【学校図書館】「隠れ司書教諭」生む現状 山本みづほ氏に聞く(上)

 あらゆる学校に設置されているのに、自治体によっては学校司書が十分に配置されず、鍵がかかりっぱなしの状況もまま見受けられる学校図書館。学校司書がいない、または多数校掛け持ちという自治体もまだ多く、また司書教諭は通常業務に加えてさらに仕事が増えるため、「隠れ司書教諭」となっていることも珍しくないという。

 学校図書館が学びの場に活用されると、子どもたちに何が起きるのか。学校図書館や学校司書、司書教諭はどのような位置付けにあるのか。元教員で、現在は大学の非常勤講師などを務める山本みづほ氏に聞く。

学びを深める大事な役割

――学校図書館の状況は全国で大きく異なり、自治体によっては「足を踏み入れたことがない」という教員も少なくありません。学校図書館が学びの場に活用されると、どんなことが起きるのでしょうか。

山本みづほ氏

 たとえば授業中に子どもが疑問を出したとき、「後で調べておいてね」で終わってしまうことが多いでしょう。でも学校図書館に学校司書がいれば、その子はすぐ図書館に行って、知りたいことを調べることができます。

 米国に以前行ったとき、「これだ」と思ったことがありました。授業中に疑問を持った子どもは授業者の許可を得て、すぐ学校図書館へ行くことができる。授業中でも図書館には学校司書がいるから、知りたいことを相談できるのです。すると学校司書が関連する本を「ここに載っているよ」と貸してくれる。子どもたちはそれを教室に持ち帰り、「さっき僕たちが話していた疑問は、こういうことだったよ」と共有できる。

 これがやっぱり、すごいなと思ったんです。授業をしていると、生徒は「これはどうなの?」という、結構いい質問をするのですが、「後で調べておいてね」としか言えなかった。でも、学校図書館にちゃんと学校司書がいれば、授業中だって子どもが行くことができる。それが分かったことは、大きかったです。

――子どもたちは、学ぶのが楽しくなりそうですね。

 学ぶ意欲が湧きますよね。みんなが同じことを習って「はい、はい」と聞いているだけではなく、その子自身が疑問に思ったことに答えが出るから。他の子が疑問に思ったことでも、聞けば「そうだったんだ」となるし、自ら「調べよう」という気にもなる。日本は1学級の人数が多いので一斉授業ばかりでしたが、学校図書館や学校司書を使えば、できることが広がります。

 私がいる長崎県でも、学校司書が多くいる自治体では、どんどん授業に入っています。ブックトークはご存じですか? 本のコマーシャルみたいなもので、授業に入る前に、そのテーマに関連する本を何冊か紹介する。そして一つの単元が終わったら、発展学習に進めるよう、「関連して、こんな本がありますよ」という紹介をする。そうすると、子どもたちは「もうちょっと深く勉強してみようかな」と意欲が湧いてくる。学校司書は、学びを深めるということに関して、大事な役割を果たしています。

50年も続いた「当分の間」

――いいですね。ただ、そういう学校図書館や学校司書を見たことがない教員は、授業に生かされ得ることを知らないのでは。

 そうですね、みんな自分たちの目の前にある状況を、スタンダードだと思っていますから。だから、逆の例もあります。取材に来た新聞記者さんが、学校司書のいない学校があることを知って、すごく驚いていました。どこの出身かと聞いたら、長野県でした。長野県は、本当に小さな自治体や学校でも、昔から学校司書がいたのです。

 彼が言うには、長野県の小学校では、例えば理科の時間に校庭に出て花や虫を採取したとき、それを図書館に持って行って「これは何の花(虫)ですか?」と聞いて、学校司書が一緒に調べてくれたそうです。「そういうことが、ここではできないんですか?」と聞かれ、学校司書がいなければできないと答えたら、すごくびっくりしていました。

――学校図書館や司書は、そもそもどんな位置付けなのでしょうか。学校教育法施行規則には「学校には図書館を設けなければならない」ということが書かれており、司書のことは、学校図書館法に書かれていますね。

 学校図書館は、戦後間もない頃にGHQが作らせたのが始まりです。当時、日本の学校では黒板とチョーク、教科書だけで授業が行われており、それを見たGHQの人たちが、もっと教材をたくさん提示して授業をした方がいいから、せめて学校図書館を作りなさいと言ったのです。

 図書館というのは本が置いてあるだけでは駄目で、人(司書)がいて初めて図書館の役割を果たします。でも当時の日本人にはよく分からなかったので、「取りあえず部屋をつくって本を置いておけばいい」と思ってしまった。ですから、戦後当初から学校図書館に学校司書が配置されたのは、米軍の占領下にあった沖縄県だけでした。

 一度は、学校図書館に専任・専門の司書教諭を置く法案が国会に提出されそうになったこともあるのですが、折り悪く1953年の吉田茂内閣の「バカヤロー解散」で法案が流れてしまった。結局、その半年後に成立した学校図書館法では、司書教諭は「教諭をもって充てる」という充て職となってしまいました。

 しかも当時は、司書教諭の養成が追い付いていなかったため、「当分の間置かないことができる」という附則までついてしまった。結果、その「当分の間」がなんと50年も続くこととなり、学校図書館に司書教諭がいない状況が、多くの自治体で長く続いてしまったのです。

――いまでは、司書教諭は必ず配置されているのですか?

 いえ、2003年からようやく、12学級以上の学校に司書教諭を置くことが義務付けられました。ただ、12学級以上というのは小学校なら1学年2クラス以上、中学校だと学年4クラス以上です。11学級以下の学校には、まだ司書教諭を置いていない自治体もあります。ちなみに鳥取県は12学級以上の学校が県内になかったものの、学校図書館の整備が進んでいたので、「それなら全校に」ということで全ての学校に司書教諭を置いています。

 さらにその後、学校図書館に「学校司書」を置くことも努力義務として定められました。

学校司書と司書教諭

――「学校司書」というのは、「司書教諭」とは別ですか?

 別です。「司書教諭」というのは教員で、担任を持ったり、授業をしたりしながら、学校図書館の仕事もする人。「学校司書」というのは、学校図書館が職場で、ずっとそこにいる人。司書教諭と学校司書の違いは、学校の中でもいまだによく知られていません。

 2014年から学校図書館法が改正され、「学校司書を置くよう努めなければならない」とされたのですが、ただし残念なことに、いまだに予算が十分ついていないため、自治体によって、大きな格差が生じてしまっています。

――どれくらい違うんでしょうか?

 学校司書が1人につき1校という自治体もあれば、1人の司書が10校を兼務しているところもありますし、学校司書が全くついていない学校も少数ながらまだあります。

 たとえば、岡山市の小中学校や、鳥取県の学校、神奈川県、埼玉県の高校などは、学校司書をきちっと正規で雇っています。沖縄県も先ほどもお話したように、米国の統治下にあったため最初から学校司書がいたのですが、本土に返還された際も「いいことだから続けよう」と頑張って、そのまま学校司書を受け継いでいます。待遇も悪くありません。

 一方で福岡県春日市など、学校司書を外部業者に出してしまっているところもあります。東京都も同様でしたが、幸いこちらは昨年、民間委託の廃止が決まりました。

 学校司書は、自治体によって勤務時間も異なります。例えば、私がいる長崎県佐世保市は23人の学校司書が70校に配置されており、1人3校の受け持ちですが、勤務時間が1日7時間以上あり、有資格者しか雇わないので、まだいい方です。

 県内には1人1校の自治体もあるのですが、そこは勤務時間が1日3時間で、しかも資格がない人も雇っている。ですから、どちらかというと学校関係者の奥さまのお友達とかが、ボランティアの感覚でやっていらっしゃる。そういう方たちは、部屋の飾り付けなどを好まれて「授業に入るなんてとんでもない」という感じです。だから格差が大きいんです。

――学校司書さんのお給料は、どれくらいですか?

 すごく低いです。120万~130万くらいなので、サラリーマンの奥さんが扶養の範囲内で働くような想定なのでしょう。

――私の知人も、学校司書に情熱を注いでいたのですが、給料が低過ぎるため泣く泣く転職しました。もっと、まっとうにお金を払ってほしいですが。

 佐世保市は、議員さんに言いに行ったりして、やっと200万を超えるくらいになったのですが。でも本当は、200万でもまだ厳しいでしょう。男性の学校司書だっていますし。

(クローズアップ取材班)

【プロフィール】

山本みづほ(やまもと・みづほ) 長崎県の公立中学校国語科教員として35年間勤務(うち1年間は小学校)。学生時代に司書教諭資格を取得し、学校図書館の運営に長く携わる。自費で国内・海外各地の学校図書館・公共図書館を見学。早期退職し、現在は長崎純心大学・長崎短期大学非常勤講師、日本図書館協会長崎県代議員など。著書は『蛾のおっさんと知る衝撃の学校図書館格差 ~公教育の実状をのぞいてみませんか?~』(郵研社)。

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