学びの質向上と働き方改革の両立 横浜市のカリマネ改革

 小学校高学年で教科担任制が始まるなど、来年度の教育課程編成で、例年以上に検討に頭を悩ませた学校も多い。そうした中、横浜市教委は昨年末、各教科で定められた標準時数をベースに教育課程を編成し、予備時数は必要最低限とする考えを市立小中学校などに通知した。横浜市教委が「予備時数は必要最低限」という思い切った方針を打ち出した背景を取材した。

学びの質向上と持続可能な学校づくりを一体で

 「より良い学びに向けて、質を高めていくことと、持続可能な学校に向けて働き方改革をしていく。そのどちらもやるという意味だ」

 横浜市教委教育政策推進課の佐藤悠樹担当課長は、昨年12月24日付で横浜市教委が出した2つの通知「令和の時代における『質の高い学び』と『持続可能な学校』の実現に向けた考え方について」と「令和4年度に向けた教育課程の『評価』・『改善』について」の狙いをそう説明する。

横浜市教委が出した「令和の時代における『質の高い学び』と『持続可能な学校』の実現に向けた考え方について」(手前)と「令和4年度に向けた教育課程の『評価』・『改善』について」の各通知

 これらの通知では、学校管理職に対して質の高い学びと持続可能な学校を一体的に進めていくとして、▽メリハリをつけた質の高い学びの実現に努めること▽各教科等で定められた標準時数を基本として教育課程を編成し、教科等の予備時数は必要最低限とすること▽教職員の業務の中で裁量のある時間を生み出すことを意識したマネジメントを行うこと――を提示。

 メリハリをつけた質の高い学びとして、小学校では1コマ40分授業で午前中に5校時まで行い、高学年でも午後3時までには下校できるようにすることや、探究的な授業を午前中に、午後は短時間モジュールの組み合わせなどによる、ICTを活用した反復的な学習や専科による授業を行うことで、教職員の裁量ある時間を増やすなどの具体例を示した。

「放課後に余裕ができる」モデル校で示された成果

 こうした具体例を出すことができたのは、モデル校でのここ1年あまりの成果がエビデンスとして表れていることが大きい。

 今年度から横浜市教委が始めた「持続可能な学校のあり方を探る公募型モデル事業」では、それぞれの学校の状況に応じて、通知の具体例で示されたような大胆なカリキュラム・マネジメントを実施した。その結果、モデル校における全国学力・学習状況調査の国語と算数の平均点は、19年度と21年度でほとんど変化がなかった。さらに、一部のモデル校の国語では、個に応じたきめ細かな指導の時間が確保できたこともあってか、学力分布の範囲が小さくなったことも確認できた。

 そして、モデル校の教職員のアンケートからは、放課後に「勤務時間内に裁量のある時間が増えた」と感じている教職員が7割に上ることや、3人に2人が「授業改善の効果を感じている」と答えるなど、働き方や学びの質が良くなっていることを実感しているデータが見て取れる(=グラフ)。

「持続可能な学校のあり方を探る公募型モデル事業」のモデル校の教職員に行ったアンケート結果(横浜市教委の資料を基に作成)

 小学校でモデル校となった13校の中の一つ、戸塚区にある川上北小学校では、1コマ40分で「午前5時間制」をすでに長年実施していた東京都目黒区を参考に、時間割を大きく変えた。1コマあたりの時間を5分減らして40分とし、午前中に5時間目まで終わらせるという提案に、教職員から最初は戸惑いもあったという。

 「放課後の時間が長くなり、出張がある日でも1時間ほど職員室で仕事をする余裕が生まれるようになった。夏休み前くらいまでは、午前中が忙しいという教員の声もあったが、次第に前日の放課後に翌日の授業準備をするように働き方が変わってきた」と森山豊実校長。同小では合わせて、会議の精選をして毎週金曜日は何も会議を入れないようにするなど、働き方改革も同時並行で進めてきたという。

 森山校長は「まずはやってみるという校長のトップダウンの面はある。子どものためにとはいっても、どこで切り上げて効率化していくかを考えられるように、教員の意識を変えていかないといけない」と強調する。

「予備時数は必要最低限」の意図

 もう一つ、この通知で見逃せないのが、「教科等の予備時数は必要最低限」と打ち出していることだ。確かに、文科省ではこれまでの通知などで、大規模災害や感染症流行などによる学級閉鎖を想定して、標準授業時数を大幅に上回る教育課程を編成する必要はないとしていたが、実際には全国各地の多くの学校で、学習指導要領で示された標準授業時数を大幅に上回る授業が行われている実態がある。学力の保障や新学習指導要領で盛り込まれた新しい内容などを前にすると、いくら教員の負担が増えているとはいえ、学校としては授業時数の見直しはアンタッチャブルな手段と捉えられがちだ。

 横浜市教委教育政策推進課の河瀬靖英主任指導主事は「学校の教務担当ならば、予備時数はどうしても積まなければ駄目だと考えてしまう。だからこそ、そこは市教委としてもしっかり説明していった。モデル校でも、教員や保護者にかなり丁寧に説明し、理解を得ていたようだ」と話す。実際に、モデル校の半数以上の学校が教科等の予備時数を35単位時間以内とし、そのうち5校は17単位時間以内で年間計画を立てていたという。

 これらの成果が見られたモデル事業だが、課題もある。21年度に公募で手を挙げた学校のほとんどは小学校であり、中学校は1校だけだったという点だ。「教科担任制の中学校では、授業時間を5分短くするとなれば教科によっては死活問題になるし、放課後の時間が増えれば部活動に充てられて、かえって過熱してしまう懸念もある」と河瀬指導主事。

 佐藤課長は、来年度以降、中学校のモデル校も増やしていきたいとした上で、「横浜市の場合は『1コマ40分』や『予備時数は何時間まで』といった一律の基準を市教委で示しているわけではない。通知では、予備時数は最低限でよいということは明記したが、それ以外は学校現場で考えてもらっている。学校の状況に応じた取り組みをみんなで議論することで、学校の中で『学びの質』と『持続可能な学校』の一体的な実現に向けた意識が芽生えることが大事だ」と強調する。

(藤井孝良)

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