【GIGA2年目】認知特性に注目 端末や紙を使い分け

 相模原市教委はこのほど、GIGAスクール構想による1人1台端末の活用が2年目を迎えることを踏まえ、活用の手引となる事例集「さがみはらGIGAスクールハンドブック 追補編Vol.1」を公開した。これは、昨年3月に公開した「さがみはらGIGAスクールハンドブック」の内容から、さらなるステップアップを図るもので、「文章での説明が得意」「図での説明が得意」といった児童生徒の認知の特性に注目。それぞれがタブレット端末の機能や、時には紙を柔軟に選びながら、学びを深めていく取り組みが紹介されている。相模原市教育センター学習情報班の須藤雄紀指導主事に、これからのICT活用のポイントなどを聞いた。

得意な学習方法は一人一人異なる

 「授業中に、児童生徒の次のような場面に遭遇したことはないでしょうか。ノートはきれいだけど、内容を理解していない児童生徒が一定数いる。ノートやワークシートに書くことが全くできないが、話してみると内容をよく理解している…。このことは、課題の説明や示し方が、その児童生徒らの特性と合っていないために起きている可能性があります」――

 「さがみはらGIGAスクールハンドブック 追補編」の冒頭部分では、人間にはそれぞれの認知の特性があり、それによって「文章での説明が得意/図での説明が得意」「デジタル時計の方が見やすい/アナログ時計の方が見やすい」など、分かりやすいインプット、行いやすいアウトプットがあることを、同市の実践とともに記載している。

 さらに「授業中の説明の場面、児童生徒同士の意見交換などで、片方の特性による説明のみが行われると戸惑う児童生徒が現れてしまうことがある」として、タブレット端末のさまざまな機能や、時には紙のプリントなどを柔軟に選びながら、インプットとアウトプットの幅を広げていく――という考え方を示している。

 相模原市では2017年度から、小学校におけるプログラミング教育に先進的に取り組んでおり、児童生徒や教職員のタブレット端末の整備も21年1月末ごろまでに完了した。また「さがみはらGIGAスクールハンドブック」の公表後、21年9月からは、市立小中学校でのICT活用の様子を紹介する「さがみはらGIGA通信」を作成し、同市教委のウェブサイトで公開するなど、市をあげて端末の活用推進に取り組んできた。

「さがみはらGIGAスクールハンドブック 追補編Vol.1」を紹介する須藤指導主事

 今回の追補編の狙いについて、相模原市教育センターの須藤雄紀指導主事は「これまでも動画を見ることやアプリケーションを使うことはあったが、ICTの活用により、各教科等で探究のレベルを上げていく必要があった」と語る。「ただ、教員によっては、難しさを感じることもあるかもしれない。まずは、これまで通り、ICTを活用した授業づくりを少しずつ進めてもらい、徐々に子供たちの認知の特性に応じたICTの使い方を考えていってもらえれば」と、各学校での今後のさらなる取り組みの推進に期待を込める。

特性の違う生徒の考えをつなぐ

 昨年度まで、市立中学校で技術を教えていた須藤指導主事。実際に中学2年生で「エネルギー変換の技術」の単元を扱った時は、発電の方法やそれぞれの長所や短所などの情報を、グーグル・ワークスペースを使い、図や文章を用いて自由に整理させた。その過程で「紙に書きたい」という生徒は、紙を使ってもよいことにした。

 生徒たちはそれぞれ、自分が最も分かりやすい形で情報を整理していったが「整理するだけで終わってしまい、資源・エネルギーについての自分の考えを文章化するまでに至らない生徒もいる。中学校としては、自分の考えを言語化するところまでが狙いになる」と須藤指導主事は話す。

 考えをまとめる際には、他の生徒と話し合ってよいことにした。他の生徒の考えを聞いて、「自分の考えとは違う」「そこまで考えられていなかった」という気付きがあれば、新たな知識として、自分の考えに加えても問題ないことを伝えた。一連の取り組みの中では「最初のメモを紙に書き出し、それを見ながらグーグル・ワークスペースのアプリケーションに打ち込んでいった生徒もいれば、整理に使い、考えをまとめる時は、紙に書いた生徒もいた」と振り返る。

 「生徒の特性によって、情報の整理の仕方に違いが出る。特性の違う生徒の考え方をつないであげるのが教員の役目。それぞれの生徒に発表させることで、考えを深めていくことができる」と須藤指導主事。その上で「中学校の段階で情報を整理し、自分の考えを言語化できるようになるためには、小学校のうちに整理の仕方を知り、自分の得意・不得意に応じて、紙やデジタルのツールを選ぶ経験をしておくとよいのでは」と語る。

児童の思考の仕方が分かる(出所:相模原市教委「さがみはらGIGAスクールハンドブック 追補編Vol.1」)

 「さがみはらGIGAスクールハンドブック 追補編Vol.1」では、小学6年生の算数で「順序や組み合わせなどの事象について、落ちや重なりがないように、図や表などを用いて全ての場合を調べる」という事例を取り上げている=図表。まず個人でグーグル・ワークスペースのアプリケーションに自分の考えを書いていくが、途中で他の子の考え方を見てもよいことにする。それぞれの考えがまとまったら、学級全体で考えを共有し、比較する。授業の振り返りは、ワークシートかグーグル・ワークスペースのアプリケーションのどちらか、各自が選んだもので行う。

 児童のアウトプットを見ることで「分かりやすさの特性による、考え方の違いがうかがえる。これを全員で共有することで、自分が理解しやすい考え方を見つけ、分かることができる」と、追補編では説明している。

活用するためのチェックリスト

 追補編の中で印象的なのは、「学校生活DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の準備」として挙げられているチェックリストだ。「授業外の時間に、保管庫にタブレットPCをしまわせていない」「ログインは各自の好きなタイミングで許可している」「児童生徒の使用するアプリケーションについて『YouTubeを見てはいけない』など、発達の段階を考慮する以外は基本的に制限していない」――。

 導入時には、端末の使用をできるだけ制限しようとするルールを設ける地域や学校も多かったことを考えると、大きな違いがある。須藤指導主事は「端末を使っていく中で、自分自身で考えられる児童生徒を育てたい」と語る。

 「学校側が制限をかけるとしても、限界もある。休み時間にYouTubeで、授業に関係のない動画を見ることも考えられるが、児童生徒自身が問題意識を持った時に、課題として取り上げて、改善に向けて取り組むことがよいのではないかと思っている」

 GIGAスクール構想の本格始動2年目を迎えるに当たり、須藤指導主事は「学校生活全体のDXを意識し、授業だけでなく休み時間や委員会活動、家庭学習など、さまざまな場面でどうICTを活用するのかを考えていきたい。使うのが当たり前になると、使わない場面を意識的に作り出すことも考えられる。学びの内容や特性に応じて、各自がそれぞれ紙とデジタルを選択し、自由に使えるようになればよい。さらに、本当にその使い方が適切であったかどうか、別のやり方はなかったかについても、振り返ることができるようになってほしい」と期待を語る。

 須藤指導主事が中学校に勤務していた頃、ある学級でタブレット端末を使った授業をした後に、別の学級の授業で、生徒が異なる使い方を提案してきたことがあったという。「では、それでやってみよう」と受け入れると、最初の学級とは少し違う授業の流れができた。その後、最初の学級の次の授業で「別の学級ではこういう使い方をして…」と、生徒にフィードバックすることで、活用の幅がどんどんレベルアップしていく手応えを感じたという。

 須藤指導主事は「先生が使い方を全て把握しておく必要はない。児童生徒が新しい使い方をたくさん見つけてくれたら、『こういう使い方もできるかな』という目線で、取り組んでいってほしい。先生が『教える』というより、『つなぐ』という考え方に変わっていければ」と話す。

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