どうする部活動の地域移行 先行事例の模索で見えた課題

 土日を中心とした部活動の地域移行が来年度からスタートする。スポーツ庁や文化庁では検討会議を立ち上げ、具体的な地域移行に向けた課題を協議してきた。先行する一部の自治体では地域移行に向けたさまざまな取り組みが始まっている。そこではどんな工夫や課題がみられるのか。地域移行への模索を取材した。

悩ましい「指導者の確保」「経費」「活動場所」の問題

 昨年度から部活動の地域展開に向けた研究をスタートさせた静岡県掛川市では、2027年ごろをめどに、学校の部活動を地域団体が管理する「地域クラブ」に移行していくことを目指す。今年度からは専門性のある指導者の募集や中学生が活動できる地域のクラブを市が公認し、保護者や学校に紹介する「地域クラブ公認制度」をスタートさせた。市教委教育政策課教育政策係の沢田佳史(よしちか)指導主事は「指導者の募集状況は種目によって差があり、中には1人も集まっていないものもあり、競技団体に働き掛けていくことも考えている。しかし、指導者が全く集まらなかったときにどうするかも、ある程度想定しておかないといけない」と打ち明ける。

音楽への裾野を広げようと始まった掛川文化クラブの活動(佐藤理事長提供)

 地域移行を検討し始めた市の動きに先駆けて、吹奏楽や弦楽、合唱などの音楽活動を行う団体として昨年設立されたのが、NPO法人の「掛川文化クラブ」だ。市の生涯学習センターや市内の中学校などを会場に、週に1~2日の活動を行う。市内に住む小学4年生から高校生までを対象とし、昨年は20人を超えるメンバーが集まり、創設1年目ながら成果発表会も開くことができた。2年目を迎え、体験会には毎回15人ほどの参加者が来ているという。

 しかし、活動が軌道に乗り始めるとともに、課題も見えてきた。掛川文化クラブの佐藤真澄理事長は「『指導者の確保』『経費』『活動場所』の3つに頭を悩ませている」と苦労を打ち明ける。経費に関しては、今年度は文化庁の「地域文化倶楽部創設支援事業」の対象に選ばれたものの、それがなければ月1000円の会費だけとなり、運営は厳しくなる。指導者も増やしていきたいが、指導できる時間的余裕があり、専門性のある人材はなかなか見つからず、仮に適任者がいたとしても、無償のボランティアでは継続して関わってもらうのは難しい。

 また、音楽系の文化部で土日の地域移行を考えると、活動場所もネックになる。環境の整った公共施設を利用する場合であれば、例えば市のホールなどを使用することが考えられるが、多くの自治体でそうした施設は1カ所しかなく、そこから遠い地域に住んでいる子どもたちが参加するには、保護者の送迎は必須となる。そうした問題の解決策としては、中学校の音楽室を会場に使うことも考えられるが、体育館やグラウンドなどと違って、音楽室は校舎内にあるため、管理上の問題から土日の地域開放には向かない。「掛川文化クラブ」では、市内の中学校も吹奏楽部の活動拠点の一つとなっているが、さらに他の中学校で活動を増やせるかどうかは不透明な状況だ。

 佐藤理事長は「学校の部活動との連携を考える上でも、土日の活動などで地域のクラブが学校を使えるようにする必要がある。学校の部活動と地域のクラブでどのように役割を分担し、協力していくか。誰かがコントロールしていかないとうまくいかない」と指摘する。

生涯スポーツの視点で

 一方の運動部活動の地域移行を巡っては、民間のスポーツ産業や教育産業を所管する経産省も積極的な提言を行い、昨年度には全国10カ所で「未来のブカツ」と称したフィージビリティ・スタディ事業を行っている。

フットサルを体験する中学生(小林代表提供)

 人口約2万7000人の神奈川県二宮町にある地域密着型のスポーツクラブ「ラビッツクラブ湘南二宮」も、このフィージビリティ・スタディ事業に名乗りを上げ、二宮町やJTBと連携して、昨年秋から中学校の体育館を会場に、土日のフットサル活動を7回ほど試みた。町内にある2つの中学校から希望する生徒が集まり、1回につき2時間ほど汗を流した。参加した生徒や保護者からはとても好評だったという。

 二宮町教育委員会の田中明夫指導主事は「少子化が進み、人数が足りずに他校との合同チームで大会に出場せざるを得ない部活動が出ていた。生徒数が減少すれば教員の数も減るので負担も大きくなるが、部員がいるのであればなくしにくい」と、部活動の現状を説明。今回のフィージビリティ・スタディ事業をきっかけに、スポーツ庁の方針もにらみながら、同町の実情に合った部活動の地域移行の具体像を検討していくという。

 12年前に同町に移住し、「ラビッツクラブ湘南二宮」を立ち上げた小林等代表は「引退をなくしたい」と話す。「中学3年生の夏の大会で部活動は終わってしまう。それでは生涯スポーツにならない。何でもいいからスポーツを続けていくような世の中に変えていきたい。高校の部活動でスポーツをしなくても、地元のこうしたクラブに来て中学校の友達と一緒に楽しんでくれたらいいし、それがやがて、大学生や大人になってもスポーツを楽しんだり、子どもたちを指導したりするようになってくれれば」と願いを語る。今年度も中学校と連携して土日のフットサルの活動を展開しつつ、企業や他団体にも働き掛けて、他の競技や文化系の活動など、生徒の土日や放課後の居場所となる幅広いサービスを提供する「NINOMIYAモデル」の構想を描いている。

地域移行で部活動の教育的意義はどこへ?

 スポーツ庁の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」の提言案では、生徒数の減少による部活動の小規模化や部活動指導が教員の長時間労働の大きな要因になっているなどの理由から、23年度以降の3年間を改革集中期間と位置付け、土日の運動部活動の地域移行を推進していくとしており、今後、地域ごとに受け皿となるスポーツ環境の整備が検討されることになる。

 教育新聞で「『部活動問題』の論点整理」を連載した青柳健隆(けんりゅう)関東学院大学准教授は、提言案を「部活動の地域移行について『最大で最後のチャンス』という危機感が伝わってくる内容だ。少子化で従来の部活動を維持できなくなっているということが、これまではそこまでプレッシャーになっていなかった」と一定の評価をする。その上で、これから自治体が部活動の地域移行を検討する上では、一部の地域で行われていた小学校の部活動で地域移行した事例が参考になるとアドバイスする。

 「小学校の部活動で地域移行した事例を調査すると、学校が地域に丸投げするような形だとうまく引き継がれずに失敗することが見えてきた。うまくいっているところでは、移行期間を設け、団体との連絡調整の窓口を学校に置くなどの連携をしている」と指摘し、部活動の地域移行をする際には、地域移行後の部活動に参加している生徒の割合や活動日数・時間の確保などの評価指標を明確にしておく必要があるとも強調。

 「スポーツにしても文化活動にしても、試合に出ることや成功・失敗、感動などの日常にはない刺激を得られる場が部活動だ。子どもたちがそういう経験を享受できるようにすることが重要で、学校や地域からそれがなくなってしまうことこそが問題だ」と話す。

 一方、提言案に対して日本部活動学会会長の神谷拓関西大学教授は「例えば日本では海外に比べて地域のスポーツ施設は少ない。提言案では学校施設の地域開放を推進していくとしているが、これまでも学校施設の開放は行われているので、これ以上は難しいのではないか。部活動を地域で行うのであれば、そのための十分な予算を付けないといけないのに、そうした国の姿勢は見えない。このまま地域移行に突き進めば、財政が豊かでない自治体ほど厳しくなるし、受益者負担が大きくなり、経済的な理由で部活動に参加できない子どもが増えるかもしれない」と指摘。「そもそも今回の部活動の地域移行の議論は、教員の働き方改革の延長線上にある。そしてどちらも、お金をかけないで改革をしようとしている」と強く批判する。

 さらに神谷教授は「これまでも部活動を地域に移行しようとした取り組みはあったが、うまくいかないケースが多かった。そのこともきちんと総括されていない。本当に部活動を学校から切り離すべきなのか、お金をかけずに解決できるような問題なのか。そこには、部活動の教育的な意義について考える視点が抜け落ちている」と問題提起する。

(藤井孝良)

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