デジタル系部活動に熱い視線 IT人材が育つポテンシャル

 文化部の中でも普段はあまり目立たない存在の「パソコン部」などのデジタル系部活動に今、熱い視線が注がれている。経産省は3月に「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」の提言を取りまとめ、不足しているIT人材育成のために、産官学が連携したデジタル系部活動の支援を打ち出した。ところで、デジタル系部活動ではどんなことをやっているのだろうか。ユニークなデジタル系部活動の取り組みを紹介しながら、デジタル系部活動の持つポテンシャルを探る。

IT企業が中学生の合同部活動を支援

 平日の夕方、都会の街並みを見下ろす高層ビルに、学校を終えた中学生が続々と集まってきた。ここは中学生にとってもなじみのあるスマホゲームなどを展開するIT企業、ミクシィの本社。東京都渋谷区が今年度から本格始動させた「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」の一つ、「デジタルクリエイティブ&eスポーツ部」の活動が行われるのだ。

パイソンによるプログラミングの課題に挑戦する中学生

 学校の部活動がない水曜日の放課後を利用したこの活動。部員は区内の公立中学校に通う中学生で、約30人が入部を希望した。講師や会場、コンテンツなどは区内にある複数のIT企業が協力する。今年の活動の前半はプログラミングをテーマに、ミクシィがプログラミング言語の「Python(パイソン)」やAIロボットを活用した活動を提供する。

 ミクシィでは以前から区内の公立中学校の技術・家庭科(技術分野)の授業向けにプログラミングのできるアプリや教材を開発しており、アプリはすでに生徒が学校で使っている学習者用端末にインストールされている。この日の活動では、生徒は持ち込んだ端末からアプリを起動させ、パイソンのテキストコーディングの課題に挑戦。課題をクリアしていくうちに、自然と「繰り返し」の活用や変数の意味など、プログラミングの基本を習得できるようになっている。参加している生徒のスキルや知識にはかなりの差があり、次々にいろいろな席から質問の手が上がる。そのたびにミクシィの社員が駆け寄り、アドバイスをしていった。

 課題の合間に一息ついているところを見計らって、参加している生徒に声を掛けてみた。

 「学校の部活動はソフトテニスだけど、パソコンに興味があってこっちにも入ることにした。プログラミングはちょっと難しいけれど、課題がクリアできると楽しい」と話してくれたのは、中学2年生の女子生徒。小学1年生からプログラミングに親しみ、コンテストの入賞経験もあるという中学1年生の男子生徒は「パイソンはやったことがなかったから、やってみたいと思った。いずれはみんなが楽しめるゲームを作ってみたい」と意欲的だ。すでに違う中学校からの参加者とも仲良くなっており、課題の相談に乗ったり、プログラミング談議に花を咲かせたりしていた。

 講師を務めたミクシィの田那辺輝さんは「まずは実際に打ち込んでみて、どうなるかを試す。そうするうちにプログラムの意味が分かってくる。オンラインだとどうしても手が止まった子のフォローができないが、分からないことがあればすぐに教えられるのは、リアルな部活動ならではの良さだ」と説明する。

地域の名物となったプロジェクションマッピング

 デジタル系部活動の盛り上がりは都市部に限らず、地方も熱い。

プロジェクションマッピングで鮮やかに彩られた掛川城(吉川教諭提供)

 静岡県立掛川西高校のパソコン部の活動の目玉は、同高の隣にある掛川城を使ったプロジェクションマッピングだ。地元企業から寄付を募ったり、テーマに合わせて各地の学校とコラボレーションしたりするなど、すっかり地元の名物として定着した。

 「パソコン検定や文化祭の発表が終わると、あとはやることがないというのがこれまでのパソコン部の活動だった。生徒の間でも『何かやりたい』という気持ちがあり、化学反応が起きた」と、活動が始まったころを振り返るのは顧問の大橋雅則教諭。副顧問の吉川牧人教諭は「プロジェクションマッピングの技術を教えるのは教員ではなく、専門家にお願いしている。外部との交渉も含めて、学校の教員以外の大人と関わることで、生徒は想像以上のパフォーマンスを発揮している」と、生徒の成長に目を見張る。

 取材に訪れた日は、ちょうど定期テストの最終日で、テストが終わって本番まで10日を切った文化祭の発表に向けて、チームごとにゲーム制作や映像制作などのプロジェクトが佳境を迎えていた。3年生はこの文化祭の発表を最後に引退となる。

 「実際に掛川城で試写をしてみると、形や色、位置が思っていたのと違うことがよくある。本番までに微調整を繰り返して大変だった。でも、プロジェクションマッピングを見た人の『きれい』という言葉を聞くと、頑張ってきた努力が報われたようで、うれしくなる」と、3年生で部長(取材当時)の鈴木大翔(ひろと)さん。プロジェクションマッピングをやりたくてパソコン部に入部したという同じく3年生の田辺一真さんは「コロナで活動は制限されたけれど、やりたかったプロジェクションマッピングはできた。地域の人たちの協力があっての活動なので、これからも地域の人に愛される形で広がってくれたら」と、後輩に思いを託す。

高校生が地域の課題をICTで解決する

 高校生にとっても切実な地域の課題をICTで解決するPBLに力を入れる活動もある。テレワークをしながら自然が豊かな地方に暮らすライフスタイルを推進している岐阜県郡上市では、実際に移住してきた人たちが中心となり、地域経済の活性化や人材育成を手掛ける「HUBGUJO」が設立され、市内にある県立郡上高校、県立郡上北高校、角川ドワンゴ学園が運営する広域通信制高校のN高校、S高校の市内在住の生徒を対象に、複数の学校の生徒が一緒に活動する「郡上ICTクラブ」をオンラインで展開している。

岐阜県郡上市の地域課題を議論する高校生ら(HUBGUJO提供)

 現在は約60人の生徒が登録し、プログラミングやICTに関する講座を受けるほか、地域の課題解決をテーマにしたプロジェクト型の活動に取り組んでいる。後者では例えば「地方の交通課題」など、高校生でも身近なテーマを取り上げ、徹底的な議論をしながら解決策を練り上げていく。大人は、高校生が不足していると自覚した情報や経験値を補う活動をバックアップする役割に撤している。高校生同士の議論は、盛り上がって深夜にまで及ぶことも珍しくないそうだ。昨年度は、N高校、S高校が行っているPBL型授業「プロジェクトN」ともコラボレーションし、一緒に活動をしてきた。

 HUBGUJOの赤塚良成理事長は「卒業したら地域を離れていく高校生も多いが、この活動で学んだことを将来生かして、他の地域の課題を解決してくれるかもしれないし、郡上に戻ってきてくれるかもしれない。これからは高校生を主人公に課題を解決していかないと、持続可能な地域にならない」と強調する。

 しかし、課題も残る。高校生が放課後にこうした活動に参加するには、高校側の理解や協力は不可欠だ。また、各家庭に活動に必要なスペックを満たすパソコンを購入してもらったり、活動の参加費を徴収したりするのはなかなか難しい。現在は経産省や自治体などの委託事業を併用しながら、主に市民によるボランティアで運営しているが、社会全体でこうした活動の価値を認め、支えていく体制にしていかなければ継続は難しい。

 赤塚理事長は「高校生は地域課題にチャレンジする意義を感じて、喜んで取り組んでいるが、高校生に教えたり、一緒に勉強したりしてくれる大人を支える仕組みがない」と悩みを打ち明ける。

ジェンダーバランスの問題にも切り込んだ経産省の提言

 「小学校段階からプログラミングに親しむ子どもが増えている。そのスキルを生かしてほしいが、中学校や高校でどうやってモチベーションを高めて、大学や就職につなげていくかが課題。そうした子どもたちのニーズは、学校だけでは受け止めきれない」

 そう話すのは、経産省の「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」の座長を務めた鹿野利春京都精華大学教授だ。検討会が取りまとめた「Society5.0を見据えた中高生等のデジタル関連活動支援の在り方提言」では、学校の部活動に限らず、個人の活動も含めて中高生のデジタル関連活動を産官学が連携して支援していくことを提案。民間企業や団体などが学校や生徒に講師とコンテンツを提供するだけでなく、コンテストや大会を開催してモチベーションを高めたり、進学や就職でこれらのデジタル関連活動の取り組みを積極的に評価したりしていくことをうたっている。

 6月下旬には、若年層のデジタル活動を活性化し、提言の社会実装を目指す一般社団法人「デジタル人材共創連盟」も立ち上がり、大会のガイドラインを決めたり、学校現場の支援をしたりしていく予定だ。鹿野教授は「大会では、例えば社会課題をICTで解決するアイデアをプレゼンテーションするものや、デジタル技術を駆使した動画表現など、スキルの高さだけを競うよりも、いろいろな生徒が参加できるものを目指す。中高生には、自分たちの手で世の中を変えていけるという自信を持たせたい」と青写真を描く。

 この提言のもう一つの特徴は、これらの活動ではジェンダーバランスへの配慮を必要としている点だ。日本ではITに関する仕事は男性が行っているというイメージが強く、デジタル系部活動も男子生徒が多い傾向にあった。こうした環境は、情報系の大学に進もうとする女子生徒が少ないなど、進路や職業の選択に大きな影響を与えている。

 それはデジタル系部活動にも同じことが言える。実際に、今回取材した渋谷区の「デジタルクリエイティブ&eスポーツ部」や掛川西高校パソコン部でも、女子生徒の姿は少数だ。同高パソコン部の女子部員である2年生の西澤結衣さんは「システムエンジニアとして働いている従姉に憧れていて、将来は最先端技術を使った最前線の仕事をしたい。でも、もし女子が自分だけだったら、パソコン部には入っていなかったかもしれない」と話す。

 検討会の委員で、女性やジェンダーマイノリティーのIT人材の育成に取り組むWaffleの田中沙弥果理事長は「中高生の進路選択の段階でどれだけ介入できるかが鍵を握っている。大会やコンテストの運営などでも、参加者や審査員などに女性がどれだけ参加したかなどを指標にしていく必要がある。せっかくジェンダーバランスが提言に盛り込まれたのだから、絵に描いた餅に終わらせずに、ちゃんと実行して評価していくことが大切だ」と指摘。「女子中高生と年齢が近く、ITを駆使している女性のモデルを増やしていきながら、保護者や教員の意識も変えていけるように啓発していきたい。きっかけさえあれば、ITで活躍する可能性を持った女子生徒は全国各地にたくさんいるはずだ」と強調する。

(藤井孝良)

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