教育DX「学校現場は社会変革と捉えているか」 中教審部会

 次期教育振興基本計画の策定に取り組んでいる中教審の教育振興基本計画部会は6月2日、第3回会合を開き、学校現場の教育DX(デジタルトランスフォーメーション)と、各自治体における基本計画の実効性という2つのテーマについて、次期計画の論点を洗い出す意見交換を行った。教育DXを巡っては、次期計画を策定するためには、DXの到来を社会変革と捉え、5年後10年後の学校の姿を描いて広く共有することが必要だという方向性が浮かび上がってきた。一方、基本計画の実効性については、都道府県や政令市では国の計画を受けた自治体単位の計画策定が進んでいる一方、小中学校の設置者である市町村では「体力の違い」によって策定が進まず、実効性に課題が残っていることが指摘された。

 教育DXについては、GIGAスクール構想や教育データの利活用を巡る政策論議に関わってきた堀田龍也委員(東北大大学院教授)が、教育の情報化の現状と次期計画の策定に向けて検討すべき論点を整理した。

教育DXの段階

 堀田氏は、教育DXの進展を3段階に分け、第1段階を「紙の書類などアナログな情報をデジタル化する」デジタイゼーション、第2段階を「サービスや業務プロセスをデジタル化する」デジタライゼーション、そして第3段階が目指すべきデジタルトランスフォーメーションで、「デジタル化でサービスや業務、組織を変革し競争優位性を確立する」と説明。そうした3段階で考えるとき、いまの学校は「GIGAスクール構想による端末整備によって、第1段階を始めるための道具がやっと来た」と述べ、学校現場のDXは第1段階の入り口に立ったところだとの見方を示した。
 
 その上で、次期計画での教育DXを巡る論点について、4つのポイントを挙げた。第1に「現段階は情報端末の利用頻度を高くする時期。第1段階から第2段階に誘導するあらゆる施策が重要」として、ネットワークなど情報環境のアセスメントが急務であり、端末の更新に備えた費用負担や財政措置の検討が必要だと指摘した。第2には、情報活用能力を確実に育成するため、体系的な教育が必要だと強調。「端末利用の頻度が情報活用能力の形成に大きく関係することが分かっている」として、当面は端末利用の頻度を上げることが重要とするとともに、教育課程の中で情報活用能力の育成に向けた工夫が必要との見方を示した。

 第3には、デジタル教科書の本格的な整備を求めた。義務教育段階では紙の教科書と同じようにデジタル教科書の無償化が必要だとする一方、デジタル教科書の配信や認証、インターフェースの不統一が大きな課題だと指摘した。第4には、教育データ利活用基盤の整備と学校における働き方改革の推進を挙げ、「教員の仕事にはテクノロジーでできることがいろいろあるのに、学校には予算が十分に投与されなくて、それを教員が全部やっているという現実がある」と述べ、教育DXによる教員の負担軽減を急ぐよう求めた。

オンラインで開催された中央教育審議会教育振興基本計画部会

 委員の意見交換で、永田恭介委員(筑波大学長)は「現実の教育現場を考えた時、第3段階の持っている意味を教えられているのだろうか。あるいは教える気があるのだろうか。小学校や中学校で、デジタルトランスフォーメーションは社会変革なんだということを、徹底的に教えなければ、単なる機械遊びとか、数学のクイズみたいになってしまう。それが一番心配。学習指導要領が新しくなって、本当にその意味を教えるようになっているのか。もしなってないなら次期計画に盛り込んでいかないと、将来のデジタル人材が育つなんて程遠いのではないか」と切り込み、GIGAスクール構想による端末整備の目的が教育DXを通じた社会変革にあるならば、その目的を学校現場にきちんと浸透させる必要があるとの見方を示した。

 これに対し、堀田氏は「全く同感。DXが学習内容として埋め込まれているというだけではなく、教員が社会の変革ということをちゃんと捉えて子供たちを育てているか、まだ大きな課題がある」と応じた。

 吉見俊哉委員(東京大大学院教授)は「教育DXが持つ一番の力は、横串の力だと思う。例えば、教科や分野、あるいは学校や学部など既存の縦割りを突き破り、さまざまな水平ネットワークを作っていく力がデジタル化の中にはある。それが学びにとって大きな意味を持つ」と指摘。重要なポイントとして、▽放送局のアーカイブなど映像コンテンツを授業や子供たちの学びに取り入れていく▽教育DXとオンライン授業をセットで議論し、違う地域や学校にいる子供たちがグループワークを行うなど、オンラインの可能性につなげていく▽情報過多の社会に生きる中で、フェイクニュースや怪しい情報への対応を含め、情報を批判する力を子供たちに教えていく--の3点を挙げた。

 学校現場が教育DXへの対応を迫られる中、学校設置者の立場である三好雅章委員(広島県福山市教育長)は「教育DXは社会変革だという問題意識はよく理解できる。一方で、GIGAスクール構想による端末やデジタル教科書などがさみだれ式に入ってくる中で、学校はそれを一つ一つこなしているのが現状だと思う。教員の資質能力や、教員に対する管理や指導の不十分さへの批判も十分に受け止める。それでも、明治以降、変わっていないと言われる学校が、この5年先10年先でどういう姿になるのか、イメージができない」と、率直に実情を説明。その上で、「不登校もどんどん増えている中で、5年後10年後の学校がどんな姿になるのか。そこから逆に戻ってDXによって学校に何を描くのか。国として実現したい価値や学校の姿を示す必要がある」と述べた。

 黒沢正明委員(東京都八王子市立高尾山学園校長)は「デジタル教科書は必要だと思っているが、子供たちは画面ばかりを見るようになる。ベテランの教員は子供たちの顔を見ながら指導するので、お手上げ状態になる。逆に若手教員は子供の表情に関係なく授業を進めていける。子供たちにとっても、不登校の場合は人の顔を見るのが苦手なので、デジタルで画面を見る方が学習は進む。しかし、もともと隣の子供と話すことも苦手な子供たちは、人の顔を一切見なくなってしまう。デジタル教科書を導入するときには、逆効果になる部分もあることを指摘しておきたい」と、教育DXが持つ問題点を挙げた。

 一方、各自治体における基本計画の実効性を巡っては、黒木淳一郎臨時委員(宮崎県教育委員会教育長)が同県の事例を紹介した。同県では県の教育振興基本計画を策定する際、市町村や学校現場などから意見を聞くなどの工夫を行っているものの、「多くの行政ルートとしては、国が県に、県が市町村に紹介し、市町村の教育長から市町村立の小中学校に伝わるという階層を経る。施策がきちんと市町村の小中学校まで届くのか(という懸念はある)」と述べた。

 加えて、県の総合計画や教育大綱など根拠法の異なる複数の施策が並立していることや、予算を伴う施策は議会スケジュールとの関係が大きく影響すること、自治体での教育振興基本計画の策定が教育基本法上、努力義務にとどまっていること――を、施策を浸透させていく上での課題として挙げた。

 こうした課題に対し、岩本悠委員(地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)は「関係者が対話や参画の機会をしっかり持つことが実効性につながる」と指摘。自治体内の複数部局、都道府県と市町村、大学や産業界などに加え、校長や教職員、児童生徒や保護者などの声を拾うことの重要性を指摘した。

 徳永智子臨時委員(筑波大学人間系教育学域助教)は「分かりやすい言葉で計画を作ること、つまりトップダウンではなく、現場のニーズも踏まえながら参照されやすい内容にすることをすごく意識する必要がある。例えば今回のキーワードである『多様性と包摂性』は、いろいろな意味合いがあり、意義が十分に共有されていない可能性がある。計画策定の過程で、都道府県や市町村の教育委員会と意見交換する場を設けることは重要」と指摘した。

 また、杉村美紀臨時委員(上智大学総合人間科学部教育学科教授)は「関係者の当事者意識をどのくらい盛り上げる場があるかが重要。行政から来たものを受け皿としてやるだけではなく、自分たちのアイデアを出せる場があると、自分たちが担い手になってやっていけるという意識が生まれるのではないか」と述べた。

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