「家計の負担懸念」「持続可能な形に」 運動部活動の地域移行シンポ

 スポーツ庁は5月27日、運動部活動の地域移行に関するオンラインシンポジウムを開催した。この問題については同庁の検討会議で現在議論が進められており、シンポジウムでは4月末にまとめられた地域移行に向けての提言案を踏まえ、有識者や自治体関係者、スポーツ関係者が議論。「家計の負担増大を懸念」「地域移行で持続可能な形に」「教員が兼職兼業できる体制を」など、さまざまな意見が出された。

オンラインで行われた運動部活動の地域移行に関するシンポジウム(YouTubeの映像から)

 公立中学校での運動部活動については先行して土日の活動を、2023年度から全国で順次、地域での実施に移行させることを目指している。検討会議では円滑な地域移行を図るため、運動部活動が学校や教員の手を離れ地域に委ねられた場合の課題や解消策を提言案としてまとめた。

 この日のシンポジウムに出席したのは、柔道シドニー五輪金メダリストの井上康生氏、この問題と長く関わってきた内田良・名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授、「運動部活動の地域移行に関する検討会議」座長の友添秀則氏、西政仁・奈良県生駒市生涯学習部スポーツ振興課長、今井裕一・スポーツ庁政策課長の5人。

 冒頭、内田教授は「部活動が過熱して先生たちが忙しいということだが、それはやっぱり部活動が楽しく魅力が大きいからだ。楽しいからもっとやろうとする。その魅力そのものをできるだけ残しながら、どうやって持続可能な形に持っていくのかを考えることが必要」と発言。その上で、自ら昨年11月にウェブ上で行った教員調査を紹介した。それによると、部活動の地域移行を約8割の教員が望んでいることが分かったといい、「部活動そのものは魅力があるとしても、持続可能にしていくにはある程度、地域の力を借りながら回していかなければいけないというのは、学校教育の中ではかなり浸透してきた」と説明した。

 さらに最近よく聞く声として、家計負担の増大への懸念を挙げた。「月謝あるいは参加費といった形で徴収せざるを得ないような状況が生じるときに、それをどうやって抑制していくのかということは大きな課題。予算としてちゃんと充てていかないと、保護者の負担が非常に大きくなってしまう」と述べ、学校外での活動になった場合に発生する指導者への謝礼や施設の利用費などへの備えを指摘した。

 地方自治体の立場から西氏は「今回の取り組みは学校の先生の働き方改革の一環で始まった話だが、最も大切なことは生徒が主役ということ。そのためには保護者の理解が必要だ」とした。さらに「自治体内の学校全体の部活動数や指導者数、入部している生徒数、土日に活動している部活数などを知ることで、必要経費や今後の対応が見えてくる」と、部活動の正確な現状把握と分析が必要との認識を示した。

 部活動の受け皿となる地元のスポーツ団体とは、「日頃からしっかりとコミュニケーションをとることが必要」とし、移行後の指導者など人材確保については「生駒市でも現在の部活動の規模に対応するのに必要な人材を、地域の方で全て用意することはできないと考えている。部活動顧問をしている先生たちの協力は必須で、兼業兼職制度の確立が必要になる」と話した。

 検討会議座長を務める友添氏も少子化が将来のスポーツ環境にもたらす影響や、競技経験のない教員が部活動を担当することに触れながら、「これではスポーツの愛好者が激減して、やがて日本の生涯スポーツの進行も国際的な競技力も衰退するのではないかという危機感を持った。スポーツは地域の社会資本として、地域の治安や安全に貢献しており、健全な街作りに必須のソフトだ」と強調。地域移行を「スポーツの在り方の構造改革である」と認識し、「危機だとしても同時にやり方次第で大きなチャンスに変えることができる岐路に立っている」と述べた。

 そして、部活動が教員のボランティアで行われてきたことに言及し、「これからは、活動を続けていく上で受益者負担が原則になる。もちろん、経済的な困窮家庭には、国や地方公共団体から経済的支援が必要だ」などと述べ、内田教授らと同様、行政の支援が地域移行に欠かせないとした。

 また、中学時代に学校の部活動と地域の道場で活動していたという井上氏は「部活動、道場それぞれに良さがあり思い入れがある。それぞれの環境で成長させてもらい、多くの経験をさせてもらった。両方の良いところのバランスをうまく取った上で、スポーツ界が目指すべきしっかりとしたデザインを描いていけたら」とする一方、「やはり最終的には財源の確保が非常にポイントとなってくる」とした。

 シンポジウムの最後には、スポーツ庁の室伏広治長官が「学校の運動部活動は現在の形のままでは維持することが困難になっている。今が抜本的な改革を進める上でチャンスであり、少子化の急速な進展を踏まえると、最後のチャンスでもある。地域移行が小中学校の子供たちにとって、生涯にわたりスポーツを親しむ基盤を育むものとなっていくと思っている。今後も検討会議において取りまとめられている提言を踏まえて、運動部活動改革を加速していきたい」と結んだ。

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