教員が主体的に学ぶ環境づくり 石崎全高長新会長に聞く

 今年度から新学習指導要領への移行が始まり、それに伴い2025年の大学入学共通テストも変更されるなど、転換期にある高校現場。5月25日の総会で新たに全国高等学校長協会(全高長)の会長に就任した、東京都立桜修館中等教育学校の石崎規生(のりお)統括校長に高校教育の課題についてインタビューした。高校現場に次々と改革の波が押し寄せる中で、石崎校長は「困っている学校に寄り添い、支えていきたい」と強調。教員の研修に関する管理職との対話について「個々の教員が学べるようにする環境づくりこそが、校長の仕事」と捉える。

誰もが頑張れるチャンスがある仕組みを

――昨年まで全高長の大学入試対策委員会委員長を務め、共通テストへの英語民間試験の導入では「待った」をかけました。

全高長の新会長に就任した石崎校長

 当時、全国各地の多くの校長から、「困っている地域の生徒に寄り添うべきだ」という声が上がっていました。民間試験を導入することによる経済的な格差や地域格差の問題が指摘される中で、自分の学校だけでなく、全国の学校の状況に目を向けなければならない。それが全高長の役割であり、原点だと思いました。

 大学入試対策委員会の委員長としてこの問題に関わる中で、大学入試について論じていても、人によって焦点の当て方が違っていて、高校の実態がよく理解されないまま議論が進んでいる点が気になっていました。そもそも、日本の高校生の大学進学率は55%程度なので、残りの45%は大学以外の進路を選んでいます。それにもかかわらず、「大学入試が変われば高校教育も変わる」という見方は、ずいぶん乱暴だと思いました。

――新学習指導要領で学んだ1年生が3年生になって受験することになる25年の共通テストでも、大きな変更が予定されています。

 新学習指導要領に対応した共通テストでは、受験生の負担が増える可能性があることが気掛かりです。情報が追加されることばかりクローズアップされますが、例えば数学でも単位数が増える科目があります。

 共通テストや大学入試の意味そのものが変わってきているのではないかと思います。ここ数年、大学入試では公平性とは何かが問われ続けています。共通テストで果たして受験生のどんな学力を測ろうとしているのか、総合型選抜の有利・不利が、例えば家庭の教育環境などに影響していることはないかなどにも目を向けていく必要があると思います。

 最近聞かれる「親ガチャ」という言葉に象徴されるように、自分の可能性を自ら閉ざしてしまっている生徒もいます。活力ある日本にするためにも、誰もが頑張れるチャンスがある仕組みを考えていかなければいけないのではないでしょうか。

――高校では今後、普通科改革やスクール・ポリシーの策定が本格化します。

 社会も生徒も多様化して、高校生のおよそ7割が通う普通科という大きなくくりでは収めきれなくなったという面はあると思います。学校の特色や魅力を打ち出す一方で、ミスマッチを起こさないようにするためには、この学校がどういう学校で、どんな生徒に来てほしいのかということを明確にする必要があります。

 特に、地方ではそもそも通える範囲にある高校が限られていて、都市部のように選択肢が十分にないところもあります。事実上選べないのに、スクール・ポリシーや特色を打ち出したときに、受験生が合わないと感じてしまったらどうするのかという声も聞こえてきます。特色化を進めるにしても、全国どこでも同じ教育内容を受けられるという共通部分はベースとして守らなければいけません。こうした地方の声に寄り添っていくことが全高長の役割だと思います。

教師が学びたいことを学べるようにする環境づくりが校長の役割

――先の国会で教員免許更新制が廃止される代わりに、研修について教員と管理職が対話をすることが求められるようになりました。

 教師の仕事には、確かにどの教師にも共通する部分はありますが、課題に感じていることや必要としていることは、それぞれ違います。従って、必要以上に型にはめた研修をするのではなく、個々の教員が学べるようにする環境づくりをすることこそが大切だと思います。生徒にも主体的な学びを求めているのですから、教員自身も自ら学び続ける姿勢を失わないでほしいと思います。研修のお金や時間、学ぶ場など、必要なことを支援していくことが大事で、そのための対話であるはずです。

 「研修」というと、どこかの会議室に集められて講師の話を聞くイメージがありますが、自ら必要なことを学びに行くことが本来の意味で、学び続けることのできる人が教員になり、生徒や保護者から信頼されることで、教職が社会から尊敬される職業になってほしいと思います。今は教師自身が本当にやりたいことができず、仕事の裁量や自由さを失ってしまっていて、それが教職に魅力がないことの一因になっているように感じます。

 教師には、いわゆる「やらされ感」ばかりの仕事や研修でくたびれるのではなく、やりたいことをやって、それぞれの強みを発揮してもらいたい。授業はもちろん、部活動でも、学校行事でも、進学指導でも、教育相談でも、それぞれの教師が大事にしているものがあり、それこそが教師の仕事の魅力なのだと思います。そして学校は、そうしたさまざまな個性が組み合わさって成り立っているのです。

 教員不足の問題は高校でも非常に深刻です。働き方改革はもちろん、一定の待遇の改善も必要ですが、教職を選んだ人はきっと、子どもの成長など、お金には代えられない価値をこの仕事に見いだしているから、教師になったのではないでしょうか。

 教育の成果は形にしにくいという難しさがあります。例えば、授業で生徒が目を輝かせるたり、何かに夢中になったりすることは、教育の力であり、魅力だと思いますが、それを確かめてもらうには実際に教室に来て感じ取ってもらうしかありません。結局、大学進学率や就職率といった形で、学校の成果を示すことになってしまいます。でも、本当は生徒の目の輝きこそ、今の社会が求めていることなのではないでしょうか。学校教育での学びの価値について、改めて社会が共通理解を持ってくれたら、教師の仕事も再評価されると思います。

校長会の存在意義

――改めて、全高長の会長としての抱負を聞かせてください。

「困っている学校に寄り添うのが全高長の原点」と語る石崎校長

 新学習指導要領のスタートや大学入試など、高校現場の課題や改革は山積みですが、25年度までに円滑に移行できるように、困っている学校に寄り添い、全国の校長先生方の力を結集して支えていきたいと思います。

 社会が多様化し、みんなが納得するような答えが出せない中で、校長は学校に1人しかおらず、なかなか相談できる相手がいません。だからこそ校長会の存在意義があると思います。校長が判断を誤らずに、かつ思い切った決断ができるように、背中を押していけたらと思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

石崎規生(いしざき・のりお) 1988年度に東京都立高校の数学科教諭として教員人生をスタート。都立中高一貫校の開設準備などに関わり、2013年度から都立高校の校長に着任、3校を経て現職。全高長では14年度から大学入試対策委員会専門委員、18~21年度まで、同委員会委員長を務める。趣味はアメリカンフットボールNFLの試合観戦。

あなたへのお薦め

 
特集