地域の人々と出会い、考える 宮崎県新富町の新しい修学旅行

 コロナ禍で修学旅行が制限されたことをきっかけに、有名な観光地を訪ねる従来型の旅行とは異なる、地域密着で「学び」の要素を加えた新たな修学旅行を作り上げる取り組みが始まっている。宮崎県新富町の(一財)こゆ地域づくり推進機構(こゆ財団)では、学校のニーズに応じて「探究」や「キャリア教育」「SDGs」といったキーワードを軸に、子供たちが町のさまざまな人々と出会い、考えることのできる修学旅行のプログラムを企画。これまで修学旅行生を受け入れたことがなかった同町が、昨年は県内外から450人の生徒を受け入れるまでに成長している。

 「新富町の魅力は多くの素晴らしい人々。旅と教育を掛け合わせ、体験してもらうことができないか」――。同機構の母体・新富町観光協会の元職員で、現在は同機構の関係人口チームリーダーを務める鈴木伸吾さんは、コロナ前からそう考えていた。コロナ禍に見舞われた2020年、多くの学校で修学旅行が中止、または旅行先の変更を余儀なくされたことを受け、同県美郷町の中学校から修学旅行生を受け入れるプロジェクトが始まった。

 鈴木さんと共にプロジェクトの企画・運営を担う、同機構教育イノベーション推進専門官の中山隆さんは「コロナ禍でオンライン授業が登場し、改めて、五感をフルに活用した体験活動の意義を考えるようになった」と語る。学校が挙げた「探究」「キャリア教育」といったキーワードを軸に、地域で活躍する人々と出会う「しんとみ学び旅」を企画した。

キュウリ農家に質問しながらハウスを見学する生徒(こゆ財団提供)

 とはいえ新富町は、それまでは修学旅行の受け入れ実績が全くなかった。受け入れ先の農家にコンセプトを伝えるのは容易ではなく、何度も足を運んで丁寧な説明をしたという。同時に学校や旅行会社とも打ち合わせを重ね、20年12月、初めての「学び旅」が実現。中学生20人が班に分かれ、3人の農家に質問するという課題に挑戦した。

 ここで意識したのは「学校の日々の学びと、新富町での一期一会の体験をつなげる」ということだ。キュウリ農家を訪ねた班には、家庭にキュウリが届くまでに関わっている人物を調べる課題、酪農家を訪ねた班には、餌やりの速さや量の計算をしてみる課題などを盛り込んだ。初めて出会う大人に対し、生徒から質問が出にくいことも想定して、「質問の仕方」を学ぶ機会も事前に設けた。

工業高校の生徒には、最新の技術に触れる機会を作る(こゆ財団提供)

 とはいえ、旅行の全てを「学習」にしないよう留意した。「学習ばかりにしてしまうと、学校にいるのと変わらない。せっかく旅に来たのだから、五感で地域の雰囲気を感じ、未知の人に会うことで、子供たちが自分で考える余白を残しておきたい。楽しみと学びの割合は、9:1ぐらいでよい」と中山さんは話す。

 「しんとみ学び旅」は翌21年には、県内外から10校450人を受け入れるほどに成長。旅の目的や旅程は毎回、学校との「オーダーメード」で作り上げていき、体験先も食品加工会社や製作所、着付けやアートなどまで広がった。ただ中山さんは「コロナ禍で一時的に、近隣への修学旅行の需要が伸びていた部分もある。平常に戻っていく中で、なぜ新富町に行くのか、なぜ修学旅行に学びが必要なのかが改めて問われてくる」と見通す。同時に、「今後は海外からの受け入れなども仕掛けていきたい」と意欲も見せる。

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