新しい空間を生み出す工夫 これからの学校施設の創造

 「Schools for the Future」。タイトルにそう銘打った文科省の学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議の最終報告が今年3月に公表された。個別最適な学びと協働的な学びを一体的に実現していくための学校とは、一体どんな姿なのだろうか。GIGAスクール構想の実現や少子化などで学校施設に求められるニーズが変化する中で、工夫しながら新しい空間を生み出している学校現場を取材した。

特別教室を改装した2つの「STEAM教室」

 目の前のスクリーンに映し出された実物大の奈良・東大寺の大仏の手に歓声が上がる。興味を持った児童が次々に前に出てきて、自分の身長と比べながら、その大きさを実感していた。

ICTを活用し、多様な学びに対応したSTEAM教室を使った授業(向田小)

 神奈川県南足柄市立向田小学校では昨年度、2つある音楽室の一室を改装して「STEAM教室」を新たに作った。この教室には前後に大型のスクリーンが設置され、教師が簡単に操作できるようになっている。もともと音楽室だったので、大音量で動画や音楽を流しても音が外に漏れる心配はない。この日は、6年生が社会科でこれから学習が始まる歴史の学び方を知る授業が行われており、教師がスクリーンに課題をテンポよく出していきながら、児童はタブレットで調べたり考えたりしたことを入力。児童が後ろを向くと、そこにもスクリーンがあり、児童が入力した内容が共有され、発表や話し合いが行われた。授業が終わると「歴史の授業はずっとここでやるの?」と聞く児童もいた。

 この教室には、「スツール」と呼ばれる、軟らかい素材でできたカラフルなキューブが備えられており、子どもでも簡単に持ち運びができるので、机代わりに活用したり、グループで車座になって話し合うときのイスにしたりと、さまざまな活動に柔軟に対応しているのも特徴だ。

 渡辺良勝校長は「この教室を使った実践は各教科で少しずつ始まったばかりで、まだ試行錯誤が行われており、教師が慣れていっている段階だ。トライ&エラーを繰り返しながら、どうしたら効果的な使い方ができるかに挑戦していきたい」と意気込む。

 実は、STEAM教室は隣にももう一つあり、こちらはパソコン教室を改装して、パソコンや机を撤去。動画撮影で使うグリーンカーテンを設置したり、プログラミング教育の教材を用意したりするスペースにしている。「GIGAスクール構想で1人1台端末が整備されたので、パソコン教室に代わる教室を作りたかった。コロナ禍で合唱や合奏が制限されていて、2つ目の音楽室もあまり使われていなかった。それなら、ICTを使ってもっと効果的な学習活動ができる場にしたいと、いろいろなアイデアが膨らんでしまって…」と渡辺校長。「今の子どもたちはタブレットを使ってさまざまなことができる。子どもが何かをやりたいと思ったときに、それができるように準備しておきたかった」と思いを語る。

コンパクトな机でチームワークを高めた職員室

 学校は学びの場であると同時に職場でもある。働き方改革が叫ばれる中で、教室と同じくらい重要視されるべきなのが職員室だ。

 現在、新校舎への建て替えが進行中の特別支援学校の東京都立光明学園。建て替えられた北棟にある新しい職員室は廊下側がガラス張りになっていて、中の様子が一望できる。中央の奥には85インチの大型モニターが設置され、その日の予定や連絡事項など、重要な情報が真っ先に目に飛び込んでくる。

 主任を筆頭に学年や障害種ごとにまとめて配置された教員の机やイスは、通常よりも高い位置に設定されており、机の周りはパーテーションで仕切られている。こうすることで、腰掛けている状態でも周りの同僚と視線を合わせやすくしつつ、自分の仕事に集中しやすい環境にしているそうだ。今回新たに導入された机は教師用に開発されたもので、一般的な学校の職員室で使われている事務机に比べるとかなりコンパクトで、引き出しも1つだけ。その分、机の下には2段分の収納スペースを設け、何かとかさばることの多い教材類も置けるようにした。生徒の個人情報が入った書類は専用の保管室で一元管理し、必要なときだけ持ち出すようにし、その他の書類もできるだけサーバー上に共有するようにして、ペーパレス化を進めた。

打ち合わせなどに活用できるように職員室の一角に設けられたミーティングスペース(光明学園)

 さらに、手前には自由に使えるミーティングテーブルやブースが複数置かれ、チームでのちょっとした打ち合わせや面談などに活用されている。

 高等部の学部主任を務める佐藤尚子主幹教諭は「最初はこの机のサイズで収まるだろうかと心配だったが、使い始めてみるといかに今まで要らないもので机回りが占有されていたのかが分かった。特別支援学校では特にチームワークが求められる業務が多く、机がコンパクトになった分、教職員の距離も縮まり、意思疎通しやすくなったように感じる」と話す。教職員の多い同学園では、以前の職員室は複数の部屋に分かれており、打ち合わせをしたくても、その場所を確保したり、出席者に声を掛けたりするだけで一苦労だったという。

 「子どもたちの指導にも直結してしまうので、職場の雰囲気はすごく重要。職員室には教員以外の専門職員の座席も設けられているので、すぐにいろいろな相談ができる」と佐藤教諭。

 職員室には、福利厚生として、菓子や飲料が買える専用ボックスが設けられたり、障害者を雇用しているパン屋が目の前の廊下に定期的に出店を開いたりしている。これも、この職員づくりを進めた田村康二朗校長のこだわりだ。「校舎が新しくなるから、これだけのことができたということではない。既存の校舎でも校長の判断次第でやれることはたくさんある。校長が自分の裁量で使える予算の中から、一定の割合を職場環境の改善に回せるようにもっとしていかなければ、働きやすくて魅力的な職場にはならない」と、学校経営のトップである校長が職場環境に意識を向けるようにする必要性を強調する。

コミュニティ・スクールから生まれた第三の居場所

 「漫画やボードゲームを置いて、カフェみたいなイメージにしたい」「勉強する時間とゆっくりする時間をどうやって決めようか」
 放課後のパソコン教室では、自習を終えた生徒がグループになって、まるで新しい自分の部屋を想像するように、楽しそうに話し合っていた。その様子を見守っている地域の大人の姿もある。

「リビングルーム」をどういう部屋にするかで盛り上がる生徒ら(花保中)

 東京都足立区立花保中学校では、使われなくなったパソコン準備室を改装して、生徒がリラックスできる第三の居場所として活用するプロジェクトが始まった。この新しい部屋は、仮称で「リビングルーム」とされているが、名前も使い方も、どんな部屋にするかも生徒の意見が反映される。この日はその2回目となるワークショップが行われていたのだ。

 同中は昨年度からコミュニティ・スクールになり、地域との協働が本格化。学校運営協議会のメンバーである地域住民の大山光子さんが、もともと足立区で経済的事情のある家庭の子ども向けに学習支援を行っていた認定NPO法人の「カタリバ」を紹介したことで、昨年9月から毎週水曜日の放課後に、カタリバによる学習支援が始まった。

 カタリバで、さまざまな困難な環境下に置かれた子どもの支援事業を統括するディレクターの加賀大資(だいすけ)さんは「コロナによる長期休校で、学びや給食を含め、学校が担ってきた福祉的機能が子どもたちにとってどれだけ重要かが身に染みて分かった。全ての子どもにとって学校が居場所となり、子どもたちを地域みんなで支える学校の在り方に対して、われわれで何かできることはないかと模索していたところ、大山さんを通じて花保中とつながった」と経緯を説明する。

 ちょうど同中では毎週水曜日に職員会議が設定されており、一度生徒を帰宅させてから、会議後に部活動がある場合は再び登校させるようにしていた。カタリバによる学習支援は、この空いた時間を活用したいと考えていた学校側のニーズとも合致していた。

 「AFTER SCHOOL KATARIBA」の頭文字を取って「ASK(アスク)」と呼ばれているこの活動には、現在、全校生徒の3分の1に相当する80人ほどの生徒が登録。昨年度の冬休みや春休みには、地域住民が食事を提供し、学校で学習できる日も設けたところ、とても好評だった。これをきっかけにして、地域と連携した今回のプロジェクトに発展していったという。

 大久保隆一校長は「生徒にとって年齢の近いカタリバのスタッフはロールモデルになる。雑談しながらちょっとした悩みや将来のことを話せるような斜めの関係を築ける。これは教師や友達ではできない。生徒や地域、カタリバの手で、そういう場にしてもらえたら」と期待を寄せる。

 学習支援の活動場所となっているパソコン教室の隣にあるパソコン準備室を「リビングルーム」にリフォームすることで、学習の場と雑談の場を行き来できるようにする。それに向けた改装作業は地域の手で行われる予定で、夏休みが始まる前までにオープンする予定だ。ワークショップで生徒の話し合いに耳を傾けていた大山さんは「自分たちの意見を聞いてもらえたり、アイデアが生かされたりする経験があれば、彼らが大人になったときに、自分の意見をしっかり言ったり、何か工夫を考えたりできるようになるだろう。学校はふるさとでもある。コロナで学校行事が十分にできなかった学年だけに、この部屋が学校生活の思い出の一つになってくれたら」と目を細める。

 ワークショップが終わっても議論が尽きない様子の3年生の生徒は、この新しい空間への思いを次のように語ってくれた。

 「冬休みや春休みの活動に参加したら、食事をよそってくれた地域の人が優しかった。友達とも会えたし、勉強も教えてもらったし、来てよかったと思った。リビングルームは、一人一人、誰もがみんな楽しめたり、リラックスしたり、そういう部屋にしていきたい」

(藤井孝良)

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