教育実習を学校体験活動に転換 中教審、教職課程見直しへ

 教員の養成・採用・研修の在り方を議論している中教審は2月21日、合同会議を開催。文科省は教職課程を見直すたたき台を提示し、教職課程の学生が大学3年後期か4年前期に学校現場で行う現在の教育実習を取りやめ、学校体験活動の活用を通じて、学生が学校現場での教育実践を段階的に経験する方向性を打ち出した。「理論と実践の往還を重視した教職課程」への転換と位置付けている。背景には、現在の教育実習の履修時期が民間企業への就職活動の時期よりも遅く、教員の人材確保に悪影響を与えているとの問題意識もある。また、特別支援教育の充実に向け、介護などの体験を教職科目の履修と関連付け、積極的に活用する方向性も示された。

 たたき台では、現行の教職課程について、「令和の日本型学校教育」の構築に必要と位置付けられている「新たな教師の学びの姿」を実現していく上で、教員養成段階で「自ら仮説や見通しをもって学校現場での実践に挑み、その結果を振り返る学びを充実させることが必要」と、課題を整理。同時に、現在の教育実習は、教員養成大学・学部で大学3年後期に、一般大学・学部では大学4年前期に実施されていることから、「民間の採用活動と重なる等の課題もあり、教職課程の履修を断念する傾向が顕著に見られる例も出てきている」と指摘。民間企業の採用活動に対して、教員の採用プロセスが時間的に遅く、教職課程で学んだ学生が教員になることを避ける一因になっているとの見方を示した。

 こうした課題認識を踏まえ、たたき台では、教職課程見直しの基本的な考え方として、「理論と実践の往還を重視した教職課程へと転換し、教職課程において『新たな教師の学びの姿』を実現するための基礎的な資質・能力の育成を図る」と説明。

 具体的な取り組みとして、教育実習の実施時期と実施方法の見直しを挙げ、「教職課程の終盤に長期間まとめて教育実習を履修するこれまでの履修スタイルから、学校体験活動を効果的に活用して学校現場での教育実践を段階的に経験する学びへと転換を図る」と明示した。

 教育実習と学校体験活動の違いについては、▽教育実習=授業や学級経営に係る実習をはじめ、学校の教育活動について実際に教員としての職務の一部を経験するもの▽学校体験活動=授業・部活動の補助や児童生徒に対する学習補助を体験する活動など、学校における活動全般について支援や補助業務を中心に行うもの――と説明している。

 文科省はこれに併せて、教職課程を置く国公私立大学と指定教員養成機関に対し、今年1月に教育実践に関する科目「学校体験活動」と、大学が独自に設定する科目「学校ボランティア」の開設状況を聞いた調査結果を公表した。それによると、小学校教諭の教職課程を開設している250大学等のうち、「単位化された授業科目がある」との答えが46%、「単位化された授業科目はないが、教育課程外の取り組みがある」との答えが30%だった。教職課程の学生が学校体験活動や学校ボランティアとして学校現場を経験しているとした大学等は合わせて76%となり、教職課程の取り組みとしてある程度浸透していることをうかがわせた。

 中学校教諭の教職課程を開設している5300大学等では、「単位化された授業科目がある」との答えが25%、「単位化された授業科目はないが、教育課程外の取り組みがある」との答えが37%で、合わせて62%だった。

オンラインで行われた中教審の合同会議

 たたき台では、教職課程見直しに向けた、もう一つの取り組みとして、特別支援教育の充実に向け、介護体験を積極的に活用することを挙げた。▽介護体験を「特別の支援を必要とする児童等に対する理解」や「学校体験活動」など教職科目の学修と関連付けることで、学生が特別支援教育への理解を深める▽特別支援学校だけで介護体験を行うのではなく、障害のある児童生徒が学んでいる小中学校の特別支援学級での体験機会を充実させていく――ことを見直しの論点として示した。

 続いて、学校体験活動を教職課程に組み入れている実践事例として、立命館大学と北海道教育大学の関係者が取り組みの現状を報告した。

 森田真樹・立命館大大学院教職研究科教授は、一般大学として9学部で教職課程を設置しているが、教職課程を履修する学生は2015年の約3300人から現在は2000人程度に減っているとした上で、教職課程の中で学生の学校体験が多様化している様子を説明した。それによると、同学の教職課程における学校体験は▽教育実習(教職科目として単位授与)▽学校インターンシップ(教職科目として単位授与)▽学校ボランティア(単位授与なし、学生の自主的参加)▽介護等体験(教職科目として単位授与)――があり、このほかに教育委員会単位で実施される「教師塾」の実地研修などを受ける学生もいる。

 このうち、学校インターンシップには、コロナ禍に見舞われる前まで、平均で毎年70人の学生が参加。その成果について、森田教授は「多く学生にとって、教師としての自分自身の課題、今後の大学・教職課程での学びの在り方などについて考える機会となっている」「学校インターンシップ終了後も、同じ学校に学校ボランティアとして関わり続ける学生が多く、学生と学校をつなぐきっかけともなっている」と説明。また、研修先となる学校の確保や、受け入れ先の学校による差、忙しくて参加したくてもできない学生への対応などを課題として挙げた。

 浅利祐一・北海道教育大教授・釧路校キャンパス長は、北海道のへき地にある学校への現場体験実習について報告。教職課程に入った学生は新入生研修の段階から、へき地の学校で児童生徒と触れ合い、先生と呼ばれる体験をスタートさせ、遠足や体力測定など学校行事の補助や、教室外での教師のサポート、先輩教員の研究授業への参加など、学年が進むとともに実習をレベルアップさせ、5週間にわたって教壇に立つ実習体系を説明した。

 浅利教授は「ほとんどの学生は、実習で初めてへき地校を体験し、都市部の大規模校との違いに衝撃を受ける。複式授業を参観し、先輩教員のスキルの高さに畏敬と感嘆の声を上げる。そして、子供たちが『先生、またきてねー』と見送ってくれる。その姿を見て、学生は教員になりたいという気持ちを強く持つようになる」と指摘。

 懸念される受け入れ先の学校現場の負担については「実習先の学校には、1年生で行った学生が2年生でも同じ学校に行き、先輩として1年生にやり方を教える。この仕組みで、実習先の学校の負担はだいぶ軽くなっている」と説明。さらに「学校の教員たちは同じ学生がくるので、学生の成長に気付く。だから、もっと学生に教師の魅力を伝えようとしてくれる。実習先の学校と大学が一緒になって、教員志望の学生を育てているというのが実態だ」と話した。

 委員による意見交換で、戸ヶ﨑勤委員(埼玉県戸田市教育長)は「教育実習は、多くの学校ではあまり歓迎されていない現実がある。実習先の学校次第で、学生の教員志望の気持ちが左右されてしまうこともある。学校体験活動で教職課程の学生が学校現場に行く機会が増えることになると、そうした課題への対応が必要になる」と指摘。「特別支援学校での介護体験などでは、NPOの人たちから学ぶことも多い。こうしたNPOなどと連携した単位の取得が考えられるのではないか。その意味で、教職課程は教員の養成だけではなく、教育関連のベンチャーを養成するなど、社会のイノベーティブなものを学校に加える役割を担ってもいい」と述べた。

 橋本幸三委員(京都府教育長)は「教育実習から学校体験活動に転換するのは、総論として理解できるが、いろいろな問題もある。教員の人材確保に苦労している自治体の立場では、学校体験活動でかえって教員志願者が減らないか、と気になる。教員を強く希望する層には有効だが、そうではない学生には負担が大きくなって、教員を志望しにくくなる恐れはないか。受け入れ先の学校には負担感もあるので、学校側に対して学校体験活動を受け入れるメリットを示す必要がある」と述べた。

 松田悠介委員(Teach For Japan 創業者)は「いまの学校の働き方では、教育実習を経験して、逆に教員志望をやめてしまう学生が非常に多い。教育に関心を持っている学生でも、教育実習で学校現場の実態を知り、民間企業に就職して、そこから教育現場を変えた方がいいと考える。こうした学生の意見を聞くのがいいと思う」と実情を説明。さらに「NPOでの体験を教職課程の単位にすることは非常に大切。なぜなら、NPOや民間企業で教育実習を受けた学生は、ビジョン設定ができるからだ。教育実習で実践のテクニックを学ぶのも大切だが、ビジョン設定も重要だ。NPOで実習した経験があれば、教員になってから学校外との連携も役立つ」と指摘した。

 この日の会議は、中教審の「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会、初中教育分科会教員養成部会の合同会議として行われた。教員の養成・採用・研修について専門的な議論を深め、実現に向けた工程表作りを検討する。来年夏ごろに一定の結論が示される見通し。

教職課程見直しの検討の方向性
《基本的な考え方》

 理論と実践の往還を重視した教職課程へと転換し、教職課程において「新たな教師の学びの姿」を実現するための基礎的な資質・能力の育成を図る

〇教育実習の実施時期・実施方法の見直し

 教職課程の終盤に長期間まとめて教育実習を履修するこれまでの履修スタイルから、学校体験活動を効果的に活用して学校現場での教育実践を段階的に経験する学びへと転換を図る

※教育実習と学校体験活動

  • 教育実習:授業や学級経営に係る実習をはじめ、学校の教育活動について実際に教員としての職務の一部を経験するもの
  • 学校体験活動 : 授業・部活動の補助や児童生徒に対する学習補助を体験する活動等、学校における活動全般について支援や補助業務を中心に行うもの
〇特別支援教育の充実に資する介護等体験の見直し

 教職課程における貴重な現場体験の機会である「介護等体験」について、特別支援教育の充実に資する観点から積極的に活用を図る

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