授業と校務のICT活用、ベテラン教員の実践力に関連 国研報告

 国立教育政策研究所(国研)は2月15日、今年度の教育研究公開シンポジウムをオンラインで開催し、GIGAスクール構想が全国の学校現場に浸透する中、高度情報技術が学校教育にもたらすインパクトをテーマに、さまざまな研究報告を行った。席上、露口健司・愛媛大大学院教授は、学級によってICT活用にばらつきがみられる現状を踏まえ、横浜市の小中学校を対象にICT活用を促進するポイントを探った調査結果を報告。ICTを授業や校務で活用できている教員は「20代の若手よりも、30代40代で授業スタイルが確立しつつある10年目以降の教員」だと結論付け、教員のICT活用能力はベテラン教員が経験と共に培ってきた実践力に大きな関連があることを示唆した。また、「校務の効率化にICTを使う教員は、同僚との信頼関係が高い」などと、校務におけるICT活用は教員の個人技ではなく、学校内に浸透させる組織マネジメントが重要な要因となっていることを指摘した。

オンラインで報告する露口健司・愛媛大大学院教授

 露口教授は、昨年度のシンポジウムで、学校のICT環境整備に自治体や学校によるばらつきがあるとして、その背景を調べ、「自治体間分散は、財政力、教育長の授業観、情報教育担当指導主事の配置など。学校間分散は、校長のICTリテラシー、教育委員会の支援、ICT推進の教職員理解、ICT支援員配置などによって、それぞれ説明される」と報告している。

 今回の調査は、それらの続編にあたり、学級間でICT活用にばらつきが起きている背景について、横浜市内の公立小学校23校と公立中学校15校を対象に、教員の活用実態を通じて調べた。調査は昨年7月から10月に行われ、調査対象となった教員は20代31.2%、30代31.7%、40代25.7%、50代以上11.5%で、「若手教員のウエートが非常に高い」(露口教授)。学級規模も26~30人が22.1%、31~35人が45.1%、36人以上が30.6%を占め、「都市部ならではの大規模サイズの学級が大半となっている」(同)。

 調査では、教員のICT活用度について、授業場面、校務効率化場面、遠隔通信場面の3つの場面で調べた。授業場面と校務効率化場面では、「使用状況のばらつきが大きい。よく使う教員と、あまり使わない教員の層が見て取れる」。遠隔通信場面では「使用する機会が限定されるため、よく使っている教員はごく一部」だった。これに対して、キーパーソンやサポートしてくれる人材の存在、パソコンへの苦手意識などをみる親和性などICT活用促進要因や、イノベーティブな授業スタイル、個人の属性や学級環境などの統制変数を使って分析を試みた。

 その結果、授業場面でICTを使っている教員と使ってない教員のばらつきが生まれる背景として、見えてきたのは、まず年齢だった(=図参照)。授業でICTを積極的に活用している教員は30代と40代に多く、20代と50代では少なかった。ICTへの親和性が高く、イノベーティブな授業スタイルの教員はICT活用度が高かった

教員の年齢とICT活用度(露口健司・愛媛大大学院教授の報告資料から)

 校務効率化場面でも、同じく30代と40代がよく活用しているが、20代は50代よりも活用が少なかった。「大事なのは、同僚との信頼関係のところ」と露口教授は指摘。「校務効率化の場面で、ICTを使う教員は、同僚との信頼関係がある確率が高い。教員同士で知見やスキルを周囲とシェアできる環境が整っている、と推察される」。

 遠隔通信場面では、キーパーソンの存在が大きかった。また、カリキュラム・マネジメントの中に遠隔通信をきちんと位置付けて使われているケースがあり、「横浜市の特徴」とされた。

 結論として、露口教授は4点を指摘した。まず、授業場面と校務効率化場面で、ICTの親和性が高く、イノベーティブな授業を行う教員がICTをより活用していることから、ICT活用促進のためには「ICTに慣れ親しむこと。ICT活用との相乗効果を意図した授業スタイルを志向した研修の必要性が示唆される」と説明した。

 2点目は、校務効率化場面で、同僚との信頼関係の高さが関連していることから、「ICT活用に関する知識技能を個人技にとどめるのではなく、学校組織内に浸透させるマネジメントの必要性が示唆された」とした。

 3点目には、遠隔通信場面で、キーパーソンの存在とカリキュラム・マネジメントとの関連が認められたことから、「遠隔通信でのICT活用は、必要性がある場合に、キーパーソンの支援のもと、カリキュラムに位置付けて実施されている」と分析した。

 最後に、授業場面と校務効率化場面で、30代40代の教員のICT活用度が高いことから、「若手が積極的に使用するというよりも、授業スタイルが確立しつつある10年目以降の教員が、授業や校務においてICTを利活用していると解釈できた」と指摘。教員のICT活用能力は、ベテラン教員が経験と共に培ってきた授業や学級運営など校務の実践力に大きな関連があることを示唆した。

 続いて、横浜市教委の長島和広・教育課程推進室首席指導主事が、横浜市の小中学校におけるICT活用状況を説明した。それによると、コロナ禍による緊急事態宣言が出されていた昨年9月、横浜市内の公立小中学校で分散登校を行ったときには、通常の授業と自宅学習用のプリントなどで対応した学校が91.5%、ロイロノートなどICT機器を使って双方向の授業を行った学校が20.0%、授業をオンラインで配信した学校が27.0%だった。

 長島指導主事は「9月の取り組みをきっかけにして、9月以降には、ICTを普段使いに移行していった学校もある。ロイロノートなどを使って、自分たちの考えをまとめていったり、グループ討議で使ったり、本来目指していたICT活用に近づいていく学校が出てきている。そうとは言え、多くの学校はまだまだ慣れの段階。毎日端末を開けている学校から、なかなか開けられない学校があることも分かっている」と説明。ICT活用に課題のある教員に動画などを使った研修の充実や、授業での活用場面を考える研究会と連携、来年度からはICT活用のリーダー育成に向けた研修に取り組む考えを示した。

 総括コメントを行った堀田龍也・東北大大学院教授は、20代よりも30代40代のベテラン教員がICTを活用した授業改善に取り組んでいるとの調査結果について、「大変興味深い。若い教員はICTを使えても、授業の改善にICTを使うところまで、なかなかいかない。ということは、授業をするという行為が持つマネジメントとか、子どもとのコミュニケーションとか、そういう基本的なスキルがある程度身に付いている教員が授業を改善しようと思ったときに、ICTを生かすことができるのではないか」と述べ、教員がICTを活用して授業改善などに生かすためには、教員自身の実践力が必要との見方を示した。

 教育研究公開シンポジウムではこのほか、EdTechの活用について、海外のガイドブックを足掛かりに「単にツールやプログラムを導入するだけでなく、学術研究などに基づいた効果検証が必要」と指摘する報告や、教育データサイエンスが児童生徒の学習に与える付加価値などが取り上げられた。

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