中教審部会、次期教育振興基本計画の議論開始 「歴史の転換点」

 教育基本法に基づき、教育政策の基本方針を示す第4期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定に向けた議論が3月22日、中教審に設置された部会で始まった。末松信介文科相からの諮問で、超スマート社会(Society5.0)の到来やウェルビーイングの実現がキーワードとなったことを踏まえ、部会長に選任された渡邉光一郎第一生命ホールディングス取締役会長・日本経済団体連合会副会長は「歴史の転換点に立っているとの認識を前提として策定する必要がある」と述べた。加えて委員からは、計画策定において検証や実効性を求める声も相次いだ。

中教審教育振興基本計画部会の初回会合を進行する渡邉部会長(Webexで取材)

 2月に行われた諮問では、今の子供たちが社会で活躍する2040年以降の社会は先行き不透明で予測困難な時代であり、「望む未来を私たち自身で示し、作り上げていくことが求められる」と指摘。その上で具体的な諮問事項として、デジタルとリアルの最適な組み合わせの在り方や、幼児教育から高等教育まで一貫した、社会のニーズに応える教育・学習の在り方などが盛り込まれた。

 渡邉部会長は初回会合の冒頭、次期計画の策定に当たって特に留意すべき点として①未来志向を持ち、個人や社会全体のウェルビーイングが実現するような制度の在り方②一人一人の可能性が最大限に引き出されると同時に、誰一人取り残されない多様性と包摂性の視点③答申で示す方針や方向性について確実に実効性のあるものとする人的・物的資源や、財源の確保と再配分についての具体的な手段――を挙げ、「例えればVUCAの海を行く日本の教育という船の羅針盤となるもので、大変難易度が高い」との認識を示した。

 会合では、委員らが次期計画の策定に関してさまざまな意見を述べた。その中では現行の第3期計画の検証や、次期計画の策定にあたっての根拠や実効性を求める声が目立った。

 岩本悠臨時委員(地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)は「計画の作り方、目標や指標の設定の仕方、計画の構成、策定後のフォローアップについて、何が機能していて、何が十分でなかったかを検証・評価してから、中身の議論に入っていくことが望ましいのではないか」と指摘した。

 同時に「素晴らしい理念や良い言葉はたくさんあるが、いろいろな言葉が乱立することで、教育現場では解釈や浸透に終始してしまっている」との問題意識を示し、「最終的に(教育現場での)実行につながっていくところを見据え、現場を主体に考えた、現場を変えていくための計画であってほしい」と強調した。

 また、川口大司臨時委員(東京大学大学院公共政策学連携研究部教授)は、人的・物的資源や財源の確保の観点から、「厳しい財政事情や、すでに忙しい教員のことを考慮すると、これまで国内外の実績を通じて有効性が確認されている政策を、優先的に計画的に入れるべきではないか」と述べた。

 渡邉部会長が使った「歴史の転換点」という言葉に共感する委員からの声もあった。吉見俊哉臨時委員(東京大学大学院情報学環教授)は、年齢でカテゴリー化される教育システムは限界に達しているとして「脱・年齢主義」が必要だと主張。「初等中等教育でも高等教育でも、いろいろなことを単線的に並べ過ぎて、隙間のない人生を送るようになっている。年齢とは違う形で人々の人生が組み立てられていく中で、教育を定義し直すことがとても大事だ」と主張した。

 松浦良充臨時委員(慶應義塾常任理事)も「歴史の転換点にあるという認識はとても大切だ」としつつも、諮問事項にある「社会のニーズに応えるものとなる教育」という表現について、「社会のニーズというのは、ものすごくあいまいな概念。具体的に何を指しているのかという議論がないと、エビデンスに基づいた計画策定はできない」と指摘した。

 さらに渡邉部会長が挙げた「多様性と包摂性」という観点については、清原慶子副部会長(杏林大学客員教授、ルーテル学院大学客員教授、前東京都三鷹市長)が「具体的な政策の内容を考えるとともに、計画を推進する体制についても多様性を持たせることが必要」として、教育委員会と首長部局、都道府県教委と市区町村教委、教育機関とNPO・企業など民間団体――といった、垣根を越えた連携の重要性を指摘した。

 また永田恭介副部会長(筑波大学長)は「多様性や包摂性、公平公正という考え方には賛成だが、逆に飛び抜けた才能をどう扱うかについては、相変わらずあまりうまく議論されていない。芸術、スポーツや数学、文芸などは分かりやすいが、それだけではなく、誰にでも(優れた才能は)あるという前提に立ってもう一度、議論していただきたい」と話した。

 同部会の委員、臨時委員は次の通り(五十音順、敬称略)。

【委員】◎部会長、〇副部会長

▽○荒瀬克己(独立行政法人教職員支援機構理事長)▽今村久美(認定特定非営利活動法人カタリバ代表理事)▽内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター教授・副センター長)▽○清原慶子(杏林大学客員教授、ルーテル学院大学客員教授、前東京都三鷹市長)▽小林いずみ(ANAホールディングス株式会社取締役、三井物産株式会社取締役、株式会社みずほホールディングス取締役、オムロン株式会社取締役)▽清水敬介(公益社団法人日本PTA全国協議会会長)▽清水信一(学校法人武蔵野東学園常務理事)▽○永田恭介(筑波大学長)▽堀田龍也(東北大学大学院情報科学研究科教授、東京学芸大学大学院教育学研究科教授)▽村岡嗣政(山口県知事)▽村田治(関西学院大学長、学校法人関西学院副理事長)▽◎渡邉光一郎(第一生命ホールディングス株式会社取締役会長、一般社団法人日本経済団体連合会副会長)

【臨時委員】

▽安孫子尋美(株式会社ニトリホールディングス取締役、ニトリ大学学長、人材教育部ゼネラルマネージャー)▽岩本悠(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)▽大森昭生(学校法人共愛学園理事、共愛学園前橋国際大学学長、共愛学園前橋国際大学短期大学部学長)▽大日方邦子(一般社団法人日本パラリンピアンズ協会会長)▽川口大司(東京大学大学院公共政策学連携研究部教授)▽河野淳子(公益財団法人AFS日本協会理事・事務局長)▽黒木淳一郎(宮崎県教育委員会教育長)▽黒沢正明(八王子市立高尾山学園校長)▽杉村美紀(上智大学総合人間科学部教育学科教授)▽関福生(愛媛県新居浜市教育委員会生涯学習センター所長)▽徳永智子(筑波大学人間系教育学域助教)▽牧野篤(東京大学大学院教育学研究科教授)▽松浦良充(慶應義塾常任理事)▽三好雅章(広島県福山市教育委員会教育長)▽元紺谷尊広(北海道有朋高等学校長、北海道高等学校遠隔授業配信センター長)▽吉田信解(埼玉県本庄市長、全国市長会社会文教委員長)▽吉田都(新国立劇場舞踊芸術監督)▽吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)

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