データ活用で学校教育と福祉を融合 箕面市教委の先進事例を報告

 教育委員会の機能強化などを検討する文科省の調査研究協力者会議の第2回会合がオンラインで開かれ、教育委員の公募や、教育と福祉の融合など、先進的な取り組みを実現している大阪府箕面市の藤迫稔教育長が現状と課題を報告した。藤迫教育長は、子供たちの学力や体力だけでなく、生活保護の受給状況など家庭に関する情報なども集約したデータベースを学校の教育活動に反映することにより、「貧困の連鎖など、学校でノーマークの子供への『支援漏れ』を見つけられるようになった」などと説明。出席した委員からは「教育委員会の機能強化を実現したモデルケース」と評価する声が相次いだ。

教育委員会の機能強化などを議論した文科省の調査研究協力者会議

 箕面市が取り組んでいる教育委員会の改革について、藤迫教育長は5つのポイントを説明した。第1が、機動力のある教育委員会。これまで大学教授らに委託していた教育委員を、保護者や子供に関わる地域団体での活動経験があることを条件に公募し、2013年4月に教委の新体制をスタート。教育長、教育委員、事務局幹部の意見交換を毎週行い、教育や保育の現場の視察を行った。

 「『先週、学校からこんな連絡がきたが、この対応はおかしくないか』といった保護者の声がすぐに直接、意見交換の議題になる。教委としては、大変だが、学校現場の課題に素早く対応できるようになった」(藤迫教育長)。この結果として、▽外国人の英語指導助手を幼稚園、小学校に配置した英語教育▽児童生徒に1人1台のタブレットを配置▽コロナ禍におけるオンライン授業▽一時預かり保育サービス--などを、国の政策を先取りして実施することができたという。

 第2として、教育委員会の事務局体制の強化を挙げた。まず、市長部局の児童福祉課と教育委員会に分かれていた子供関連の施策について、3度にわたる組織改編を通じて、教育委員会に一元化。こども家庭庁設置を巡る議論で論点となった、行政機関における「教育と福祉の融合」を、教委を強化するかたちで一足先に実現した。さらに、12年度から教委の行政職員を学校管理職に登用。市費負担で管理職や事務職員を学校に加配した。これにより、学校現場を経験した行政職員が教委に戻って実務を担うことになり、「教委と学校の双方で組織力が向上した」としている

 第3のポイントは、経験や勘に頼らないエビデンスに基づく教育施策の展開。箕面市では12年から小学1年生から中学3年生まで、毎年、子供たち一人一人の学力・体力・生活状況について調査を行い、定量的な変化を客観的に把握している。

 さらに、教委の事務局が市長部局の児童福祉課を抱合していることで、生活保護や児童扶養手当、就学援助などの需給状況など子供の家庭に関する情報を、学力・体力調査や生活状況調査、教員が把握した日常の行動や衣服などの状況、学校健診や乳幼児検診の結果、虐待に関する通報や対応などと、子供個人単位で名寄せして結び付けるデータベース「子ども成長見守りシステム」を構築した。

 藤迫教育長は「見守りが必要な子供、支援が必要な子供、支援を受けている子供の現況や経年変化が分かる。教員が子供の変化に気付けば、その背景を客観的なデータで確認できる。データ分析の専門家が、要注意の子供の存在を学校現場に連絡することで、学校で教員がノーマークだった子供に対しても、必要な見守りや支援を提供できるようになった」と成果を説明した。個人情報の取り扱いについては、条例改正で対応している。こうした子供への支援体制は、政府のデジタル庁が新設するこども家庭庁と連携して実施しようとしている内容を先取りしており、箕面市の先進性を印象付けた。

 第4は、教員の仕事を軽減するための支援。箕面市教委では、各学校に共通する定型的な事務を教委が集約する学校事務センターや、地域団体や保護者との連携で学校を支援する学校支援地域ネットワークなどを通じて、教員が本来業務に集中できる体制作りを進めている。例えば、アレルギーのある子供への給食業務が教員の負担になっていることを踏まえ、低アレルゲン献立給食も導入した。また、市内全ての小中学校に、授業を持たずに学校全体の企画・運営を担当するミドルリーダーとなる教員や事務職員を加配し、学校の業務の効率化を図っている。

 第5には、教育委員会と首長の意思疎通を挙げた。藤迫教育長は「教育長はしょっちゅう市長の顔をみている。会わない日の方が少ない。総合教育会議が重要というよりも、普段から市長とのコミュニケーションが大切。そういう中で、予算の問題も話し合っている」と説明した。

 この報告に対し、戸ヶ﨑勤・埼玉県戸田市教育長は「教育委員会の機能強化の方向性を示す先進事例の発表だった」と高く評価。教育委員を公募するメリットや、教委が市長部局の福祉部門を吸収して規模が大きくなることのデメリットなどに関する考えを聞いた。

 藤迫教育長は、教育委員の公募について、「学校現場は、教委は、あれやれ、これやれ、と次々に下ろしてくるので、嫌になっている。しかし、教育委員が保護者になると、実は、教委の言うことは、保護者からのボトムアップなんだ、と学校現場が分かったと思う。結果的に、保護者の声が学校現場によく伝わるようになった」と応じた。

 教委が福祉部門を抱合するデメリットについては「教委がやるべきことが、本当に幅広いものになる。私自身、例えば、予防接種についての知識が足りなかった、という弱点が出てきたこともあった。そういうところは、職員にしっかりしてもらうしかない」と説明した。

 藤迫教育長はまた、「児童福祉部門に長い経験のある職員は、子供たちのデータを見るだけで、会ったこともないのに、その子供が置かれている困窮状況などを言い当てることができる。その指摘を受けた学校現場で、教員がその子供に話を聞いてみると、実際に支援が必要な状態だったことが分かり、学校現場が驚くことになる」と事例を説明。「課題は、そうした児童福祉部門の職員が持つ能力が属人的なものになりがちなので、そういうノウハウを組織全体で共有できるようにならないといけない」と述べた。

 この日の会議では、青木栄一・東北大教育学部教授が、現行の教育委員会制度が15年度に導入される前と導入された後の比較を行った調査内容を説明。教育委員会が十分に機能するためには、首長の役割と教育長の存在が重要であることや、総合教育会議には活用余地があることなどを指摘した。

 また、梶原敏明・大分県玖珠町教育長が、人口減少地域における教育委員会の在り方について、隣接する自治体との連携強化によって必要な指導主事の人数を確保したり、地域住民が積極的に学校の活動を支援したりといった取り組みを説明。ICTを活用してデンマークと英語で交流学習を行っていることなどを報告した。
 
 この調査研究協力者会議の正式名称は、「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議。中教審が21年1月にまとめた答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」で、教育委員会の機能強化など地方教育行政の在り方が今後の検討事項として指摘されたことを踏まえ、今年1月から議論をスタートした。主な論点は①教育委員会の機能強化・活性化のための方策②教育委員会と首長部局との効果的な連携の在り方③小規模自治体への対応・広域行政の推進のための方策④学校運営の支援のために果たすべき役割――など。来年度末までに議論の取りまとめを目指す。

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