教員免許更新制廃止法案、衆院を通過 審議のポイントを読む

 教員免許更新制を廃止し、教員研修の記録作成を新たに義務付ける法改正案について、国会は4月12日、衆議院本会議で採決を行い、自民、公明、立憲民主、国民民主、日本維新の会など与野党の賛成多数で可決、参議院に送付した。衆議院での審議では、与党側が「今回の改正は教員の資質向上につながるのか」といった教員の質保証を論点に挙げた一方、野党側は「新しい研修制度は本当に必要なのか。教員の新たな負担にならないのか」などの懸念点を指摘。文科省は法改正を踏まえて教員研修の指針を改訂し、新たに特別支援教育やICTデータ利活用を教師が持つべき資質・能力の柱に加えるとともに、具体的な研修の姿を示すガイドラインを新たに作成する考えを表明した。これに対して、衆院文科委員会は、新制度が教員の負担増にならないよう留意することなど7項目の附帯決議を与野党4会派の共同提案で採択し、法施行に当たって政府に注文を付けた。審議のポイントと今後の道筋を読み解いてみたい。(教育新聞編集委員 佐野領)

参考人質疑:研修記録の義務付けを巡り、見解分かれる
衆議院本会議で文科委員会の審議状況を報告する義家弘介委員長

 政府が提案したのは、教員免許更新制を今年7月に廃止する教育職員免許法の改正案と、来年4月から教員一人一人の研修記録の作成を各教育委員会などの任命権者に義務付ける教育公務員特例法(教特法)の改正案。3月24日に衆議院本会議で法案の趣旨説明を行った末松信介文科相は、社会が急速に変化する中、「教師自身も高度な専門職として、新たな知識技能の習得に継続的に取り組んでいく必要が高まっている」と指摘し、教員の学びに変化を求めた。

 4月1日に衆院文科委員会で行われた参考人質疑では、加治佐哲也・兵庫教育大学長、瀧本司・日本教職員組合中央執行委員長、佐久間亜紀・慶應義塾大教職課程センター教授が登壇。

 中教審で関連審議にあたった加治佐氏は、教員免許更新制について「教員の学びの機会が広がった」「大学が教員の資質能力の向上に対する関与を拡大し、良質な学習コンテンツの形成に役立った」などと一定の評価をする一方、文科省の調査結果などを踏まえて「正直に申し上げて、ここまで評判が悪いと思っていなかった」「教員の勤務環境が変わり、臨時的任用教員を高齢な人に頼らざるを得ない状況で、教員免許更新制が人手不足を招いた」と廃止を支持。同時に、新しい教員研修については「国民に対して、日本の教員は一定の質があることを証明しなければいけない」と述べ、教員研修の記録作成が必要との考えを述べた。

 佐久間氏は、教員免許更新制の規定を削除する教育職員免許法の改正と、教員研修の記録作成を義務付ける教特法の改正を組み合わせた政府提案の枠組みについて、「教員免許更新制は、ただ削除し、すっきりと廃止にするべきだ。発展的解消として、別の何かを付け加える必要はない」「今回は、教育職員免許法の改正だけにすることが学校や教員を励ますことになる。教特法の改正は必要ない」と強調。それでもなお、教員研修の記録を義務付ける場合には、教員が勤務時間内に研修でき、新たな負担増にならないようにすることを附帯決議に明記することなどを求めた。

 こうした佐久間氏の見解には、SNS上などで現場教員や学識経験者にも支持する声が広がり、立憲民主党や共産党の議員が佐久間氏の発言を引用しながら法案の修正を求めるなど、その後の審議に影響を与えた。

与党の質疑:「法改正は教員の資質向上につながるのか」

 衆院文科委での審議では、与党側は「教員免許更新制がなくなった場合、教員の質はどのように担保されるのか」という観点に注目した。第1次安倍政権下で導入された教員免許更新制だけに、改正法案の閣議決定に先立つ自民党内の議論では、文科部会が了承した改正法案の内容に対し、上部組織の自民党政務調査会の審議会で問題点を指摘する意見が出たため一時了承が先送りされるなど、党内の一部にくすぶり続けてきた不満が噴き出す場面もあった。

 4月6日に質疑を行った松本剛明議員(自民)は「教育政策の第一義は子供たちのためにある。子供たちのために、教師の資質向上を図ることが、一貫した政策の目的。教師の資質向上に向けて、今回の改正で前進になると理解したい」と述べ、免許更新制の廃止と新たな研修制度の導入を打ち出した政府の法改正案を支持する考えを表明。その上で、「研修受講履歴は人事評価に活用されるものではないと位置付けられているが、研修の受講の成果として向上した教員の資質は評価の対象であるという理解でよいか」とただした。

 これに対して、文科省の藤原章夫・総合教育政策局長は「研修等に関する記録自体や研修量の多寡そのものが人事評価に直接反映されるものではないが、研修を行った結果として各教員が発揮した能力や上げた業績については、人事評価の対象となるのは当然のこと」と答弁した。

 山崎正恭議員(公明)は同じく4月6日の質疑で、「期待される水準の研修を受けていると認められない」教員に、職務命令として研修を受講させるケースが想定されていることについて、「大変悩む校長が増えると思う。懸念されるのは、対話の中で適切な研修を受けるように何度も言っても、受けてくれない教員への指導。具体的にどのような対応を考えているのか」と質問した。

 藤原局長は「校長等管理職が研修の受講についての指導助言を繰り返し行ったにも関わらず、期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合など、やむを得ない場合には、職務命令として研修を受講させる必要もあると考えている。具体的にどのような場合に『期待される水準の研修を受けているとは到底認められない』と判断すべきかについては、教育委員会が適切に対応できるよう、文科省でガイドラインを策定する」と説明。

 ガイドラインに盛り込む事例として、▽合理的な理由なく、法定研修や教育委員会が定めた教員研修計画に基づき、全教員を対象にした研修等に参加しない場合▽特段の支障がないにもかかわらず、必要な校内研修に参加しない場合▽ICT活用指導力など特定分野の質の向上に強い必要性が認められるにもかかわらず、管理職等が受講を促してもなお相当の期間にわたり、合理的理由なく研修を受講しない場合--などを挙げた。

野党の質疑:「教員の負担増への懸念はないか」

 野党側の質疑では、「新たな研修制度は、教員の新たな負担にならないか」といった教員の負担増への懸念や、参考人質疑での佐久間氏の指摘を踏まえて「教員免許更新制を廃止するだけではなく、なぜ新たな研修制度が必要なのか」といった観点からのやりとりが目立った。

 笠浩史議員(立憲民主)は4月6日の質疑で、「教員履歴の管理を全国で義務付けることで、教員はもちろん、校長や教頭の負担も増えるのではないかという懸念が出ている。改正法の施行に当たっては、教員の負担を少しでもなくしていく方向で取り組むと約束してほしい」と、大臣答弁を求めた。

 これに対し、末松文科相は「これからの教師の学びの姿として、教師一人一人の個性、あるいは身に付けている能力の状況が異なることに加え、組織の中でも果たすべき役割が異なることから、学ぶ内容や量もそれぞれに応じたものになると想定している。このため一人一人の研修量が増えるかどうかは一概には言えないが、オンラインの研修のコンテンツの活用などを含めて、より合理的で効果的にしつつ、資質向上を図れるように、文科省としても指針やガイドラインを策定し、研修環境の整備に取り組んでいきたい」と応じた。さらに「教師の負担を軽減するとともに、必要な研修を適切なときに受けることを可能にするため、働き方改革を進めていきたい」と説明。新たな研修制度は、働き方改革の取り組みと並行させながら、学校現場への定着を図る考えを示した。

 西岡秀子議員(国民民主)は同じく4月6日の質疑で、教員一人一人の研修記録の作成を各教委に義務付ける教特法の改正案について、「なぜ研修記録の作成を義務化されなければならないのか。現場の懸念の声に一つ一つ明確に方針を示していく必要があるのではないか」と、研修記録の作成を義務付ける目的や理由を丁寧に説明するように求めた。

 末松文科相は「本法案では、校長等の管理職と教師が過去の研修等の記録を活用しつつ対話を行い、今後能力を伸長させる必要がある分野の研修について、教師から校長等に相談することや、校長等から情報提供や指導助言を行うことを想定している。この仕組みにおいては、研修等の記録は、一人一人の教師が、自身の学びを振り返りつつ、現状の把握と適切な目標設定を行うために必要不可欠なもの、学びの足跡であり、主体的で個別最適な学びを実現する上でのベースとなる」と答弁した。

 さらに、視察先の小学校で研修担当の主任から「自分たちが歩んできた足跡を知っておきたい、常に閲覧できる状態でありたい」と研修の履歴管理の必要性を指摘されたというエピソードを紹介。「このように研修履修の記録は、管理職と教師との対話の基礎となるものであり、教師個人が閲覧確認できることが前提と考えている」「校長等の管理職においても、過去に教師が研修で何を学んできたかという客観的な情報に基づいて、教師が今後どのような学びが必要か、効果的な指導助言が可能となる」などと述べ、研修記録作成の義務付けに理解を求めた。

文科省:今年夏の研修指針改訂とガイドライン策定を表明

 こうした質疑を通じて、文科省は今回の法改正に合わせ、教特法22条で定められた教員研修の指針を改訂するとともに、各教育委員会が教員研修の記録を作成する際のガイドラインを新たに策定する考えを表明した。

 教員研修の指針は、教員の資質向上に関する指針とも呼ばれ、文科大臣の告示として各教委が実施する教員研修の基本的な方向性を示す。末松文科相は具体的な改訂内容について、「学習指導、生徒指導等に加え、特別な配慮を支援が必要な子供への対応、ICTデータ利活用等を資質能力の柱として新たに明記する。教育委員会が社会の変化に対応した研修を設定し、校長が研修記録を活用した対話に基づく指導助言等を行う際の基本的な考え方を定める」と説明した。

 新たなガイドラインは、研修記録の作成義務を負う教育委員会向けに策定されるもので、「研修等に関する記録の内容や範囲、校長による指導助言等の方法や時期、また教師が期待される水準の研修を受けているとは到底認めない場合として想定されるケース、といったことを定める」(いずれも4月7日、堀井健智議員=維新=への答弁)と述べた。

 指針の改訂とガイドラインの策定に当たり、末松文科相は、中教審で関係団体などへのヒアリングを踏まえて専門的な議論を行い、今年夏に具体的な内容を示す、との考えを示している。参議院での審議を経て法改正案が成立すれば、教員免許更新制を廃止する教育職員免許法の改正は7月1日に施行されるスケジュールになっており、この時期を念頭に具体案の検討作業が進むとみられる。

附帯決議:教員の負担増の回避、失効免許の再授与促進など求める
教員免許更新制廃止法案などを起立採決で可決した衆議院本会議

 衆院文科委は4月8日に法改正案を採決。自民、公明、立憲民主、国民民主、維新などの賛成多数で可決した。共産党は「10年に1度の免許更新講習と引き換えに、研修制度を通じて管理統制を強めるもの」(宮本岳志議員)などとして反対した。

 採決に続き、同委は7項目の附帯決議を賛成多数で議決した。自民、公明、立憲民主、国民民主の与野党4会派が共同提案したもので、今後の指針改訂とガイドライン策定と法施行に向け、配慮すべき事項を明記した。附帯決議には法的な拘束力はないが、労使それぞれの支持を受けている与野党が歩調を合わせて政府・文科省に対応を強く求めたもので、政治的な意思表明という性格を持っている。

 附帯決議に盛り込まれた7項目の概要は次の通り。

  1. 「資質の向上に関する指導助言等」は、教員等の意向をくみ取って実施すること。
  2. オンデマンド型の研修を含めた職務としての研修は、正規の勤務時間内に実施され、教員自身の費用負担がないことを周知徹底すること。
  3. 新研修制度への移行に向けた支援の充実を図り、周知に万全を期すこと。
  4. 教員の多忙化をもたらすことがないよう十分留意するとともに、学校の働き方改革の推進に向けて、実効性ある政策を講ずること。当該教員から研修の報告等を求める場合には、負担増とならないように留意すること。
  5. 教員の研修等に関する記録の作成については、各学校で実施する校内研修、授業研究および本属長の承認を受けて勤務場所を離れて行う研修も記載対象とすること。
  6. 本法による研修等に関する記録の作成および資質の向上に関する指導助言等は、この人事評価制度と趣旨目的が異なることを周知すること
  7. 教師不足を解消するためにも、教員免許状を失効している者が再度免許証が授与されることについて十分に周知を図るとともに、都道府県教委に事務手続きの簡素化を図るよう周知すること。休眠状態の教員免許状を有する者の取り扱いについて周知徹底すること。

 教育職員免許法改正案は、参議院の審議を経て成立すると、7月1日に施行される。これにより、同日以降に教員免許の更新期限を迎える教員は免許状更新講習の受講や更新手続きが不要となる。

 参議院での審議は近く始まる。

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