「学校は戦時下で唯一残された日常」 ウクライナ現地校の校長に聞く

 ウクライナへロシア軍が侵攻して約1カ月。激化する戦闘で学校までもが爆撃されており、これまでに100人を超える子供たちが犠牲となるなど、想像を絶する悲劇的な状況が伝えられている。戦争の出口が見えない中、いま同国の子供たちや教員はどうしているのか。ウクライナ国内のインターナショナルスクール校長であるルーク・ウッドルフ氏は3月21日夜、オンラインでのインタビューに応じ、「戦火の下にいるウクライナ人の子供たちにとって、いま学校はオンラインといえども、最も気が休まる場所になっている。爆発音や銃声が響き、サイレンが鳴り続けているような戦時下で、学校は『たった一つ残された、普通の日常の存在』だ」と、子供たちや教員の様子を伝えた。同校にはウクライナ人もロシア人も在籍しているといい、日本の教員に向けて「和平の実現のために、子供たちに、ウクライナで現在起こっていることをしっかりと教えてほしい」と、メッセージを語った。

(教育新聞編集長 小木曽浩介)

約3割の教員と子供が今もウクライナ国内に
「ウクライナで起こっていることを、子供たちにしっかりと教えてほしい」と語るウッドルフ校長

 カナダ出身のウッドルフ氏は、「避難先のハンガリーにいる自分は実名でもいいが、学校は爆撃のターゲットとなる恐れがあるので、校名を伏せるなら」という条件で取材に応じた。同氏が校長を務める同校は私立のインターナショナルスクールで、侵攻前は幼稚園児から高校生まで、58カ国の子供たち約800人が通っていた。うち300人がウクライナ人で、日本人も10人ほどいたという。教職員は約240人で、こちらも多くがウクライナ人。他は米国、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパなどの出身者だった。ウクライナの子供と教職員は、3割ほどがいまも同国内に残っている。

 現在、ウクライナ国内は「国家非常事態宣言」が発令されており、教育行政を含め、全てリモートで行われている。ウッドルフ校長によると、侵攻前、政府の学校への説明は「侵攻はないだろうから、心配しなくて大丈夫」という温度感だった。しかし侵攻の数日前から状況が変化。「侵攻を心配した方がいいかもしれない」から「侵攻を心配する必要が出てきた」とだんだん説明が変わり、ついに2月24日、ロシアが侵攻して事態が急展開した。

 ウッドルフ校長は「私たちはインターナショナルスクールなので、1月ごろから『侵攻があるかもしれないので避難せよ』という指示が米国など他国の大使館からあり、私たちの学校の関係者や子供たちはすぐに避難・帰国するか、そうする準備を始めた」と説明する。

 学校は侵攻前の2月11日に閉鎖。当初は「おそらく2週間ほどの閉鎖になるだろう。2週間たった頃に学校は再開できるだろう」と考えていたが、2月24日に全てが変わったという。

 「現在、多くの子供らと学校関係者はポーランドなどの周辺国に避難したり、母国へ帰国したりしていて、校舎には誰もいない。学校の運営も授業も全てリモートで行っている。コロナ禍でオンライン授業を行っていたのが、不幸中の幸いだったと言えるかもしれない」と話す。

 また、2月24日から数週間は学校を地域の人たちに避難所として開放し、同校のスタッフらが対応して、カフェテリアでは食事を出したという。現在は周辺が危険な状態となっており、学校の建物に被害はないものの、避難所としても使われていない。

怒りと悲しみに誇り、子供たちの反応は複雑

 気になるのは、ウクライナに残っている子供たちや教職員だ。「幸い、誰もけがをしたり亡くなったりしていない。しかし爆撃で家を壊されてしまったスタッフなどもいて、とても厳しい状況だ」と、ウッドルフ校長は説明する。

 さらに子供たちの反応も複雑なようだ。「なぜ、こんなことが起きているのか?」「いつ、この戦争は終わるのか?」というように、怒りと悲しみ、自由な国を勝ち取るという誇りなど、さまざまな感情や思いが混じり合っているという。

 「子供たち同士、お互いに『大丈夫?』と無事を確認する会話が目立つ。ウクライナ人の子供たちにとって、学校はオンラインといえども、戦時下で最も気が休まる場所になっている。爆発や銃声が響いていたり、サイレンの音が鳴っていたり、そうした中で学校は『たった一つ残された、普通の日常の存在』だ」

 また、海外から来ていた子供たちについても同様だという。「トルコやオランダなど各国へ帰国した子供たちも、ウクライナの子供たちと同じように、怒りと悲しみの感情でいっぱいになっている。ウクライナは彼らにとってもホーム(家)なので、怒りと悲しみを抱えるのは当然のことだ」といい、母国に帰った児童生徒の中には、ウクライナの国をサポートするため募金活動などを行っている子供もいると話す。

この戦争をどう教えているか

 では、教師たちはこの戦争を、子供たちにどう教えているのか。

  「学校から教師たちに指示は一切していない。各教師にこの戦争についての授業は任せている」といい、教師らは小中学生らには「今、何が起こっているのか?」「この戦争についてどう感じるか、どう思うか?」といった会話を投げ掛け、高校生にはさらに「なぜ、この戦争は起こっているのか?」というような、深い部分を考えさせているという。

 「ただ、一方で、教える言葉は慎重に選ばねばならない。なぜならロシア人の子供たちも通っているからだ」と、ウッドルフ校長は続ける。「彼らはウクライナのひどい状態を見て、ロシアの侵攻で何が起きているのかを分かっているので、彼らの心を傷つけるようなことを教師は言えないし、教えられない。シンプルに片付けられない、複雑で難しい状況だ。私たち教師は、学校にいるロシア人の子供たちやその家族を、『君たちのせいでこの戦争が起こっている』と責めたくはない」と、教育者としての自負をにじませた。

  また、学校への砲撃や、子供の犠牲者が出ていることにも憤りを隠せない。「家や教育施設が破壊され、子供たちを含む人々がけがをしたり亡くなったりしているひどい様子を知るたびに、悲しい気持ちになる」と表情を曇らせる。子供らはもとより、教師の精神状態も心配なため、学校のカウンセラーが対応していたメンタルヘルスの管理を専門家に委ねることにし、個人カウンセリングなどを実施しているという。

 「教師の中にもウクライナで日々、爆弾の音や銃声、サイレンを聞きながら過ごしている人もいて、立場によってストレスの種類も大きさも違う。各自が専門家に相談できるようにして、メンタルヘルスの安定を目指している。さらに、常にメールやSNSのメッセンジャーを利用して小まめに連絡を取り合い、よいコミュニケーションを築けるように努めて、お互いが精神的安定を保てるようにもしている」と説明する。

「日本のように復興できると教えたい」

 最後に、学校が再開したら、子供たちにしてあげたいことや教えたいことは何かを質問した。すると、ウッドルフ校長は「いい質問だが…」と言葉を詰まらせ、しばらく沈黙した。そして「今は答えが思いつかないが…」と言いよどみながら、次のように語った。

インタビューはZOOMを使い、英語で行った。右上は編集長の小木曽浩介、左上は通訳の藤本庸子氏

 「先ほど話した通り、子供を含む私の学校の関係者たちは今のところ全員無事で、それは幸いだ。しかし、この戦争が終わって学校に帰った時、建物がきちんとした姿のままなのだろうかと常に心配している。もし破壊されていたら、再開させるために修理する必要がある。建て直しから始めないといけない。しかし、広島と長崎が復興できたのと同じように、ウクライナも復興できると信じている。子供たちにも『日本のように復興できる』ということを、私は教えていきたい」

 そうしたウクライナを支援し、1日も早く平和を取り戻すために、日本の教師にできることは何があるのだろうか。ウッドルフ校長は 「ニュースで伝えられているウクライナの状況は真実だということを、日本を含めた世界中の人たちに知ってほしい。現在のウクライナの問題は一国の問題ではなく、世界的な問題だ。日本の教師は子供たちに、ウクライナで現在起こっていることをしっかりと教えてほしい」と願いを語った。

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