退職教員活用、採用試験早期化… 文科相、教員確保へ異例の要請

 「教師不足」への対応が喫緊の課題となる中、末松信介文科相は4月28日、全国の都道府県・政令市の教育長を集めた緊急のオンライン会議を開き、特別免許状による社会人の登用、退職教員の活用、民間企業との人材獲得競争を意識した教員採用選考試験の早期化などの対応策を例示しながら「あらゆる手段を講じて教員の確保に取り組んでいただきたい」と述べ、異例の要請を行った。教員不足を解消し、教職の魅力向上を図るためには「働き方改革を推進することが一番重要」とも指摘し、各教育長に学校の働き方改革への取り組みを加速するよう、改めて促した。

全国の教育長を集めたオンライン会議で、教員確保を要請する末松文科相

 末松文科相は発言の冒頭、臨時的任用教員などが確保できず、学校へ配置予定の教員数に欠員が生じる「教師不足」について、「昨年度初めて行った実態調査で憂慮すべき状況が明らかとなった。複数の教委にヒアリングしたところ、今年度も依然として厳しい状況となっている」と厳しい現状認識を表明。出席した都道府県・政令市の教育長に対し、「学校現場に任せることなく、任命権者の責任として、あらゆる手段を講じて教員の確保に取り組んでいただきたい」と述べ、教育長が直接リーダーシップを発揮して教員確保に取り組むよう強く求めた。

 続いて、教員確保に向けて留意すべき施策について、具体的に例示した。

 最初に、知識や経験の豊富な社会人に授与する特別免許状の積極的な活用を挙げた。文科省は昨年5月、審査基準や手続きの緩和を行ったが、「一部の都道府県教育委員会では、授与基準が整備されていないとか、また公表されていないなど、積極的な活用が行われていない。結果的に多様な経験を有する社会人の活用が進んでいるとは言いがたい状況になっている」と厳しい見方を表明。改めて各教委に特別免許状の積極活用を促した。

 次に、退職教員の活用を取り上げた。現在、国会で現在審議している教育職員免許法の改正案が成立すれば、今年7月1日から教員免許更新制がなくなることを念頭に、「すでに現役を退いた教員、育児介護など離職した教員、休眠状態の免許状を持つ社会人を任用しやすくなる」と説明。教壇を離れて時間がたっている教員については「ブランクのある教員には不安な面もあるかもしれない。文科省でオンラインの研修プログラムを開発して支援する」と述べ、退職教員の現役復帰を支えていく考えを示した。

 将来を見据えた計画的な教員採用も強く求めた。教職員の定年が来年度末から2年に1歳ずつ段階的に65歳まで引き上げられることにより、定年退職者が生じない年が出てくることを踏まえ、「新規採用者が、定年退職者の出ない年には極端に少なく、出る年には極端に多いという状態になれば、教職を目指す人の不安にもつながる。そうならないように、一層計画的な正規教員の採用・配置に努めていただきたい」と強調した。

 同時に「定年の引き上げが開始されても、定年退職後、65歳までの間は再任用が可能になる」と指摘。定年退職後の再任用率は全国平均で6割程度だとして「60歳を超えた教員にも引き続き学校現場で活躍いただけるよう、働き掛けてほしい」と、ベテラン教員の活用を求めた。

 さらに、教員確保の方策について、中教審が夏ごろに中間的な取りまとめを出すとの見通しを示した上で、「多様で質の高い教職員集団を構築できるかどうかは、これからの教育の最も重要な鍵になる。言い換えれば、民間企業との人材獲得競争の中で、いかに優秀な人材を教育界に得ることができるかにかかっている」と述べ、教育界が民間企業との人材獲得競争を迫られているとの危機感を表明した。

 その上で、教員採用選考試験の早期化や複線化に言及。「大学3年時から受験ルートの設定などを含め、本当にこれまでのスケジュールや選考方法で優秀な人材を得ることができるのかどうか、改めて一から考えるときに来ているのではないか」と踏み込み、出席した教育長たちに、中教審の議論と並行して、地元の教員養成大学と連携しながら、教員採用の在り方を抜本的に考え直すことを求めた。

 また、末松文科相は「教師不足解消につながる教職の魅力向上を図る上では、働き方改革を推進することが一番重要になる」として、学校の働き方改革の取り組みを加速する必要を改めて訴えた。今年度に勤務実態調査を実施し、その結果を踏まえて給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しを含めて検討していく考えを確認。各教委に対して、進んでない取り組みの検証や、重点的に取り組む内容の特定など働き方改革の推進を重ねて要請した。

 このほか、わいせつ教員対策として4月1日から「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が施行されたことに伴い、▽児童生徒性暴力等の未然防止▽早期発見、加害行為が疑われる場合の専門家と連携した事実確認やちゅうちょなく警察へ通報すること▽児童生徒性暴力等を行った教育職員等については原則として懲戒免職にするなどの厳正な処分--などの徹底を求めた。

 また、学校給食について「物価高騰による学校給食の値上げが懸念されている」と述べ、4月26日に政府が決定した総合緊急対策で学校給食の負担軽減策が盛り込まれていることを説明。各教委に対して「保護者負担の軽減に向けた取り組みを進めてほしい」と述べ、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用した国の支援について、学校給食を巡る保護者負担の軽減にきちんと使うよう促した。

 いじめ問題についても、児童生徒が自死に至る事案の根絶や警察など関係機関との連携を求めた。

オンラインで行われた都道府県・指定都市教育委員会教育長会議

 こうした末松文科相の発言に対し、出席した教育長を代表して、橋本幸三・京都府教育長は「各学校へ配置予定の教師数に欠員が生じる『教師不足』については、今年度も厳しい状況にある自治体もあると認識している。今後も、教師の確保に向けたさまざまな取り組みや、特別免許状の一層の活用などにより、教師不足を解消することができるよう、関係機関と一丸となって取り組みを進めたい」と応じた。また、学校の働き方改革についても「今年度、教員勤務実態調査を実施予定とのことだが、その結果のいかんに関わらず、教委としては教員が子供と向き合う時間をいっそう確保できるよう、学校現場の業務改善に取り組みたい。国も引き続き、支援スタッフの拡充などを行ってほしい」と述べた。

都道府県・指定都市教育委員会教育長会議における末松文科相の主な発言

教師不足への対応
  • 教師不足は昨年度の初の実態調査で憂慮すべき状況が明らかとなった。今年度も依然として厳しい状況がある。各教委は取り組みの加速が必要。学校現場に任せることなく、任命権者の責任として、あらゆる手段を講じて教師の確保に取り組んでいただきたい。
  • 特別免許状の積極的な活用を求める。特別免許状については、昨年5月に審査基準や手続きの緩和を行ったが、一部の都道府県教育委員会では、授与基準の整備や公表がされてないなど積極的な活用が行われていない。結果的に多様な経験を有する社会人の活用が進んでいるとは言いがたい状況が続いている。
  • 現在国会で審議中の教育公務員特例法、教育職員免許法の改正案が成立すれば、すでに現役を退いた教員、育児介護など離職した教員、休眠状態の免許状を持つ社会人を任用しやすくなる。ブランクのある教員には不安な面もあるかもしれないので、文科省では、教職の基礎的な知識を身に付けられるオンラインの研修プログラムを開発して支援する。
  • 任命権者である教育委員会にとって、何より重要なのは、将来を見据えた計画的な教員採用。来年度末から2年に1歳ずつ段階的に65歳まで定年が引き上げられる。これにより、定年退職者が生じない年が出てくるが、新規採用者について、定年退職者が出ない年に極端に少なく、出る年は極端に多いという状態になれば、教職を目指す人の不安にもつながる。そうならないように、定年引き上げ後を見据え、一層計画的な正規教員の採用・配置に努めていただきたい
  • 定年の引き上げが開始されても、定年退職後、65歳までの間は再任用が可能になる。定年退職後の再任用率は全国平均で6割程度。60歳超えた教員にも豊かな経験を生かして引き続き学校現場で活躍いただけるよう、働きかけてほしい。
  • 多様で質の高い教職員集団を構築できるかどうかは、これからの教育の最も重要な鍵になる。言い換えれば、民間企業との人材獲得競争の中で、いかに優秀な人材を教育界に得ることができるかにかかっている。採用選考試験の早期化・複線化という点で、大学3年時から受験ルートの設定などを含め、本当にこれまでのスケジュールや選考方法で優秀な人材を得ることができるのかどうか、改めて一から考えるときに来ているのではないか。中教審が教員の人材確保について夏ごろには中間的な取りまとめを行う。各教委は、中教審の議論と並行して、特別免許状による多様な社会人の登用、退職教員の活用、地元の教員養成大学との連携協力、教員採用選考試験の改善など、あらゆる手段を講じて教師の確保に取り組んでいただきたい。
教員勤務実態調査
  • 教師不足解消につながる教職の魅力向上を図る上では、働き方改革を推進することが一番重要になる。取り組みを加速する必要があり、今年度に勤務実態調査を実施し、教師の勤務実態や働き方改革の進捗(しんちょく)状況をきめ細かく把握する予定。この結果を踏まえ、給特法等の法制的な枠組みを含めて検討していく。各教委も、進んでない取り組みの検証や、重点的に取り組む内容の特定など、さらなる取り組みを推進してほしい。
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の施行
  • 本年4月1日から法が施行され、文科省では、本法に基づく基本方針を定めた。残念ながら、児童生徒に対する性暴力等で懲戒処分となる教育職員は後を絶たない。被害児童生徒や家族を思えば、憤りを禁じ得ない。各教委は、児童生徒性暴力等の未然防止、早期発見、加害行為が疑われる場合の専門家と連携した事実確認やちゅうちょなく警察へ通報すること、児童生徒性暴力等を行った教育職員等については原則として懲戒免職にするなどの厳正な処分--などを徹底的に行ってほしい。
学校給食
  • 新型コロナの影響が長期化する中、物価高騰による学校給食の値上げが懸念されている。先日の原油価格物価高騰等に関する関係閣僚会議で総合緊急対策が取りまとめられ、学校給食の負担軽減についても言及されている。各教委は、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用し、保護者負担の軽減に向けた取り組みを進めてほしい。
いじめ問題
  • 新学期が始まったこの時期に、児童生徒の人間関係を改めて見直し、良好な集団作りに取り組むことは重大ないじめを防ぐ上で極めて重要と考えている。特に、近年では、SNS等によるネットいじめが増加している。子供たちの微妙な変化に気づき、早期発見につなげることがますます重要になっている。①いじめによって子供たちが深く傷つき、自ら命を絶つようなことは決してあってはならない。こうした事案の根絶を目指す必要があるとの基本認識を全教職員に徹底してほしい②どんなもいじめを見逃さないように、学校内の対策組織の有効活用を図るとともに、総合教育会議、教育委員会会議の活用など、対応を強化してほしい③犯罪ともいうべき、いじめへの対応を学校に閉じるのではなく、警察に速やかに通報するなど関係機関と積極的に連携してほしい。

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