修学支援、多子世帯や理工農系の学生にも拡大 「骨太」原案

 政府は5月31日、経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)を首相官邸で開き、来年度予算の編成方針となる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)の原案を提示した。教育関連では、高等教育段階での新たな経済的支援として、給付型奨学金と授業料減免の対象を、中間所得層の多子世帯や理工農系の学部生に拡大。出世払い型の奨学金(日本版HECS)の本格導入に向けて財源確保と制度の検討を開始するとともに、先行して大学院生を対象とする出世払い型奨学金の制度を創設する。子供政策についても、出産育児一時金の増額など妊娠出産時の経済的負担の軽減を図る。また、子供政策を進めるための安定財源について「社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」ことを打ち出した。

修学支援新制度によって、低所得世帯の大学進学率は上昇している

 原案では、冒頭で「われわれはこれまでの延長線上にない世界を生きている」と切り出し、新型コロナウイルス感染症やロシアによるウクライナ侵略などを挙げながら、「内外の難局が同時に、そして複合的に押し寄せている」と指摘。いまの日本社会に求められているのは、「経済社会の構造を変化に対してより強靱(きょうじん)で持続可能なものに変革する『新しい資本主義』を起動すること」だとして、①人への投資②科学技術・イノベーションへの投資③スタートアップへの投資④グリーントランスフォーメーション(GX)への投資⑤デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資--の5つを重点投資分野に位置付けた。

 その上で、「人への投資」の一つとして「質の高い教育の実現」を掲げた。政府の教育未来創造会議の第一次提言を踏まえ、速やかに取り組むべき課題として「学びの支援の充実」と「大学等の機能強化」を挙げている。

 学びの支援の充実では、2020年度にスタートした高等教育の修学支援新制度で、低所得世帯の学生が対象となっている給付型奨学金の支給と授業料の減免について、中間所得層の多子世帯や理工農系の学部生に対象を拡大することを明記した。

 現行の高等教育修学支援新制度では、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)の場合、支給額が最大となる私立大学のケースで、授業料約70万円を上限とする減免と、生活費として自宅外生に返済不要の給付型奨学金約91万円が支給され、合わせて年間約161万円の支援を受けることができる。4人世帯で年収300万円以下では授業料や生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。こうした支援制度を中間所得層に拡大するに当たり、教育未来創造会議では、年収の上限を変更するのではなく、多子世帯や理工農系という、学生の属性に応じて支援を拡充する考え方をとっており、骨太の方針もそれを踏襲した。

 授業料無償化の対象となっていない学生を対象とした出世払い型の奨学金については、「安定的な財源を確保しつつ本格導入することに向け検討する」と書き込み、財源確保に取り組む姿勢を明確にした。同時に「まずは大学院段階において導入することにより、ライフイベントも踏まえた柔軟な返還・納付(出世払い)の仕組みの創設を行う」と盛り込み、大学院生を対象に先行して制度を立ち上げ、財源問題に取り組みながら学部生にも制度を拡大していく道筋を示している。

 こうした修学支援新制度の拡充について、自民党の教育・人材力強化調査会は先に「出世払い型奨学金を24年度に修士を対象に先行導入し、修学支援新制度の見直しが定められている26年度に学部生への拡大」という目標年度を定めた工程を明記するよう提言。財源として教育を使途に限定した税源の確保や教育国債の活用を例示した。これに対し、原案では安定財源の必要性を盛り込みつつも、「時限を区切ってはいない」(内閣府担当官)かたちになっている。

 大学の機能強化については、デジタルやグリーンなど成長分野をにらんだ大学の再編促進や産学官の連携強化を進めるため、大学設置の規制緩和、複数年度にわたる再編への支援、私学助成のメリハリ付けなどを進める考えを示した。「文理横断的な大学入学者選抜や学びへの転換」により、文系・理系の枠を超えた人材育成の加速も強調した。

 原案では、来年4月のこども家庭庁創設に向け、子供政策の推進も掲げられている。妊娠・出産支援として、出産育児一時金の増額など「経済的負担の軽減についても議論を進める」と明記。取り組むべき子供政策として「児童虐待防止対策のさらなる強化、ヤングケアラー、若年妊婦やひとり親世帯への支援、真に支援を要する子供や家庭の早期発見プッシュ型支援のためのデータ連係、医療的ケア児を含む障害児に対する支援、いじめ防止対策の推進」--を挙げた。

 こうした子供政策を進めるためには安定財源が必要だとして、「国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」と指摘。欄外の注記事項では「子ども・子育て支援のさらなる『質の向上』を図るため、消費税分以外も含め、適切に財源を確保していく」と踏み込んだ。また、安定財源の確保に向け、「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」と、財源確保に取り組む姿勢を強調した。

 子供政策の財源について、岸田首相はこれまで消費税増税を否定しており、新たな企業負担や社会保険料の上乗せなどが検討対象になるとの見方も出ている。夏の参院選後、来年度予算編成に向けて議論が本格化しそうだ。

「骨太の方針」原案に盛り込まれた教育・子供政策の記述

質の高い教育の実現

 人への投資を通じた「成長と分配の好循環」を教育・人材育成においても実現し、「新しい資本主義」の実現に資するため、デジタル化に対応したイノベーション人材の育成等、大学、高等専門学校、専門学校等の社会の変化への対応を加速する。このため、教育未来創造会議の第一次提言等に基づき、以下の課題について、必要な取り組みを速やかに進める。

 新たな時代に対応する学びの支援の充実を図る。このため、恒久的な財源も念頭に置きつつ、給付型奨学金と授業料減免を、必要性の高い多子世帯や理工農系の学生等の中間層へ拡大する。また、減額返還制度を見直すほか、在学中は授業料を徴収せず卒業後の所得に応じて返還納付を可能とする新たな制度を、授業料無償化の対象となっていない学生について、安定的な財源を確保しつつ本格導入することに向け検討することとし、まずは大学院段階において導入することにより、ライフイベントも踏まえた柔軟な返還・納付(出世払い)の仕組みの創設を行う。官民共同修学支援プログラムの創設、地方自治体や企業による奨学金返還支援の促進等、若者を始め誰もが、家庭の経済事情にかかわらず学ぶことができる環境の整備を進める。

 未来を支える人材を育む大学等の機能強化を図る。このため、大学設置に係る大胆な規制緩和や、複数年度にわたり予見可能性をもって再編に取り組める支援の検討、私学助成のメリハリ付け等も活用しながら、デジタル・グリーンなど成長分野への大学等の再編促進と産学官連携強化等を進める。その際、現在35%にとどまっている自然科学(理系)分野の学問を専攻する学生の割合についてOECD諸国で最も高い水準である5割程度を目指すなど具体的な目標を設定し、今後5~10年程度の期間に集中的に意欲ある大学の主体性を生かした取り組みを推進する。また、あらゆる分野の知見を総合的に活用し社会課題への的確な対応を図る 「総合知」の創出・活用を目指し、専門性を大事にしつつも、文理横断的な大学入学者選抜や学びへの転換を進め、文系・理系の枠を超えた人材育成を加速する。若手研究者と企業との共同研究を通じた人材育成等により大学院教育を強化する。

少子化対策・子供政策

 「こども家庭庁」を創設し、子供政策を推進する体制の強化を図り、常に子供の最善の利益を第一に考え、子供に関する取り組み・政策をわが国社会の真ん中に据えていく。

 結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指し、「希望出生率1.8」の実現に向け、「少子化社会対策大綱」等に基づき、結婚、妊娠、出産、子育てのライフステージに応じた総合的な取り組みの推進、 結婚新生活立ち上げ時の経済的負担の軽減や出会いの機会・場の提供など地方自治体による結婚支援の取り組みに対する支援、妊娠前から妊娠・出産、子育て期にわたる切れ目ない支援の充実、「新子育て安心プラン」の着実な実施や病児保育サービスの推進等仕事と子育ての両立支援に取り組む。妊娠・出産支援として、不妊症・不育症等支援や妊産婦支援・産後ケアの推進等に取り組むとともに、出産育児一時金の増額をはじめとして、経済的負担の軽減についても議論を進める。養育費の支払い確保と安全・安心な親子の面会交流に向けた取り組みを推進する。児童手当法等改正法附則に基づく児童手当の在り方の検討に取り組む。

 全ての子供に、安全・安心に成長できる環境を提供するため、教育・保育施設等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入、未就園児等の実態把握と保育所等の空き定員の活用等による支援の推進、SNS等の活用を含め子供の意見を政策に反映する仕組みづくり、学校給食などを通じた食育の充実、放課後児童クラブや子ども食堂等さまざまな子供の居場所づくり等に取り組む。

 子供の成長環境にかかわらず誰一人取り残すことなく健やかな成長を保障するため、児童虐待防止対策のさらなる強化、ヤングケアラー、若年妊婦やひとり親世帯への支援、真に支援を要する子供や家庭の早期発見プッシュ型支援のためのデータ連係、医療的ケア児を含む障害児に対する支援、いじめ防止対策の推進等に取り組む。また、市町村における家庭支援機能の強化、里親支援の充実等家庭養育優先原則の徹底、社会的養育経験者等に対する自立支援の充実等改正児童福祉法の円滑な施行に取り組みつつ、認定資格の取得促進を含む児童相談所等の質量の体制強化を推進する。

 子供政策を強力に進めるために必要な安定財源については、国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める。その際には、子供に負担を先送りすることのないよう、応能負担や歳入改革を通じて十分に安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、速やかに必要な支援策を講じていく。安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する。

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