「教職の魅力向上、働き方改革とセットで」 平井全日中新会長

 長引くコロナ禍に加え、深刻化する教員不足や部活動の地域移行、働き方改革など、多くの課題を抱える中学校の教育現場。全日本中学校長会(全日中)の新会長に就任した、東京都台東区立忍岡中学校の平井邦明校長は、全日中の重点課題に「教職の魅力向上」を挙げ、「苦しい声ばかりが上がっているが、子供たちの成長に携わり、大きな喜びが得られる仕事だと伝えたい」と語り、教員のよりよい働き方を実現していく必要性を指摘する。平井新会長に、中学校の教育現場での課題や今後の方向性、生徒たちと向き合う時に心掛けていることなどを聞いた。

仕事の満足度を高めつつ、家庭にも力を注げる環境を

――全日中の重点課題は。

 都市部だけでなく地方でも教員不足が大きな問題になっており、教員の仕事の魅力をいかに伝えていくかが重要だと思っています。もちろん、これは働き方改革とセットでなければいけません。本校の先生たちも「勤務時間、過ぎていますよ」と声を掛け合うなど、時間管理をしっかり意識するようになってきています。ただ、勤務時間内に収まりさえすれば魅力的な職業なのかといえば、そうではないはずです。

全日中の新会長に就任した平井校長

 子供たちにとって、中学校の3年間は後の人生の基礎となる大切な時期です。うまくいかないこともあるでしょうが、笑ったり泣いたりしながら、その成長に携わることができる教員の仕事は、大きな喜びが得られるものです。文科省の「#教師のバトン」プロジェクトでは、苦しい声ばかりが上がっていますが、良い面もたくさんあることを伝えたい。

 ただ、私たちの世代が「子供たちのために」という気持ち一つでやってきたことが積み重なって、いつしか過重な負担となってしまったのだろうか、と反省することもあります。教員となった2年目に初めて学級担任となった時はすごくうれしくて、掲示物を何時間もかけて作っていました。自分のやりたいことを、納得のいくまでやり切れる満足感があった一方、いかに仕事とプライベートの線引きをするか、いかに時間を効率的に使うか、という発想はあまりなかったのは事実です。

 「子供たちのために」という教員の思いはこれからも変わりません。だからこそ「勤務時間内に、ここまではやりたい」という仕事の満足度を高めつつ、家庭にもしっかり力を注げるような環境に変えていく必要があります。

――働き方改革の一環として、部活動の地域移行が検討されています。

 地域移行は進めた方がよいと考えています。働き方改革の側面はもちろんですが、教員が経験したことのない部活動を担当すると、適切な指導ができなかったり、安全面での不安が生じたりするという問題もあるからです。

 私もかつて、顧問の代わりにバレーボール部の試合の引率をしたことがありました。その時、監督である教員は試合中にベンチから席を外してはならないというルールがあることを知らず、うっかりお手洗いに立ってしまい、生徒たちの試合を中断させてしまったのです。体育館に戻った時の突き刺さるような視線は、今でも忘れられません。

 また、未経験の部活動であれば、どこに気を付けなければいけないかが分からず、うまく指導できないことも多くて、不安も大きいというのが実情です。子供にとっては部活動で活動の場が保障される一方、教員は安全面や技術面での正しい指導法を学ぶ機会が乏しいまま、顧問を引き受けていることもあります。真面目な先生が、自力で勉強しながら試行錯誤していることもあります。学校現場がこうした教員の「気持ち」に甘えてきてしまったというのが事実でしょう。

 ただ、良かれと思って引き受けたのに、経験がないばかりに事故を起こしてしまっては大変です。子供たちにとっては、きちんと指導できる人が指導して、技術を向上させるだけでなく、安全に活動できることが一番重要であり、そうした観点からも地域スポーツクラブなどの受け皿を整備していく必要があります。ただし、地域によっては、すぐに実現できないこともあるでしょうし、各地域で誰が中核となって音頭を取っていくのかも、議論の必要があると考えています。

「先生の方が偉い」という気持ちは持たない

――教員免許更新制が廃止され、新たな研修制度が導入される見通しです。

 私は、教員免許更新制を廃止してよかったと受け止めています。更新講習を受ける教員たちからは「受けたい講習はすでに満席になっていて受けられない」「決められた時間数を何とか埋めなければ」と悩む声が聞かれ、自分が何を学びたいかというよりも、「免許が失効するといけないから、やらなければ」という気持ちで臨んでいたようです。

 それよりは、教員が新たな研修制度の下、子供に向き合う上で自分に何が必要かを考えながら研修を受ける方が、よほど価値があるでしょう。例えば、東京都の教職員研修センターでは、職層や経験年数に応じて求められる力の程度を整理しているので、教員自身が自分の力を振り返って、得意なところをさらに伸ばしたり、足りないところを補ったりするきっかけになるはずです。

「管理職が、教員の資質や目指す方向性を一緒に考えていければ」と語る

 管理職はそうした教員の学びに対して指導助言を行うことになりますが、一方的に「これをやりなさい」と言われても、教員も動きたくないでしょう。「子供たちにとってプラスになるのは何か」という大きなテーマに結び付けつつ、「どうしてこの研修を受けようと思ったのですか」「実は授業中にこういうことがあって……」といった対話を通して、一人一人の教員の資質や目指す方向性を一緒に考えていければと思っています。

――GIGAスクール構想で整備された、1人1台端末の活用状況をどう見ますか。

 一気に整備が進んだので、学校現場としては「なかなか苦しかった」というのが本音です。まずは端末を使って何ができるのか、とにかく経験を積むしかない。事業者による研修会もありましたが、「何をどこまでできるかは何となく分かったけれど、実際に授業でどうやって使えばよいのか」と迷っていた教員は少なくなかったようです。

 現在は教科によっていろいろな使い方をしているようですが、教員がICTの効果を体感できなければ、やはり活用を進めるのは難しいと感じます。全日中で、全国各地の校長と情報交換をした時にも「機器の不具合に対応しているうちに、授業の時間がどんどん過ぎてしまう。それならば紙のプリントを配った方が、確実に予定通り、しっかり授業ができる」といった声も聞かれました。ICT支援員の配置状況も地域によってまちまちで、校内のICTに詳しい教員に負担が集中してしまうこともあります。

 そのため、やはり国や自治体の十分な支援が必要です。GIGAスクール運営支援センターの設置も進められていますが、教員が困った時に、すぐサポートが得られるような体制を作っていくことが重要ではないでしょうか。

――生徒と向き合う時、心掛けていることはありますか。

 決して「先生の方が偉い」という気持ちを持たないことです。たまたま先に生まれ、失敗も含めていろいろな経験をしているだけで、人間としての価値は同じですし、自分が中学生だった頃よりもはるかに可能性を秘めている生徒たちもいます。上下関係ではなく、人権という観点から、生徒との関係性を考えていく必要があります。

 本校には生活面での指導などを、手抜きせずきっちりと指導する文化があり、外からは「昔ながらの厳しい学校」と見られることもあります。生徒たちが教室を移動する時には整列し、無言で移動するのですが、私もこの学校に来るまでは見たことのない光景でした。ただその厳しさの背景には「校舎が狭く、走ったり、広がって歩いたりすると危ない」「話す声が響くと、まだ授業中のクラスに迷惑が掛かる」といった理由があることが分かりました。

 ですから、子供たちにも単に「やれ」と言うのではなく、一つ一つの行動に意味があることを伝え、考えてもらうようにしています。さらに、コロナ禍では常に標準服を着用というルールを緩和し、洗濯が容易なジャージでの登校を認めるなど、柔軟な対応をとっていますし、髪型や靴の色などの校則も生徒の考えを聞いて変更しました。生徒たちにもちゃんと考えがあるのですから、それにきちんと耳を傾けなければいけないと、改めて感じています。

(秦さわみ)

【プロフィール】

平井邦明(ひらい・くにあき) 1987年度、東京都の中学校教諭として教員人生をスタート。多摩地区の3校に勤務した後、東京都教育庁の指導主事、統括指導主事、主任指導主事(学力調査担当)、入学者選抜担当課長などを経て現職。専門は数学科、特別活動(学級活動)。毎朝、登校してくる生徒たちを正門で迎え入れるのが日課。

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