新しい概念の文化部 Poccaが描く未来とPaletteの現在

 休日の地域移行への対応が喫緊の課題となっている部活動改革。しかし、さらにその先にある部活動の姿を構想して、活動を始めた団体がある。日本初の文化系・地域部活動として静岡県掛川市を拠点に活動を始めた「Palette(パレット)」は創設から5年目を迎え、メンバーの中学生が主体的に活動内容を決めたり、運営を担ったりする体制に進化。創設当初にPaletteを主催していた「ふじのくに文教創造ネットワーク」は解散し、新たにNPO法人として「日本地域部活動文化部推進本部(Pocca=ポッカ)」が設立され、地域と協働してアートプロジェクトの要素を取り入れた「地域部活」を全国展開しようとしている。そんなPoccaが描く未来とPaletteの現在を取材した。

「やりたいことがいろいろできる」5年目のPalette

 「演劇も歌もダンスも、それからMCもやりたい。裏方の仕事もやってみたら面白かったし…。ここは自分たちでやりたいと思ったら、いろいろなことができる。学校の部活動は本格的だし、大会に向けてみんなで頑張るのはいいけど、少し自由がない」

 Paletteの特徴についてそう話すのは、平日の夕方、掛川市の中心部にある社会教育施設「美感ホール」のソファーで演劇の台本を練っていた女子生徒。一緒に劇を作る仲間たちと談笑しながら、出てきたアイデアを次々にノートに書き留めていく。メンバーは在籍している中学校も学年もばらばらだが、あまり先輩と後輩といった上下関係やよそよそしさはない。

市内のさまざまな中学校から集まり、笑顔でダンスを楽しむメンバー

 中央のホールに目を移すと、音楽に合わせてダンスを踊るメンバーたちの姿。会場内を案内してくれた女子生徒もダンスメンバーの一人で、「K-POPが好きな子もいるし、『ジャニオタ』や『ボカロ』の曲を踊りたいって子もいる。最初は違う中学校の人だったのでちょっと“びびった”けど、いろんな話をして、一緒に踊っているうちに仲良くなった」とはにかんだ。当初は民間のダンス教室に通おうとしたが雰囲気が合わず、ここに来るようになったという。中には、「最初はダンスをしていたけれど、隣でやっている演劇にも興味を引かれ…」といったように、活動を移ったり掛け持ちしたりするメンバーも珍しくないそうだ。

 会議室では、アートとIT技術のグループが、それぞれパソコンやタブレットでオリジナルのイラストを描いたり、自分でプログラムしたゲームを見せ合ったりしていた。IT技術のグループにいた男子生徒は、プログラミング言語の「Java」を駆使して制作したタイピングゲームのソースコードを見せて解説してくれた。「これだけ高い技術があって、プログラミングなら一人でも学べるのに、ここに来るのはどうして?」と尋ねると、「確かに技術はあるけれどアイデアを練るのは苦手。ここに来れば、自分では絶対に思い付かないようなアイデアを友達がくれる」と答えた。

活動内容を決めるのも、運営するのも中学生

 当時は珍しかった文化系の部活動を地域で展開する取り組みとして、Paletteが産声を上げたのは2018年。ダンスや演劇など、中学校の部活動にはないような文化系の活動ができる場として、市内の中学生で希望する生徒が集まり、平日週2回、休日月2回の活動でスタートした。中学校でも学校の部活動と並んで地域の部活動として選択できるようになっており、認知度も徐々に上がってきて、部員も50人近くに増えた。

 その過程でPaletteは、静岡県文化プログラムの一環として一般社団法人の「ふじのくに文教創造ネットワーク」の主催・運営で行っていた形態を、少しずつ活動内容を中学生自身が主体的に考え、運営していく方向にかじを切っていった。

 主催がPoccaに変わり、毎週火曜日と木曜日の午後6時から8時までの活動が基本となった現在のPalette。活動中、会場に大人の姿を見掛けることはほとんどない。活動を直接見守っているのはPoccaの職員とシルバー人材センターからの派遣による計2人だけ。もし何か相談事があれば、オンラインでPocca本部にすぐに連絡が取れる体制になっているが、最近はそうした連絡もほとんどないという。

演劇のグループでは台本から全て中学生が考える

 その年の活動予算でどのような活動をするのかは、メンバーである中学生が話し合って決める。部長や副部長といった役職はあえて設けておらず、主に日々の活動やイベントの運営を行うメンバーがいる。その一人は「MC原稿で『進行をこうした方が盛り上がるかな』などと考えるのが楽しい。最初はアート活動のグループにいたが、だんだん表に出たり、表現したりするよりも、どうやればみんなが楽しくできるかを考えることの方が自分に向いていると気付いた」と、通常の部活動では逆に味わうことが難しい、裏方ならではの魅力を語る。

持続可能な地域部活動を全国に

 こうした文化系の地域部活動を全国に広げていこうと、「ふじのくに文教創造ネットワーク」理事長だった齊藤勇さんは、20年夏に同ネットワークを解散し、翌年に新しくPoccaを設立した。Poccaでは、子どもたちの興味や好奇心、自主性・主体性を尊重し、地域と協働した持続可能な取り組みこそが、地域部活動のミッションであると考え、文化、芸術、科学などの分野からさまざまなインスピレーションを受けながら、発想を広げたり試行錯誤したりし、中学生が地域で新しい価値を生み出していく姿を目指す。

 「最初から完成形があるわけではなく、設計図もない。みんなでアイデアを出し合い、好きなことややりたいことを一緒につくっていく過程で、今までにない価値に気付く。そんなアートプロジェクト的な活動を地域でやっていく。新しい概念の文化部活動だ」と、齊藤さんは従来の文化部活動とは一線を画すコンセプトを強調する。

 その実現のために、Poccaは運営や広報、専門家によるオンラインワークショップや全国配信イベントなど、高額な費用や手間が発生する業務の支援を行い、各地の活動拠点では、会場費やスタッフの人件費などの最低限の費用で地域部活動ができるようにする。Poccaと地域部活動の拠点がうまく役割分担をすることで、地域部活動のハードルを下げるのが狙いだ。

 Paletteをモデルにこの地域部活動を全国に広めていき、現在の中学生が30代になるころには、各地に地域部活動を根付かせ、全国的なネットワークをつくるという壮大なロードマップを描く。

Pocca本部からインターネット放送を行う目的で始まった新しい地域部活動

 その布石として今年度、PoccaはPaletteとは別にもう一つの地域部活動を始めた。全国の地域部活動の拠点をつなぎ、それぞれの活動紹介やPoccaのイベントの配信を行うインターネット放送に特化した部活動だ。これには2人の中学生が名乗りを上げ、映像編集などの技術を学ぶ傍ら、新しい部活動の名称などを考えている。今はまさに創部の真っただ中にある。

 齊藤さんは「人口減少で地域はさまざまな課題を抱えている。そこに中学生の柔軟な発想を取り入れて、地域の課題を解決し、全国に発信していくような活動を各地の自治体とPoccaが協働して展開する仕組みの提案をしていきたい。そこに文化系部活動の活路がある。そうしないと、部活動も地域も持続可能にはならない」と力を込める。

(藤井孝良)

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