10代の妊娠、学校にできること にじいろ先生に聞く

 昨年末、熊本市の慈恵病院で、身元を明かさぬまま仮名で出産する「内密出産」が行われた。出産したのは、10代の少女だった。なかなか表面化しづらい、10代の妊娠・出産。厚労省の人口動態統計によると、2020年に出産した10代は6948人だった。公立高校の元養護教諭であり、「にじいろ先生」の愛称で全国の学校現場で性教育の出前授業を行っている、中谷奈央子氏。昨年12月に中高生の妊娠をテーマにした書籍『10代の妊娠~友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル~』(合同出版)を出版した。「性教育は、身体や心を守る健康教育であり、犯罪の加害者にも被害者にもならないようにする安全教育であり、自分や周囲の人を大切にする人権教育」と語る中谷氏と共に、中高生の妊娠の現状や導くための性教育の在り方を考える。

性について向き合おうとしない大人たち

 全国の学校現場を回り、性教育の出前授業をする中谷氏のツイッターのダイレクトメールには、こんな相談が日々寄せられる。「先月、彼氏と性行為をしてから生理がきません。妊娠しているか不安です」「検査薬を試すのも怖くて、誰にも言えません」――。周囲の大人にも言えず、1人で抱え込む10代からの妊娠に関する相談だ。

全国の学校で性教育の出前授業を展開する中谷氏

 2020年、コロナ禍の一斉休校をきっかけに、10代の妊娠についての相談が急増したというニュースが注目を集めた。以前より潜在化していた10代の妊娠の問題について、改めて世間の関心が集まる中で、「10代に(性についての)知識が足りないのではないか」「若者の間で性が乱れているのではないか」など、少女たちの責任を追及する声も少なくなかった。

 そのような「自己責任論」が広がる風潮に、中谷氏は苦言を呈す。「10代に関わらず、妊娠は女性だけの問題ではない。男性の問題でもあり、社会全体の問題。特に中高生の妊娠を巡る課題は一見、子どもたちの問題のように思えるが、実は大人の問題なのでは」と問い掛ける。

 「10代の知識不足は間違いないが、それは彼らに責任があるわけではない。学校や保護者、周りの大人が性について十分に学べる環境を整えていないことが原因。学習指導要領の中でも、例えば『どうすれば受精するのか』についてははどめ規定があり、男女それぞれの身体の仕組みについてなど必要最低限しか触れない。さらに多くの大人が、子どもたちに性に関して伝えることに消極的。性について教えようとしない、向き合おうとしない教育の在り方に根本的な問題があるように見える」

 現代の若者はインターネットで幅広い情報を得られるという声もあるが、中谷氏はその環境が10代をさらに混乱させているとも指摘する。

 「ベースとなる基本知識がある人がネットを活用すれば、間違った情報を見極めながら、正しい情報を収集できる。一方、基本知識がないままネット頼りに情報収集していると、どの情報を信じていいのか判断がつかず、ますます迷宮入りして悩みが増えて苦しむ若者を多く見てきた」

 中谷氏に寄せられる相談の中には、「わざと風邪をひいて体調を崩したら、妊娠(の進行)を止められますか」など、知識が乏しいがゆえに情報を取捨選択できていない若者の声が後を絶たない。周りの大人には打ち明けられない、10代の切迫した状況がうかがえる。

SRHRの観点に立った性教育を

 「不十分」「遅れている」と指摘され続けてきた日本の性教育。先進的な独自の取り組みや、外部講師を招いた授業などに積極的な学校もある一方で、多くの学校からは「どこまで踏み込めばいいのか分からない」「そこまで手を回す時間も人員もない」という声を漏れ聞く。

 そんな状況下で、性の問題で苦しむ中高生を1人でも減らすために、学校は性教育をどのようにアップデートしていけばよいだろうか。

 中谷氏は「まず、教員をはじめとした大人が抱いている、性教育や性への偏見を取っ払うことが先決」と強調する。

 教員研修の講師を任されたとき中谷氏には、教員たちに必ず伝える言葉がある。「性教育は、身体や心を守る健康教育であり、犯罪の加害者にも被害者にもならないようにする安全教育であり、自分や周囲の人を大切にする人権教育」。性教育と聞くと、生理や生殖、受精につながる話ばかりだと思いがちだ。しかし「健康教育、安全教育、人権教育」と広く捉えることで、学年や教科に関係なく、授業の1シーンや日常会話の中でエッセンスを取り込むことができるのではないかと提案する。

 特に、人権教育の側面からは「嫌なことは嫌と言う。自分のことは自分で決める。自分にある権利を知ることは、児童生徒が幸せに生きるためのベースとなる」と話す。

 セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)という言葉がある。子どもを産む・産まないについて選ぶ自由や、いつ何人の子どもを産むかなどを女性が自分で決められる権利のことで、ジェンダーギャップの観点から世界各国で提唱されているほか、国内でも重要視されつつある。中谷氏はこのSRHRの観点に立った、性教育の在り方の必要性について指摘する。

 「日本では私も含め、『権利』という概念に鈍感なところがある。生徒一人一人も権利を持っており、その中には性に対する権利もあることを踏まえた、発想の転換が必要」とアドバイスする。

10代の妊娠、大人も選択肢を知らない

 具体的にはどのように授業に反映できるのだろうか。中谷氏は「教員の価値観を一方的に押し付けるのではなく、彼らが自分で選択するための材料となる正しい情報や選択肢を伝えるスタイル」と説明する。

 学校の性教育では、「性感染症にかかると、こんな怖い思いをする」「いま妊娠すると、こんな大変なことになる」などと、生徒の恐怖心をあおりながら、さまざまなことを禁止するベースで伝える傾向が目立つと中谷氏は指摘する。とりわけ「10代の妊娠」については、それ以前の性行為も含めデメリットばかりが強調され、どんな選択肢があるのか、万が一妊娠した場合はどうすればいいのかなど、具体的な情報に触れられることはほとんどない。

 例えば、中絶。中谷氏によると高校の保健の授業で、「中絶のビデオ」を見せられたという声を耳にすることがある。それは中絶手術時に、胎児が子宮の中を逃げ回っているように意図的に映像を編集したものだった。そして「命の芽を摘む行為」「命を粗末にしている」などと、問答無用で「中絶=悪」と教えられる。

 中谷氏は授業で中絶を取り扱うとき、生徒にこんなふうに問い掛ける。「中絶と聞くと、多くの人が『赤ちゃんがかわいそう』『無責任だ』と感じるかもしれない。でも妊娠すれば産めばいいという、簡単な話ではないよね。産むにしても産まないにしても、女性の身体や心、その後の人生にとって大きな選択。本人に決める権利があることを忘れてはいけないんじゃないかな」。

 中谷氏は現役の養護教諭時代も含め、10代で中絶を経験した少女たちと関わってきた。中には手紙をしたため、当時の苦しかった思いを打ち明けてくれた卒業生もいた。「中絶した女性が罪悪感やトラウマで苦しまなくてもいいように、産むか産まないかを決める際は、女性自身が自分の気持ちを大切にできる環境にあってほしい。もちろん意図せぬ妊娠や中絶を経験しないための教育は必要だが、一方的な価値観を刷り込んで、恐怖心で抑え込むスタイルはあってはならない」と思いを語る。

 10代の妊娠がテーマの著書では、妊娠したその後の選択肢についてもスペースを割いて解説した。「産む」「産まない」という章の他に、「産んでたくす」という章もあり、特別養子縁組や里親制度、乳児院など、社会的養護についても触れている。

 もし自分の教え子が、「妊娠した」と打ち明けてきたとしたら……。どれだけ選択肢を提示できるだろうか。中谷氏は「特に10代の妊娠については、実は大人もどんな選択肢があるのかを知らない。大人がしっかりと選択肢を知っておき、それらを示しながら、本人が選択できるようにサポートする形が理想ではないか」と強調する。

「命は大切」で終わらせない

 「命の大切さを教えてください」。中谷氏が出前授業の打ち合わせで、学校側から一番かけられる言葉だ。中谷氏はこの言葉に長年、違和感を抱いていたという。

 「『命を大切に』『この世に生まれることは奇跡』、現状の性教育ではこういった耳障りのいい言葉に頼り過ぎているように感じる。では、具体的にどう大切にすればいいかについては、誰も触れていない。頭では分かっていても、自分を大切にする手段が分からず苦しんでいる中高生は多くいる。道徳的なスローガンを訴えるよりも、具体的に自分を大切にするための選択肢や、心身をケアする方法を知って初めて、自分を大切にできるのではないか」

中谷氏の著書では妊娠したその後についての選択肢についても、丁寧に解説している

 こんな10代の声も耳にした。「『妊娠は奇跡』と教えてもらったから、まさか自分が妊娠するなんて思っていなかった」「中絶した私は命を大切にできなかったから、幸せになるべきではない」。妊娠はもちろん、性を巡るトラブルや失敗は、当事者の心身だけでなく、その後の人生にも大きな影響を与える。トラブルや失敗を予防するための教育はもちろん、万が一、性に関することで傷ついたときに、1人で抱え込まず相談できる存在や、心と体を回復させ、もう一度歩き出させるための教育も必要なのだ。

 「『助けを求めていいよ』『どんな結果になったとしても、味方でいるよ』というスタンスの大人がもっと増えてほしい。10代のこの現状を、学校の先生をはじめとした大人に知ってほしいし、改めて考えてほしい。きっと、1人で苦しんでいる生徒がいるはずだから」と、中谷氏は語る。

(板井海奈)

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