子ども施策の前進に関係者も期待 権利保障が今後の課題

 子ども施策の司令塔となる新たな省庁として「こども家庭庁」を設置する「こども家庭庁設置法案」と、子どもの権利の保障を明文化した「こども基本法」が6月15日に参院本会議で可決、成立したのを受けて、これらの法律制定に奔走してきた関係者は一様に胸をなでおろした。今後、こども家庭庁は来年4月1日の開設に向けて、政府内に設置準備室が設けられ、「こども政策大綱」の策定に向けた議論も始まる。今後の課題として多くの関係者が共通して指摘したのは、これからの日本社会で子どもの権利を保障していく重要性だった。

子どもの意見をどう聞いていくかが重要ミッション

 こども家庭庁を巡っては、昨年4月、自民党の若手議員らによる「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」がまとめた提言に対し、菅義偉前首相が党内での議論を指示したことがきっかけだった。その「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」はこども家庭庁設置法とこども基本法の成立を受けて、6月15日夕方に32回目となる勉強会をオンラインで開催。こども家庭庁設置法を担当した宮路拓馬内閣府大臣政務官も出席し、来年4月1日のこども家庭庁の発足に向けて、今後の具体的な構想を説明した。

こども家庭庁が担う主な業務

 宮路政務官は「これまで、厚労省、内閣府、そして文科省と、子どもあるいは教育は、3つの役所に分割されていたが、その下で課題としては認識されてはいて、これまでずっと長く措置が講じられていたものの解決に至っていない、あるいは過去最悪の状況になっているものもある」として、いじめ・不登校の問題を例に挙げ「こども家庭庁が文科省的アプローチの外からいじめ・不登校にコミットしていく。これも、こども家庭庁ならではの重要なミッションだと思っている」と述べた。

 また、「これまで子ども施策はどちらかというとサプライヤー、つまり、学校や保育所、幼稚園側から見てきたが、やはり需要側、デマンド側から見直していく必要がある。それがすなわち子どもの視点、子育て当事者、保護者の視点になるかと思う。こども家庭庁の大きなミッションとして、子どもの視点、子育て当事者の視点をいかに組み込むか。子どもの意見反映、意見聴取をいかに行っていくかが非常に重要だ」とも指摘し、こども家庭庁の職員の働き方として、子どもと一緒に過ごせる時間をしっかり確保できるような、仕事と家庭の両立を目指していく考えを表明した。

 こども基本法の発議者で、厚労相も経験した前官房長官の加藤勝信衆院議員は「こども基本法をつくるプロセスで党内でも侃々諤々(かんかんがくがく)議論したが、それだけ多くの方が現状の子どもを取り巻く環境に大変な危惧を持っていて、それぞれ視点やアプローチは違ったりするが、思いは相当深いものがある。これは自民党だけでなく各党にも通じる」と、安堵の表情を浮かべた。その上で「大事なことは中央政府だけつくればいいというものではなく、子ども施策は基本的に地方自治体で賄ってもらっているものだから、そことの連携も含めて足並みをそろえて進めていくのが必要だと思う」と、地方自治体の子ども施策の拡充を促した。

 これを受けて、あいさつした全国知事会で次世代育成支援対策チームのプロジェクトリーダーを務めている三日月大造滋賀県知事は「ぜひ今回のこども家庭庁設置並びにこども基本法の成立を足がかりに施策が前進するよう、充実されるように一緒に取り組んでいきたい」と応じ、「施策が省庁の隙間に落ちることのないように、対策を取っていくのが重要だと思う」と注文した。

勉強会の共同事務局を務める自見はなこ参院議員(左)と山田太郎参院議員(Zoomで取材)

 会合の最後にあいさつした「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」の共同事務局を務めた山田太郎参院議員は「去年の2月2日から本当に多いときは週に1、2回のペースでここまでやってきて、議論をしっかり丁寧にやってきた。今までの自民党では考えられないようなゲストも、分け隔てなく重要だと思えば呼ばせていただいて、かなり深い議論ができた。それが今回のこども家庭庁やこども基本法の設計につながった」と振り返り、今後もプロジェクトベースで勉強会を継続していく方針を示した。

学校や家庭に子どもの権利の浸透を

 子どもに関わる支援活動を行う団体などで構成される「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」では、2019年から子どもの権利を明確に位置付ける法律の制定を呼び掛けてきた。同キャンペーンは、こども家庭庁設置法とこども基本法の成立を受けてオンラインで記者会見を開き、特に今回、法案の制定過程で大人だけでなく当事者である子どもの意見を聞く機会が設けられた点に注目。

 同キャンペーン共同代表の甲斐田万智子文京学院大学教授は「意見表明権を4つの原則(差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存・発達に対する権利、子どもの意見の尊重)の一つとして、(法律で)明記してほしいと訴えてきたことが叶えられたのは、非常にうれしい。これをきっかけに日本社会が大きく変わる。学校の校則や家庭での教育方針など、大人中心で決められていたさまざまなことが、子どもの意見を大切にしながら決めるように変わる。これは画期的なことで、1989年に子どもの権利条約が国連で採択されて33年、日本が批准してから28年がたって、ようやくこれが認められるのは大きな意義がある」と評価した。その上で、子どもの意見を直接聞くだけでなく、さまざまな形で間接的に声を拾っていくことや、学校などで子どもの権利について学べる普及啓発に向けた取り組みの充実を課題に挙げた。

 さらに、国際NGOのセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでも、6月15日にこども家庭庁設置法とこども基本法の成立を歓迎する声明を発表。「こども家庭庁が旗振り役となり、子どもの意見を聴き、その意見を尊重し、子どもの権利が保障されるために必要な制度構築や環境整備を行うことが求められる」とし、こども基本法11条に基づき、子ども施策について子どもが参加する仕組みづくりや、子ども・子育て関連予算の対国内総生産(GDP)比3%台半ばを目指すこと、家庭や学校などで子どもの意見に保護者や教師といった大人が耳を傾け、子ども自身が自らを権利主体として認識できるような子どもの権利教育が重要だと強調した。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、7月18日まで国内に住む18歳までの子どもを対象にした「子どもアンケート」を実施中で、こども家庭庁の取り組みや子どもの権利について、早速意見を集めている。

 小学校への就学前の子育て環境の拡充も課題だ。病児保育などの子育て支援事業を展開するフローレンスは6月15日、さまざまな事情で保育所や幼稚園に入れない子ども(無園児)がいる家庭の孤独感や保育ニーズに関する調査を公表した。

子どもの権利の視点から無園児問題を訴える駒崎代表理事

 同日に厚労省で記者会見したフローレンスの駒崎弘樹代表理事は「(未就学児で保育所などに入れない無園児の問題は)子どもの権利にも関わることだと思う。なぜならば、親が働いているか働いていないかを子どもは選べないからだ。全ての子どもが良質な保育や幼児教育を受ける権利があるとするならば、親が働いているか働いていないかで未就学児の(保育の)体系に差があるという状況は、子どもの権利としてどうなのだろうか。こども基本法が通ったことで、(こうした視点が)逆照射されることになる」と指摘。
        
 先日政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」で、未就園児を保育所の空き定員によって預かるのを検討することが盛り込まれた点なども踏まえ、政府の子ども施策の前進に期待を寄せた。

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