【共に学ぶ】多様な学び方や居場所を増やす 不登校の今

 文科省が調査する小中学校の不登校児童生徒数は8年連続で増加を続け、過去最多を更新し続けている。低年齢化が進み、その要因や背景も多様化、複雑化しており、学校現場では試行錯誤が続いている。間もなく訪れるゴールデンウィーク後は、夏休み明けと並んで不登校の増えやすい時期でもある。「共に学ぶ」の第8回では、学びたいけれども学校が合わない子に「こういう学び方もあるよ」と選択肢を広げていった教師や学校の実践から、今の子どもたちにとって、どういった学校の在り方が必要なのかを探っていく。

1人1台端末でホームエデュケーション

 「オンラインがなかったら、つながりは切れてしまっていたかもしれない」

 東京都渋谷区の公立小学校で昨年度、3年生の担任をしていた松下由紀教諭(仮名)はそう振り返る。松下教諭の学級には、1年生の頃から不登校傾向のあるA君が在籍していた。A君は感覚過敏のために教室の音が気になり、不安やストレスから落ち着かなくなる。3年生の最初の頃は週に数回登校していたが、夏休みが明けると月に1回程度の登校ペースになり、学校から足が遠のいていった。

 「お母さんから『今から行きます』と連絡があっても、来られないことが何度もあった。本人もお母さんも本当につらかったと思う」

 その後、A君にとって教室で過ごすのは大きなストレスがかかるため、本人も母親も静かに過ごせる特別支援教室を希望した。しかし、同区では週4日程度の登校がないと特別支援教室への申請ができない。そもそもA君は「通学する」ことに壁があり、特別支援教室にも行けない状態が続いた。

 学びたい意欲があるA君には、安心して過ごせる自宅でのホームエデュケーションが一番いいのではないか――。松下教諭はさまざまな試行錯誤の末、1人1台端末を活用したオンライン授業配信と、個別オンライン授業を提案した。

試行錯誤の末、オンライン授業配信と個別オンライン授業を提案した

 そして昨年11月、まずはA君が好きな算数と理科のオンライン授業の配信をスタートさせた。A君は午前中が苦手なので、算数と理科の時間割を午後に変えるなど、できる範囲で配慮した。それ以外の学習については、児童用の学習予定を渡しており、それに沿って家庭で学習を進めてもらった。

 今年1月からは、新型コロナウイルスの感染拡大により、コロナが理由で学校に来られない子どもたちのために、学校全体でオンライン授業配信をすることになった。すると、算数と理科以外の授業にもA君が時々参加してくるようになった。

 「不登校の子どもたちにとって、オンライン学習は追い風だった。授業に参加できたというのは大きい」と松下教諭は強調する。

 さらに手応えを感じたのが、毎週1回、決まった曜日の決まった時間に行った、30分の個別オンライン授業だ。母親から読み聞かせが好きだと聞いていたので、A君が好きそうな本をピックアップし、そこから関連のある学習内容に移っていくように工夫した。

 「最初は画面オフだけど、しばらくすると画面がオンになって顔を見せてくれる。オンラインがなければここまでA君のことを知ることができなかったし、この週に一度の30分間が信頼関係を築いていくための大切な時間だった」

個別最適な学びはできる

 保護者とのやりとりにも1人1台端末のチャット機能が役立った。A君の母親は「学校に迷惑を掛けてはいけない」と、最初は心を閉ざしていたという。また、「学校に行かせなければならない」という思いにも苦しんでいるように見えた。

 「保護者の『ねばならない』をほぐしていくことも、重要なステップの一つだった」と松下教諭は振り返る。「そのためには保護者と話をしていくしかない。電話だとお互いタイミングを気にするが、チャットだといつでもやりとりできる」と、連絡を取るハードルが下がったことが、保護者との関係を大きく進展させた。

 こうした一連の取り組みについて、松下教諭は「管理職の理解と協力は必要だが、特別なツールを使ったわけではない。1人1台端末を持ち帰ることができたら、どの学校でも、どの教員でもできる」と話す。

 「個別の対応に関して『大変じゃないの?』と言われるが、教員は普段から子どもたちの興味関心をもとに考えて授業をしている。それがただ個別になっただけで、本質的なところは変わらない」

 同僚にも「もし、クラスに不登校で困っている子がいたら試してみてほしい」と伝えている。「公立だと教員の異動もあるし、ずっと自分が担任をできるわけでもない。周りの先生にも、どういうことをやって、どういう効果があったのかを伝えていかなければ、選択肢が増えていかない」と訴える。

 約5カ月、オンラインでつながりながらA君に合った学びのスタイルを模索してきた。3月の最後、A君は学校にも何日か登校し、「できれば4月からは特別支援教室にも行ってみたい」と話すなど、自ら次のステップに進もうとしている。そして、松下教諭も考え方に大きな変化があった。

 「社会性を身に付けてほしいから、個人的には学校には来てほしいと思っている。でも、そのことでストレスが大きくなるのならば、その子に合った別の学びのスタイルを見つけてあげたらいい。学校に来ることだけが学ぶ選択肢ではない。A君なりの学びでいい。ゴールはみんな別なのだから」

校内フリースクール「もっと早くつくってほしかった」
高校の不登校の生徒数は2年連続で減少している

 文科省が昨年10月に公表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2020年度)」では、小中学校の不登校の児童生徒数が19万6127人に上り、8年連続で増加して過去最多となった。

 一方、高校の不登校は4万3051人で、前年度より7049人(16.4%)減って2年連続で減少した。これについて同省の児童生徒課は「高校生については通信制高校の増加など、多様な学びが確保されてきたことなどが背景にあるのではないか」と分析している。

 多様な学び方や居場所を学校内に増やすという意味で、近年注目されているのが校内フリースクールだ。広島県や横浜市、愛知県岡崎市などで導入が進んでおり、名古屋市でも今年度から、市内中学校のうち30校に設置するなど、取り組みが広がっている。

 高知市立城東中学校でも昨年度から、学びの保健室「タンポポルーム」という校内フリースクールを開設した。高知県は中学生の1000人当たりの不登校生徒数が全国ワースト1位(20年度)で、同校でも毎年、全国平均を上回っていた。

 同校の校内フリースクールには、いくつか特徴がある。まず、不登校担当教員と適応指導教室教員を各1人、加配している。大谷俊彦校長は「空き教室に手の空いた教員がいるというのでは意味がない。温かい雰囲気で子どもたちを包み込んでくれる校内フリースクールに適した教員を配置することが重要だ」と強調する。

 また、正門からではなく、人の出入りが少ない門から登校できるよう、教室の場所も配慮した。さらに、教室を「個別対応ルーム」「集団で学ぶルーム」「共有スペース」の3つに区切り、シェアハウス方式にしていることもポイントだ。「まず個別対応ルームに入ることからスタートし、過干渉にならないよう、一定距離を保ちながら慣れていってもらうようにした」と大谷校長は話す。

 利用対象は不登校または不登校傾向の生徒で、本人と保護者に利用の希望があることが条件。事前に面談も行っている。昨年度は3年生が11人、2年生が6人、1年生が5人、それぞれ利用した。

 欠席日数が大幅に減少するなどの変化もあり、利用した生徒からは「もっと早くつくってほしかった」「同じような悩みを持つ人と関わることで、心を開くことができ、友達ができた。みんな学校に行けないつらさを知っているから居心地がよかった」「教室に行くと常に先生がいる。先生に質問して教えてもらうことで勉強が分かるようになり、学習する楽しさを知った」「タブレットを使って自学自習でき、将来の目標もできた」といった声が寄せられている。

ここが「未来の教室」になる

 大谷校長は「校内フリースクールを作るとなった時に、教員からは『さぼりたい子が来るのではないか』と不安の声も上がったが、そういう子はいなかった。怠けて勉強ができないのではなく、学びたいけれども、クラスに入れないという子が来ている」と話す。

 校内フリースクールができるまでは「不登校の子が予告もなくふらっと学校に来て、空いている教員がちょっと相手をする」といった対応になりがちだった。「学びを教えるわけでもなく、世間話をするだけ。もちろん、そうしたことも大事だが、このタンポポルームができたことで、生徒たちがきちんと学べたことは大きい」と強調する。

校内フリースクールの「タンポポルーム」で行われた卒業式(城東中学校提供)

 また、不登校の生徒は「中学校を出たらどうなってしまうんだろう」という強い不安を持っており、そこをしっかりと保障する必要性を感じていた。昨年度に利用していた3年生は全員が希望する高校に進学が決まったといい、1、2年生にとっても希望となった。

 メリットだけでなく、改善点も見えてきている。例えば、在籍しているクラスの授業をオンライン配信していたが、双方向にはできていなかった。大谷校長は「不登校の生徒はどこかで学びが止まり、途中が抜けてしまっているので、なかなか授業配信だけでは対応できない」と明かす。

 1人1台端末をもっと生かすにはどうすればいいのか、どのレベルに合わせて授業をすればいいのか、担当教員が複式学級の授業をできるようにした方がいいのか――。試行錯誤が続くが、「私はここが『未来の教室』になるのではないかと思っている」と大谷校長は前を向く。

 「この教室をつくった時、生徒たちには『3年間ここでもいいよ』と伝えている。集団の中でワイワイすることが全てではない。クラスに戻りたくなれば、そっと背中を押すし、またタンポポルームに戻りたければ戻ればいい。私たちがそういうスタンスでいれば、子どもたちもしんどくならないのではないか」

社会的自立とは「元気」と「迷惑」が貸し借りできること

 福岡市にある私立の立花高等学校の齋藤眞人校長は、不登校児童生徒数が増え続けている現状について、「日本の多くの学校は『同じであること』を求めている。『こうあるべき』に縛られ過ぎていて、学校は魅力を失っているのではないか」と指摘する。

 同校の生徒の多くは小中学校で不登校を経験している。「例えば、学校は一人でいる子たちを集団に戻そうとする。しかし、不登校を経験した生徒たちに言わせると、孤独がいい時もある。ただ、孤立は良くない。大事なのは、その子が立ち上がりたいと思った時に手を差し伸べる人がいるかどうかだ」と齋藤校長。

 また、教員や保護者が打つ策は、その子の現状よりも一歩も二歩も先を求めていることが多いとも感じている。「『将来、それじゃ苦労するぞ』と大人は言う。その子は今を生きているのに、大人は将来を生きさせようとしているのではないか」と訴える。

 齋藤校長も委員を務める文科省の「不登校に関する調査研究協力者会議」が2月に示した取りまとめ素案では、不登校児童生徒の最終的なゴールとして「社会的自立」を目指すとしている。ただ、会議の中で委員の間からは「社会的自立とは何を指しているのか」といった指摘もあった。

「社会的自立は、元気と迷惑が貸し借りできること」と齋藤校長

 齋藤校長は「学校は、子どもたちを社会に出て一人で生きていけるように、困らないように育てようとしている。しかし、私が考える社会的自立は、元気と迷惑が貸し借りできること。困った時に困ったと言える子は、社会で自立できる。その代わり、誰かが困っているときは『どうしたの?』と元気を分けてあげられたらいい」と語る。

 公立校でも1人1台端末を活用したサポートや、校内フリースクールのような学べる居場所が増えるなど、不登校児童生徒への支援は10年前と比較しても多様化してきている。齋藤校長は教員に「理解者がいることが、その子の一生を支える。思ってくれている人がいるだけで100点満点だ」とメッセージを送る。

 「まだまだ学校に行くか、行かないか、その二択になりがちだ。来られないなら、これだけの手段があるよ。来られるなら、これだけの手段があるよ。そうやって、選択肢が増えていくことが大事なのではないか」と力を込める。

(松井聡美)

本企画「共に学ぶ」では毎回さまざまな角度から、学びから取り残されてしまっているかもしれない当事者の視点に立って見える学校の風景を描写するとともに、考える材料を提供していきます。

 また、「共に学ぶ」未来について、皆さまと一緒に考える場をつくっていきます。本紙電子版の特設ページから、ご意見・ご感想をお寄せください。

あなたへのお薦め

 
特集