厳しい環境でも高学力 休校中のつながりが「レジリエンス」に

 2020年春に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて行われた臨時休校期間の長さと、小学生の学力の関係について、文科省「全国的な学力調査に関する専門家会議」の耳塚寛明座長らの研究グループが詳しく分析した結果が3月28日、同会議の第5回会合で報告された。それによると臨時休校の長さにかかわらず、社会・経済的に厳しい家庭の児童が多い小学校ほど、学力調査での平均正答率が低い傾向が見られた。ただ、厳しい状況にあっても学力の高い、いわゆる「レジリエンス」(柔軟さ・回復力)を持つ小学校もあり、そこでは休校中から休校明けにかけて、児童と学校のつながりを絶やさないようにする取り組みがあったという。

 昨年8月に公表された21年度の全国学力・学習状況調査の結果によれば、臨時休校の長さと各教科の平均正答率をクロス分析したところ、相関が見られなかった。そのため「児童生徒の家庭状況による影響などについて、更に詳細な分析を行うことが必要」としており、それを受けて今回、小学校について、児童の家庭状況による影響を考慮した分析が行われた。

 児童の家庭状況を考慮するために、児童生徒質問紙調査で聴取した「家にある本の冊数」の回答の学校平均値を用いて、学校の社会経済的背景を推定。全体のうち、上位20%を「学校SES(Socio-Economic Status、社会経済的背景)高」、中位60%を「学校SES中」、下位20%を「学校SES低」として、学校SES、臨時休校期間の長さ、平均正答率の間の3重クロス集計を行った。

SES別・平均正答率と臨時休校期間との関係(小学校)

 都市規模や臨時休校期間前の学力状況などの諸要因を考慮しない場合、臨時休校期間の長さにかかわらず、学校SESが低い学校ほど、平均正答率が低い傾向が見られた。また、臨時休校期間が短い学校と比べ、長い学校では低SES校と高SES校の平均正答率のポイント差が大きい傾向があったが、調査結果は21年5月時点のもので、20年4月の臨時休校から1年以上経過しているため、分析結果には学校再開後のフォローなどの影響も含まれていることに留意が必要とした。

 研究グループは次いで、社会経済的に困難な状況にもかかわらず、臨時休校後の平均正答率が相対的に高い、いわゆる「レジリエンス」のある小学校に着目。レジリエンスとは、逆境に直面した人々が、直面する困難にうまく対処し、その乗り切りを可能にする条件を把握するために用いられる概念で、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)でも注目されている。調査グループは小学校3校に訪問調査を行い、学力の底上げや社会経済的背景が困難な児童への支援や、教育委員会からの支援、保護者や地域、外部機関との連携について尋ねた。

 これらの学校が臨時休校中に行っていた取り組みとしては、「質が高く、児童の実態に合わせたプリントを配布・回収し、週1回程度の登校日を設定して学習相談を行う」「学校において、休校期間中の時間割などを作成して児童に配布し、丁寧に進捗(しんちょく)確認する」「週1~2回程度の電話連絡などで、児童の学習・生活状況を把握し、家庭とのやりとりを絶やさない」――などが挙げられた。また校内では、校内の学力向上の中核となる力量のある教員が、学級担任と協力しながら、全学年の学習課題を統一的に把握・管理していた。

 臨時休校中には、教育委員会から学習課題や学習動画の作成、人的支援、消毒などに関する備品の整備が行われていた。さらに臨時休校後にも、個別に学習相談日・面談日を設定し、学習の進捗状況や内容を把握、相談や質問に丁寧に対応していたり、教科横断的な視点で教育課程の見直しを行い、学習内容の定着を図ったりといった取り組みが見られた。

 研究グループは「いずれの学校も、臨時休校期間中および終了後において、児童と学校のつながりをできるだけ絶やさないよう取り組んでおり、例えば、学校図書館を開放したり、保護者が不在の児童の『預かり』をしたりするなどして、学校の『福祉的機能』ともいうべき役割を果たしていた」と結論付け、再び臨時休校となった場合には、「困難があると考えられる学校を速やかに発見し、国や自治体および教育委員会などにおいて、支援していくことが求められる」と指摘した。

 今回の会合では他にも、初めて項目反応理論(IRT)を用いた精緻な分析を行った経年変化分析調査の結果や、その調査設計・分析手法などに関するテクニカルレポートが報告された。

 テクニカルレポートの編集責任を務めた柴山直委員(東北大学大学院教育学研究科教授)は「経年変化分析調査には公的な学力統計の役割が期待されており、適切かつ合理的な方法で、中立性・信頼性を担保する文書が必要」と作成の背景を説明した。会合では委員から「専門的なテクニカルレポートを読み取る側のリテラシーの向上にも、力を入れなければならない」といった指摘があった。

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