作られているもの。P、D、Cまでは美しくいくが、なかなかAがうまくいかない。私はこのAをアクションではなく、『解決』なり『改善』なりという言葉を当てたいが、その意味で、現行の第3期計画の実施状況や成果をしっかりとチェックした上で、次に解決なり改善なりができるような計画を強く意識してほしい」と踏み込んだ。

 その上で「ICT技術の進展やコロナ禍があぶり出した制度のゆがみなど、新しい内容はあるが、3期と4期が分断しているわけではない。典型的なのは、学校に足が向かない子供たちが減らないことで、継続した課題となっている。これに知恵を出し、いかに解決して改善していくのか、ここの部分を強く意識して、次期計画を作ってほしい。これが次期計画の最大の目的である、と見据えていただきたい」と強調。計画を策定するだけでなく、これまでの計画の成果を検証し、課題の解決や改善につなげていくことに意味がある、との見方を示した。

 今回の諮問を受け、中教審では、総会直属の審議機関として、教育振興基本計画部会の設置を了承。同部会では、集中的に議論を行い、来年2月か3月に答申をまとめる。この答申を受け、政府は来年6月ごろ、次期教育振興基本計画を閣議決定する見通し。

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