教育改革に「教員不足解消」を追記 「骨太方針」閣議決定

 政府は6月7日、経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)と臨時閣議を相次いで開き、来年度予算の編成方針となる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)を閣議決定した。少子化対策と子供政策については、先に示した原案を修正。少子化の予想を上回る進展や、児童虐待、いじめ、不登校など子供を取り巻く状況の深刻さを指摘しながら、「こどもの視点に立って、強力に進めていく」と踏み込んだ。高等教育への修学支援新制度については、中間所得層の多子世帯や理工農系の学部生を新たに給付型奨学金と授業料減免の対象に加えることを原案通り明記した。学校関連では、教育DXと連動した教育のハード・ソフト・人材の一体的改革の推進を盛り込んでおり、その際の留意点として、原案で示していた家庭環境、学習環境の格差防止、個人情報保護、教員の勤務実態や働き方改革の進捗(しんちょく)状況に加え、「教員不足解消」を新たに追記した。

 今年度の骨太の方針は5月31日に政府が原案を示したが、与党との調整が難航。6月7日午前に与党の自民党と公明党がそれぞれ了承し、同日夕、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実行計画と合わせて閣議決定された。

 重点投資分野となった「人への投資」では、与党との調整の結果、少子化対策と子供政策の推進を改めて強調。優秀な人材がデジタルなど成長分野に移動することを念頭に、転職やキャリアアップ支援として2024年度までの3年間で4000億円規模の予算を投じることも打ち出した。個人の金融資産を貯蓄から投資に促す「資産所得倍増プラン」を年末までに策定する方針も明記。防衛力については「5年以内に抜本的に強化する」と目標期限を盛り込んでいる。

経済財政諮問会議で取りまとめを行う岸田首相(首相官邸のホームページから)

 岸田首相は経済財政諮問会議の最後に取りまとめの発言を行い、「本年の骨太方針では、機動的なマクロ経済運営によって経済回復を実現しながら、新しい資本主義の実現に向けた計画的で重点的な投資や規制・制度改革を行い、成長と分配の好循環を実現する岸田内閣の経済財政政策の全体像を示している。次は実行。参議院選挙後に、本日決定した方針を前に進めるための総合的な方策を具体化し、エネルギー分野を含め、経済社会の構造変化を日本がリードしていく」と意気込みをみせた。特に防衛費に言及し、「国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化する。将来にわたりわが国を守り抜く防衛力を構築すべく、さまざまな取り組みを積み上げていき、その上で、必要となるものの裏付けとなる予算をしっかりと確保していく」と述べた。

少子化対策と子供政策

 少子化対策と子供政策について詳しく見ると、21年の出生数が81万2000人と過去最少になったことを注記しながら、「少子化は予想を上回るペースで進む極めて危機的な状況にあり、児童虐待やいじめ、不登校等こどもを取り巻く状況も深刻で、待ったなしの課題である」と、強い調子の文言を原案に追加。来年4月に予定される「こども家庭庁」の創設で、政策推進体制を強化することを強調した。

 妊娠・出産支援として、出産育児一時金の増額など「経済的負担の軽減についても議論を進める」と明記。学校や保育施設などで働く人に性犯罪歴の証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入のほか、「予防のためのこどもの死亡検証(CDR)の検討」や「こどもの貧困解消や見守り強化を図るため、こども食堂のほか、こども宅食・フードバンク等への支援を推進する」と新たに追記した。

 こうした子供政策については「こどもの視点に立って、必要な政策を体系的に取りまとめた上で、その充実を図り、強力に進めていく」として、政策遂行の裏付けとなる安定財源の必要を指摘。「国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」と説明し、欄外の注記事項では「子ども・子育て支援のさらなる『質の向上』を図るため、消費税分以外も含め、適切に財源を確保していく」と踏み込んだ。また、安定財源の確保に向け、「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」と、財源確保には国民全体の取り組みが重要になることを強調した。

教育のハード・ソフト・人材の一体的改革

 初等中等教育については、「誰一人取り残さず、可能性を最大限に引き出す学びを通じ、個人と社会全体のWell-being(ウェルビーイング)の向上を目指す」ことを政策遂行の大きな方針に掲げた。そのためにあるべき資源配分の方向性については、現在、中教審で議論している次期教育振興基本計画で示す、とした。

 その上で、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の具体化を早急に実現するため、「教育DXと連動した教育のハード・ソフト・人材の一体的改革を総合的に推進する」と説明。この一体的改革を進めるに当たっての留意点として、原案では「家庭環境、学習環境の格差防止や個人情報保護、教員の勤務実態や働き方改革の進捗状況」としていたが、与党との協議などを踏まえ、「教員不足解消」を新たに留意点として追加した。

 学習指導要領が求める探究的な学びについては「発達段階も踏まえつつ、同一の年齢・内容・教材等の前提に過度にとらわれず、全ての学校段階において、探究・STEAM・起業家教育等の抜本強化を図る」と記述。来年度予算で小学4年生が対象になる「35人学級」については「小学校における多面的な効果検証等を踏まえつつ、中学校を含め、学校の望ましい教育環境や指導体制を構築していく」と、中学校にも35人学級を導入する道筋に触れた。

 また、学びの基盤的な環境整備として、▽非認知能力の育成に向けた、幼児期および幼保小接続期の教育・保育の質的向上▽豊かな感性や創造性を育む文化芸術、スポーツ、自然などの体験や読書活動の推進▽不登校特例校の全都道府県などでの設置や指導の充実の促進▽スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)の配置促進を通じた重大ないじめ・自殺や不登校への対応▽特異な才能への対応や特別支援教育の充実▽在外教育施設の機能強化▽公民館などの社会教育施設の活用促進による地域の人材育成力の強化▽セーフティプロモーションスクールの考え方を取り入れた学校安全の推進――を列挙した。こうした項目は、文科省をはじめ各省庁が今年8月末に予算要求を行う際の土台となる。

高等教育修学支援新制度の拡充

 学びの支援の充実については、ほぼ原案通りに閣議決定された。20年度にスタートした高等教育の修学支援新制度で、低所得世帯の学生が対象となっている給付型奨学金の支給と授業料の減免について、中間所得層の多子世帯や理工農系の学部生に対象を拡大することを明記している。

 現行の高等教育修学支援新制度では、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)の場合、支給額が最大となる私立大学のケースで、授業料約70万円を上限とする減免と、生活費として自宅外生に返済不要の給付型奨学金約91万円が支給され、合わせて年間約161万円の支援を受けることができる。4人世帯で年収300万円以下では授業料や生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。こうした支援制度を中間所得層に拡大するに当たり、政府の教育未来創造会議では財源問題も踏まえ、年収の上限を変更するのではなく、多子世帯や理工農系という、学生の属性に応じて支援を拡充する考え方をとっており、骨太の方針もそれを踏襲した。

 授業料無償化の対象となっていない学生を対象とした出世払い型の奨学金については、「安定的な財源を確保しつつ本格導入することに向け検討する」と原案をそのまま閣議決定しているが、その前段に「教育費を親・子供本人・国がどのように負担するべきかという論点や本制度の国民的な理解・受け入れ可能性を十分に考慮した上で」と新たに追記し、高等教育の費用負担の在り方について国民的な理解が必要になるとの姿勢を示した。同時に「まずは大学院段階において導入することにより、ライフイベントも踏まえた柔軟な返還・納付(出世払い)の仕組みの創設を行う」と盛り込み、大学院生を対象に先行して制度を立ち上げ、財源問題に取り組みながら学部生にも制度を拡大していく道筋を示している。

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