新たな教員研修の指針を公表、ガイドライン案も 文科省

 教員免許更新制が7月1日付で廃止されるのに伴い、来年4月から新たに導入される教員研修について、文科省は6月27日、中教審合同会議の席上、教員の資質向上に関する指針の改定案と、新たな教員研修の運用を定めるガイドラインの案を提示した。指針では、校長に求められる資質能力として、データや情報を分析して共有する「アセスメント能力」や学校内外の関係者と連携して学校の教育力を最大化する「ファシリテーション能力」を新たに盛り込んだ。教員の資質能力については、新たに「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」と「ICTや情報・教育データの利活用」を加え、5つの柱に再整理した。ガイドラインでは、新たな教員研修の仕組みとなる、研修履歴を活用した対話による受講奨励について、「教員の意欲・主体性と調和したものとなるよう、当該教員の意向を十分にくみ取って行う」と明記した。

教員研修の指針とガイドラインを審議した中教審合同会議

 指針は教育公務員特例法(教特法)22条に基づき、教員の資質向上に関する基本的な事項を示している。まず新たな教員の学びの姿について、「一人一人の教員が、自らの専門職性を高めていく営みであると自覚しながら、誇りを持って主体的に研修に打ち込むこと」と説明。「児童生徒の学びと教員の学びは相似形となることが重要」と指摘して、学び続ける教員の姿がそのまま「児童生徒の学びのロールモデルとなることが期待される」と位置付けた。

 研修を通じて向上が求められる資質能力の内容については、校長と教員に分けて整理されている。

 校長の資質能力では、校長の基本的な役割を「学校経営方針の提示」「組織づくり」「学校外とのコミュニケーション」の3つに整理。その上で、求められる資質能力として、これまでも求められてきた教育者としての資質やマネジメント能力に加えて、新たにアセスメント能力とファシリテーション能力を明記した。アセスメント能力は「さまざまなデータや学校が置かれた内外環境に関する情報について収集・整理・分析し共有すること」、ファシリテーション能力は「学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくこと」と、それぞれ説明。校長の採用選考に当たっては、こうした新たに求める能力との整合性を確保するよう、任命権者である各教育委員会に求めている。

 教員に求められる資質能力は、5つに再整理した。第1に「教職に必要な素養」として、教育基本法に定められた「常に学び続ける」姿勢や「良好な人間関係の構築」などを挙げた。第2は「学習指導」で「学習者中心の授業の創造」、第3の「生徒指導」では「子供一人一人の良さや可能性を伸ばす姿勢」など、従来から重視されてきた内容が続く。

 新たに加わったのは「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」と「ICTや情報・教育データの利活用」の2つ。前者は「特別な配慮や支援を必要とする子供の特性等を理解し、組織的に対応するために必要となる知識や支援方法を身に付けるとともに、学習上・生活上の支援の工夫を行うことができる」と説明。「ICTや情報・教育データの利活用」では「授業や校務等にICTを効果的に活用するとともに、児童生徒の情報活用能力(情報モラルを含む)を育成する授業実践ができる」「児童生徒の学習の改善を図るため、教育データを適切に活用することができる」とした。

 ガイドラインでは、研修履歴を活用した対話による受講奨励の基本的な考え方を整理した。まず、こうした研修制度を導入する目的について「各教員が学びの成果を振り返ったり、自らの成長実感を得たりすることが一層可能になる。研修履歴が可視化されることにより、無意識のうちに蓄積されてきた自らの学びを客観視した上で、さらに伸ばしていきたい分野・領域や新たに能力開発をしたい分野・領域を見出すことができ、主体的・自律的な目標設定やこれに基づくキャリア形成につながることが期待される」と説明。

 研修のお仕着せや負担増への懸念が出ていることを踏まえ、「対話に基づく受講奨励は、教員の意欲・主体性と調和したものとなるよう、当該教員の意向を十分にくみ取って行うことが望まれる」「記録自体が目的化したり、過度な負担にならないよう、簡素化に留意することが必要」とされている。臨時的任用教員の研修についても「正規の教員と同様に、研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励の対象とすることが考えられる」と明示した。

 研修履歴として記録される範囲については、都道府県教委などが実施する必須記録研修などのほか、任命権者が必要と認めるものとして、「市町村教委による職務研修」「学校現場で日常的な学びとして行われる一定の校内研修・研究」「教員が自主的に参加する研修」が例示されている。

 研修受講に課題のある教員への対応については、具体的な内容を明示している。「期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合」として、▽合理的な理由なく法定研修や、教員研修計画に定められた全員が対象となる年次研修などに参加しない場合▽勤務上の支障がないにもかかわらず、必要な校内研修に参加しない場合▽ICTや特別な配慮・支援を必要とする子供への対応など特定分野の資質の向上を図る強い必要性が認められるにもかかわらず、一定期間にわたって、合理的な理由なく 当該特定分野に係る研修に参加しないなど資質向上に努めようとする姿勢が見受けられない場合--を挙げ、こうした教員には、職務命令を通じた研修受講や、人事上・指導上の措置を講ずることもあり得ると明記した。「指導に課題のある」教員には、2008年に定めたガイドラインを新たに改訂して対応する。

 委員による審議では、研修履歴の記録について「任命権者が必要と認めないと言って、一律で記録した内容だけが残るようだと、個別最適な研修は困難になる」(戸ヶ崎勤埼玉県戸田市教育長)、「教員は基本的に学ぶ意欲があるものとして考えることが重要で、それが教員へのリスペクトにもなる。そうした内容を含め、ガイドラインの最後に『これが重要』というまとめが必要ではないか」(荒瀬克己教職員支援機構理事長)、「ガイドラインは、研修成果の確認など厳格化の方向が見えている。これで学校現場の受け止めは大丈夫なのか。主体性や学びの自由度を重視したもので、管理を厳格化するものではないというメッセージをしっかり出してほしい」(貞廣斎子千葉大学教育学部教授)、「全国連合小学校長会が全国の校長に行ったアンケート調査では、研修を充実させるためには、教員が教材研究や研修に必要な時間を確保することと、研修の充実を担保するための教員加配が必要という結果が出た。学校現場では、研修に行きたくても、人の手配ができなくて行けない、という現実がある。特に小規模校では本当に交代できる教員がいない」(大字弘一郎全国連合小学校長会会長)といった厳しい意見が相次いだ。

 これらの指摘を受け、渡邉光一郎部会長(第一生命HD会長・日本経団連副会長)は、ガイドラインが「研修受講に課題のある教員への対応」の項目で終わっていることについて「厳しい要素でガイドラインが終わるイメージになっている」として、ガイドラインの末尾に教員の学びは児童生徒の学びの模範となることや、研修履歴の記録が新たな学びの手段となることなどのメッセージを書き込む考えを表明。また、報告事項となる研修履歴の簡素化や、働き方改革を進めることが主体的な研修の前提になることを明記する考えを示した。指針の改定案とガイドライン案の修正は部会長に一任され、最終稿は近く実施されるパブリックコメントの募集に合わせて公表される見通しになった。

校長および教員の資質向上に関する指標の策定に関する指針のポイント

校長に求められる資質能力

〇校長に求められる基本的な役割は「学校経営方針の提示」「組織づくり」「学校外とのコミュニケーション」の3つに整理される。
〇従前より求められている資質能力

  • 教育者としての資質
  • 的確な判断力、決断力、交渉力、危機管理等のマネジメント能力
〇これからの時代に求められる資質能力
  • さまざまなデータや学校が置かれた内外環境に関する情報について収集・整理・分析し共有すること(アセスメント能力)
  • 学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくこと(ファシリテーション能力)
〇校長の資質については、教員とは別に指標の内容を定める。
〇校長の採用選考には、指標との整合性の確保に留意する。


教師に求められる資質能力(5つの柱で再整理)

【教職に必要な素養】

〇「令和の日本型学校教育」を踏まえた新しい時代における教育、学校及び教職の意義や社会的役割・服務等を理解するとともに、国内外の変化に合わせて常に学び続けようとしている。
〇豊かな人間性や人権意識を持ち、他の教職員や子供達、保護者、地域住民等と、自らの意見も効果的に伝えつつ、円滑なコミュニケーションを取り、良好な人間関係を構築することができる。
〇学校組織マネジメントの意義を理解した上で、限られた時間や資源を効率的に用いつつ、学校運営の持続的な改善を支えられるよう、校務に積極的に参画し、組織の中で自らの役割を果たそうとしている。
〇自身や学校の強み・弱みを理解し、自らの力だけでできないことを客観的に捉え、家庭・地域等も含めた 他者との協力や関わり、連携協働を通じて課題を解決しようとする姿勢 を身に付けている。
〇子供達や教職員の生命・心身を脅かす事故・災害等に普段から備え、さまざまな場面に対応できる危機管理の知識や視点を備えている。

【学習指導】

〇関係法令、学習指導要領及び子供の心身の発達や学習過程に関する理解に基づき、子供たちの「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を行うなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実に向けて、学習者中心の授業を創造することができる。
〇カリキュラム・マネジメントの意義を理解し、教科等横断的な視点や教育課程の評価、人的・物的な体制の確保・改善等の観点をもって、組織的かつ計画的に教育課程を編成・実施し、常に学校の実態に応じて改善しようとしている。
〇子供の興味・関心を引き出す教材研究や、他の教師と協働した授業研究などを行いながら、授業設計・実践・評価・改善等を行うことができる。
〇各教科等においてそれぞれの特質に応じた見方・考え方を働かせながら、資質・能力を育むために必要となる各教科等の専門的知識を身に付けている。

【生徒指導】

〇子供一人一人の特性や心身の状況を捉え、良さや可能性を伸ばす姿勢を身に付けている。
〇生徒指導の意義や原理を理解し、他の教職員や関係機関等と連携しつつ、個に応じた指導や集団指導を実践することができる。
〇教育相談の意義や理論(心理・福祉に関する基礎的な知識を含む)を理解し、子供一人一人の課題解決に向け、個々の悩みや思いを共感的に受け止め、学校生活への適応や人格の成長への援助を行うことができる。
〇キャリア教育や進路指導の意義を理解し、地域・社会や産業界と連携しながら、学校の教育活動全体を通じて、子供が自分らしい生き方を実現するための力を育成することができる。
〇子供の心身の発達の過程や特徴を理解し、一人一人の状況を踏まえながら、子供達との信頼関係を構築するとともに、それぞれの可能性や活躍の場を引き出す集団づくり(学級経営)を行うことができる。

【特別な配慮や支援を必要とする子供への対応】

〇特別な配慮や支援を必要とする子供の特性等を理解し、組織的に対応するために必要となる知識や支援方法を身に付けるとともに、学習上・生活上の支援の工夫を行うことができる。

【ICTや情報・教育データの利活用】

〇学校におけるICTの活用の意義を理解し、授業や校務等にICTを効果的に活用するとともに、児童生徒等の情報活用能力(情報モラルを含む)を育成するための授業実践等を行うことができる。
〇「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現に向け、児童生徒等の学習の改善を図るため、教育データを適切に活用することができる。

研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン案のポイント

【1】研修履歴の記録の範囲

①必須記録研修等
ⅰ)研修実施者(都道府県・指定都市教育委員会等)が実施する研修
ⅱ)大学院修学休業により履修した大学院の課程等
ⅲ)任命権者が開設した免許法認定講習及び認定通信教育による単位の修得

②その他任命権者が必要と認めるもの
 (内容の適切性も含め、任命権者の責任において判断)

②に含まれ得る研修等

  • 職務研修として行われる市町村教育委員会等が実施する研修等
  • 学校現場で日常的な学びとして行われる一定の校内研修・研究等
  • 教員が自主的に参加する研修等

【2】研修履歴の記録の内容

  • 研修名、研修内容、主催者、受講年度、時期・期間・時間、場所、研修属性(悉皆/希望など)、研修形態(対面集合型/オンデマンド型/同時双方向オンライン型/通信教育型など)、教員育成指標との関係、振り返りや気づきの内容などの中から、 研修の態様や性質に応じて、必須記録事項と記録が望ましい事項などを定める。
  • 記録自体が目的化したり、過度な負担にならないよう、簡素化に留意することが必要。

【3】研修履歴の記録の方法

  • 情報システムや電子ファイルなど。
     ※国が全国的な研修履歴記録システムを構築するため、調査研究を実施(2023年度中のできるだけ早期に稼働)

【4】研修履歴の記録の時期

研修の性質等に応じて、次のような時期・方法で記録。

  • 情報システムを通じて、受講終了の都度、自動的に記録
  • 期末面談前にまとめて教師個人が記録
  • 期末面談前に校内研修等の実績を校長等が記録等

【5】対話に基づく受講奨励の方法・時期

  • 校長等が、期首面談・期末面談等の場を活用して実施。
  • 教科の専門性等に係る資質向上については、学校内外の同じ教科の教師や指導主事による指導助言を活用するなどの連携協力体制を整えることが有効。

【6】研修受講に課題のある教師への対応

 (期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合)

 期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合として、次のようなやむを得ない場合は、職務命令を通じて研修受講。(万が一、これに従わないような場合には、事案に応じて、人事上・指導上の措置を講ずることもあり得る)

  • 合理的な理由なく法定研修や、教員研修計画に定められた対象者悉皆の年次研修等に参加しない場合
  • 勤務上の支障がないにもかかわらず、必要な校内研修に参加しない場合
  • ICTや特別な配慮・支援を必要とする子供への対応など特定分野の資質の向上を図る強い必要性が認められるにもかかわらず、学校管理職等から教師に対し特定の研修受講等を再三促してもなお、一定期間にわたって、合理的な理由なく 当該特定分野に係る研修に参加しないなど 資質向上に努めようとする姿勢が見受けられない場合など

【7】「指導に課題のある」教員に対する研修等

  • 研修履歴を記録する仕組みと対話に基づく受講奨励のプロセスを通じて、指導に課題のある教師(「指導が不適切である」との認定には至らないものの、教科等の指導に一定の課題がみられる教員)に対し、早期・効果的な対処が可能。
  • 指標を踏まえて、さらに伸ばすべき分野・領域や、改善すべき分野・領域について、自己評価および学校管理職等による評価を行い、これを踏まえた「研修計画書」を作成し、研修受講。
  • 教育委員会も積極的に関与。研修によってもなお指導の改善が見られず、より集中的な研修を必要とする場合には「指導が不適切である」教員の認定プロセスに入る可能性。

 ※今般の研修充実等を踏まえ、「指導が不適切な教員に対する人事管理システムのガイドライン」(2008年2月)を改正する。

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