教員免許更新制、7月廃止が決定 国会で法改正成立

 教員免許更新制を廃止し、教員研修の記録作成を新たに義務付ける関連法の改正案について、国会は5月11日、参議院本会議で採決を行い、自民、公明、立憲民主、国民民主、日本維新の会など与野党の賛成多数で可決した。これにより改正法が成立し、2009年4月に導入された教員免許更新制は今年7月1日の改正法施行に合わせて廃止されることが決定した。現在有効な教員免許状はそのまま期限のない免許状に移行する。一方、新たな研修制度は来年4月にスタートする。文科省は今年夏ごろまでに教員研修の指針を改訂し、新たに特別支援教育やICTデータ利活用を教師が持つべき資質・能力の柱に加えるとともに、具体的な研修の姿を示すガイドラインを作成する。参院文科委員会の審議では、新たな研修制度の導入に伴う教員の負担増への回避などが主な論点となり、そうした配慮事項を盛り込んだ附帯決議を議決した。参議院での審議を振り返り、ポイントを考えたい。

(教育新聞編集委員 佐野領)

参考人質疑:見解が分かれた背景は
教員免許更新制廃止法案などを起立採決で可決した参議院本会議(参議院インターネット審議中継から)

 政府が提案したのは、教員免許更新制を今年7月に廃止する教育職員免許法の改正案と、来年4月から教員一人一人の研修記録の作成を各教育委員会などの任命権者に義務付ける教育公務員特例法(教特法)の改正案。末松信介文科相は4月20日、参議院本会議での趣旨説明で、法改正の狙いについて「この法律案は、校長および教員の資質の向上のための施策をより合理的かつ効果的に実施するため、公立の小学校等の校長および教員の任命権者等による研修等に関する記録の作成、ならびに資質の向上に関する指導および助言等に関する規定を整備し、普通免許状および特別免許状の更新制を発展的に解消する等の措置を講ずるものである」と説明し、参議院での審議がスタートした。

 4月28日に参院文科委で行われた参考人質疑では、教員免許更新制の廃止と教員研修の記録作成を義務付ける新制度の導入を組み合わせた改正案の枠組みを巡り、中教審の関連審議に当たった戸ヶ崎勤埼玉県戸田市教育長が研修記録の義務付けを評価した一方、教育研究家の妹尾昌俊氏は「研修記録があるから教員の質保証になると考えるのは、論理的におかしい。関連する法改正は不要だ」と反対する意見を表明した。

 先に行われた衆院文科委員会の参考人質疑でも、同じ論点について中教審委員の加治佐哲也兵庫教育大学長と佐久間亜紀慶應義塾大教職課程センター教授の見解が分かれており、教員免許更新制廃止と新研修制度を組み合わせたところに今回の法改正のポイントがあることが、戸ヶ崎氏と妹尾氏の見解の違いから改めて浮き彫りになった。

 今回の法改正で教員免許更新制廃止と新研修制度を組み合わせた背景には、教員にとって負担となってきた10年ごとの免許更新講習をなくす場合、どうやって教員の質保証を行い、社会的な理解を得るか、という課題があった。教員全体からみれば少数であっても、児童生徒へのわいせつ行為など教員の不祥事が絶えない中、教員の質を保証する法的な枠組みがなければ、社会的な理解と与野党の合意は見込めない。こうした状況下、文科省と中教審は、教育職員免許法と教特法をセットで改正する道筋を描いた。衆院文科委の審議でも自民党議員は教員の質保証を重視する姿勢を表明。教員免許更新制の廃止を求めてきた日本教職員組合(日教組)の瀧本司中央執行委員長も新研修制度の導入には反対せず、結果として与野党が一致して教員免許更新制の廃止に踏み出すことになった。

 こうした教員の質保証を巡る法改正の背景を踏まえ、参院文科委の参考人質疑に立った戸ヶ崎氏は、新研修制度の運用に当たって「教員に対する性悪説ではなく、性善説に基づいたプロセス。教師一人一人を信じて寄り添う姿勢。これらを大切にしていく必要がある」と強調。出席した議員に、学校現場の教員たちに対する信頼を前提に制度を運用するように訴えた姿が印象的だった。

 妹尾氏は「教員の質の保証や、問題のある教員に対する対処は別の手段でやらないといけないこと。だから、(新たな研修制度を定めた)教育公務員特例法の改正は不要と考える」と指摘。明快な主張に、SNS上などで現場教員や学識経験者らから支持する声が広がった。

新研修制度:文科相、教員の負担増回避を表明

 教員免許更新制の廃止と教員研修の記録作成を義務付ける新制度導入の組み合わせを前提とした法改正の枠組みを踏まえ、5月10日に行われた参院文科委の審議では、新しい研修制度の導入が教員の負担増につながるのではないか、との懸念点が議論の焦点となった。末松文科相と日教組出身の水岡俊一議員(立憲民主)との質疑では、教員研修の記録作成に伴い、それぞれの教員が作成し、校長が教委などの任命権者に提出する研修リポートの簡素化が取り上げられた。

 水岡議員は「文科省は教員の主体的な学びが重要と言っているが、研修記録を作成しろ、その記録に基づいて管理職が指導助言をしろ、となると、教員の主体的な学びよりも管理統制をしながら教員を指導していくことにならないか」とただした。

 これに対し、末松文科相は「本法案では校長などの管理職が、教師自身の過去の研修の記録を活用しつつ、今後能力を伸長させ必要がある分野などの研修について一人一人の教師から相談を受けたり、情報提供や指導助言を行ったりすることとしている。それをどう考えるかということだが、ある中学校で教員や校長と話したところ、『研修そのものは高みを目指す上では大変有効。研修記録についても、学びの足跡として分かるようにしていくことは有効ではないか』との話だった」と、研修記録の必要性について理解を求めた。

 水岡議員は「学びの足跡を残すことも自分の励みになる。研修記録が全く要らないと言っているわけではない」と受け止めた上で、「ただ、学校現場では管理職が『研修で学校を2日も休んだのなら、研修リポートを1日10ページ、2日分で20ページ書け』と言い出すようなことになりかねない。だから、研修リポートは極めて簡素化し、例えば、5つの項目から1つを選んでレ点を付けるような記録にしてほしい」と、文科省が作成するガイドラインで簡素化された研修リポートの具体例を明示するよう迫った。

 末松文科相は「学校現場の校長や教員と話をすると、『研修に行ったら、リポートを書かなければいけないじゃないか』という話があふれかえるほど出てくる。ものすごい負担なんですね。リポートを書くことが研修の目的ではない。書くために子供たちの教育に差し支えが出るほど時間がかかってしまうようでは本末転倒になる」と指摘。文科省が作成するガイドラインについて「極めて簡素化するように、と文科省の課長にも言っている。リポートの提出については、できるだけ省略していく。重ねて私は極めて簡素化すると申し上げておきたい」と答弁し、研修リポートの作成による教員の負担増を回避する考えを明確にした。

 採決に合わせて議決された8項目の附帯決議では、「教員から研修の報告を求める場合には、報告等を簡潔なものとするなど、負担増とならないように留意する」などの配慮事項が盛り込まれた。

 文科省は今後、夏ごろにまとめる新たな研修制度のガイドラインについて、教員の質保証を念頭に置きながら、中教審が打ち出した「学びに専念する時間を確保した一人一人の教師が、自らの専門職性を高めていく営みであると自覚しながら、誇りを持って主体的に研修に打ち込むことができる姿を実現する」(加治佐兵庫教育大学長)というメッセージの実現と、学校現場の教員が最も懸念している新たな研修制度による負担増回避の両立を目指し、作成作業を進めることになる。

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