高校新科目の教科書がお目見え 文科省が検定結果を公表

 文科省は3月29日、教科用図書検定調査審議会の総会を開き、2023年度から高校生が使う教科書の検定結果を明らかにした。今年4月から新しい学習指導要領の下で学ぶ高校1年生が、2年生以降に履修する選択科目の教科書が中心となっており、新科目となる「論理国語」「文学国語」「古典探究」「世界史探究」「日本史探究」「地理探究」などの教科書が初めて公表された。課題解決力を重視した「主体的・対話的で深い学び」を目指す学習指導要領の狙いを踏まえ、多くの教科で「探究学習」の手法や手順を説明したり、討論やグループワークによる授業を取り入れたりする教科書が目立っている。

 今回の検定では、教科書会社から高校向け241点、中学校向け1点の申請があった。検定意見による記述の修正を経て、高校向けは239点が合格、2点が申請を取り下げた。中学校向けの1点は不合格となった。申請を取り下げたのは、高校・商業科の「原価計算」と「財務会計Ⅰ」で各1点。不合格は、中学校・社会科の歴史的分野の図書だった。

 オンラインで開かれた審議会の席上、伯井美徳初等中等教育局長は「239点の合格が決定したことにより、さまざまに創意工夫された教科書を子供たちの手元に届けることができる。個々の興味関心に基づいた多様な学習活動が展開され、新学習指導要領が目指す『主体的・対話的で深い学び』に向けた授業改善が進むものと期待している」とあいさつした。

 合格した教科書に付けられた検定意見の件数は6267件。申請図書1点当たり平均で37.0件の検定意見が付けられた。これは16年度の平均26.9件よりも多いが、12年度の平均39.9件を下回っている。申請図書1点当たりで平均した検定意見数を科目別でみると、もっとも多かったのは「生物」(284.4件)で、「化学」(162.0件)、「地学」(91.0件)と理科の科目が多く、「日本史探究」(54.1件)、「世界史探究」(34.7件)、「物理」(33.3件)と続いた。

 文科省では「今回の学習指導要領の改訂で科目が再編され、『主体的・対話的で深い学び』の充実が全教科を貫いている。知識の伝達や理解だけでなく、活用力や生徒自身による探究が重視されており、それを背景に検定意見が増えたことは考えられる。一方で、学習指導要領の改訂に応じて、一巡目となる検定では意見が増え、二巡目では減る傾向がある。二巡目だった16年度に比べ、検定意見が増えたのはそういう事情もあり、(指導要領改訂のサイクルを踏まえると)全体では落ち着いている」(初等中等教育局教科書課)と説明している。

各教科で探究学習に比重

 新学習指導要領では、自分で学び考える力を養う探究学習に比重が置かれており、各教科で「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」のように、探究が新たな科目名として登場したほか、多くの教科書に探究学習の手法や手順などを分かりやすく説明する内容が盛り込まれた。

 このうち「地理探究」の『新詳地理探究』(帝国書院)は、「持続可能な国土像の研究」とする章で「探究課題の設定にあたって」としたコラムを掲載。祖先から受け継いだ生活と環境を守り、将来に引き継いでいく責任があるとして、生徒にまず、日本の国土と社会について伸ばすべき点と、改善すべき点を考えて書き出させる。その上で、日本が抱える地理的な課題の解決の方向性や将来の国土と社会の在り方を考えるために、それまでの学習を基にした探究課題の具体例を提示しながら、生徒それぞれの力で探究課題の設定を行い、追究するよう促した。

 同社の担当者は「時代とともに変化する日本の国土像をどう考えていくかのアプローチ法を変えてみた。従来の知識偏重型から生徒に自分で考えられる力を身に付けてもらうことを意識した。教科書全体として探究学習の方向性を持っている」と話している。

 「数学B」の『新編数学B』(実教出版)では「数学と社会生活」の章で、身の回りのさまざまな問題に対し数学を利用して解決するため、その手順を「問題の数学化→数学による解析→結果の解釈」とまとめた。ある速度で走行する自動車が停止するために必要な距離や、売上額を最大にするために設定する商品の販売価格を関数計算で求めさせるなど、数学を利用して身近な課題を解決する例題を盛り込んだ。

 「論理国語」の『精選論理国語』(東京書籍)では、探究学習とは「知的刺激に満ちた冒険」などと定義したうえ、アプローチの方法を「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」と4つのステップで示し、それぞれを分かりやすく解説。実際にリポートや論文を書く際の図表の読み取り方や、引用の方法なども具体例を交えながら説明している。

「論理国語」 2社が文学作品を掲載

 国語科では、選択科目「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の教科書が初めて検定の対象になった。

 注目されたのは、「論理国語」での文学作品の取り扱い。昨年度の検定では、必修科目の「現代の国語」で、文科省が「小説が盛り込まれることは、本来、想定していなかった」(末松信介文科相)にもかかわらず、夏目漱石『夢十夜』など小説5作品を本教材として掲載した第一学習社の『高等学校 現代の国語』が合格。各教委による採用が広がり、同社の教科書が22年度の占有率16.9%となってシェアトップに躍り出るという、教科書業界の異変が起きた。

 今回検定対象となった「論理国語」は、学習指導要領の解説で「実社会において必要となる、論理的に書いたり批判的に読んだりする力の育成を重視した科目」と位置付けられている。こうした教科の狙いを受け、今回申請があった13点の教科書は、いずれも論理的な文章である評論を教材の中心に据えており、本教材として小説などの文学作品を取り上げた出版社はなかったが、数研出版と桐原書店が申請した2点で文学作品が参考や資料として掲載された。

 このうち、桐原書店の『探求 論理国語』には、江國香織『晴れた空の下で』、宮沢賢治『なめとこ山の熊』など4編の文学作品が参考として取り上げられた。熊打ちの名人、小十郎が熊の命を奪う葛藤を描いた『なめとこ山の熊』は、宮沢賢治の文学作品に言及した本教材の評論、赤坂憲雄『木を伐る人/植える人』の参考という位置付けで掲載されている。

 同社が申請した原文では、この『なめとこ山の熊』について、小十郎について「山にいるときと町に出たときの違いを説明してみよう」といった読解力を求める設問が含まれていたが、この部分について、検定で「主たる記述と適切に関連付けて扱われていない(評論の内容理解を深めるための適切な学習活動になっていない)」との意見が付いた。

 この指摘に対して、同社は「読み取ろう」の設問全体を削除する一方、『なめとこ山の熊』を読んだ上で、本教材の『木を伐る人/植える人』が指摘する「新しい人と自然とをつなぐモラル」を考える、といった設問を新たに加える修正で応じた。

 文科省は「論理国語」で文学作品を取り上げる際の考え方について、「教材に出ているからには、読み取る力は当然必要になる。しかし、単にその教材の読解で終わってしまうのでは、『論理国語』の学習にならない。修正を求めた趣旨は『論理国語』としての学習を深めることを明確にするところにあった」(初等中等教育局教科書課)としている。

 桐原書店国語編集部では、「論理国語」の教科書に文学作品を参考として取り上げた狙いについて、「『論理国語』の教材は、当然ながら、論理的な文章である評論が中心になる。そこに参考教材としてテーマが共通する小説を評論文の後に掲載し、小説教材を読み解いた上で、手前に入っている評論文に立ち戻ることで、評論の内容をより深く広げて理解できると考えた」と説明。

 同時に「国語科においては、言葉の働きについて理解を深めたり、いろいろな語彙(ごい)力を高めたりすることが大きな目標になる。論理的な評論で触れることができる語彙と、小説を通して触れることができる語彙には違ったものもある。評論と小説を組み合わせて学ぶことで、結果的に、より広い語彙力を養えるようになる」と話している。

理科「地学」は1社のみ

 今回検定合格のあった教科書の中では、理科の「地学」の申請が1社のみしかなく、実質的な選択肢がなくなった。選択科目の多い高校では、例えば芸術の「工芸」や専門科目などで、1社1冊のみしか教科書がないケースはこれまでもみられた。しかし、「地学」の場合は大学入学共通テストで出題される科目の一つでもあるため、受験生への影響なども懸念される。

 これまで「地学」は2社2冊の教科書が発行され、「地学」を開設している学校では、いずれかの教科書を選択できるようになっていたが、今回からは啓林館の発行する教科書のみとなる。

 この背景には、そもそも「地学」が理科の他の科目と比べて開設されている学校が少なく、履修する生徒も限られていることがある。15年度に文科省が行った「公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査」によれば、同年度に普通科に入学した生徒に対し、2年次に「地学」が開設されているのはわずか1.8%、3年次ではやや増えるものの、11.2%にすぎない。

 これに対し、理科の他の科目である「物理」は1年次が42.1%、3年次が79.3%、「化学」は2年次が55.7%、3年次が81.2%、「生物」は2年次が48.6%、3年次が85.0%なので、生徒が「地学」を履修したくてもできない状況が浮かび上がる。

 さらに、大学入試センターが公表した今年実施された共通テストの実施結果をみると、「理科②」における「地学」の受験者数は1350人で、他の「物理」(14万8585人)や「化学」(18万4028人)、「生物」(5万8676人)と比べて圧倒的に少ない。

 災害大国の日本で地震が起こるメカニズムや、世界的な課題になっている気候変動について体系的に学べるのが「地学」の魅力でもある。今回検定合格した啓林館の「地学」の教科書では、共通テストなどの傾向を踏まえ、図の読解力を養うコーナーや、日常生活に関連したコラムなどを新設。学習指導要領で重視されている探究の観点を踏まえた紙面も設けるなど、工夫を凝らしている。

 「地学」の履修者が少ない状況に対して啓林館の担当者は「『地学』の履修者数を取り巻く現状には複数の要因が存在し、単純なものではない。例えば、地学専門の教員数が少ないこと、受験科目として課している大学が少ないこと、理系の『地学基礎』履修率が文系に比べ低い傾向があること、それに加えて、他科目と比較して教科書・教材の数が少ないことなどが挙げられる。小、中、高の理科教科書・教材を発刊する出版社として、その役割を引き続き担っていきたい」と話す。

新型コロナ、感染症も多角的に記述

 今回は新型コロナウイルスのパンデミック下の検定ということもあり、教科を問わず、ウイルスやパンデミック、ワクチン、感染症に触れた記述も多く盛り込まれた。

 「地理総合」の『高校生の地理総合』(帝国書院)では、「地球的課題と国際協力」の章で、「感染症・衛生問題」とする1節を設け、2ページにわたって人間と感染症に関わる歴史を説明。グローバル化の流れの中で、近年感染症の拡大が進んでいる状況を紹介している。また感染症の背景でもある水とトイレによる衛生環境の改善に向けた国際的な取り組みも記述された。

 ユニークな取り上げ方もある。「古典探究」の『精選 古典探究 古文編』(三省堂)は、「近世の文学」の章で、コロナ禍によりオンラインで配信された演劇として「図夢(ずぅむ)歌舞伎」を取り上げた。朝日新聞の記事を利用したこのコラムで、創作に関わった歌舞伎役者の松本幸四郎と市川猿之助のインタビューなどを掲載している。

 「数学B」の『数学B Advanced』(東京書籍)は、自然や社会現象の問題を数学的に解決するための「数学と社会生活」の章で「感染症の拡大を防げ」として、感染者数の推移を漸化式などをもとに数学的に説明することを試みている。

 「生物」の『生物』(数研出版)では「遺伝情報の発現と発生」の中で、新型コロナワクチンとして話題となったmRNAワクチンをコラムとして取り上げ、その特性と働きなどについて解説した。

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 文科省では、教科書検定結果に関する情報をウェブサイトで公開している。

 検定を受けた教科書は、今年5月以降、全国の7会場で公開される。会場は▽教科書研究センター(東京都江東区) 5月24日~6月10日▽福島県自治会館(福島市) 6月16~28日▽神奈川県立総合教育センター(神奈川県藤沢市) 7月11~21日▽長野県立長野図書館(長野市) 7月7~16日▽奈良県立教育研究所(奈良県田原本町) 6月14~24日▽鳥取県立生涯学習センター(鳥取市) 6月21日~7月1日▽熊本県立図書館(熊本市)6月3~13日。

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