子どもはもう限界 マスク着用の見直し求めた医師に聞く

 子どもの育ちを考える上でも、マスクについてはそろそろ考えなければいけない――。厚労省は5月20日、「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」での専門家らの意見を踏まえ、オミクロン株の感染拡大で一時的に推奨していた未就学児のマスク着用なども含め、新型コロナウイルスの感染防止対策としてのマスク着用について、屋外でソーシャルディスタンスが確保できている場合や、屋内で近距離であっても会話が少ない状況ならばマスクは不要という見解を改めて打ち出した。このきっかけとなったのが、13日の東京都医師会の定例記者会見での、同会理事の川上一恵医師(かずえキッズクリニック院長)からの提言だった。学校医として学校現場にも助言を行っている川上医師に、今回の提言の意図を聞いた。川上医師は「子どもが重症化しないことが分かってきているならば、必要以上の感染対策は解除すべきだ。いつまで子どもたちを劣悪な状態に置き続けるのか」と指摘し、見直しに向けた議論を促すとともに、学校現場にも「どうすればできるのかを考えてほしい」と呼び掛ける。

いつまで子どもたちに厳しい感染対策を求め続けるのか?

――このタイミングで提言をした理由を教えてください。

 新型コロナウイルスの感染拡大から2年が過ぎました。2年間でこのウイルスの正体がだいぶ見えてきたこと、そして、日本では大人のワクチン接種が3回目を迎え、当初はハイリスクとされた高齢者であっても、ワクチンを打っていれば重症化しにくくなっている現状があります。子どもがかかっても軽症な理由も分かってきました。子どもが重症化しないことが分かってきているならば、必要以上の感染対策は解除すべきです。いつまで子どもたちを劣悪な状態に置き続けるのかと、一石を投じたかったのです。状況に応じてマスクを外していこうという提案は、その最初のステップになると考えました。

マスクを着け続けることによる子どもへのさまざまな影響を考えなければならない時期に来ている

 特に、この2年間に子どもたちは学校行事や給食、遊びなど、さまざまなもので我慢を強いられてきました。そうした行動制限が子どもの心身に与える悪影響の方が深刻になりつつあります。子どもたちは今も素直に、給食は黙って食べ、手洗いを徹底し、マスクを着けながら学校生活を送っています。これだけ頑張れるのだから、マスクを外せるところでは外しても問題ないはずです。これからどんどん暑くなり、熱中症のリスクも高まる中で、大人も子どもも、ソーシャルディスタンスを保てるのであれば、マスクを外してもいいのではないでしょうか。

――どうして子どもは感染しても重症化しにくいのでしょうか。

 東京慈恵会医科大学呼吸器内科の吉田昌大助教の研究によれば、子どもが新型コロナウイルスに感染しても重症化しないのは、免疫系が成人とは異なるためであることが分かっています。成人の免疫系というのは、実際にウイルスに感染したり、ワクチンを打ったりといった獲得免疫が有意なのに対して、子どもの場合は自然免疫が有意です。

 つまり、体の中に入ってくるウイルスに対して、「これはコロナウイルスだ」「インフルエンザウイルスだ」と判断してそれに合わせた対処をするのではなく、相手かまわず戦いを挑むような免疫系が自然に備わっていて、これが非常に強いんです。子どもは頻繁に発熱しますが、それはまさにこの自然免疫が機能しているわけです。

感染リスクがどこにあるかを考えて準備すれば、できることはかなりある

――しかし、どんなときにマスクを外してよいか、なぜこれまではマスクを着けていなければいけなかったのに、これからは外してもいいのかを子どもたちに理解してもらうのは、なかなか難しいようにも思います。マスクを外すことに不安を感じる保護者もいるのではないでしょうか。

 中学生や高校生は自分でコントロールができますが、就学前や小学校低学年の子どもは周囲の大人が気に掛けながら、熱中症のリスクが高い場所では早めに指示を出すなどの対応が求められるでしょう。

 私が学校医として関わっている小学校の事例を紹介します。オリンピックでは、どのアスリートも競技中にマスクを着けてはいませんでしたが、競技が終わるとすぐにマスクを着けていたのが印象的でした。そこで、先生から子どもたちに「あれって格好いいよね。みんなもやってみようよ」と働き掛けてもらったんです。すると子どもたちは、体育の授業中も、自分が走る順番のときはマスクを外し、それ以外はポケットからマスクを取り出すようになりました。

 また、プールの授業もやりました。たまたまその学校は屋内プールだったので塩素濃度が一定に保てるという好条件もあったのですが、プールの授業のどこで感染リスクが高まるかというと、泳いでいるときではなく、更衣室で着替えをしているときです。そこで、校長と相談して更衣室として使う部屋を増やして、十分なスペースを確保することにしました。宿泊学習についても、保護者に新型コロナウイルスに対する正しい知識についてオンラインで説明会を開き、事前の体調管理に十分気を付けてもらって、熱が出たら休むことを徹底してもらって実施できました。

 他にも例えば、給食を食べるときは黙って食べるのは仕方ないにしても、すぐに食べてマスクを付けて、残りの時間を楽しく会話するといったことも考えられます。

 このように、感染リスクがどこにあるかを考えて、用意周到に準備すれば、できることはかなりあります。校長先生を中心に、何でも中止ありきではなく、どうすればできるのかを考えて、教職員や保護者のコンセンサスを取ってほしいと思います。学校医も養護教諭や校長の相談に乗ったり、協力したりできることはたくさんあるはずで、もっと学校と学校医が連携していかなくてはいけないとも感じています。

この先どうしたいのかを考えなければいけない時期に来ている

――この2年間で子どもたちの心身には、どのような影響が出ているのでしょうか。

東京都医師会の理事としてマスク着用の段階的な見直しを提言した川上医師(本人提供)

 学校医として関わっている学校には鼓笛隊があるのですが、この2年間、トランペットなどの管楽器を吹く機会がほとんどありませんでした。そこで、卒業式の前に、6年生が5年生に鼓笛隊を引き継ぐイベントがあり、間隔を十分に空けるなどの対策をした上で、最後くらいは思いっきり管楽器を吹かせてあげたいという提案がありました。しかし、当の子どもたちは「思いっきり吹くのは怖い」と躊躇(ちゅうちょ)してしまうのです。結局、これは実現しませんでした。

 運動が制限されたことによる体力の低下はもちろんですが、新型コロナウイルスは子どもたちの心理面にも暗い影を落としています。国立成育医療研究センターが定期的に行っている「コロナ×こどもアンケート」でも、うつ症状や無気力な状態になっている子どもたちが増えていることが指摘されています。そうしたことが分かっているのに、なぜ誰も声を上げないのかという思いが日に日に募っていました。

 それから、感染が怖いというのではなく、マスクを外すのを恥ずかしいと感じている子どもが増えているという報道もあります。これだけ長期にわたって日常的にマスクを着けていると、まるで下着のように、マスクを着けていないと落ち着かなくなってしまうのです。これは、09年に新型インフルエンザが猛威を振るったときも同様のケースが報告されていましたが、今回の方が深刻なのは言うまでもありません。

 人前でマスクを着けないのが怖いとなれば、コミュニケーションや人間関係にも影響が出ます。子どもたちは2年間、この状態を続けているのです。特に中学生や高校生は、修学旅行に行けなかったり、部活動も思い切りできなかったりして、一生に一度のかけがえのない時間を犠牲にしています。子どもたちにこれ以上の我慢を強いるのは、もう限界なのです。

 学校の先生は教育のプロです。どうか子どもたちの育ちや気持ちを第一に考えてあげてください。そして、私たち国民も、この先どうしたいのかを考えなければいけない時期に来ています。「僕たちはこんなに我慢しているのに、どうして大人はお酒を飲みに行けるの?」と、大人にとって耳の痛いことを訴えてくれた子どももいます。本当にその通りです。子どもたちと、子どもたちに接している人たちの声に、もっと大人が耳を傾けなければいけません。

(藤井孝良)

【お詫びと訂正】「東京慈恵会医科大学附属病院感染症科診療部長の吉田正樹教授」とあるのは、「東京慈恵会医科大学呼吸器内科の吉田昌大助教」の誤りでした。訂正して、お詫びします。

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