【学校図書館】「隠れ司書教諭」生む現状 山本みづほ氏に聞く(下)

 「隠れ司書教諭」「潜伏司書教諭」――。通常の業務に加え、図書館の運営も任されるため、資格を持っていても履歴書に書かない司書教諭のことだ。学校司書を配置している自治体でも、1人の司書が何校も掛け持つことが多く、すると司書教諭の負担が増してしまう。学校図書館は「鍵をかけておく」という選択をとらざるを得ないことも多い。

 学校図書館を機能させ、子どもたちの学びに十分生かすためには何が必要なのか。学校図書館や学校司書、司書教諭はいまどのような状況にあり、どうすれば改善するのか。元中学校の教員で、大学の非常勤講師などを務める山本みづほ氏に聞いた。

学校司書を配置する必要性と課題

――学校司書の配置が進んでいない自治体や学校では、司書教諭の負担が大きいのでは。

山本みづほ氏

 そうです。司書教諭は「充て職」という形で、授業を教え担任をしながら、学校図書館もやることになるので、お給料は増えないのに仕事だけ増えてしまいます。だからみんな「隠れ司書教諭」になったり「潜伏司書教諭」になったりしている。司書教諭の資格を持っていると教員採用試験では有利になることが多いので、学生時代に資格を取る人は多いんですが、合格したら履歴書には書かずに隠しておく。

 いま私が教えている学生たちも、この4月から教員になりますが、ただでさえ忙しいコロナ禍のいま、「無理しなくていいから」と伝えています。たぶんいまは学校司書がいるので、その人たちが仕事をしやすいようにフォローができれば、それだけでいいよと。学校司書がいないなら、図書館に鍵をかけておくのもやむを得ないと思います。

――図書委員の児童生徒が、図書館をまわしていることもありますが、あれは学校司書がいないから、そうさせざるを得なかったんですね。ご本を読んで、初めて気付きました。

 長崎県の高校も正規の学校司書がいないので、「図書専門部」の生徒たちが頑張っています。でもそれは、本当はおかしなこと。「子どもを使っちゃえ」みたいな話ですから。

――図書委員の子どもは、昼休みに大急ぎで給食を食べて、図書館に駆け込んで、貸し出しを待つ他の子たちに文句を言われている状況もあると知って、はっとさせられました。

 そう、頑張っているのに叱られたりして、おかしいなと思います。私自身も中学生のときに図書委員で、当番に来なかったと言って司書教諭にげんこつを頂戴したことがあります。学校司書がいれば、そんなことは起きるはずもないのですが。

――やはりまずは、学校司書が十分に配置される必要があるのですね。

 あとは、研修の問題もあります。現状は、学校司書の取りまとめ役として教育委員会に担当がつくのですが、元教員でも、これまで学校図書館に足を運んだことがない人が多く、なかなか実のある研修ができません。取りあえず、学校司書を集めて事務連絡をして、その後はグループに分けて、「お互いに悩みを話し合ってください」と言って、時間が来たら終わり。これでは、学校司書のスキルは上がりません。本当は「学校図書館支援センター」を、各自治体に作るべきなんですが。

 佐世保市では、私が仲間と一緒に、どんな研修会を開いていくか話し合いながらやってきたところ、すごくスキルがアップしました。ボランティア感覚の方は大体去って行きましたが、中には、夏休みを利用して学校司書の資格を取ってきた人もいました。お給料が上がったこともあり、いまでは辞める人がいなくなりました。それはやっぱり、子どもたちにとってもすごくいいことです。

何も理由がなくても入れる場所

――山本さんが学校図書館で出会った生徒たちの話も印象的でした。いつもお弁当を食べず、昼休みに図書館を訪れていた子が、何度も顔を合わせるうちに家の悩みを打ち明け、児童養護施設につなぐことができた、など。いつも学校図書館に居て「ここに住みたい」とまで話していた子が、卒業後に自死してしまったというお話もありました。学校図書館は、学校の中の子どもたちの居場所としても、重要なのですね。

 図書館は、用事がなくてもふらっと入れる場所なんです。相談室というのは、前もって予約をとって、その時間にコンコンとノックをしてしか入れない場所。保健室も、けがをしたとか、お腹が痛いとか、何か理由がないと入りづらい。でも図書館は、何も理由がなくても入れる。そこがいいと思うんです。そして、そのカウンターに大人(司書)がいたら、子どもはやっぱり何か話したくなるんですね。

 昼休みに保健室はよく生徒でいっぱいになるんですが、私が最後に勤務した学校の保健室は生徒が来なかった。不思議に思った保健室の先生が、図書館に来て「理由が分かった」と言っていました。「保健室に来るような子たちが、ここにいるわ」と。だからやっぱり、用がなくても行けて、居心地がよければ、集まってくるんですね。

専任・専門・正規の「3S」に

――これからどうすれば、学校図書館はもっと活用されていくのでしょうか。

 学校司書を、専任・専門・正規の「3S」にすることが必要です。これを昔からやっていたのが、岡山市です。岡山市はどの学校にも学校司書を置いて、職員室にもちゃんと学校司書の机があって、会議にも入れるし、修学旅行の引率にも行く。学校司書は、児童生徒を知るためのことを、何でもやれます。

 他の自治体では、学校司書は職員室に机がないことが多いんです。だから朝、校長先生に「おはようございます」とあいさつをしたら、あとは学校図書館で仕事をして、帰りに職員室へ行って「さようなら」とあいさつするくらい。だから教員は、学校司書のことを知りません。でも本当はやっぱり岡山市のように、職員としてしっかり認めているのが理想だと思います。

 佐世保市はいま、1人3校掛け持ちなので、まずは2校にすることが取りあえずの目標です。以前は10年の雇い止めがあったのですが、スキルを積んだ人がそこでみんないなくなって1からやり直すことになってしまうので、「それだけはやめてください」と言って、やめてもらいました。いまは、昨年度からできた「会計年度任用職員」という枠で、1年単位で学校職員を雇っている自治体が多く、佐世保市も同様です。

 学校司書の待遇改善も重要です。いま国は、学校司書を2校に1人割り当てられるだけの地方交付税(交付金)を出しているといいますが、以前に大学の講義のとき、学生たちと一緒に計算してみたところ、その額は年収120万~130万円程度でした。学校で大事な子どもたちと関わる仕事をしているのに、なぜそんなに少ししかもらえないのか。

 良い自治体は国からのお金に、自分たちの自治体のお金をプラスして、学校司書にちゃんと給与を払っているわけですが、本当は国がもっとしっかりと生活ができるようなお金を出さないといけないはずです。

――司書教諭の負担も減らす必要がありますね。

 そうですね。例えば司書教諭には授業を10時間までしか持たせないとか、そんなふうにやっていたところもあります。授業を20時間くらい持っていると、1日1時間くらいしか空きコマがないので、学級のことをちょっとやっていたらすぐ終わってしまう。そう考えたら、やはり授業をもっと軽減することが必要ですが、でも現状では無理ですね。

――地元の議員さんに相談して、学校図書館にお金を確保されたこともあるとか。

 もともとは、私が勤務していた中学校の図書館をリニューアルするのにお金が必要だったのですが、校内で教員が言っても誰も聞いてくれません。そのとき、図書ボランティアのお母さんの一人が「議員さんを使うしかない」と言い、その足で議員さんに話しに行ってくれたんです。すると議員さんが学校図書館の現状を見に来てくれることになり、昼休みに子どもたちがワイワイ集まっているところを見てもらったらもう、一発でした。「こんなに子どもたちが本を求めて来ているのだったら」ということで、力を貸してくれました。

 その後さらに「市内全域の学校図書館をよくしたい」と話したら、その議員さんが市立図書館の館長や、小中学校の図書館部会の部長、つまり校長を集めて、話し合いの場を設けてくれ、請願を出すことになりました。ただ、請願するにもみんな役職があるので難しい。私はそのときもう学校を辞めてフリーだったから、「じゃあ私がやります」ということで、請願を取りまとめました。

――そういったことも、やればできるのですね。校長など、周囲に止められたりはしなかったですか? 

 そんなこと、校長に言わないので。その頃はだんだん、出過ぎた杭は打たれない状態になっていました。

 だから自分が動かないと。ぶつぶつ言っていても何も始まらないので、やはり自分が動かなければならない。議員さんたちも現状を知らないから。でも現状を知って、自分が「これ」と納得したものは、動いてくれる。それはすごく助かりましたね。

――GIGAスクール構想が進められるいま、ICT教育に注目が集まり、学校図書館は忘れられがちなところもありますが。

 学校司書がしっかり研修を積んでいれば、ICT教育でも「どういうところにアクセスしたら正しい情報を入手できるのか」といったことを教えられます。検索サイトで調べるだけでは、誰が書いたものか分からない情報もあがってくるので、正確な情報を得るための知識が必要です。ICT支援員は、機器の使い方やトラブル対応が主なので、調べ学習のときなどはやはり、学校司書の出番です。

(クローズアップ取材班)

【プロフィール】

山本みづほ(やまもと・みづほ) 長崎県の公立中学校国語科教員として35年間勤務(うち1年間は小学校)。学生時代に司書教諭資格を取得し、学校図書館の運営に長く携わる。自費で国内・海外各地の学校図書館・公共図書館を見学。早期退職し、現在は長崎純心大学・長崎短期大学非常勤講師、日本図書館協会長崎県代議員など。著書は『蛾のおっさんと知る衝撃の学校図書館格差 ~公教育の実状をのぞいてみませんか?~』(郵研社)。

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