わいせつ教員の再任用、任命権者に損害賠償も 文科省が基本指針

 児童生徒にわいせつ行為を行った教員を再び教壇に立たせないことを目指す「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が4月1日に施行されるのに伴い、文科省は3月18日、児童生徒へのわいせつ行為による教員免許状失効者への再授与の条件をより厳格化した基本指針を策定し、都道府県の教育委員会などに通知した。児童生徒へのわいせつ行為を「再び行う蓋然(がいぜん)性が少しでも認められる場合は基本的に再授与を行わないことが適当」と明記。教員免許状の再授与によって教壇に立った教員が再び児童生徒にわいせつ行為を行った場合には「(教員免許状を再授与した)授与権者は損害賠償の責任を問われることもあり得る」と踏み込み、授与権者となる全国の教委などの訴訟リスクにも触れながら、厳しい対応を徹底するよう求めた。

 通知は、義本博司・文部科学事務次官名で3月18日付。同法の施行に当たり、「今もまさに学校現場において被害児童生徒らが自身の性被害を打ち明けられずに苦しんでいるかもしれないことに思いを巡らせれば、法に定められた施策の実施には、 全力の限りを尽くさなければならない。断固たる決意で取り組みを進める必要がある」と、強い調子で各教委に取り組みを促した。

 基本指針では、最初に教員による児童生徒へのわいせつ行為について「断じてあってはならず、言語道断である」とする一方で、「懲戒処分などを受ける教員らは後を絶たず、なかには、教師という権威と信頼を悪用し、被害児童生徒が自身の被害に気付かないよう性暴力に至ったケースなど、人として到底許されない事件も見受けられ、事態は極めて深刻な状況にある」と厳しい現状認識を表明。同法に従って、児童生徒へのわいせつ行為を「児童生徒性暴力等」として、根絶に向けた取り組みをまとめた。
 
 防止に関する施策では、▽教員に対し、外部専門家による研修や校内研修により、啓発を図る▽児童生徒に対し、何人からも性暴力によって自己の身体を侵害されることはあってはならないことを周知徹底する--の2点を強調。

 早期発見につなげる施策として、▽定期的なアンケート調査や相談窓口の周知▽性暴力の事実があると思われる場合には、学校の設置者が初期段階から積極的に対応し、専門家の協力を得て中立·公正に調査を実施する--ことを挙げた。

 教員による児童生徒へのわいせつ行為の事実があると思われた場合の対処については、▽悪(あ)しき仲間意識などから、懲戒処分を行わず、依願退職などにより、水面下で穏便に済ませてしまうなど必要な対応を行わないことはあってはならない▽事実があると思われたにも関わらず、放置したり隠蔽(いんぺい)したりする場合には、この法の義務違反や信用失墜行為として地方公務員法による懲戒処分の対象となり得る--といった内容を盛り込んだ。
 
 教員の任命や雇用に関する施策では、教員が児童生徒へのわいせつ行為によって懲戒免職となった場合、教員免許状が失効した理由として児童生徒へのわいせつ行為を明記することを求めた上で、▽全ての任命権者にデータベースの活用を義務付け▽データベースには当面、少なくとも40年間分の記録を蓄積する--ことを確認した。

 わいせつ教員対策の過程では、懲戒免職となった教員が、教員免許状の欠格期間が過ぎた後、再び教員として任用される事態をどのように回避するかが焦点となってきた。

 この点について、基本指針では「(児童生徒へのわいせつ行為で)懲戒免職となった教員が、教壇に戻ってくるという事態はあってはならない」との考え方を確認。教委など教員免許状の授与権者に対し、「再授与を行うためには、少なくとも児童生徒性暴力等を再び行わないことの高度の蓋然性が必要である。児童生徒性暴力等を再び行う蓋然性が少しでも認められる場合は基本的に再授与を行わないことが適当であり、授与権者はこのような考え方の下、自らの権限および責任において、十分に慎重に判断する必要がある」と指摘した。

 その上で、わいせつ行為で懲戒免職となった教員に、教員免許状の欠格期間が過ぎた後、授与権者が「故意または過失によって違法に免許状を再授与してしまい、当該者が教壇に立ち児童生徒性暴力等を再び行ってしまった場合は、授与権者は損害賠償の責任を問われることもあり得るので留意が必要である」と、授与権者の訴訟リスクにも言及した。

 懲戒免職となった教員に対する教員免許状の再授与については、 医療・心理・福祉・ 法律の専門家などで構成する都道府県教育職員免許状再授与審査会が、出席委員の全会一致で議決することも求めた。

 わいせつ教員対策を巡って文科省は、児童生徒へのわいせつ行為で懲戒免職処分を受けた教員が再び教壇に立つことがないように、懲戒免職で教員免許状が失効した場合、欠格期間を実質的に無期限とする教員免許法の改正に取り組んできたが、内閣法制局との調整の結果、刑法上の「刑の消滅」などとの均衡がとれないと判断。さらに小児性愛の診断を受けた人に教員免許状を授与しないとする法改正を検討したが、内閣法制局が「小児性愛は概念が十分に明確とは言えない」と指摘し、厚労省からも「現状では、疾病として診断基準等が確立されているとは言えない」との回答があったことから、2020年12月25日、「法制上乗り越えられない課題がある」(萩生田光一前文科相)として、国会への法案提出を見送った。

 これを受けて、昨年の通常国会で、自民、公明、立民、共産、維新の5会派は議員立法として「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」案を提出。教員による児童生徒へのわいせつ行為を「教員による児童生徒性暴力等」と定義し、わいせつ行為で懲戒免職となった教員が実質的に再任用されないようにする仕組み作りを目指した。法案は全会一致で成立し、今年4月1日に施行される。

「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」(3月18日文部科学大臣決定)の主なポイント

(1)児童生徒性暴力等の防止に関する施策

  • 全ての教育職員等が適切な対応がとれるよう、外部専門家による研修や校内研修等により教育職員等の啓発を図ること
  • 児童生徒等に対して、何人からも児童生徒性暴力等により自己の身体を侵害されることはあってはならないこと等について周知徹底を図ること

(2)児童生徒性暴力等の早期発見及び対処に関する施策

  • 定期的なアンケート調査や相談窓口の周知等により事案の早期発見に努めること
  • 児童生徒性暴力等の事実があると思われる場合には、学校の設置者が初期段階から積極的に対応し、 専門家の協力を得て中立·公正に調査を実施すること
  • 悪しき仲間意識等から必要な対応を行わないことはあってはならず、放置したり隠蔽したりする場合には、 この法の義務違反や信用失墜行為として懲戒処分の対象となり得ること

(3)教育職員等の任命又は雇用に関する施策

  • データベースの活用は教育職員等を任命又は雇用しようとする全ての任命権者等に義務付けられていること
  • データベースには当面、少なくとも40年間分の記録を蓄積していくこと

(4)特定免許状失効者等に対する免許状の再授与に関する施策

  • 児童生徒性暴力等を再び行う蓋然性が少しでも認められる場合は基本的に再授与を行わないことが適当であること
  • 都道府県教育職員免許状再授与審査会は、医療、心理、福祉、法律の専門家等で構成し、審査は原則、出席委員の全会一致をもって議決すること

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