教育国債による財源確保、修学支援の拡充を提言 自民党調査会

 自民党の教育・人材力強化調査会(会長=柴山昌彦元文科相)は5月19日、岸田政権が掲げる「人への投資」の具体策について提言をまとめ、岸田文雄首相と末松信介文科相に手渡した。提言では、日本の財政における教育費の支出が先進国で最低水準となっていることを踏まえ、「教育予算はコストではなく、未来を創るための投資である」として、教育を使途に限定した税源の確保や教育国債の活用を例示しながら、「教育投資の抜本的拡充」を求めた。具体的な取り組み事項として、▽デジタルやグリーンなど成長分野について、大学学部の新設や再編、定員管理の規制緩和を行う▽専門学校や高等専門学校におけるデジタル人材育成の抜本的強化▽出世払い型の奨学金(日本版HECS)を2024年度に修士を対象に先行導入▽日本版HECSの学部生への対象拡大について、高等教育の修学支援新制度を見直し、26年度の導入を目指す▽理工系、農学系の学生や多子世帯を対象に、高等教育の修学支援新制度を活用するーーなどを盛り込んだ。

末松信介文科相(中央)に提言を手渡す柴山昌彦・自民党教育・人材力強化調査会会長(左)と堂故茂参院議員

 末松文科相に提言を手渡した後、記者団の取材に応じた柴山元文科相は、同じく「人への投資」を検討している政府の教育未来創造会議の検討内容を踏まえ、「項目的には教育未来創造会議の議論とかなり共通しているが、われわれの提言は、より具体的で、かつ明確で、高い球を投げていることが大きな特徴」と説明。「教育が今、新しい資本主義の中で極めて重要な位置付けになっている。(来年度予算編成の方針となる)『骨太の方針』でも、異例のことに1丁目1番地が人材育成という項目になる」と、提言の重要性を強調した。政府の教育未来創造会議では、岸田首相が末松文科相に具体的な施策の工程表を夏までに作るよう指示しており、柴山元文科相らは今回の提言の内容を工程表に反映させるよう求めた。

 提言ではまず、いま求められている教育の機能について「社会課題を成長のエンジンへと押し上げ、わが国の未来を支える人材育成の中核を担うのは、大学や高等専門学校や専門学校などの高等教育機関。これらの教育機能を抜本的に強化し、成長分野を学ぶ学生を中心に、 しっかりと鍛え上げ、社会に送り出す必要がある」と位置付けるとともに、「『誰一人取り残さない教育』の観点から、高等教育段階での経済的支援をさらに強化し、学修を支えていくことは不可欠」「予測不能な社会においては、何歳になっても学び直し (リカレント教育) ができ、その成果が企業においてしっかりと評価される環境の実現も重要」と整理した。大学の役割について「18歳成年がスタートした今、大学は、大人が自らの人生を切り拓くために学ぶ場であり、国としても自立した意志と能力のある者を全力で支えるという姿勢が必要である」と指摘している。

 その上で、財源確保の必要性を強調。日本は、国内総生産(GDP)に対し、国と地方を合わせた公財政における教育支出が占める割合が、先進国とされる経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最低水準になっているとして、「教育の質の向上に向けた教育条件整備や教育費負担軽減を一段と推進する必要がある」と指摘。「教育予算はコストではなく、社会的収益(税収増、社会保障費抑制等)の究極の乗数効果をもたらす、未来を創るための投資である」と位置付け、「教育を使途とする税財源の確保や、教育国債の活用も含め、教育投資の抜本的拡充を図る必要がある」と明記した。

提言について説明する柴山昌彦元文科相(中央)と堂故茂参院議員(左)、上野通子元文科副大臣(右)

 柴山元文科相は「資源がなくても、日本がここまで大きく発展してきたのは、人材に投資をしてきたから。それが今、他の国が人材投資に力を入れるようになり、日本は逆にその部分が手薄になってきたことが、日本の地盤沈下をもたらす大きな要因になっている。この危機感の下で、教育投資の抜本的拡充を求めた」と説明した。

 実施すべき取り組みとしては、まず、デジタルやグリーンなど成長分野への人材投資と大学など高等教育の対応を挙げた。具体的には、大学学部の新設や再編、定員管理の規制緩和のほか、専門学校や高等専門学校におけるデジタル人材育成の抜本的強化をすべきとした。柴山元文科相は「30年までにデジタル専門人材が40万人、50万人と不足していくことを考えると、定員管理を厳しくするのではなく、逆に専門学校も含めて臨機応変な処理をして、継続的な運営の支援に必要な基金も設立して後押ししていくことが必要」としている。

 次に、高等教育段階での学びを支える経済的な支援の充実を求めた。出世払い型の奨学金(日本版HECS)については、教育未来創造会議では博士課程を含めた大学院生を対象に検討しているが、提言では、2024年度に修士を対象に先行導入する考えを示した。この狙いについて、柴山元文科相は「博士課程を排除しているわけではない。博士課程については、10兆円の大学ファンドや生活費への支援が設けられていることにも配慮して、まず支援が非常に手の薄い修士に光を当てた」と説明している。

 注目される学部生への経済的な支援の拡充については、20年度に始まった高等教育修学支援新制度のさらなる活用を打ち出した。出世払い型の奨学金については、高等教育修学支援新制度の見直し規定を踏まえ、「必要な財源を確保し、26年度の導入を目指す」と、目標年次を明記するところまで踏み込んだ。
 
 これに先行する形で、現在、低所得世帯の学生を対象に授業料の減免と給付型奨学金の支給を行っている高等教育修学支援新制度について、理工系、農学系の学生や多子世帯にも対象を拡大することも明記した。柴山元文科相は「理工系や農学系、あるいは多子世帯については、授業料の減免と給付型奨学金の支給という2段階の階段だけでは、適切な対応にはなっていないと思っている。高等教育の無償化は国際的にも進められており、まずは『ここが足りない』というところに、より精緻な形での給付型の支援策をしっかりと進めることが必要だと思う。属性にもきちんと注目して支援していくという趣旨だ」と狙いを話した。

 教育を使途に限定した税源の確保や教育国債の活用など、教育投資の拡充とそれに必要な財源確保には、これまで財務省が教育投資への効果が明らかではないなどとして強く反発してきた。これについて柴山元文科相は「少人数学級の推進についても、同じことを財務省は言ってきたが、では、われわれが進めようとしている政策を、なぜ他の国では取っているか。日本の中だけで効果を検証することも大事だが、他の国が教育投資をやって、それが成功して日本より前にどんどん進んでいることが、非常に大きなエビデンスではないかと考えている」と、改めて教育投資の必要性を強調した。

自民党 教育・人材力強化調査会の提言に盛り込まれた取り組み事項

【1】成長分野への高等教育人材投資と分野再編

(手厚い支援)

①情報人材の倍増を含めたデジタル・グリーン等の成長分野へ大学学部の新設や再編を行う際の基準緩和、定員管理に関する臨機応変な定員枠の増加などの規制緩和

②専門学校や高等専門学校におけるデジタル人材育成の抜本的強化

③産官学ニーズに基づき、地元と協働して地域将来を支えるデジタル産業人材育成の高度化を目的とした高専の本科・専攻科における定員の増加や専門高校の高専への転換

④大学や高専が取り組むデジタル・グリーン等の成長分野への学部再編時の初期投資、開設年度からの継続的な運営への支援に必要な基金の設立などの取り組み

⑤大学・高専キャンパスのソフト・ハード一体となった共創拠点化への支援強化

(厳格な評価)

⑥大学ガバナンスの強化と定員割れ大学に対する厳格な対応や複数大学の連携・統合

【2】高等教育段階の学修を支える新たな経済的支援

①日本版HECSについて、令和6(2024)年度を目指し、修士を対象に先行導入する。

②学部生等への対象拡大については、学生本人の所得の捕捉と①の広がりを検証しつつ、高等教育の修学支援新制度の4年後見直し規定を踏まえ、必要な財源を確保し、令和8(2026)年度の導入を目指す。

③②の結論を得るまでの間、理工系および農学系の学生や多子世帯等に配慮し、高等教育の修学支援新制度を活用する。

【3】社会で学び続けるための環境整備

①デジタル・グリーン等の成長分野をはじめとした人材ニーズに、量・質ともに迅速に対応し、社会で即戦力となる人材を輩出するため、産学官連携の下で大学等におけるリカレント教育プログラムの開発支援と、学び直しを促進する環境整備とを、車の両輪として飛躍的に加速させ、就業者や女性など、社会人のスキルアップを強力に後押しする。

②大学等での学び直しの履歴をデータ化し、転職等の際に活用できるデータ基盤の整備とその活用促進

③地域の産学官等で、求めるプログラム等について議論する場を設け、産官学連携でプログラムを開発するなど、地域に密着したリカレント教育プログラム開発の支援

④コロナ禍で進んだオンラインでのリカレント教育の推進

【4】グローバル人材の育成強化

①「トビタテ!留学JAPAN」 の継続的発展など、企業が参画する若者の海外留学促進プログラムの推進

②大学の国際化に向け、英語によるカリキュラムの充実など、徹底した国際化に取り組む大学への重点的な支援

【5】デジタル技術を駆使したハイブリッド型教育の推進

①オンライン授業による修得単位のうち卒業要件にカウントできる単位数の上限 (124単位中60単位)の規制緩和

②利便性向上や国際的活躍促進に向けた、学修履歴証明書のデジタル化

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