新採教員全員が10年目までに特別支援教育を経験 文科省素案

 特別支援教育を必要とする児童生徒が増える中、特別支援教育を担う教員の養成を議論している文科省の検討会議は2月24日、第5回会合を開き、新規採用される教員全員が10年目までに、特別支援学校の教員や、特別支援学級、通級指導教室の担任を複数年経験するよう、人事上の措置を求めた会議報告の素案を公表した。教員が主幹教諭、指導教諭、管理職などに昇進するときや、教育委員会が校長など管理職の選考や教員を教委幹部に任用する際にも、特別支援教育の経験に配慮することを盛り込んでおり、教員としてのキャリアパスに特別支援教育をしっかりと位置付けることを明記している。

 素案ではまず、特別支援教育の現状をデータで示した。特別支援学級などでの教職経験のない校長は、小学校で70.6%、中学校で75.4%を占めており、「多くの学校で経験のない校長が特別支援教育を含めた学校経営を行っている」と指摘。先に文科省が行った「教師不足」調査から、小学校の学級担任における臨時的任用教員の割合は11.49%なのに、特別支援学級の担任は臨時的任用教員が23.69%で、特別支援教育に関わる教員が「長期的な視野に立って計画的に育成・配置されているとは言い難い」と問題意識を明示した。

報告素案について議論した検討会議の様子

 こうした現状を踏まえ、教員が特別支援教育の知見や経験を蓄積するためには「原則として全ての教師が比較的若い時期に特別支援教育を担当することが最も有効」と組織的対応の重要性を強調。

 具体的な対応として「教育委員会および校長は、全ての新規採用教員がおおむね10年目までの期間内において、特別支援学校の教師や、特別支援学級、通級指導教室の担任を複数年経験することとなるよう、人事上の措置を講ずるよう努めること」と打ち出した。同時に、特別支援教育の経験を「主幹教諭、指導教諭、管理職のキャリアパス」として組み込むよう教委と校長に求めている。

 特別支援学級、通級指導を担当する教員については、校長と教委が、各学校の特別支援教育の中核として活躍する教師と、全体的な学校経営の経験を積む教師の双方を計画的に育成する必要性を指摘。小学校などに学校全体を見渡しながら、関係機関との調整役を担う特別支援教育コーディネーターの充実を求め、そうしたコーディネーターの法的な位置付けを検討するよう国に促した。

 特別支援学校の教員については、引き続き特別支援学校教諭免許状の保有率が100%になることを目指すとともに、特別支援学校がセンター的な機能を発揮できるように、小中学校や外部専門家とも連携できるコーディネーターの充実を掲げた。

 素案では、特別支援教育を巡り、各関係者に求められる具体的方向性も明示している。校長などの学校管理職には、学校経営方針や学校経営計画で特別支援教育に関する目標を設定し、「学校評価の中核となる評価項目・指標として必ず盛り込むこと」を求めた。

 教委に対しては、教員育成指標における特別支援教育の位置付けを明確化し、教職大学院などと連携して教員育成指標に基づく研修の充実することを役割とした。また、校長などの管理職選考や、教員経験者を教委幹部として任用する際に、特別支援教育の経験を考慮することも明記している。

 教員養成を担う大学には、特別支援学校教諭免許状の5つの障害領域(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)を計画的に取得できる体制づくりを求めた。また、特別支援学校の運営を担ってきた実務家教員を大学教員として積極的に登用するよう促した。

 こうした素案の内容について、出席した委員からは「かなり思い切った表現が盛り込まれており、意気込みが感じられる。ただ、経験の浅い教員が特別支援の必要な子供を受け持つことにもなるので、そうした教員への研修の充実が重要になるだろう」(樋口一宗・松本大教授)などと評価する声が多かった。

 一方、新規採用される教員の全員が10年目までに、特別支援学校の教員や、特別支援学級、通級指導教室の担任を複数年経験するとの内容について、自治体の関係者からは「実際に教員の配置を担う教育委員会の立場としては、学校規模や学級数によっては教科との関連もあるので、本当に新規採用した教員全員に経験させることができるのか、と危惧する。担任と限定するのではなく、特別支援学級の授業担当などと広げることで、複数年の経験をさせることができるのではないか」(森由利子・滋賀県教育次長)と、実現性を危ぶむ声も出た。

 これまでの検討会議の議論を踏まえ、素案を取りまとめた文科省初等中等教育局の山田泰造・特別支援教育課長は「文科省としても、悩みながらまとめた内容。特別支援教育に携わる関係者の思いが強い中で、現実的にできる範囲を書き込んだ。(各教育委員会に対しては)高めの球を投げているとの認識もあるが、『おわりに』で示した『特別支援教育は特定の教員のみに負わせられる課題ではもはやなく、全ての学校関係者が教育の一つの大きな柱として正面から受け止めるべきものである』という考えに立っている」などと説明した。

特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議報告(素案)のポイント
               ※〇は「方針」、⇒は「具体的な方向性」を意味する

はじめに

〇特別支援教育を受ける児童生徒の増加や、通常の学級においても、障害のある児童生徒が増加していることを踏まえ、小中学校などの通常の学級においても「特別支援教育」を推進する必要があり、そこで指導にあたる教師にも、特別支援教育の理解や専門性が求められている。

〇本報告は、特別支援教育を担う教師の養成・採用・研修等に関して、今後、国、教育委員会、大学および学校において取り組むべき内容の方向性を示した。

〇本報告の具体的方向性について法的な強制力はないものの、今後、国において、必要な調査を実施して具体的方向性に対する実施状況をフォローアップするなどして実現を図ることを求めている。その実現は、現場の教育関係者のビジョンに基づく取り組み次第であり、各関係者は、その具体化に向けて尽力してほしい。

現状

(校長の特別支援教育に関わる教職経験)

〇特別支援学級などでの教職経験の無い校長は、小学校で70.6%、中学校で75.4%。多くの学校で特別支援学級などでの教職経験のない校長が特別支援教育を含めた学校経営を行っている。

(特別支援学級担任の雇用形態等)

〇小学校の学級担任全体における臨時的任用教員の割合は11.49%であるのに対し、特別支援学級の臨時的任用教員の割合は23.69%、中学校の学級担任全体における臨時的任用教員の割合は9.27%であるのに対し、特別支援学級の臨時的任用教員の割合は23.95%である。特別支援教育に関わる教師が、他の教師と比べて、長期的な視野に立って計画的に育成・配置されているとは言い難い現状にある。

教師の専門性の向上のための具体的方向性

1.全ての教師

(全ての教師に対し特別支援教育の知見や経験を蓄積するための組織的対応)

〇抜本的に特別支援教育の経験者を増やすためには、原則として全ての教師が比較的若い時期に特別支援教育を担当することが最も有効。

 ⇒校長は、教師間による交換授業などOJTにより、特別支援教育経験者を増やすこと。
 ⇒教育委員会および校長は、全ての新規採用教員がおおむね10年目までの期間内において、特別支援学校の教師や、特別支援学級、通級指導教室の担任を複数年経験することとなるよう、人事上の措置を講ずるよう努めること。
 ⇒教育委員会および校長は、主幹教諭、指導教諭および管理職のキャリアパスとして、特別支援教育に関する経験を組み込むよう配慮すること。

2.特別支援学級、通級による指導を担当する教師

(採用、配置の在り方)

 ⇒校長および教育委員会は、特別支援学級や通級による指導におけるキャリアを積み、特別支援教育の中核として活躍する教師と、通常の学級も経験しながら全体的な学校経営の経験を積む教師とを、計画的に育成する視点を持って人材育成を行うこと。そのための適切な研修を設けること。

(小学校等における特別支援教育コーディネーターの充実)

 ⇒校長は、特別支援教育コーディネーターには、特定の学級だけでなく、学校全体を見渡し、関係機関とも円滑に調整を行うことができる立場または資質能力を有する教師を充てること。
 ⇒国は、特別支援教育コーディネーターの法令上の位置付けを検討すること。

3.特別支援学校の教師

(特別支援学校の教師の免許保有率の向上)

○国、教育委員会および特別支援学校において、特別支援学校の教師の特別支援学校教諭免許状の保有率100%を目指して引き続き取り組みを進めるとともに、人事交流により幅広い人材育成が可能となるよう対応の方向性を明確化する。

(特別支援学校における特別支援教育コーディネーターの充実)
 ⇒特別支援学校の各設置者及び校長は、センター的機能を効果的に発揮することができるよう、小中学校などにおける状況を理解し、外部専門家とも連携しつつ、効果的な支援ができる者を配置する。

各関係者に求められる具体的方向性

1.管理職

(学校全体による支援体制の構築、対話や研修の奨励)

〇管理職は、特別支援教育を学校運営の柱の一つとして据え、自ら専門性を高めるとともに、特別支援教育をリードしていかなければならない。

 ⇒管理職(特に校長)は、学校全体の課題として特別支援教育が取り組まれるよう、学校教育目標や目指す教師像など学校経営方針や学校経営計画において特別支援教育に関する目標を適切に設定するとともに、各学校が行う学校評価の中核となる評価項目・指標としても必ず盛り込むこと。
 ⇒校長は、校内人事を行う際、各教師に適切な経験が得られ、納得感を持って特別支援教育に前向きに取り組まれるよう、各教師との積極的な対話を図ること。

2.教育委員会

(特別支援教育の教員育成指標への位置付けの明確化、教員育成指標に基づく研修の充実)

 ⇒任命権者は、教員育成指標に、連続した多様な学びの場を想定した特別支援教育に関する指標を設定し、研修において特別支援教育に関する内容を充実させること。
 ⇒任命権者は教職大学院などと連携し、研修を充実させること。
(特別支援教育に関する専門性が評価される仕組みの構築)
 ⇒任命権者は、管理職選考に当たって、特別支援教育の経験(特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、特別支援教育コーディネーターなど)を考慮することとし、人事計画の中で適時・適切に経験する機会を提供すること。
 ⇒任命権者は、教師経験者を教育委員会の幹部として任用する際、特別支援教育の経験が生かされるよう考慮すること。

3.大学

(大学の資源の有効活用による教職課程の充実)

 ⇒大学は、国内の地域ブロック単位で、大学の資源を相互に活用・共有し、特別支援学校教諭免許状の5つの障害領域を計画的に取得できるような取り組みが望ましいこと。
(教育委員会との連携による実践力の養成)
 ⇒特別支援学校教諭免許状などの教職課程において、特別支援学校の学校経営・運営の具現化に携わってきた実務家教員を大学教員として積極的に登用し、学校現場のニーズに即した具体的な指導の充実を推進すること。
 ⇒教職大学院における現職教員を対象とした課程において特別支援教育を位置づけ、全ての対象者が実践的な特別支援教育に関する知識を得られるようにすること。
(小学校等教諭免許状の教職課程における特別支援教育を担う教師の人材育成・確保)
 ⇒小学校等教諭免許状の教職課程における教育実習時に、特別支援学校や特別支援学級での実施も可能であることを踏まえ実習計画を検討すること。
 ⇒介護等体験の実習先として、特別支援学校のほか、特別支援学級等での実習を積極的に行うこと。

4.(独)国立特別支援教育総合研究所

(学習コンテンツ等の質保証を行う仕組みの構築)

 ⇒教員育成指標の内容と特総研が開発している学習コンテンツの関連付けを整理し、それに沿って質の高い学習コンテンツを継続的・計画的に作成・提供すること。
 ⇒学習コンテンツについて、を教師が自ら研修の目的に応じて活用しやすいよう整理し一元的な提供を行うこととともに、活用事例を含めた研修の手引きを作成すること。

おわりに

〇発達障害があるとみられる児童生徒は各学級に存在しうるとともに、8割以上の学校に設置されている特別支援学級や、障害のある児童生徒の交流及び共同学習のことを考慮に入れれば、特別支援教育は特定の教員のみに負わせられる課題ではもはやなく、全ての学校関係者が教育の一つの大きな柱として正面から受け止めるべきものである。

〇共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進には、全ての教師が、心おきなく主体的に研修に打ち込み、身につけた専門性を遺憾無く発揮し評価されるような姿の実現を目指すことが必須である。その際、教師の学びを支える教育委員会や管理職(特に校長)のリーダーシップとマネジメント能力が問われるということを十分念頭に置く必要がある。

〇文部科学省においては、本報告書に示す具体的方向性を踏まえ、その進捗状況の把握や、フォローアップを行っていく必要がある。必要な財源の確保が不可欠であることも強く認識してほしい。

〇学校においては、管理職がキーパーソンである。教職員組織自体が学びの成果を鍵として、よりその質を向上させていく取り組みが期待される。

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