【共に学ぶ】10代で妊娠・出産 若き母の学びを支える

 新型コロナウイルスの拡大が始まり、一斉休校が行われた2020年。各地の妊娠相談窓口で10代からの相談が急増したことが報じられ、にわかに若年妊娠への注目が集まった。高校生が思いがけない妊娠・出産に直面した場合、現状ではさまざまな理由で「中退」の道を選ばざるを得ないことも多い。しかし学びの道が閉ざされてしまえば、将来の貧困や孤立にもつながりかねない。「共に学ぶ」シリーズ第6回では、妊娠・出産した生徒の学び、そしてその後の人生を支えるためにできることを考える。

高校1年生で妊娠、退学、出産

 「子どもがいるから、安定した職に就きたくて」。三重県の看護専門学校に通う山本結衣さん(仮名)は、現在22歳。この春から小学校に入学した子どもがいる。現在は看護の勉強に専念するため、子どもを実家の両親に預けて短期間、一人暮らしをしている。「子どもに会えないのは寂しいけれど、『今は、勉強だけ頑張りなさい』と両親が言ってくれている。すごくありがたいと思っている」。

 山本さんは全日制高校の1年生のとき、妊娠をきっかけに退学した。入学して間もなく自身の妊娠に気付いたが、ずっと運動部活動や勉強を頑張ってきたこともあり、1カ月半ほど、親や教員に相談できずに悩んだ。「言えない間は、すごくつらかった」と山本さんは振り返る。熱心に続けてきた部活動を、理由を言えないまま辞めた時も、やるせない思いだった。

 両親に切り出したのは、人工妊娠中絶ができない時期に差し掛かる頃だった。両親からは「産んでほしい」という言葉があった。自身もその選択に納得し、担任に退学の意思を告げた。休学することも考えたが、両親が「妊娠・出産のことを大勢に知られてしまうと、いろいろとやりづらいかもしれない」と心配した。担任も「休学しても、戻ってきた時に居づらいと思う」と、悩みながらも助言。退学後もずっと気に掛けてくれていたという。

 家族に支えられながら無事に出産した山本さんは、子どもが1歳を過ぎたころ、両親の勧めで三重県立北星高校の定時制に入学した。家族や幼稚園のサポートがあったとはいえ、子育てと勉強、アルバイトをこなす日々は楽ではなかった。ただ「定時制高校に通ってよかった。いろいろな先生が後押ししてくれて視野が広がり、看護師という進路を見つけられた」と語る。

 とりわけ印象に残っているのは、3年生の時に進路指導を担当していた教員だという。「『学校に子どもを連れてきてもいいよ』と言ってくれて、子どもを横に座らせて、一対一で面接の練習や小論文の指導をしてくれた。全日制の高校とは少し違う感じだけれど、一人一人の生徒にかけてくれる時間が長くて、先生たちとの距離が近かった。すごく居心地がよかった」と山本さんは笑顔で振り返る。

 こうして北星高校を卒業後に入学した看護専門学校を、山本さんは来春、卒業する。これまでの歩みを語る中で、山本さんは「自分は本当に恵まれていた」と何度も口にした。「家族はもちろん、全日制(高校)の友達や先生も、定時制(高校)の先生も、皆が助けてくれた。そのおかげで今、学校に通えている」。

生徒の子育てを見守る学校 

 「定時制高校では、生徒の妊娠や出産、子育ては決して特別なことではなく、他の生徒と同じ条件で単位を取得して卒業している」

定時制高校で、子育てしながら通う生徒を支援する大﨑教諭

そう話すのは、山本さんが卒業した三重県立北星高校の養護教諭、大﨑志保教諭だ。同校は定時制(午前・午後・夜間の3部)に加えて通信制も設置し、生徒の幅広い生活スタイルやニーズに沿って、学習を提供している。

 年代や環境がさまざまな生徒が通う同校では、在学中の生徒の妊娠や出産は特段珍しいことでもなく、1年間で数件あるという。定時制の特徴を生かして、生徒の体調に配慮した学習保障を行っている。例えば、妊娠中に特に配慮が必要なのが「保健体育」の授業。同校では見学を許可した上で、レポート提出など代案を提示し、単位認定している。

 在学中の妊娠以上に目立つのが、山本さんのように子育てをしながら通う生徒の存在だ。彼女らの多くが、全日制の高校在学中に妊娠が判明し、中退。出産後はもともと通っていた全日制の高校ではなく、定時制高校を選び新たに入学している。子育てと両立させるためには、カリキュラムが柔軟な定時制や通信制を選ばざるを得ないと、大﨑教諭は指摘する。「子どもを保育所に預けつつ、アルバイトで生活費を稼ぎながら学業に打ち込んでいる生徒もいる。そのため夜間だけでなく、当校のように午前、午後と学べる環境がある学校が求められているように感じる」。

 同校では担任制ではなく「チューター制」をとっており、学校生活や日常生活についてのアドバイスはチューターが行う。ときには、生徒の卒業後の進路について、本人より前に下調べして情報提供したり、現地に見学に行ったりすることもあるという。さらに外部と連携しながら、一人一人の要望に合わせた就職先や進学先につながるよう働き掛ける。例えば同校では、進路相談に応じるキャリアアドバイザーと、さまざまな困難を抱える生徒のために福祉相談に応じるスクールソーシャルワーカーが、週に1回程度来校する。

 体育祭や遠足、文化祭などの学校行事は家族も参加できるので、生徒が連れてきた幼い子どもたちの元気な姿が見られるという。「本来であれば、妊娠や出産は幸せなこと。妊娠中や子育て中の生徒に対して、『おなか触らせて』『息子さん、大きくなったね』など、教員や他の生徒も温かく声を掛けている。養護教諭の立場からは、まさに『生きた性教育』だと感じる」。

カリキュラムが妊娠を想定せず

 一方で大﨑教諭が以前勤めていた全日制高校では、そうはいかなかった。年間1~2件ほどあった生徒の妊娠だが、そのほとんどが退学を選んでいた。学業の継続を選ぶ生徒もいたが他の生徒への影響を鑑み、一部の教員だけで対応する「秘密案件」として取り扱っていたという。生徒は周りの目が気になったり、学業との両立が難しかったりと、自主的に退学せざるを得ない現状があった。

 当時のことを振り返り大﨑教諭は「決して学校側が、退学を勧めているわけではない。しかし、全日制のカリキュラムは妊娠や子育てをしながら就学することを想定しておらず、現実問題として中退しなければならない生徒を何人も見てきた」と肩を落とす。

 妊娠した生徒への対応を巡っては2018年3月、文科省が公立高校を対象に、「妊娠を理由とした退学」の実態調査をしている。15年4月~17年3月の2年間に、妊娠の事実を学校が把握した生徒数は、全日制・定時制で合わせて2098人。懲戒退学の事例はなかったが、学校が退学を勧めた結果、「自主退学」した事例が全日制で21件、定時制で11件あった。理由として多かったのは、「母体の状況や育児を行う上での家庭の状況から、学業を継続することが難しいと判断したため」だった。

2015年4月1日からの2年間で、妊娠の事実を学校が把握した公立高校の生徒の在籍状況

 文科省はこの結果を踏まえ、「生徒に学業継続の意思がある場合は、教育的な指導を行いつつ、安易に退学処分や事実上の退学勧告等の対処は行わないという対応も十分考えられる」「妊娠した生徒が退学を申し出た場合には、当該生徒や保護者の意思を十分確認することが大切であるとともに、退学以外に休学、全日制から定時制・通信制への転籍及び転学等学業を継続するためのさまざまな方策がありうることについて、必要な情報提供を行う」などとする通知を出している。

 しかし、実際に生徒の妊娠に直面してみると、とりわけ全日制の枠組みの中では十分に配慮しきれないのが現状のようだ。「例えばオンラインを活用して授業を受けられたり、実技を伴う教育活動は課題レポートで単位を認めたりなどの配慮が一般的にならなければ、出産や育児と学業の両立は難しい。さらには学校だけでなく、家族のサポートも必須条件だが、保護者からの理解が得られないケースも少なくなかった」と指摘する。

 大﨑教諭は「妊娠・出産をきっかけに高校を中退した生徒が、再び学びたいと思ったときに、年齢に関係なく自分のペースで学べる環境があることを知ってほしい。現場の先生たちには、もし自分の教え子がそんな環境になったときは、定時制や通信制の利用も考えるように情報提供してほしい」と語る。

 大﨑教諭が出会った生徒の中には、保護者からの理解を得られず、納得しきれないまま中絶を選んだ生徒もいた。そんな経験から、「不安な気持ちに寄り添いながら、生徒本人が意志決定できるようサポートする役割が必要」と、教員を含む周囲の大人にアドバイスを送る。「生徒は産むか産まないか、退学するか継続するかの決断まで、心が揺れ動く。特に高校生は、自分で人生を切り開き始めるタイミング。今後どんな人生を生きたいかを考え、自分で選択することが肝心。そしてその経験が将来の彼女たちの学力保障や就職に、より良くつながっていくことを願っている」。

深刻な葛藤を抱えるケースも

 関東を中心に妊娠に関する葛藤や困難についての相談を受け付けているNPO法人ピッコラーレでは、10代からの妊娠・避妊に関する相談や、思いがけない妊娠の相談が、20年は前年よりも2割ほど増加した。10代からの相談は約8割が「妊娠したかもしれない」という妊娠確定前の相談だが、確定後の人工妊娠中絶や出産に関する相談もある。

 21年になると全体の相談件数は減少に転じたが、相談内容は妊娠確定後の、より深刻な相談が増加しているという。妊娠に気が付くのが遅れ、臨月になって初めて支援機関につながるケース、さまざまな事情から自分では病院に行くことができず、中絶できる時期を過ぎてしまっているケース、家庭で虐待を受けており妊娠を継続したくても困難なケース、妊娠中から妊娠が終わった後、何カ月にもわたり、何十回もの相談を必要とするケースなど、周囲の大人からの支援が得られないケースに対して、同団体の相談支援員が慎重な対応を重ねている。

 学校に通っている生徒の妊娠が確定した場合、人工妊娠中絶をする、出産して自身が育てる、出産して特別養子縁組をするなどの選択肢があるが、その判断は容易ではない。特に難しいのは、本人が「産みたい」と思っていたり、人工妊娠中絶ができる時期を過ぎていたりする場合だ。「出産して自身が育てる」という選択がうまくいくためには、家族など周りの大人が協力し、生まれた子どもと若い母親を支えていける環境があるかどうかも大きい。

 同団体が2015年から19年までの相談記録を分析した『妊娠葛藤白書』によれば、10代が「産みたい」と思っても、「お金がない」「学業との両立困難」「親に言えない(怒られる、許されない)」「複雑な親子関係(虐待など)」「相手や家族が非協力的」といった困難に直面している。同団体の理事で相談支援員の土屋麻由美さんは「妊娠を隠したまま学校に通い続け、前駆陣痛が来るような時期になって、どうしようもなくなって相談してくる子も、例年わずかだがいる」と明かす。

ピッコラーレの土屋さんは「生徒が望む形で学びを続けられるよう、協力体制を作ることが必要」と話す

 一人で葛藤を抱え込んだ生徒たちに対して、学校がほとんど力になれないことも、残念ながらあるようだ。「学校側は生徒の妊娠が分かると『何か起きた時に責任は取れない』『周りの生徒に影響があるのでは』と、最初から休学や転校、退学を視野に入れた対応になりがちだ。ただ子どもたちにとって、学校や友達という居場所を失うことは、その後の孤立を意味する。妊娠がばれないよう、誰にも言えず悩んでしまうことが多い」と土屋さんは指摘する。

 ある高校生は、出産直前まで妊娠を隠して学校に通い、「保健体育」の授業にも休まずに参加していた。教員は誰一人として気付かなかったという。こうしたケースでは、たとえ保護者が妊娠を疑ったとしても、本人が否定したらそれ以降は気に掛けないことが多いといい、「もう少し様子を気にして話を聞いてあげていれば、違う対応ができたのではないか」と土屋さんは話す。

 「教員一人の力だけでは難しいかもしれないが、養護教諭やスクールカウンセラー、管理職などとともに、生徒本人の気持ちを聞き、選択肢を示し、その子が望む形で学びを続けられるよう、協力体制を作ることが必要ではないか」と土屋さん。

 「思いがけない妊娠は大変なことだが、そこからどうやって生きていくかを一緒に考えてくれる大人と出会えた経験は、その生徒の将来にとって、とても大きな力になる。自分の周りにも信頼できる人がいるのだということを知り、将来のキャリアを描きながら生きていけるよう、周りの大人たちも支援を通じて、成長していくことが求められているのではないか」

(秦さわみ、板井海奈)

本企画「共に学ぶ」では毎回さまざまな角度から、学びから取り残されてしまっているかもしれない当事者の視点に立って見える学校の風景を描写するとともに、考える材料を提供していきます。

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