「いじめられた側がなぜ…」 被害者の高校生が悩む理不尽

 いじめられた子供が学校に行けなくなり、いじめた子供が平然と登校し続ける。こうした状況が、いじめを巡ってしばしば指摘される。加害者への制裁強化を求める声が根強い一方で、いじめ問題を間近で見つめてきた専門家が指摘するのは、被害者への支援やケアが不十分なままとなっている実態だ。とりわけ、単位取得の条件として「教室で授業を受けること」が重要視されがちな全日制高校では、被害者が心の傷を抱えたまま無理をして学校に通った結果、心身の状態を悪化させたり、学校に行けなくなった被害者が転学や退学を余儀なくされたりと、理不尽な思いをする状況が起こっている。

単位のために無理をして登校

 「いじめに遭った側がなぜ、進学の心配までしなければならないのだろう」――。ある全日制の公立高校に通う3年生の女子生徒は、そう胸の内を語る。複数の同級生からSNSでいじめを受け、学校を時々休むようになった。しかし、女子生徒はかねてから大学進学を希望していたため、欠席日数が積み重なって卒業できなくなることを恐れ、無理をして登校することもあった。

 学校側は当初「教室で授業を受けなければ、出席とは認めない」の一点張りだったという。女子生徒の母親は「緊張した様子で学校に通う娘を見ていて、疲れた時には学校を休ませたい、病院にも行かせたいと思った。ただ同時に、大学進学を望む娘が不利にならないようにという気持ちもあった」と悩んだ。「新型コロナウイルスへの感染不安」を理由にして、登校を控えた時期もあった。事態が長期化したため、専門家を交えて学校側との交渉を重ねた結果、別室登校や課題の提出により単位を認定する代替措置がようやく認められた。

 学校側との交渉に当たったNPO法人「プロテクトチルドレン~えいえん乃えがお~」の森田志歩さんはこうしたケースについて、「いじめの被害者への対応に関する明確な規定がなく、学校側も困っているのが実情だ。ただその間に、被害者が無理して登校し、心身の状態を悪化させてしまうことも多い」と指摘する。

 いじめ防止対策推進法では、いじめを行った子供に対して出席停止を命じる措置が示されているが、被害者側への措置は明記されていない。文科省の「いじめの防止等のための基本的な方針」でも、「必要に応じていじめた児童生徒を別室において指導することとしたり,状況に応じて出席停止制度を活用したりして、いじめられた児童生徒が落ち着いて教育を受けられる環境の確保を図る」との記述はあるものの、被害者の側が学校に来られない場合の出席・欠席の扱いには踏み込んでおらず、実際は各学校の判断に委ねられている。

 「いじめ防止対策推進法で加害者への出席停止措置を定めるのなら、被害者への避難措置についても明記すべきだ。学校や教育委員会は法の下で対応しており、法律の規定で明確に定められていなければ、判断の基準が分からず、対応できない。いじめの被害に遭った側が、進学の心配までしなければいけない現状はおかしい。被害者が安心できる体制をすぐに整えてほしい」と森田さんは訴える。

「登校できなくても、諦める必要はない」と言える学び方を
【図表】いじめられた児童生徒への特別な対応

 文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(2020年度)では、いじめられた児童生徒に対して学校が行った特別な対応を尋ねている=図表。認知件数に対し、総じて低い割合にとどまっているが、小中学校では家庭訪問の実施が高く、高校ではスクールカウンセラーなどによる対応、別室の提供などによる心身の安全の確保、家庭訪問などが高い。特別支援学校では、別室の提供などによる心身の安全の確保が目立つ。

 今回の女子生徒の場合は、高校生であるために事態がいっそう難しくなっている。義務教育である小中学校段階では、別室登校や学校外の学習についても積極的に出席扱いとしていく動きも見られる。一方、義務教育ではない高校では学習指導要領で、進級・卒業のための修得単位数が定められており、出席扱いの判断がより厳しくなされるケースも少なくない。

 単位の修得要件は本来、各学校に裁量があるはずだが、現実には「教室で授業を受ける」「定期試験などで一定の成績を修める」といった一律の条件を課していることも多く、その条件を満たせなければ原級留置や通信制高校などへの転学、退学などが視野に入ってきてしまう。前出の文科省の調査で「特別な対応」として挙げられた別室の確保も、あくまでも緊急の対応として行われているだけで、単位認定までは考慮されていない可能性もある。

 これまで困難を抱える多くの高校生を支援してきた東京都立世田谷泉高校(定時制)の沖山栄一統括校長は、今回の女子生徒のようなケースは「少なくない」と話す。「いじめを受けたという声があれば、学校は実態の把握に努める。ただ、『いじめられた』という声は上がっても『私がいじめました』という声はほとんど上がらず、事実関係を認定するまでに相当時間がかかることもある。そうしたケースの中には、休みがちになった被害生徒が単位を取れなくなって、転学・退学するしかないという状況になるものもあるだろう。そうした生徒が『いじめたのは、あの子たちなのに』と、非常に理不尽な思いをすることを、しっかり認識しなければならない」。

 さらに「どんな場合でも生徒を同じように扱わなければならない、という感覚が学校には根強くあり、いじめ被害者であってもその欠席をどのように扱うかには苦慮することもある。しかし、被害者と加害者との関係に距離を置くことも必要で、そうした場合にはどのように学習を保障するかが課題だ」と語る。「生徒の状況に応じて別室や自宅などで、学習動画の視聴やレポートに取り組むことをもって、欠席と扱わないだけでなく単位認定もするなど、被害生徒が『登校できなくても、学習を諦める必要はない』と言える高校の学び方を、国や自治体とともに考えていく必要がある」。

(秦さわみ)

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