教職大学院修了者のキャリアパス確立へ 文科省がたたき台

 教員の養成・採用・研修の見直しに向け、文科省は4月25日、教員養成に関わる大学・大学院の機能強化や高度化について、取り組みの方向性と主な論点をまとめ、中教審の教師の在り方特別部会基本問題小委員会に提示した。各教育委員会と教員養成大学の連携を強化することによって、養成課程で学ぶ学生に教師として就職するよう促すインセンティブを働かせる一方、教職大学院修了者には早期に学校管理職を経験した後、実務家教員として教員養成に携わるなどのキャリアパスを確立していく方向性が打ち出された。学部と大学院を合わせた在学期間を短縮する「飛び級」の導入も示唆されている。委員からは「学校管理職の養成は、市町村教委の研修だけでは難しい。教職大学院には、学校教育を現場から変革していく人材を継続的に輩出してほしい」などと、大学・大学院に学校現場のニーズに応えた人材育成を求める指摘があった。

オンラインで開かれた中教審の教師の在り方特別部会基本問題小委員会

 会議の正式名称は、「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会。文科省が議論のたたき台として示した資料によると、まず、教員養成に関わる大学・大学院を巡る現状として、「教師としての資質・能力を継続的に高めることが求められている中、教員養成・研修機能の高度化に取り組むことが重要」であり、そのために「中核的な役割」を果たすと位置付けた。

 同時に、公立小中学校の採用者数の見通しについて、「令和4(2022)年度ごろまで現在と同程度の水準で推移し、その後減少していくことが予想されている。教員需要の減少に対応した組織・体制や各大学・学部間の連携の在り方について検討を進めていくことが重要」と、少子化が進む状況を踏まえた対応が重要との見方を示した。

 教員養成大学・学部が抱える問題点として「国立教員養成大学・学部の教員就職率については、近年、おおむね6割程度で推移しており、教職以外職に就く者の数が増えている」ことを重視。「教師を目指す優秀な学生を引き付け、教師としての就職を促す取り組みを進める」ことを課題として挙げた。

 教職大学院には、全国的な整備が進む一方で、入学定数充足率が80%程度にとどまっていることを問題点として指摘。今後の取り組みとして、①自ら課題に取り組み、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成②教科・学年・学校種の枠を超えた幅広い指導性を発揮できるスクールリーダーの養成--の2点を挙げた。

 こうした現状認識を踏まえ、たたき台では、3つの取り組みの方向性を示し、それぞれの論点を整理している。第1の方向性は「学部と教職大学院との連携・接続の推進」。学び続ける教師の育成に向け、「自らの強みとして、学習科学等の実証的な学問成果に基づく省察的実践を通じて学び続ける教師の育成に今後一層力を入れて取り組んでいくことが重要」と強調した上で、「理論と実践を往還させた省察力による学びのデザイン等を強みとする教職大学院と学部との連携強化を推進してはどうか」と提起した。具体的な論点としては「学部と教職大学院との連携促進の方策」「教職大学院への進学希望者を対象とするコース設定の促進」のほか、「学部・教職大学院を通じた在学年限の在り方」として学部と大学院を合わせて在学期間を短縮して修了できる「飛び級」の導入なども検討事項として示唆している。

 第2の方向性は「教育委員会と大学との連携強化の促進」。連携強化の観点としては「現場ニーズを踏まえた学部・教職大学院の機能強化・高度化の推進」と「教職を目指す学生を引き付け、教師としての就職を促すインセンティブを働かせる」を挙げた。

 この論点としては、教育公務員特例法(教特法)22条5で定められている「教員育成協議会」制度を活用し、各地域で教委と大学が必要な事項を協議していく体制作りを提起した。この協議会の具体的な検討事項として、▽教師の養成・採用・研修への共通理解▽新たな教師の学びの姿を実現するための教委と大学との連携体制・人事交流▽教師の学びを生かしたキャリアパスの設定▽教職大学院修了者に対する初任研・中堅研など受講減免--などを例示している。

 さらに、教職大学院修了者について「学校現場での実践と大学における教員養成を架橋する役割を担う中心的な対象者」と位置付け、教職大学院修了者が早期に学校管理職を経験した後、教員養成に関連する大学・大学院で実務家教員となって教員養成に携わるといった「教職大学院における学びを生かしたキャリアパスを描いていく」ことを打ち出した。「専修免許状」や「教職修士(専門職)」の学位を取得しやすくする方策も論点に挙げている。

 第3の方向性は「教員就職率の向上、組織・体制等の見直し」。教員養成課程で学ぶ学生が教員に就職する割合が6割程度となっている現状を踏まえ、学生が教員に就職するためのモチベーションの維持や向上を図る取り組みや、各地域の教員採用ニーズに応じたカリキュラムの展開などを進めることを挙げた。同時に、少子化の進展に応じて、「入学定員の見直しや大学間の連携、教職大学院の充実に向けた取り組みの推進」を検討項目に位置付けた。それらの具体的な取り組み策を示すことを論点としている。

 続いて、教員養成に関わる大学・大学院から、教員養成フラッグシップ大学としてICTを駆使した先導的な教員養成プログラムを実践している大阪教育大学、大学の学部と教職大学院の連携を強化し「飛び級」の先行例もある横浜国立大学、四国にある5つの国立大学による広域連携で県境を越えた教員養成を進めている鳴門教育大学がそれぞれの取り組みを説明した。

 委員の意見交換で、戸ヶ﨑勤・埼玉県戸田市教育長は、まず学部と教職大学院との連携・接続について「学校現場では、校内研究や研修など、教科等の横断的な視点を持って、校内の学びをリードしていく人材がいま求められている。数年後には教員採用のニーズが大きく減少していくことを踏まえれば、今後はより一層質を重視した教員採用となっていくのではないか」と、教職の高度化を進めることが学校現場のニーズに合致してきていることを指摘した。

 さらに教育委員会と大学との連携強化について「現場のニーズに対応して教委と大学とが一層の連携を深めていくことは、大変重要な視点。教委は研修の高度化を進めていく必要に迫られている」と検討の方向性に賛意を示した。自治体にとって学校管理職の養成が大きな課題となっていることに触れ、「市町村教委の研修だけでは、管理職の養成が難しい現状がある。教職大学院は、教委と連携を図りながら、学校教育を現場からか変革していくような人材を継続的に輩出してほしい」と期待を表明。その上で、「教職課程の高度化と言いつつ、学校現場の課題とあまりに乖離(かいり)したアカデミックな講座に傾くことのないようにしてほしい」と注文を付けた。

 中原淳立教大教授は「フラッグシップ大学へのリソースが足りているのか。実証研究の強化や理論と実践をやろうとすれば、非常に多くのリソースが必要になる。これをどうやって解決するのか」「教職大学院の定員が未充足になっている。出口を明示できない教育機関は長続きしない。どういう人がいつ来て、修了後にどうなるのか、より解像度を高くして明示する必要がある」と述べ、提示された論点の具体化に向け、不明瞭な部分が多すぎることに懸念を示した。

 根津朋実早稲田大教授は「報告のあった3つの教員養成大学・教職大学院はいずれも国立大学で、自大学の中で人材を囲い込んでいこうという傾向を感じる。これでは先細りにならないか心配になる。教職大学院の修了者以外の教員や、公立大学や私立大学出身の教員への対応も考えなければならない」と指摘し、国立の教職大学院を中心に議論が進んでいくことに疑問を呈した。

教員養成に関わる大学・大学院の機能強化や高度化について、文科省が示した取り組みの方向性と主な論点

学部と教職大学院との連携・接続の推進

〇学び続ける教師の育成が重要。理論と実践を往還させた学びのデザインを強みとする教職大学院と学部との連携強化を推進する。

  • 学部と教職大学院との連携を促進する方策にはどのようなことが考えられるか。
  • 教職大学院への進学希望者を対象としたコースの設定についてどう考えるか。
  • 学部・教職大学院を通じた在学年限の在り方についてどう考えるか。
教育委員会と大学との連携強化の促進

〇現場ニーズを踏まえた学部・教職大学院の機能強化・高度化を推進。教職を目指す学生を引き付け、教師としての就職を促すインセンティブを働かせるため、教育委員会と大学との連携強化を促進する。

  • 各教育委員会と大学が連携を深めていくための方策をどう考えるか。
  • 学部段階においても教職経験を有する教員(実務家教員)の配置を促進し、教育委員会との人事交流を促進することについてどう考えるか。
  • 教職大学院修了者は早期に学校管理職を経験した後、実務家教員として教師養成に参画するなど、教職大学院の学びを生かしたキャリアパスの設定についてどう考えるか。
  • 教職大学院での学びの機会をより多くの現職教員に提供し、学び続ける教師が「専修免許状」や「教職修士(専門職)」の学位を取得しやすくする方策をどう考えるか。
教員就職率の向上、組織・体制等の見直し

〇教員採用率の向上に資する取り組みの充実が重要。今後の教員採用需要を踏まえ、入学定員の見直しや大学間の連携、教職大学院の充実に向けた取り組みの推進が重要。

  • 各大学における取り組みの促進策について、どのようなことが考えられるか。

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