失効・休眠の教員免許保持者の活用「厳格に」 自民提言

 教員免許更新制の廃止に伴い、新たに導入される教員研修制度のガイドライン作成に向け、自民党は6月14日、「教師の指導力の確保・向上のための提言」をまとめ、末松信介文科相に提言を手渡した。提言では、新たな研修制度によって教員の個別最適な学びと協働的な学びを実効あるものとすべきだとして、教員への指導助言を担う校長のマネジメント力の向上や、さまざまな研修プログラムを一元的に提供し、最適な学習コンテンツを選びやすくするためのデジタルプラットフォームの構築を求めた。一方、教員の教育力を担保するため、失効・休眠状態になっている教員免許の保持者を教壇に立たせる場合には厳格な選考を行い、必要な研修を実施する必要を明記。期待される水準の研修を受けていると認められず、指導力が不足している教員には分限免職、教員以外の職に転任、再研修などの厳格な対応を促し、「教員免許更新制の廃止によって万が一にも教育力が不足した者が教壇に立つことがないようにすべきである」と、教員の質の確保を強く求めた。

末松文科相(中央)に提言を手交する自民党文科部会の山本部会長(左)とプロジェクトチームの伊藤座長(右)

 自民党文科部会では、教員免許更新制を今年7月に廃止する教育職員免許法の改正案と、来年4月から教員一人一人の研修記録の作成を各教育委員会などの任命権者に義務付ける教育公務員特例法(教特法)の改正案が開会中の国会で成立したことに合わせ、今後の教員の在り方について「教師の研修向上実行プロジェクトチーム(PT)」を設置して計9回の集中的な議論を行い、10項目にわたる今回の提言をまとめた。

 プロジェクトチームの伊藤信太郎座長(衆院議員)は、末松文科相への提言手交後、記者団の取材に応じ、提言の内容について「2つの点が重要であり、大変議論した」と振り返った。

 1つ目の論点は、教員の個別最適な学びを実現するための環境をどのように整備するかだったという。「個別最適な研修と言っても、教員の意見と、校長の意見と、市町村教育委員会の意見と、県教委の意見と、それから国の意見があり、それらが全く同じということではないと思う。その間をどう調整してしっかり個別最適にするのか。オンデマンドのコンテンツが広がる一方、校内研修はこれからもっと充実してくるので、教員にとっても校長にとっても研修の選択肢がすごく多くなる。こうした状況で、個別最適な研修を選ぶためには、そうした研修の選択肢を一覧で見られるデジタルプラットフォームが必要になる」と説明した。

 こうした個別最適な教員の学びを実現する環境整備は、提言に持ち込まれた10項目のうち8項目を占めた。まず、校長などが行う教員への指導助言について、「主観的評価ではなく、客観的な根拠に基づいた評価となるよう、資質能力の評価モデルを確立すること」を求め、「科学的知見に基づいた効果的な手法の活用について、本年度内に一定程度のめどを付けて運用を始め、それを全国的に普及促進すること」を明記している。

 校長の役割も重視。「指導助言等の直接の担い手となる校長に対し、自らが所属教師の人材育成をマネジメントする一義的責任を有することを認識させる」と同時に、「教師の個別最適な研修を指導助言する力や校内研修・校外研修のバランスも含めたマネジメント力を向上させるための研修を実施する」と、校長の資質能力の向上を求めた。

 学校の働き方改革を進める視点から「職務として行う研修は勤務時間内に行われるものであることを前提に、過度な負担とならないよう留意すること」とした。任意で行われる自主研修についても「教師の資質向上につながるものであることから、研修等に関する記録の対象とすること」と明記している。

 研修の選択肢を一覧で表示するデジタルプラットフォームについては「都道府県・政令市教委の教育センターなどが、域内の教員の学びのセンター的機能を発揮し、校長等から教師への個別最適な研修の指導助言等をサポートするための体制を整備する」と説明。国に対しては、こうしたプラットフォームの構築に当たって自治体と緊密に連携することを求めた。

 研修のさらなる高度化に向け、教職員支援機構の機能強化にも触れている。▽ICT活用や特別支援教育など喫緊の教育課題に対応し、修得確認機能を備えたオンデマンド研修コンテンツの開発・拡充▽全国的な研修履歴記録システムと大学、民間等が提供する良質な学習コンテンツを一元的に収集・整理・提供するブラットフォームの一体的構築▽デジタル技術を活用した研修施設・設備の整備--などを挙げながら、「集合型とオンライン型のベストミックスによる新たな研修開発・実施の全国的な中核拠点」と位置付けている。

記者団の取材に応じる自民党文科部会の山本部会長(右端)とプロジェクトチームの伊藤座長(右から2人目)

 伊藤座長が挙げた2つ目の論点は、教員の質の確保だった。「教員の教育力が、公教育の教壇に立つのにふさわしいラインをちゃんと確保されているのか。これをどういう形で確認するか。公教育の小中学校では、児童生徒には選択肢がない。ある地域に住んでいれば、学区で『この小学校に行きなさい』と言われ、その小学校へ行くと『あなたは何組ですよ。担任はこの先生ですよ』と言われる。万が一、当たった担任の教育力が十分じゃなかった場合、その児童生徒の一生には、いい影響を与えないだろう。だから、そういうことがないように、公教育の教壇に立つ教員については、しっかり教育力が担保できるようにしなければならない」と、考え方を説明した。

 教員の質の確保について、提言では2項目を当てている。教員免許更新制によって教員免許状が失効または休眠状態になっている教員免許の保持者を教壇に立たせる場合には「任命権者が総合的な教育力のチェックを行うなど厳格に選考を行い、その能力・適性等を見極め、その前後に必要な研修を実施することも含め、適格性を備えた者のみが教壇に立つようにすること」と明記。国に対して「基礎的な知識等を身に付けられるような学習プログラムを提供し、教育委員会における採用の際に活用するなど、質の確保に取り組むこと」を求めた。

 文科省が新しい教員研修のガイドラインで示す予定の「期待される水準の研修を受けているとは到底認められない教員」への対応については、「各地域・学校によってその対応に差異が出ることがないよう、職務命令による研修受講の対象となるケースを具体的に明示するとともに、厳格に対応すること」と、透明性を確保しながら厳しく対処する考えを示した。

 さらに「指導力不足教員には指導改善研修を確実に実施し、その状況を踏まえて、分限免職、教員以外の職に転任、再研修等の必要な措置を実施すること。指導力不足には至らないが指導に課題のある教師については、その指導力の状況を把握し、指導が不適切な状態に至る前段階の研修受講を強く指導するなど未然防止の取組を強化すること」と踏み込んでいる。

自民党文科部会「教師の指導力の確保・向上のための提言」の主な内容

 教師には、使命感、倫理観、社会性などの人格的な素養を基盤として、各教科等の内容や、教育・指導方法、児童生徒との関わり方などに関する専門的知識や技能が求められ、これらの資質能力を総合した教育力の確保・向上が必要不可欠である。

 官民一体となって、Society5.0を目指す中、全ての小中学校へ一人一台の情報端末の配布がコロナ禍の下で加速化され、新学習指導要領の全面実施も始まった。わが国の学校を取り巻く状況は大きく変化しており、それに伴い、教師に求められる資質能力や役割も変化しつつある。

 一方、経験豊富な教師の大量退職と若手の大量採用や、それを背景とした教員採用倍率の低下と臨時的任用教員等が補充できない教師不足の深刻化、依然として厳しい教師の長時間勤務の実態などにより、教師の確保にも支障を来す状況が顕在化する中、地域や家庭における教育力の低下が指摘され、子供達の多様性等にも起因した複雑化・困難化する学校課題への対応なども相まって、わが国の学校教育を支える中核である教職の在り方が揺らいでいる。

 このような中、第208回国会において、教育公務員特例法および教育職員免許法の一部を改正する法律が成立し、研修等に関する記録の作成および資質の向上に関する指導助言等を教育委員会に義務付け、新たな研修制度に移行することに伴い、教員免許更新制が発展的に解消されることとなった。新たな研修制度の下で、教師の個別最適な学び、協働的な学びを実効あるものとすべきである。

 特に以下の事項について、政府に早急な取組を求める。

  1. 研修等に関する記録を活用した資質の向上に関する指導助言等に当たっては、毎年度、各教師の研修成果の確認を確実に実施すること。その際、主観的評価ではなく、客観的な根拠に基づいた評価となるよう、資質能力の評価モデルを確立すること。そのため、民間・大学等の力も借りた科学的知見に基づいた効果的な手法の活用について、本年度内に一定程度のめどを付けて運用を始め、その改善を図りつつ、それを全国的に普及促進すること。
  2. 指導助言等の直接の担い手となる校長に対し、自らが所属教師の人材育成をマネジメントする一義的責任を有することを認識させるとともに、校長同士のネットワークも活用しつつ、教師の個別最適な研修を指導助言する力や校内研修・校外研修のバランスも含めたマネジメント力を向上させるための研修を実施すること。その際、職務として行う研修は勤務時間内に行われるものであることを前提に、過度な負担とならないよう留意すること。また、自主研修は任意で行われるものであるが、教師の資質向上につながるものであることから、研修等に関する記録の対象とすること。
  3. 指導助言者として最終責任を有する市町村教育委員会等が、各教師に対する面談などの直接の指導助言を担う学校長等を適切に指揮監督すること。
  4. 校内において、校長等管理職が教師と頻繁にコミュニケーションを取りつつ、日々の授業観察を行い、所属教師の指導力の状況を把握する体制を整えること。
  5. 都道府県・政令市教育委員会の教育センターなどが、域内の教師の学びのセンター的機能を発揮し、校長等が多様な研修プログラムを一覧できるようにするなど、校長等から教師への個別最適な研修の指導助言等をサポートするための体制を整備すること。 国は、「プラットフォーム」の構築に当たり、 これらのサポート体制の整備と緊密に連携を図ること。
  6. 研修等に関する記録については、デジタル技術を活用し、効率的な記録作成・管理・閲覧等を可能にするとともに、全国的な通用性を確保するため、国が主導して情報システムを開発すること。
  7. さらなる研修高度化に向け、 ICT活用や特別支援教育など喫緊の教育課題に対応し、修得確認機能を備えたオンデマンド研修コンテンツの開発・拡充、全国的な研修履歴記録システムと大学、民間等が提供する良質な学習コンテンツを一元的に収集・整理・提供するブラットフォームの一体的構築、デジタル技術を活用した研修施設・設備の整備など、 集合型とオンライン型のベストミックスによる新たな研修開発・実施の全国的な中核拠点として教職員支援機構の機能強化を図ること。
  8. 教員免許更新制の成果を継承し、新たな教師の学びに生かすため、大学・教職大学院と都道府県・市町村教育委員会とが連携協働した研修の企画・実施を一層充実させること。教職大学院修了者に、早期に学校管理職を経験させた後、大学で実務家教員として教員養成を担うといったキャリアパスを設定するなど、学校現場と大学教職大学院との人材育成の好循環を実現すること。
  9. 教員免許更新制の下で免許状が失効・休眠状態となっている者を教壇に立たせる際には、任命権者が総合的な教育力のチェックを行うなど厳格に選考を行い、その能力・適性等を見極め、その前後に必要な研修を実施することも含め、適格性を備えた者のみが教壇に立つようにすること。 国は、そのような者が入職する前に、基礎的な知識等を身に付けられるような学習プログラムを提供し、その改善を図りつつ、教育委員会における採用の際に活用するなど、質の確保に取り組むこと。
  10. 期待される水準の研修を受けているとは到底認められない教師に対しては、各地域・学校によってその対応に差異が出ることがないよう、職務命令による研修受講の対象となるケースを具体的に明示するとともに、厳格に対応すること。 指導力不足教員には指導改善研修を確実に実施し、その状況を踏まえて、分限免職、教員以外の職に転任、再研修等の必要な措置を実施すること。指導力不足には至らないが指導に課題のある教師については、その指導力の状況を把握し、指導が不適切な状態に至る前段階の研修受講を強く指導するなど未然防止の取組を強化すること。 指導力が一定水準に達しているかどうかの判断に当たっては、任命権者である都道府県・指定都市教育委員会は積極的に関与し、例えば、 校長等による授業観察、評価の実施、専門家等による授業視察や意見聴取などを含め、総合的・客観的に判断するよう、国は考え方を示し、徹底すること。

 これらの事項を通じて、個別最適な研修制度を充実させることにより、教師が本来持っている潜在的な可能性を引き出し、日本の未来創造に向けて、教育の環境整備を進めつつ、教師の不断の努力によって教育力を発展的に向上させていくべきである。 研修制度の改善と教員免許更新制の廃止に当たっては、公立小・中学校等の児童生徒には教師の選択権がないことを踏まえ、将来を嘱望されている児童生徒が不利益を被ることのないよう、今後も必要な制度改正や適正な運用を行い、教員免許更新制の廃止によって万が一にも教育力が不足した者が教壇に立つことがないようにすべきである。

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