学力保障としての日本語指導 外国人散在地域の難しさ

 日本にやってきて、地域で暮らす外国人人口の増加とともに、学校などにおける外国につながる子どもたちの日本語指導への対応が課題となっている。それは、現在はまだ外国人が少ない「散在地域」でも同様だ。そんな散在地域の一つの青森県にある弘前大学の吉田美穂准教授らが昨年、県内の小中学校、特別支援学校に調査を行ったところ、日本語の読み書き能力への課題がみられる子どもは、文科省の調査で日本語指導が必要とされた子どもの倍に相当することが明らかとなった。どうしてこのようなギャップが生まれているのか。散在地域の日本語指導の課題を、吉田准教授に聞いた。吉田准教授は「学校での日本語指導は、学習言語としての日本語を身に付け、学力を保障するものでなければならない」と強調する。

外国につながる2割の子どもで書く能力や教科の学習に課題

 調査は昨年5月18~29日に、青森県内の全ての小中学校、特別支援学校小・中学部を対象にアンケートを送付。80.2%に相当する357校から回答が寄せられ、小学校では106校に305人、中学校では65校に186人、特別支援学校では6校に6人の外国につながる子どもがいることが分かった。この数字からも分かるように、県内の外国につながる子どもがいる学校でも、その多くは1~3人程度で、極めて少なく、青森県は典型的な散在地域の特徴を持っていた。

 これらの子どもたちの国籍は、外国籍が52人、日本国籍が239人、外国籍と日本国籍の二重国籍が42人で、日本国籍が最も多かったが、不明が142人、「空欄」が16人と、必ずしも学校が子どもの国籍を把握していない状況も浮かび上がってきた。また、生まれたときから日本にいるのは約半数の244人、途中で来日したのは109人、不明が128人、「空欄」が10人だった。

 吉田准教授らは、アンケートで捕捉できたこの497人の外国につながる子どもたちについて、それぞれの日本語能力や学習状況などを調査。その結果、生活に必要な日本語の会話は約8割の400人の子どもが「問題なくできる」と回答していたものの、▽ほぼ問題ないがときどき通じない言葉がある 59人▽簡単なやりとり程度ならできる 22人▽まったくできない 1人――など、17%程度の子どもたちが日常生活で求められる日本語能力に課題があることが分かった。

 さらに今度は、日本語の読み書きのうち、書くことがどの程度できるかを複数回答で尋ね、整理したところ、8割近い378人は学年相当のレベルで書くことができる一方で、「日記程度の簡単な文章を、ある程度まとまった長さで書くことができる」(48人)や「一、二文程度のやさしい短文を書くことができる」(23人)、「ひらがな、カタカナは何とか書けるが、まだ間違いがある」(32人)、「まったくできない」(6人)など、2割超の子どもたちは書き能力に何かしらの課題があった(=グラフ1)。

 また、同様に教科の学習状況を複数回答で尋ねて整理すると、これも8割近い382人が「学習内容を理解して、思考したり判断したりすることができる」ものの、「だいたい理解できているようだが、思考したり判断したりすることは難しい」(49人)、「分からない教科の用語を説明すれば、理解できることがある」(21人)、「視覚的な情報や体験を伴う内容は理解できる」(29人)、「まったくできない」(5人)など、2割超の子どもで教科の学習に支障が出ている状態だった(=グラフ2)。

学習言語としての日本語指導が必要

 文科省が隔年で実施している「日本語指導が必要な児童生徒の受入れ状況等に関する調査」の2018年度調査では、青森県内で日本語指導が必要な小中学生は51人。調査時期が異なるために単純比較はできないものの、今回の調査で把握できた日本語の読み書きや教科の学習に課題を抱えている子どもたちの数とは、約2倍のギャップがある。

 このギャップはどこから生じているのか。吉田准教授は「日常生活で日本語のやりとりができ、授業で静かに座っていると、教師は授業の内容も分かっていると思ってしまうなど、本当は日本語指導が必要な子どもが把握しきれていない可能性がある」と指摘。外国につながる子どもの日本語能力を客観的に把握できる「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」などのツールはあるものの、測定には時間がかかるため、文科省の調査をはじめ、外国につながる子どもの日本語能力の実態把握の場面では、学校現場が主観で判断してしまうケースが多いのではないかと推測する。

 その上で吉田准教授は「学校での日本語指導は、生活言語としての日本語の習得でとどまっていては駄目で、学習言語としての日本語を身に付け、子どもたちの学力を保障するものでなければならない。学習言語として習得するには5~10年はかかる」と強調する。

散在地域でニーズに応えることの難しさ

 こうした、学習言語としての日本語能力に課題がある外国につながる子どもたちを巡っては、その支援体制でも課題が浮き彫りになった。書く能力と教科の学習能力でそれぞれ日本語の課題があった子どもたちに対し、日本語指導のための支援員が配置されていたのは、書く能力で30人、教科の学習能力で27人に過ぎず、いずれも約7割の子どもたちには支援員が付いていなかった(=グラフ3)。支援員の配置の有無と子どもの日本語学習の課題を対応させてみると、学習言語としての日本語の支援ニーズがより高い子どもであっても、必ずしも支援員が配置されていない実態も明らかとなった。

 「県内であっても、市町村によって支援員に関する財政措置や運用の仕方はかなり違う。特に雪国で公共交通機関も少ない青森県の場合、支援員を見つけるのも、実際にニーズのある学校に派遣するのもなかなか難しい実態がある。オンラインの活用も模索しているが、やはり現地に行ってその子の様子を見たり、担任の教員とコミュニケーションしてみたりしないと分からないことも多い」と、吉田准教授は散在地域の市町村が日本語指導体制を整えることの難しさを語る。

 こうした散在地域の日本語指導を支援しようと、弘前大学では文科省からの委託事業として、教育学部に「多文化リソースルーム」を開設。専門のスタッフを配置したり、日本語指導の教材を収集したりして、県内のさまざまな学校からの相談に対応できるようにした。

 吉田准教授は「散在地域だからこそ、大学の資源が力になる。大学に日本語教育を専門とする教員がいても、教育学部に所属していないケースが多い。これからは教員養成をする上でも、教育学部に日本語指導の拠点を作っていくことが大事だ」と力を込める。

(藤井孝良)

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