時間割の自動作成をテコに 校務のDXを実現する実証実験

 「新年度の準備で最も大変なのは、学校全体の時間割の作成」。そう考える教員も少なくないのではないだろうか。そんな学校現場の悩みをデジタルで解決しようという試みが始まっている。IT企業のアメグミは今年度、宇都宮海星女子学院中学校高等学校などと組んで、時間割を自動作成する実証実験を行った。学校の働き方改革でさまざまな校務支援システムが登場する中で、なぜ時間割に着目したのか。そこには、同社の常盤瑛祐(ときわ・えいすけ)代表が抱く、教育への思いがあった。

年に一度の時間割作成作業に着目したわけ

 「話を聞いたある先生から、冗談交じりに『時間割の作成がなくなれば旅行にも行けるのに』と言われて、『よし、やろう』と決めた」と、常盤代表は時間割の自動作成システムの開発に挑戦したきっかけを語る。

 時間割の作成は、多くの学校で毎年、年度末から年度始めにかけて行われる重要な業務だ。特に、教科担任制で科目数も多い中学校や高校での時間割の作成は、特別教室の使用や選択科目、非常勤の教員が出勤する曜日など、多岐にわたる条件をクリアし、複雑なパズルを組み上げるような作業が求められる。学校によっては、これに「1時間目は『保健体育』の授業は入れない」「毎週水曜日の7時間目は職員会議に充てる」「進学コースは受験対策の時間を入れる」など、独自のルールがあるところも多い。

 それも、来年度のカリキュラムや入学してくる生徒数の見込み、人事異動による教職員の体制が決まるのは、おおむね3月中旬以降となるため、作業はどうしても時間との勝負となる。担当の教員はただでさえ忙しい年度末・年度始めに、膨大な時間をこの作業に充てなければいけなくなる。

 「時間割は年に1回の作業なので、自動化するメリットがあるのかと思うかもしれない。しかし、時間割は生徒の出席日数や評定、指導要録など、教員のあらゆる業務に関わっている。時間割がデジタル化されて、これらのデータとひもづけば、一気に校務はスムーズになる」と常盤代表は強調する。

20年間に起きたイノベーションを学校に実装させる
時間割の自動作成をするシステムのイメージ(アメグミ提供)

 「すでに20年前くらいから民間企業などで導入されていたシステムが、やっと今、学校に入っている。この20年の間に起きたイノベーションを、どう学校に実装させるか」

 常盤代表は、ITの専門家の視点から校務支援のデジタル化の遅れを、そのように指摘する。複数の学校現場でヒアリングを行った結果、導き出された突破口が、他社でもあまり手掛けている事例のない学校全体の時間割だった。

 実証実験を行った学校の一つ、宇都宮海星女子学院中学校高等学校。これまでは毎日夕方から担当の教員が集まり、4日間ほどは残業をしなければならない作業量だったのが、同社に時間割作成のためのデータを提供したり、必要に応じてやり取りしたりすることはあったものの、実質的な作業としては、自動作成でAIが条件に合わせて作成した時間割の案を確認して、微調整をするくらいで、すぐに校長からの承認をもらい、スムーズに校内で共有できたという。

 同校学習課長・ICT探究推進室長の佐藤真紀子教諭は「途中で変更があっても、条件の設定さえすれば組み直しも簡単にできて、できたものを確認するだけでいい。これを人の手でやると、同時展開している選択科目のやりくりを考えるだけでも至難の技だった」と、その違いに驚きを隠せない。

 自動化によって作成された時間割は、同校の今年度の時間割として実際に活用することが決まった。同校は来年度に「星の杜中学校高等学校」と校名を変えて共学化し、高校では英語によるコミュニケーション力を重視する「グローバルラーニングコース」や、非認知スキルの育成に力を入れる「ディープラーニングコース」を設ける予定だ。

 佐藤教諭は「新しい学校の軸になる探究学習を進めていくには、生徒と教員の対話がとても重要になる。時間割をはじめとする校務の負担を減らすことでできた時間を、生徒と密に関われる時間を増やして、やりたいことを通じて、生徒を伸ばしていけるような学校にしたい」と話す。

「未来の時間割」がもたらす可能性

 常盤代表は、今年度の実証実験でさらに改良を進めて商品化した暁には、わずか2~3時間程度で時間割が完成するようになるとにらんでいる。これなら、時間割作成にかかる日数も1日で済み、ねん出された時間で新年度を迎えるための他の準備を進めたり、それこそ旅行に行ったりすることだってできるだろう。

IT企業の経営者であると同時に、貧困など社会問題の研究も行っている常盤代表(本人提供)

 実は、同校のDX推進ディレクターも兼任している常盤代表。今年度から同校の部活動として、「デザイン部」の指導を受け持つほか、来年度は同校の「探究的な学習の時間」の一環で、デザインをテーマにした授業を担当するという。常盤代表はプログラミングをはじめとする高度なIT技術を持ち、起業するかたわら、社会問題の研究に取り組んできた顔も持つ。刺激的なタイトルの著書である『悪者図鑑』(自由国民社)では、幼少期に虐待や貧困を経験してきた中で、なぜ「悪者」がつくられてしまうのか、その社会の仕組みや負の連鎖を止めるには、どんな解決策があるかを投げ掛ける。その視線の先には、学校教育もある。

 「子どもを助けられないのはなぜなのか。先生の忙しさを減らさないと、子どもはずっと大変だ」

 そんな情熱を持った常盤代表が時間割の自動化で実現したい本当の教育DXの姿は壮大だ。

 「もしもこの時間割の自動化システムが全国の学校に入り、さまざまな学校が連携するようになれば、これまでは時間割の調整が大変だった、いろいろな学校をつないだ遠隔合同授業もやりやすくなるし、オンラインの一斉授業を同時にいろいろな学校が受けながら、先生はつまずいている子をフォローすることに徹する時間をつくれるかもしれない。大学と連携して、講義を高校生が受けることだってやりやすくなる」と、未来の時間割がもたらす可能性を語る。

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 8月1~7日に(一社)未来の先生フォーラムが主催する「未来の先生フォーラム2022」では、この時間割の自動作成や探究学習サポートAIなどの取り組みについて、常盤代表による講演が予定されている。詳しくは同フォーラムのホームページで確認できる。

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