【共に学ぶ】ヤングケアラー支援 親と子の自立への伴走

 家族の介護や世話などを担っているヤングケアラーの子どもたちへの支援が、日本でも本格的に始まっている。国は昨年、初めて中高生へのヤングケアラーの実態調査を行い、さらに4月11日には、小学6年生と大学3年生に対して実施された日本総研による実態調査の結果も公表された。その結果、小学6年生の6.5%、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%が、世話をしている家族が「いる」と答えるなど、クラスに1人程度はヤングケアラーがいる可能性が浮かび上がった。「共に学ぶ」第7回では、ヤングケアラー当事者の思いをくみ取り、周囲の大人が、彼らの望む形のサポートをどのように提供できるのかを考えたい。

親子というより戦友

 大阪府で生まれ育った居馬大祐さんは、元ヤングケアラーだ。父親はてんかんを患っていて、突然気を失ったり、急に感情的になったりする。父親の感情を爆発させるきっかけは、日によって変わる。だから、家にいるときには、いつも怒らせないように恐る恐る状況をうかがっていたという。そのときの感覚を居馬さんは「頭の中は、宇宙船の操縦席のようになっていてコンピューターの巨大な画面が3つ並び、操縦席に座っている自分がそれを見ながら、次に取るべき行動を指示している」と表現する。

 居馬さんがヤングケアラーとなったのは、両親が離婚する少し前の中学3年生のころからだ。母親もギャンブル癖がひどく、これに拍車が掛かり、父親が事故で入院したことをきっかけに、母親は毎晩のようにどこかに出掛けて帰ってこなくなった。そして、膨らんでしまった借金が原因で、高校入学直後に両親は離婚。それからは、父方の祖父母に家事や家計のやりくりを徹底的に仕込まれ、父親のケアや生活の多くを居馬さんが担うことになった。

 「小さいころから、父親の病気のことを近所の人たちに知られたら、遠くへ引っ越さなければならなくなると言われて育ったが、家事をやるようになると、近所の人が『何かあったの?』と心配してくれるので、いざ父の病気のことを話してみると、逆にいろいろ気に掛けてくれるようになった。借金もこれ以上増えないし、両親の夫婦げんかもなくなったし、父との二人暮らしは案外楽しかった」と居馬さんは当時を振り返る。

 高校卒業後、居馬さんは奨学金をもらいながら作業療法士の専門学校に通うことになり、一人暮らしを始めた。それでも、夜中に突然、父から「薬を飲まなくてもよくなった。もう治ったからな!」と電話があり、街中から電話をかけている様子だったこともあり、心配になって大急ぎで車を走らせ、薬を飲ませてからとんぼ返りで翌朝の授業を受けたこともある。大人になった今も、居馬さんにとって父親は「親子というより、『あの時』を一緒に生き抜いた戦友」だ。

自分自身とヤングケアラーを結び付けてくれた本を手に、自身の経験を語る居馬さん

 そんな居馬さんがヤングケアラーのことを知ったのは、当時勤めていた職場で、親交のあった看護学の教授に薦められた本を読んだことがきっかけだ。この教授に自分の境遇を打ち明けると、本に書かれていた精神疾患のある親がいる人が集まり、子どものころの経験や思いなどを語り合う「こどもぴあ」を紹介された。「こんな経験をしているのは自分だけだと思っていたが、他にもたくさんいた。この気持ちを分かってくれる人がこんなにいっぱいいる。そのことがうれしかった」(居馬さん)

 居馬さんは今、「こどもぴあ」の副代表をしながら、埼玉県で訪問看護の会社を運営している。訪問先の家庭に小さな子どもがいると、すぐに気持ちが通じ合うそうだ。「精神疾患だから怖いとか、ヤングケアラーだからかわいそうとか、そういう押し付けたり、決め付けたりすることはしないでほしい」と居馬さん。「学校にも元ヤングケアラーがいたら、ヤングケアラーの子どもたちを見つけて仲間になれるかもしれないし、先生にアドバイスができるかもしれない。当事者がもっと前線に出ていかないと」と前を向く。

親子を丸ごと支援

 ヤングケアラーの支援に向けて、今、各地でさまざまな動きが広がっている。

 精神保健福祉士の勝呂(すぐろ)ちひろさんは、横浜市鶴見区を拠点に精神疾患のある親とその子どもたちを支援する(一社)Omoshiroの代表理事として、現在、23世帯の家庭で家事支援などを行う。

 「家庭が抱えている課題を整理して、支援をしていくうちに、親の状況は少しずつよくなっていく。でも、子どもたちはあっという間に大きくなる。大人と子どもでは時間軸が違うため、親子を丸ごとサポートすることを考えないといけないと気付いた」と勝呂さん。そこで、Omoshiroを設立し、親だけでなく子どもも含めたケアマネ事業を始めた。

 例えば、Omoshiroでは同じ1時間の夕食づくりの家事支援でも、子どもの年代によってヘルパーが入る時間帯を家庭ごとに意図的に変えている。小学校低学年くらいの子どもがいる家庭では、早めにヘルパーが入り、夕方には食事ができるように準備をしておく。そうすることで規則正しい生活リズムをつくりやすくするのが目的だ。一方で、中学生くらいの子どもがいる場合は、夕方にヘルパーが入り、子どもたちの話し相手をしながら一緒に料理をつくったり、翌日のお弁当にも使えるおかずを献立に取り入れたりしておく。家庭によってどんな支援が必要なのか、ヘルパーが家事支援の中でどのような役割を担うのか、そういった調整や情報共有を円滑にするのが、勝呂さんの役割だ。

 「ヘルパーもただ食事をつくるだけではないので、自分事として意識的に親子に関わってくれるようになる。こうした家庭は、そもそも助けを求めることが苦手。家族以外の人が入ることで、我慢せずに『助けて』と言えるようになる。それには意識的に練習していくことが必要だ」と勝呂さん。その先に見据えるのは、親子がそれぞれの気持ちをきちんと言い合える関係をつくることだ。

Omoshiroのワークショップで制作した子どもたちの声

 Omoshiroでは家庭への支援と並行して、精神疾患を抱える親と暮らす子どもたちを集めて自分の気持ちや意見を言えるようになるためのワークショップも定期的に行っている。「子どもたちも『助けてほしい』と声に出す練習をしていない。子どもたちが大人に自分の状況を説明し、どんな支援を求めているのかをしっかり言えるようになってくれたら」と勝呂さんは期待を寄せる。今後は、NPOの「カタリバ」とも連携し、保護者向けのプログラムや保護者面談に関わりながら、オンラインでのサポートも全国に広げていく予定だ。

 「親を悪者にしてはいけないし、子どもたちも一緒にいたいと思っている。周囲が子どもの声をちゃんと受け止めて、適切な配慮をしながら、子どもの子どもらしい時間や権利を、社会全体がチームになって守っていかなければいけない」と、勝呂さんは子どもを真ん中にした支援を強調する。

ケアの経験を強みに自己実現を

 元ヤングケアラーである大学生が、家族のケアをしている中高生の聞き役・相談役(ピアメンター)となる。そんなユニークな取り組みも始まっている。

 自身も家族の介護を担ってきたケアラーでもある(一社)ケアラーアクションネットワーク協会代表理事の持田恭子さんは、ヤングケアラーの課題に早くから取り組んできた英国のヤングケアラー支援団体である「ウィンチェスター・ヤングケアラーズ」が開発した「ヤングケアラーズ探究プログラム」を知り、許可を得た上で日本向けに改良。(公財)日本財団の支援を受けて、4月から本格的な普及に乗り出す。

 ピアメンターとしての研修を受けた大学生は、ケアの課題について自分自身の経験を踏まえて深く考察する「ヤングケアラーズ探究プログラム」に中高生と一緒に参加し、お互いのヤングケアラーとしての体験や進路などをグループで対話したり、ケアについての理解を深めたりしていく。

 「大学生は中高生と対話をしながら、チームビルディングやリーダーシップを身に付けていく。これは就職活動での自己アピールにもなる。今はまだケアの経験について就職の際に正当に評価されていないが、留学やボランティアと同じくらいの価値があり、企業にとって即戦力になることをアピールしていきたい」と、持田さんは力を込める。

 課題は、当事者であるヤングケアラーの中高生にこのプログラムが届くかどうかだ。

 「体験してもらった中高生からは『自分が持っているケアの経験が強みになるとは思っていなかった』といった声が上がっている。ヤングケアラーの子どもたちは家族のケアのことを優先しなければならないと、進路で悩んでいることも多い。こういうプログラムの存在を先生が勧めてくれたら、生徒も参加しやすいと思う」と持田さん。

 同協会では現在、教員研修用の動画も制作中で、持田さんは「ヤングケアラーの教育上の問題は、生徒が自己実現できないということにある。学校の先生は、ぜひ生徒のキャリアや自己実現の視点から、彼らの力になってほしい」と呼び掛ける。

クラスに少なくとも1人はいるヤングケアラー

 ヤングケアラーの存在は英国などで早くから問題提起がされてきたが、日本では実態調査すらも行われていない状態が続いていた。しかし、一昨年に埼玉県がケアラー支援条例でヤングケアラーを位置付けたことなどを皮切りに、さまざまな自治体でヤングケアラーの支援に目が向けられるようになった。

 国も昨年、厚労省と文科省による合同プロジェクトチーム(PT)を発足させるとともに、中高生に対して初めての全国的な実態調査を実施。さらに、それを補完する形で今年1月には、小学6年生と大学3年生にも実態調査を行った。その結果、中学2年生の1.8%、全日制高校2年生の2.3%の生徒が、自分自身がヤングケアラーに「当てはまる」と回答。さらに、世話をしている家族が「いる」と回答した児童生徒は、小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%に上り、中高生では、自分自身がヤングケアラーであると自覚している生徒の割合よりも高かった(=グラフ)。いずれにしても、クラスに1人はヤングケアラーがいてもおかしくないと言える数字だ。

ヤングケアラーに対する認識と実態にはギャップがある

 また、中高生への調査からは、いずれの校種・学年でもヤングケアラーという言葉を8割以上の生徒が「聞いたことはない」と答えており、認知度の課題も浮き彫りとなった。

 合同PTでは、こうしたデータとヤングケアラーの当事者や支援者の声を踏まえ、2022~24年度をヤングケアラーの認知度を上げる集中取り組み期間と位置付け、自治体の実態調査や早期発見によるアウトリーチ型の支援を展開したり、関係機関・職員の研修を実施したりすることをうたった報告書を取りまとめた。

 22年度の厚労省の予算では、ヤングケアラー支援体制強化事業として新規に212億円が計上され、ヤングケアラーを適切な福祉サービスにつなぎやすくするためのコーディネーターの配置や、ヤングケアラー同士が悩みや経験を共有し合うピアサポートの支援、関係機関の職員を対象とした研修の財政補助などを行うとしている。

ヤングケアラーは自分の経験を整理するためのツール

 「虐待の場合の一時保護など、これまでの子ども支援はかなり深刻な状況での危機対応が多かった。大事にならずにもっと気軽に相談して、家族の状況を改善できる支援が少ないと思う」

 そう話すのは、英国や日本のヤングケアラー支援について研究する成蹊大学の澁谷智子教授だ。澁谷教授は、世帯人数の減少、共働きの増加などによって、大人が家庭にかける時間や人手が減少していることで、子どもがケアをせざるを得ないケースが増えているとみる。ヤングケアラーの問題は、「家族のことは家族で」という、従来の価値観が色濃く残っているにもかかわらず、実際は家庭が回らず限界に達している状態を反映しているとも言える。

 「日本では『ケア』という言葉のイメージがあまりにも重く捉えられがちで、『私はそんなに大変ではない』と、自分をケアラーと認識しない若者も多い」と澁谷教授。ヤングケアラーの全国調査でも、子ども自身に自分がケアをしているという自覚がないことが課題として浮き彫りとなった。

 一方で「ヤングケアラー」という言葉が社会に広がるにつれて、「家族のケアで大変な思いをしている子ども」というイメージを持たれてしまうことに、戸惑いを覚える当事者も多い。澁谷教授は「『ヤングケアラー』という言葉は外から貼られるラベルではなく、自分の経験を整理して考える際のツールとして使ってもらえたらと思う。自分が家のことをして、親から『ありがとう』と言われたら、子どもはもっと期待に応えようとして、さらにケアを抱え込んでしまい、気が付くと危険水域に達していることもある。自分がどこまでやるかの線引きをしたり、しっかり自分の時間も確保したりできるようにするためにも、『ヤングケアラー』という言葉を手掛かりにしてほしい」と強調。今の時代、学校でも「ヤングケアラー」の学習を通して、家族のケアと自分自身のこととのバランスをどうとるかを学ぶ機会が必要なのではないかと指摘する。

 ケアに追われる子どもにとっても、多くを抱え込みがちな教員にとっても、学校という場と時間を効果的に使うことが大切になってくる。澁谷教授は「普段から子どもたちと接している先生だからこそ、ヤングケアラーに気付く度合いが高い。発見したら誰につなげればいいかが明確になっていて、『つないでもらって良かった』という子どもたちの声が積み重なってきたら、先生たちも安心して動くことができる。スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、養護教諭、地域で活動する民生委員や主任児童委員、学習支援教室などと連携して、子どもの満足度が上がった優良事例の共有が、もっと進んでいくといいと思う」と語る。

(藤井孝良)

本企画「共に学ぶ」では毎回さまざまな角度から、学びから取り残されてしまっているかもしれない当事者の視点に立って見える学校の風景を描写するとともに、考える材料を提供していきます。

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