先生になるか、ならないか 教員志望者「紙一重」の選択

 教員不足や採用倍率の低下が深刻な問題となる中でも、教員を目指して日々、学び続けている学生たちがいる。SNSなどで話題になる教員の長時間労働や業務量の多さ、責任の重さなどの苦労は当然、学生たちの耳にも届いており、教職への情熱と、労働環境への不安のはざまで悩んでいる。いわゆる「Z世代」の学生たちには、「仕事が人生の全てではない」という価値観も広く共有されており、「教員になるか、ならないか」の選択は「紙一重」だと語る声もある。教員志望の学生たちに、教員の仕事への熱意と不安を聞いた。

中学生からの夢、今になって不安に

 北海道教育大学旭川校の3年生、玉田晴香さんには、忘れられない恩師がいる。「中学校の先生たちは、いつも生徒のことを考えて寄り添ってくれた。勉強で伸び悩んだ時に相談に乗ってくれて、寄り添ったサポートをしてくれた。小学生の頃から学校の先生になりたいと思っていたが、中学校でそんな先生たちに出会い、先生になるなら中学校だ、と心が決まった」。関心があるのは地域に根差した学校づくりで、地元の北海道で教員になるのが夢だ。

地域教育に関心があると語る玉田さん(Zoomで取材)

 そんな玉田さんでも最近、「中学校はやめて、小学校の教員になろうか」と、気持ちが揺らぐことがあった。不安なのは部活動だ。「先生たちの大きな負担になっていると聞く。部活動に時間を取られて、自分が本当にやりたい教材研究ができないのではないかと心配だ。それさえ改善されれば『中学校の先生になりたい』と断言できるのだが」。

 玉田さんは時々ツイッターで、ハッシュタグ「#教師のバトン」をつけて投稿されたコメントを読んでいる。「業務がすごく多い、それに見合った残業代が出ないという声を聞くと、教員を目指す上でかなり不安に感じる。もちろん、現役の先生から直接話を聞いて、楽しいこともたくさんあることは分かっている。だけど、やっぱり不安はある」。

 教員養成課程の同級生には、教員にならないと決めた人や、とりあえず教員採用試験は受けるが、違う仕事も検討するという人もいる。「教育には関わりたいが、教員にはなりたくない」という声も聞いた。「仕事を覚えるまでは、残業もやむを得ないと思う。ただ、いずれは家庭を持ちたいし、その時には私生活と両立できる職場で働きたい。定時退勤したり、週末にきちんと休んだりできる職場で、人生を豊かにしていきたい」と玉田さんは話す。

「週に2日ぐらいは定時で帰れたら」

 神奈川県の高校3年生、筒井さやかさんは教員養成大学を目指して勉強中だ。教員を目指したきっかけは「中学生の時に出会った先生が、親との関係や受験のことなど、日々の悩みに親身に耳を傾けてくれた」ことだという。現在は学習支援のボランティアとしても活動しており、「子供たちに『勉強が分かるようになった』と言ってもらえるのがうれしい。将来教員になって、子供たちが成長していく姿を見ることができたら」と話す。

 筒井さんは「まずは学校の先生になって、経験を積んだら、別の事業を立ち上げることも考えたい」と自身のキャリア観を語る。「将来、子供たちがふらっと立ち寄れる居場所づくりをしたいと思っている。ただ、まずは学校現場でいろいろな子供たちを見たい。困難を抱える子もそうでない子も、誰もが通る学校という場所を経験して、考え方を広げたい」。

 筒井さんもツイッターで、教員の苛酷な働き方がツイートされているのを目にすることがあるという。ただ「自分の周りにいる先生で、そこまで『学校はブラックだ』という人はいない。各学校の環境によるところが大きいのではないか」と見ており、今のところ教員になることに対して、そこまで大きな不安は抱いていないという。

 筒井さんに学校の働き方改革について尋ねると、冷静な答えが返ってきた。「仮に際限なく残業が認められたら、ダラダラと仕事をしてしまうこともあるだろうし、仕事を減らそうとして、子供のために本当に必要なことまで削ってしまうのもよくない。仕事の質は高めつつ、量は少しずつ減らしていくのが現実的ではないか。個人的には週に2日ぐらいは定時で帰ることができればいいな、と思っている」。

学校行事に来てくれなかった、教員の父

 「教員だった父が、私の学校行事に来てくれたことはほとんどなかった。友達の両親がそろって運動会を見に来ているのを見て、さみしいなと思っていた」。ある教員志望の学生は、子供の頃の経験をそう振り返る。中学生の時、誠実な態度でいじめを解決してくれた担任に憧れ、自身も教員を目指すようになった。「教員の仕事は子供たちの命を預かることだし、例えばいじめがあったら当然、真摯(しんし)に対応するつもりだ。でも、プライベートの線引きはきっちりしたい」。

 現在も教員として働いている父とは、価値観の違いを感じることがある。例えば、年度末の繁忙期に休暇を取った同僚に苦言を呈する父を見て、内心「休むのは権利だろう」と思った。「働いた分の給料をきちんと得られるようにすることや、業務量を減らすことが必要。教員が本来担うべき業務に集中できるよう、役割分担をしていくべきだと思う」。

 厳しく指摘しつつも、この学生は教員という進路を捨てるつもりはないと話す。子供たちの成長を目の当たりにした時の喜びを実感したことがあるからだ。アルバイト先の学習塾で子供たちに接する時、一人一人に合った教え方に悩みつつも、大きなやりがいを感じるのだという。

 大学の教員には「引き返すなら今のうちだよ」と冗談めかして言われたことがある。「子供に真摯に向き合いたいという気持ちと、労働の対価はきちんと払ってほしいという価値観は相容れないのかな、とも感じる。どちらかといえば今の自分は、それでも教員として子供の成長に関わりたい、という方に傾いている」。

「先生になって大丈夫か」学生の不安に向き合う

 教員志望の学生らでつくる団体「Teacher Aide」の共同代表を務める、京都大学大学院教育学研究科の櫃割仁平さんは「SNSの投稿を見るだけでなく、教育実習生や教員業務支援員として実際の学校現場に行き、教員の働き方を間近で見た上で、『大変そうだが、それでも先生になりたい』という強い動機を持っている学生も少なくない」と話す。

教員志望の学生たちと多く接してきたTeacher Aide共同代表の櫃割さん(Zoomで取材)

 櫃割さんの周囲には、教員になった人も、教員以外の仕事を選んだ人もいるという。学生の選択を見てきた櫃割さんは「最終的に教員を選ぶか、それ以外を選ぶかは、本当に紙一重の判断だと感じる。誰もがめちゃくちゃ迷っていて、その大きな理由は学校の働き方だ。『このまま先生になって大丈夫か』という、学生の抱える不安を取り払っていかなければならない」と語る。

 1990年代半ば以降に生まれた、いわゆる「Z世代」には「仕事が人生の全てではない」「家族などの大切な人と過ごす時間を重視したい」という価値観が広く共有されている、と櫃割さんは指摘する。「例えば教育実習は、教員の仕事を模擬的に体験できる機会だが、そこで授業の準備や部活動に追われ、家族や恋人と過ごす時間が減ってしまうことで『将来、教員になったらプライベートな時間が守れない』と感じてしまう人もいる」。

 大学4年生の教育実習の時点で、教員の仕事が自分に合わないと分かっても、民間企業の就活には間に合わないこともある。そのため慎重な学生は「最初から民間企業の就活を並行して進めている」と櫃割さんは明かす。中教審などでは教員採用の選考スケジュールを前倒しする案も検討されているが、「やや小手先の対策であるように感じる。やはり、労働環境を抜本的に変えていくことが必要。改善が進めば、学生に選ばれる職場になるはずだ」と力を込める。

(秦さわみ)

4 コメント
最新
最も古い
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る

あなたへのお薦め

 
特集